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映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」感想 現在のアメリカの田舎のネオ・レアリズモ

どうも。

 

オスカー関連の映画レヴュー、続けて行きましょう。今日はこれです。

 

 

 

ケイシー・アフレックに主演男優賞受賞の期待のかかる「マンチェスター・バイ・ザ・シー」、こちらを行きましょう。

 

 

この映画ですが、これは去年のサンダンス映画祭のときから話題の、インディペンデントから注目を集めた作品です。つまり「小作でも、良いものであればちゃんと評価される」ことを実証したタイプとも言えますが、さて、どうでしょうか。

 

 

あらすじから行きましょう。

 

 

 リー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)はマサチューセッツ州の田舎町で、アパートの用務員として、配管の仕事などをして、細々とひとり暮らしの生計を立てています。そんな彼のもとに、兄であるジョー(カイル・チャンドラー)の急死の話が舞い込みます。ジョーは同じくマサチューセッツの港町マンチェスターで、船乗りだとか漁業関係の仕事をしていたと思われます。

 

 

 

 

 病院にかけつけると、そこには親友のジョージなどがいましたが、ジョ=の家族はいません。それもそのはず、ジョーの元奥さんのエリーズ(グレッチェン・モル)はドラッグの問題で家を出て、今は別の男性と行方の知れない遠くで生活をしていました。

 

 

 

 男やもめのジョーには、年頃の高校生の息子パトリック(ルーカス・ヘッジズ)がいました。リーが病院にかけつけたとき、まだパトリックは高校にいてホッケーをやっていましたが、リーが家に連れて帰ります。でも、どこがぎこちない2人です。

 

 

 

 話は回想シーンが頻繁に入りはじめます。パトリックが子供の頃、リーはパトリックにとって最高に仲良しのおじさんで、ジョーのボートに乗っては、2人で気さくに遊び合う仲でした。何かが変わったことが示されます。

 

 

 

 回想シーンが続きます。それによると、リーは実はかつては一人暮らしではなく、妻のランディ(ミシェル・ウイリアムス)に3人の幼い子供たちまでいたことがあかされます。とての楽しそうな暮らしでしたが、それがもろくも崩れるトラウマとなるあることが起きていたのでした。

 

 

 話は現実に戻ります。リーの両親は既に他界しており、親族もマンチェスタにはいない状況です。葬儀や相続の話をしていくうちに、リーはパトリックの面倒を見なくては行けない状況に追い込まれます。

 

 

 パトリックは「今を生きる高校生」といった風情で、学校生活ではなかなかの人気者のようでした。古くからの父との2人生活で、「友人を連れ込み、父関せず」の生活が続いていたらしく、父が死んでリーが面倒を見ても、パトリックは友人連中を連れ込み、仲でも、その年で早くもプレイボーイらしく、女の子に関してはかなりだらしがないようです(笑)。

 

 

 リーは、「今の稼ぎで、俺、コイツをどうするんだよ」と迷いますが、そんな折りにランディからも連絡があり、触れたくない過去に記憶がフラッシュバックして彼を、安穏とした田舎町の中で迷わせます。

 

 

・・と、ここまでにしておきましょう。

 

 

 マンチェスターというと、イギリスの方のを想像しがちですが、こちらはアメリカの北東部の港町です。天気の影響もあって、街全体が暗くてドンヨリしていて、街の楽しみも少なく、荒くれた肉体労働者たちがバーに集って大騒ぎするようなイメージです。なんか見ていて、「ああ、こういう街の人たちがトランプに票を入れるんだな」と思える光景でもあり(州そのものはかなりリベラルなところですが)、そこが妙にリアリティがあって、まず関心を惹かれるところなんですが、そこで展開される、やるせない、暗いお話です。

 

 

 見ていてこれを思い出しましたね。

 

 

 歴史的名作映画のひとつの「自転車泥棒」。第二次大戦後の貧しいイタリアの、行き場のない親子の話です。この映画だけではなく、戦後のイタリアでは、こういう社会でもがき苦しむ貧しい人たちを描いたネオ・レアリズモというスタイルの映画がすごく作られ、名作を生んでいました。今のアメリカでも、状況は違えど、この「自転車泥棒」で描かれたような悲しいことが十分起こりえるのかな、と見ていて思いましたね。

 

 

 また、そういう現実を

 

 

 ケイシー・アフレックが熱演していましたね。

 

 

 彼の兄のベン・アフレックやマーク・ウォールバーグって、「ボストンの、低所得者層の現実を表現したい俳優」の代表格みたいなところがありますけど、それは弟のケイシーに至ってもそうで、それゆえに説得力がありましたね。典型的なマサチューセッツ俳優とでもいうべきか。もともとケイシー、俳優より脚本家や監督の才能の方が明らかにある兄と違って(笑)、俳優としての評価がすごい高い人でしたけど、これは「ジェシー・ジェイムスの暗殺」とか「ゴーン・ベイビー・ゴーン」でのそれを超えて、彼自身が役に乗り移ったような熱演だったといえますね。

 

 

それから

 

 

ルーカス・ヘッジズ君もいい味出してましたね。

 

彼、まだ20歳にこないだなったばかりですごく若いんですが、やんちゃな役どころをうまく演じてましたね。本来なら、「父一人、子一人」の環境なら内向的に育ってもおかしくないところを、でも、荒っぽい土地柄ゆえか、はからずもワイルドに育ってしまってもいるところのキャラクター設定をうまくあらわせていたと思います。ある時期、ジェシー・アイゼンバーグとかマイケル・セラみたいな、「ギークな恋人」みたいな青年キャラクターが人気あった時期ありましたけど、それを一歩進めた感じだったのも個人的には興味深かったですね。彼も助演男優でオスカーにノミネートされていましたが、納得です。

 

ただ

 

 

ミシェル・ウイリアムズは今回、そこまででもなかったかなあ。

 

 

 今の30代では屈指の演技派女優で、オスカーにもすでに何度もノミネートされてる彼女ですけど、今回も目を引く演技はしてますけど、いかんせん出演時間、短すぎですね。それでも助演女優でノミネートされたのは彼女の女優としてのかねてからの評価の高さがなせるわざだとも思いますが、ちょっと今回は過大評価な気がしないではないです。

 

 

 

 この映画、「アメリカの今の社会的断面」を示した意味ではすごく象徴的な作品だし、そこに文学的意義も十分見出せます。高い評価も納得な作品です

 

 

が!

 

 

一点だけ、僕にはどうしても好きになれないところが本作にはあります。それは

 

 

編集!

 

とにかく、特に後半、ちょっと似たような展開がゆっくり続いて長たらしいんですね。これがちょっと間延びするんだよなあ。ここさえ良ければ、もっと、「時代を代表する大傑作」になる可能性もあったのに、この手間取りが作品のオーラを落としてしまっているんですよね。これは惜しかった。もしかしたら映画館で見たからそう感じただけで、家で、映画チャンネルとかDVDで見たら案外気にならないのかもしれませんが、すごくゆっくりと進む映画で、しかもビッグ・スクリーンではない作品で2時間15分というのはちょっと長すぎです。あと15分短ければ、もっといい映画になっていたはずだし、それは十分出来る内容だったとも思います。

 

 

そのあたりが

 

 

監督のケネス・ロナーガンの今後の課題ですね。

 

彼、マーク・ラファロの出世作となった「You Can Count On Me」っていうインディ映画の傑作の監督でもあるんですけど、人間ドラマ描くのに徹すればいいとも思うんですが、編集、撮影でもう少しアピールできるものが増やさればもっといい監督になると思います。もとが優れた脚本家あがりで、僕はそういうタイプは大歓迎ですけど、今回みたいな作品で編集賞にノミネートされていないのはあまりいいことではありません。そこは今後への期待としてとっておきたいですね。

 

 

 

author:沢田太陽, category:映画レビュー, 18:38
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最新全米映画興行成績

どうも。

 

 

 

SAGアワード、「Hidden Figures」がまさかのアンサンブル受賞です。「ラ・ラ・ランド」が今回、役名のあるキャストの数の少なさからノミネート外れたんですけど、これで勝てなかった「ムーンライト」「マンチェスター・バイ・ザ・シー」は苦しくなりましたね。

 

 

あと、このときのタラジや、自身もムスリム改修者で助演男優賞をとった「ムーンライト」のマハーシャラ・アリも、ポジティヴなメッセージでトランプの中東からの渡航措置に関して批判するスピーチを出しましたね。本当に、今のこのタイミング、「政治的になるな」という方が無理ですって。

 

 

 

 

あと、エマ・ストーンが主演女優賞をとったことで、逆に不利になると見られていたSAGで「ラ・ラ・ランド」が逆に株を上げました。もう、これで「ラ・ラ・ランド」、作品賞も安泰でしょうね。エマの主演女優賞も、BAFTAで勝てば一気に近づきます。そうなったらオスカー当日はイザベル・ユペールとの一騎打ちでしょうね。

 

 

では、月曜恒例、全米映画興行成績、行きましょう。

 

 

1(1)Split

2(-)A Dog's Purpose

3(3)Hidden Figures

4(-)Resident Evil The Final Chapter

5(5)La La Land

6(2)xXx The Return Of Xander Cage

7(4)Sing

8(6)Rogue One A Star Wars Story 

9(7)Monster Truck

10(-)Gold

 

先週に続いて、復活してすごく好評のMナイト・シャマラン監督の新作、ジェイムス・マカヴォイ主演の「Split」が初登場1位から2週連続で1位です。

 

 

2位初登場は「A Dog's Purpose。これは5回、犬として輪廻した犬と人間の交流を描いた不思議な作品で、人間側の主演はデニス・クエイドです。監督は「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」やリチャード・ギアの忠犬ハチ公も監督した、やたら犬好きなのかな、ラッセ・ハルストレムがつとめています。僕の国でも今、公開されています。

 

 ただ、あまりに変な映画でもあるせいか、評判はいまひとつです。Metacriticで43点、Rottentomatoesで33点。

 

 

4位初登場は「バイオハザード」の最終章第6章。主演はミラ・ジョヴォビッチですが、彼女を最近、これ以外で見たことありません。正直なところ、「まだ続いていたのか」ということの方がむしろ驚きです。

 

 毎度、評判はかなり悪い映画ですが、今回も悪くはありますが、そこまででもありません。Metacriticで53点、Rottentomatoesで41点。

 

 

 10位初登場は「Gold」。マシュー・マコーノヒーがハゲヅラでデブの、インドネシアに宝を探しに行く男の役を演じています。

 

 ここ最近、当たりが多かったマコーノヒーですが、Metacriticで49点、Rottentomatoesで37点と、今回はあまりパッとしませんでした。

author:沢田太陽, category:全米映画興行成績, 12:27
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アスガル・ファルハディ監督はオスカーに出席出来るのか?

どうも。

 

 

このブログをあまり政治的なものにしたくはないとかねてから思ってはいるんですが、

 

 

ちょっとトランプがあまりにもねえ・・。

 

 

中東・アフリカの7国のビザ発行を「テロ防止」を口実に差し止めたっていうんですけど、それが亡命者や移民だけじゃなく、永住権持っている人にまで適用されたっていうのはねえ・・。これじゃ、アメリカに住んでる対象国の人は帰国とか外国出張もおちおちできないですよね。しかも、対象になってるシリアとかソマリアみたいな社会情勢があまりに不安定な国だと、明日生きられるかもわからないような人が必死な思いして来る訳なのに。シリアの一般市民の虐殺の写真とかなら僕も見てますが、全ての人をテロリストと決めつけて、「そういう国々の国民」のイメージを全部一元的に作り上げることによってアメリカ人に偏見と恐怖心を受け付けるのを増長するこの動きというのは意味わかんないですね。「移民が作り上げた国」という、アメリカが何100年もかけて作ってきた理念が忘れ去られてますよね。僕の住んでるブラジルも、アメリカ型の移民参加で出来た国なので、そこは譲れない思いが僕にもあります。

 

 

 で、エンタメの世界で、この件に関してもっとも危惧されているのは

 

 

 

イランのアスガル・ファルハディ監督は、オスカーの授賞式に参加できないんじゃないか、と不安視されています。

 

ファルハディ監督と言えば、今、この10年くらいで見て、世界的にもっとも勢いのある監督のひとりです。2012年のオスカーでは「別離」で外国語映画賞を受賞しただけでなく、外国映画ながら脚本賞にまでノミネートされました。今回のオスカーでも新作の「セールスマン」が自身2度目の外国語映画賞ノミネートと貫禄のあるところを見せているんですが、イランにも入国禁止がおりていますので、解かない限りは足を踏み入れることはできません。

 

 

 しかしまあ、バカげてますよね!

 

 彼みたいに、どう考えてもテロリストなんかになりようがない、世界的な知名度をえている文化的な大御所みたいな人までその対象になるというのはなあ〜。なんかあまりにも失礼と言うか。オスカーを運営するアカデミーも早速、異議を唱える声明を出してましたね。

 

 

 この「ザ・セールスマン」という映画に関しては、この1日前に、主演女優、イランではすごくビッグネームの人とのことですが、彼女がトランプの「メキシコの壁」に反対して出席を既に宣言していましたね。

 

 

 アメリカ人を守りたいかどうかはわかりませんが、外交上、ここまで敵を作っておいて、安全も何もないと思うんですけどねえ。それにしても就任から毎日こんな感じですが、これで4年、果たして持つのかなとは思いますけどね。

 

author:沢田太陽, category:映画ニュース, 13:22
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最新全英チャート

どうも。

 

オスカーにあわせて作品賞ノミネートの映画の公開がこっちでは続々はじまっています。

 

 

スケジュール綿密に立てないとなかなか見るの大変なんですが、そんな中、「沈黙」が3月まで公開延期になっちゃいましたね。まあ、ノミネート外れるとこの国じゃそういうことにもなりがちなんですが、舞台となった日本から2ヶ月近く遅れるのはツラいとこです。

 

 

では、全英チャート、行きましょう。

 

 

 

SINGLES

1(1)Shape Of You/Ed Sheeran

2(2)Castle Of The Hill/Ed Sheeran

3(4)You Don't Know Me/Jax Jones&Raye

4(6)Touch/Little Mix

5(3)Human/Rags N Bone Man

6(7)Call On Me/Starley

7(10)Paris/Chainsmokers

8(8)September Song/JP Cooper

9(5)Rockabye/Clean Bandit

10(9)I Would Like/Zara Larson

 

トップ10の入れ替えなしです。依然、エド・シーランの1、2独占状態が続いています。

 

では、アルバムに行きましょう。

 

 

ALBUMS

1(6)Classic House/Pete Tong/Heritage Or/Buckley

2(3)La La Land/Soundtrack

3(2)Glory Days/Little Mix

4(-)Return To Ommadawn/Mike Oldfield

5(1)I See You/The XX

6(7)Piano Portraits/Rick Wakeman

7(-)Modern Run/Frank Carter&The Rattlesnakes

8(4)Ladies&Gentlemen The Best Of/George Michael

9(15)25/Adele

10(11)X/Ed Sheeran

 

 

1位になったのは、これはピート・トンっていう、イギリスではラジオのディスクジョッキーをやっていた人が本格的なクラブDJになって、DJしながらオエーケストラと共演する、といった、企画のようですね。ちょっと聞いてみましょう。

 

 

 

 

イギリスのチャートって、こういうクラシック・クロスオーヴァーのものって結構チャートに入りますからね。売れるのもわからないではありません。ただ、あんまりカッコいい・・・いや、なんでもありません(苦笑)。

 

 

今週のアルバム・チャートはなんかおもしろいですね。4位には「チィーブラー・ベルズ」で70sに一世を風靡したプログレのマイク・オールドフィールド。「オマドーン」というのは、彼の70sのアルバムです。なので続編を¥意味するのかな。プログレといえば、今週6位のリック・ウェイクマンもイエスのキーボードで知られた人です。これはピアノ・インスト集です。

 

 

そして7位にはフランク・カーター。彼は2000年代に、メディアの期待は高かったものの大成しなかったエモ系ハードコア・バンド、ギャロウズのヴォーカルだった人です。ソロでの方で当たりはじめたかな。

 

 

author:沢田太陽, category:全英チャート, 20:25
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映画「ラ・ラ・ランド」感想 (ネタバレ注意!)間違いなく歴史的傑作!だけど、一番すごいのは・・

どうも。

 

 

 今日は,今、話題のこれのレビューです!

 

 

今年のオスカーの最注目作ですね。「ラ・ラ・ランド」ですね。

 

 

このブログでは、オスカーの早い段階での予想、ヴェネツィア映画祭でのプレミアでものすごく評判になったときから「賞争いに食い込みそうだよ」とは伝えていましたが、ゴールデン・グローブで7部門受賞したあたりからカリスマ性が出て来ましたよね。オスカーでも史上最多の14部門でのノミネート。僕がオスカー・ウォッチをはじめてから今年で7年目なんですけど、ここまで圧倒的な話題作はこれまでになかったですね。もともと、ライアン・ゴスリングも、エマ・ストーンもすごく好きな役者だし、監督のデミアン・チゼルの前作「セッション(Whiplash)」も好きな映画だし。僕自身もすごく楽しみでした。

 

 

 では、どんな感じなのか。あらすじから行きましょう。あっ、これ、相当の話題作なので、やっぱり「ネタバレ注意」で行きます。公開まで内容知りたくない人は、これ以下は読まないでくださいね。

 

 

では行きます。「以下ネタバレ注意」

 

 

 

 

 話の始まりは、冬のある日のロサンゼルスのハイウェイ。名物の渋滞でイライラするところから話が、いきなり派手にはじまります。ミア(エマ・ストーン)とセバスチャン(ライアン・ゴスリング)は、そんなハイウェイの上で、ちょっと印象の悪い出会い方をします。

 

 

 

 ミアはスターバックスのようなカフェで働くハリウッドの女優の卵。来る日も来る日もオーディションに落とされて、意気消沈の毎日です。彼女の友人たちは、そんな元気のないミアを,パーティに連れて行きます。

 

 

 パーティを楽しんだミアでしたが、その勢いか、友人たちとはぐれてしまいます。そんなミアは一軒のバーに足を止めます。そこで見覚えのある、ピアニストを見かけます。

 

 

 

 その男がセバスチャンでした。彼は、昔ながらの正統派のジャズ・ピアニストとしての成功を目指しますが、それは大衆に大きく受けいられた考えではなく、そこでよく衝突もします。バイトで手に入れた、このバーでの雇われピアニストもいらだちながらの演奏で、あっさりクビになります。話しかけようとしたミアにも目もくれません。

 

 

 そんなミアとセバスチャンの本格的な出会いは、ミアがでかけた別のパーティでした。そこでセバスチャンは、80sのエレ・ポップ・バンドのトリビュート・バンドのシンセサイザー担当でした。ミアがそこで、ニュー・ウェイヴかじった人ならちょっとはずかしい曲をリクエストして、セバスチャンが「おいおい」となったところから、ふたりの会話がはじまります。

 

 

 

 

 

 二人は最初、話がかみあいません。しかし、愛の神様が結びつけてくれるのか、この2人にはいい感じでツー・ショットになる決定的なチャンスが何度も訪れます。

 

 

 

 

 ミアにはこの時点で、なんとなくつきあっている男性がいましたが、二人はお互いのことを話して行くうちに惹かれ合うようになります。ミアはおばさんがかつて女優で、その縁で古き良きハリウッドのこともよく知っていて、かなりまじめな気持ちで女優になろうとしていました。一方のセバスチャンは、「ジャズはこのままでは終わってしまうかもしれない」と悩んでいることを吐露します。ジャズに興味のないミアはちょっと茶化してみますが、「それはキミが本物のジャズを知らないからだ」という意味のことをいい「そのうち、自分でジャズ・クラブをオープンして、ジャズをなんとかしたいんだ」と夢を語ります。

 

 

 そんな、自分の夢に真摯に生きるセバスチャンにミアは魅せられていき、2人は本格的な恋仲になります。

 

 

 

 そして、セバスチャンは生活を支えるために、昔のジャズ仲間、キース(ジョン・レジェンド)のバンドに入り、とりあえず生活は安定します。一方、ミアは「ただオーディションを受けて落ちる」というところから一皮むけ、「自分のしたい演技」を求め、芝居の台本を書きはじめますが・・

 

 

 と、ここまでにしておきましょう。

 

 

 ここまでのストーリーだけじゃわかりにくいとは思いますが

 

 

すばらしいです!!

 

 

 なにが素晴らしいかと言えば、まず、やっぱりミュージカルの場面ですよ。

 

 

もう、のっけから

 

 

 

 これですからね。これ、どうやって撮影したんだろうね。スタジオ・ロケには見えないから、実際に高架橋使って撮影したのかな。だとしても、こんな交通のど真ん中でどうやって貸し切って撮影することができたのか。まず、ここのミュージカルのところからいきなり圧倒され

 

 

 

 この衣装の色とりどりの色彩感覚といい

 

 

 どこかで見たようなこの光景といい(笑)

 

 

 ダンスの息のあったシンクロといい

 

 

 

このロマンティシズムといい、本当に見事です。

 

 

 これ、一部写真がすでにそうですけど、名作ミュージカルに関してのオマージュがかなりあります。それは「雨に唄えば」もまさにそうだし、1930年代のフレッド・アステアや、ジーン・ケリーをはじめとした50年代ミュージカルの全盛期、そして「ロシュフォールの恋人」「シェルブールの雨傘」といった60sのフレンチ・ミュージカル。そういった要素がちりばめられています。特にわかりやすく使われているのは、フレンチかな。その要素が、今見て一番古びてないところもたしかにありますしね。スコアのイメージが、モダン・ジャズの匂いがするから特にそう思えるのかもしれません。

 

 

 こういう抜粋感覚は、ヒップホップとかテクノとかでサンプリングが盛んになってから以降のクリエイティヴ感覚ならではというか。タランティーノがこういう「細かい引用」を巧みに駆使しますけど、それをミュージカルでやったらこうなる、というのを上手く示していますね。お見事な編集感覚です。

 

 

 そして、ミュージカル映画って特に、「印象に残るワンショット」が、数ある映画の中でも特に重要なような気が僕にはしているんですが、印象に残るワン・シーンがいくつもあげられるんですよね。それはあの、ポスターで一番使われる、丘の上での夕闇のダンスのシーンが特にそうだし、僕が上に使った写真の数々がまさにそうです。そういうこともしっかり計算されて作られた感がすごくあります。

 

 

 あと、ミュージカルがいかにトラディショナルなものであるといっても、そこで凝り固まってないのもいいです。ジョン・レジェンドのバンドではしっかりコンテンポラリーなR&Bが聴けるし、他にもいわゆるミュージカルの古典とは違うような音楽もしっかり流れます。そして、それはストーリーに関しても同じです。昔からミュージカルと言えば、勢い音楽を重視しすぎて、ストーリー展開があまりに単純に物事が運ぶように作られすぎることがありますが、これ

 

 

 ストーリーは、しっかり現実を見据えた、人間的成長もしっかり見えるロマンスです!

 

 

 これはしっかり、今のハリウッドや、音楽界の現実を見つめています。映画や演技に熱心で業界を目指した人ほど、チャンスを掴むために自分にふさわしくないような役のオーディションを受けなくてはならなくなったり、音楽の過去の歴史遺産に魅せられて音楽を始めた人が、「注目される・されない」を価値基準に、自分が良いと思って育ってきたものを妥協しなければならない。そこにしっかり、現在のエンタメやアートの置かれている問題をしっかり見せつつ(ここは何気にすごく批評家の琴線に触れるポイントです!)、それを克己しようと共にすることで同時に愛をも育んでいこうとする。このあたりがロマンス映画としてもすばらしいんです!

 

 

ここのポイントが、ほかのミュージカルみたいに単純に行かず多少のもどかしさがある。そこも僕が惹かれたポイントですね。特に

 

 

 

すでにたくさん流れている肝となる1曲「City Of Stars」のもどかしさの象徴のような哀愁、これがいいんです!

 

 

 ただ!

 

 すでに、これだけでも充分満足度が高いし、完成度もかなり高い作品なんですが、僕がこれ、一番すごいなと思っていることは

 

 

 

 監督のデミアン・チぜルが、「ジャズの未来への不安」という根っこの恐怖心から、傑作映画を2作も作り上げたことです!!

 

 

見てくださいよ、この童顔。彼、まだ監督としては非常に若い31歳ですよ。言ってしまえば、この青年、ただのジャズ・オタクです。そんな人が、普通、映画の題材になるとも思いにくい「ジャズはそのうちなくなってしまうんじゃないか」という焦燥感から、どうやって傑出した映画を作ることができるのか。ロックの行く末も、僕は随分心配してますが、こんなデミアンみたいな芸当は、僕には出来ないし、それ以前にそんなアイデアさえ思いつかないですね。

 

 

 前作「セッション(Whiplash)」では、フレッチャー先生の「ジャズからもう何10年も巨人が出ていない。それを乗り越えるためにはどうすればよいか」という強迫観念から異常なまでの特訓と精神的ハラスメントが生まれ、同じく特別な存在になりたいアンディの取り付かれたドラム熱へとつながる、という、「ジャズを通じた、没入する人間のサイコパスなクライシス」を描いた、これまた見たことのないような作品でした。

 

 

 それを今回は

 

 

「本来、最高のエンターテイメントを発信するこの街で、僕とキミとで手を合わせて良いものにしていこうよ」というメッセージを、ロマンスの形を借りて見事に表現しています。その役割を課せられたライアンとエマのケミストリーもパーフェクトです。唯一、強くないポイントをあげるならば、2人してそこまで歌がうまいわけではないことですが、演技面でそれを補ってあまりあるし、「うまい歌だけしか印象に残らない」タイプの、癖の強い歌い上げが嫌味なだけのミュージカルより何倍もいいです。

 

 

 そしてデミアン、すごいのは

 

 

 「ジャズを救いたい」という気持ちから、図らずも、ミュージカル映画やロマンス映画の危機も救っていることです!

 

 

 ブロードウェイではあいかわらずたくさんのミュージカルが作られますが、映画界ではかなり今や少ないです。そして昨今、ロマンティック・コメディの製作本数はハリウッドで激減中だし、ロマンスをからめたものがオスカーみたいな映画賞でトップ争いを演じるようなことも随分減っています。見せ方のアイデアが不足しているからだと思うんですけど、古典的な題材でも、創意工夫でまだいくらでも新しいことが出来るんだということを、デミアンは改めて示してくれたようにも思います。

 

 

 ただ、今後、デミアン、どうするんだろうね。まさか「ジャズへの不安」だけで、今後何10年も作品作っていくわけでもないでしょうけど。でも、今の彼の創作への初期衝動が歴史的傑作を量産するすさまじさがあることはたしかだし、今の瞬間はすでに映画史に残る才能であるとは間違いないでしょうね。

 

 

 

 

author:沢田太陽, category:映画レビュー, 10:15
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最新全米チャート

どうも。

 

 24日は実は誕生日だったんですが、25日がこっちでは祝日なので、長い誕生祝いをしていました。「ラ・ラ・ランド」、見て来ましたよ〜。

 

 

では、遅くなりましたが、全米チャート、行きましょう。

 

 

SINGLES

1(2)Bad And Boujee/Migos feat Lil Uzi Vert

2(1)Shape Of You/Ed Sheeran

3(3)Black Beatles/Rae Sremmurd feat Gucci Mane

4(5)Closer/The Chainsmokers  feat Halsey

5(4)Starboy/The Weeknd feat Daft Punk

6(10)Bad Things/Machine Gun Kelly feat Camila Cabelo

7(-)Paris/The Chainsmokers

8(12)I Dont Wanna Live Forver/Zayn&Taylor Swift

9(8)Don't Wanna Know/Maroon 5 feat Kendrick Lamar

10(7)24k Magic/Bruno Mars

 

 ミゴスが1位を取り返しましたね。もうすぐアルバム発売なので、さらに売れそうな感じですね。

 

 7位にはチェインスモーカーズのニュー・シングルが初登場して来ています。

 

 では、アルバムに行きましょう。

 

 

ALBUMS

1(1)Starboy/The Weeknd

2(-)I See You/The XX

3(2)La La Land/Soundtrack

4(3)Moana/Soundtrack

5(4)24k Magic/Bruno Mars

6(6)Hamilton/Original Cast

7(5)4 Your Eyez Only/J Cole

8(7)Views/Drake

9(9)Stoney/Post Malone

10(14)Trolls/Soundtrack

 

 

 ここ数年でビルボードのアルバム・トップ3が、自分が日常的に聴いてる作品ばかりで埋められたの、いつ以来なんだろう?

 

 

 1位は変わらずウィーケンドですが、2位はXX!素晴らしいです。そして「ラ・ラ・ランド」のサントラが3位をキープしています。

 

 

 あと今週は106位にONE OK ROCKのアルバムが入ってたんですよね。まずまずじゃないかと思います。ツアー活動するかしないかで今後が決まるような気がしてます。

 

 

author:沢田太陽, category:全米チャート, 10:58
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