どうも。
では、ロラパルーザ・ブラジルのライブ評、行きましょう。
今年で4回目を迎えるサンパウロでのロラパルーザですが、今年はとうとう、社会一般的にも話題になりましたね。これまでは「サンパウロのロックファンの中での話題のイベント」という感じだったんですけど、去年からインテルラゴス・サーキットでやるようになってから新聞やテレビも速報レベルでとりあげるようになりましたね。良いことだと思います。
今年は、去年のシカゴのロラがロックがキツい中、EDMやヒップホップで乗り切った路線がそのままやって来た感じですね。そのニュアンスは特に2日目に濃くなっています。
今年はですね、観客的なことを言うと、まあ〜、これがですね。すっごいオシャレなんですよ、これが。
こういう女の子がゴロゴロしてます。ここ最近、ロックフェスでの花ティアラ、すごく流行ってます。ラナ・デル・レイの客が2013年に持ち込んだカルチャーです。これに限らず、毎年そうですけど、女の子たちがロックフェスにかける意気込みたるや、すごいですよ。たとえばアーティストTでも、見たことのないようなデザインのものを、首のシルエットゆるゆるにして、着てたりする子が多いですね。申し訳ないですけど、物販の安いピチピチのTシャツに首にタオルを巻いたような人はここには1人もいませんね。
では、内容に行きましょう。
<13:45 バンダ・ド・マー(ステージ1)>
まず、着いて最初に見たのはブラジルのバンドでバンダ・ド・マー。これは特別プロジェクトみたいな感じで、2000年代のブラジルで最もカリスマ的人気のあったバンド、ロス・エルマーノスのフロントマン、マルセロ・カメロが、2000年代の半ばに”天才少女”としてデビューしたマルー・マガリャンエスと結成したバンドです。まあ、言ってしまえば、マルセロがマルー、口説き落としちゃったんですけどね、早い話が(笑)。
ただ、そうした恋愛の成果が、このバンドにはすごく良い方向に出てましたね。去年出したアルバムもブラジル国内の年間ベストにあげる人も少なくなかったですが、そのアルバムの雰囲気そのまんまのライブでした。エルマーノスというのは、山下達郎のシュガーベイブをUSロウファイ・ギターバンドにしたみたいなソフィスティケイトされたコード感と鋭角的なギターが共存するタイプのバンドだったんですが、あのバンドが持ってた感覚が2007年のソロ転身後にはじめて上手く出た感じになってますね。マルセロは優れたギタリストで、歌声も安定してるので落ち着いて聴けました。
ただ、マルセロって、良くも悪くも器用貧乏的なところがあって、そこが地味な文系バンド風に見えていたところでもあったんですが、そこにマルーが加わることによって彼になかった華が生まれています。マルーはマルーで、ものすごい短い前髪の絵に描いたような文学少女にして、奇行の目立つ変な子ちゃんなんですが、バックのサウンドがマルセロの作るものくらい安定すると、安心感もって聴けましたね。マルーの場合、数回聴けば歌メロを覚えられるくらい、メロディメイカーとしてのセンスは抜群なのですが、いかんせん、歌に安定感がなさすぎて(笑)。声が細い上に、ファルセット使ったときに音程が思いっきりズレるんですね。これがマルーのソロの曲だと、なんかフラフラして聞こえてたんですけど、それがガッチリ支えられるようになっています。
これは双方にとって成功しましたね。
<14:45 フィッツ&ザ・タントゥラムス(ステージ2) >
これは知らない人が多いんじゃないかな。LAのインディ・ソウル・バンドのフィッツ&ザ・タントゥラムス。あんまり日本のメディア周りから聴かれる名前ではないですが、ただ、本国では割とラジオを中心にヒットを記録してまして、2曲がオルタナ・チャートで1位で、アルバムもビルボードで26位まで上がっています。その関係もあって、僕の聴いてるサンパウロのロック系ラジオでは非常によくかかってます。
で、ショウですが、”ソウル・バンド”と言っても、どっちかというと、80sの中期〜後期にいた感じの、エレ・ポップにブルー・アイド・ソウルをまぜた感じですね。スクリッティ・ポリッティとか、ブロウ・モンキーズとかを思いっきり通俗化させたような感じです。・・と思って調べてみたら、ここのフロントマンの前髪垂らしてそこだけブロンドに染めてる人、なんともう44歳なんですね!40手前でこのバンドを結成してたとは。そして彼の後ろに、金髪坊主の黒人のお姉さんがいるんですけど、彼女も35歳。苦労人のバンドだったわけですね。
ただ、その分、ショウは安定して、多くはない客ながら、会場を踊らすことが出来ていたのは立派でした。最後は、今、こっちで車のCM曲で流れている「The Walker」でシメました。
<15:50 アルトJ(ステージ1)>
そして、この日期待されたアクト、アルトJが登場しました。
彼らはデビュー作がマーキュリー・プライズで2作目で全英1位、全米5位と、2010年代以降のデビューのバンドの中ではトントン拍子の成功を収めています。ただ、僕には、なぜそれが彼らに起こっているのかが今ひとつ掴めずにいました。ハッキリとわかりやすい曲を書かないし、そして、あんまり言いたくないけどルックスに華がなさすぎだし・・・。正直、音源だけではのめり込めるタイプではなかったので、この日が初体験だったライブには大いに期待しました。
彼らが登場し、ステージに横一列並ぶと、やはり期待が大きかったのか、大歓声が飛びます。ただ、いったんパフォーマンスがはじまると、これがとにかく地味!風貌はオシャレに気をつかわないナードな学生風で、無機質な感じで淡々とライブを進めて行きます。
聴いてるうちに、彼らがなぜアメリカで人気が出たのかはなんとなくわかりました。インテリで、曲が混沌として重くて・・って、ピンク・フロイドみたいですもんね。フロイド→レディオヘッド→アルトJという構図を思い浮かべている人がかの国には多いのかな、と思いましたね。あと、曲そのものはポップじゃないんですけど、ドラムはかなりわかりやすいので、そこで聴き易さが出てますね。すごくいいドラマーだと思います。彼のリズムがリリカルでメロディ以上に語るのでそこで世界観も生まれてますね。このドラムの抜けるような感覚は、ヒップホップとかトリップホップをよく聴いて通過した感じですね。
このように、他のUKバンドと比較すれば、たしかに楽曲は他とは明らかに違うし、その意味では際立ち易かったのかなとは思います
が!
ただ、この日のブラジルの現地のレヴューで彼らに対する言及がほとんどなかったように
正直なところ、記憶には残りにくいライブとなってしまいました!
とくに、このあとの出演者が、個人の技量や、見た目でも勝負する要素の強いアーティストでしたからね。そういうタイプと同じになったら、たしかにこういう音楽純粋主義的な華のないバンドは厳しいところがありますね。こういうとこは、今のインディ系の日批評メディアが好みがちなナードまカレッジ・バンドには不利ですね。実は去年、ヴァンパイア・ウィークエンドがロラパルーザに出演したんですけど、そのとき酷評されたんですね。なんとか上手い見せ方を考えていかないと、「こういう華のないバンドが持ち上げられるからロックがつまんないんだ」みたいなことも言われかねないので、それを見返すためにも頑張ってほしいですね。
<17:15 セイント・ヴィンセント(ステージ3)>
そして、この日が来るのを1年待ってました!セイント・ヴィンセントの登場です!まだブラジルだと知名度が高くなく、ロック系のラジオもまだ価値に気がついてなくてなかなかかけてくれないので、ステージは小さめでした。ただ、熱心なファンはこちらでも出来ていて、彼らの存在がライブがはじまるとすぐに強烈に目立ってくることとなります。
ライブは予定より15分押しでスタートしました。セイント・ヴィンセントことアニー・クラークはファッショニスタでもあるんですが、この日はちょっと前にかけたストパが取れてちょっとアフロ気味になった髪に、袖を切った黒ドレスに、文字入りの黒の網タイツといったセクシーな出で立ちにグリーンのフェンダーのギターを持って登場しました。最初の曲のイントロで、真横でギターとキーボードを担当する日本人女性、トコとおそろいのフリでダンスをはじめて楽曲に入りましたが、こういうユーモア精神と、見た目の構図重視の見せ方、これだけで「こういうのがロックに欲しいんだ!」と思ってしまいましたね。それは、申し訳ないですが、アルトJ見たあとだけになおさら思いました。
そして彼女は曲中に入って、曲を積み重ねれば積み重ねるほど、「今度は何をやるのかな」と見る側の好奇心を駆り立ててくれます。今や彼女の代表曲の「Digital Witness」をはじめ、最新作にはエイドリアン・ブリューばりのフリーキーでギターのトーンが目立つんですが、歌の部分までは視覚やユーモアで魅了しつつ、キメの部分では仁王立ちして、ギターの技能を存分に見せつける。こういう演出も、昔は野郎のギタリストがやってたことなんですけどね。
選曲的にも最新作の中に、バランスを取りながら過去作をやっていったのですが、1作前の「Strange Mercy」での「Cheerleader」みたいなスローな楽曲でも聴かせるし、そうかと思ったら終盤は自らステージに降りて行って、オーディエンスに自分のギター渡してダイブにまで行く大胆さもある。そしてステージに戻ると、ギターの横で大の字になって倒れてみせるなど、自分の見せ方を演劇的にしっかりコントロールしています。
そんな彼女に対し、数は多くはなかったものの、前方にいた、アニーに夢中の女の子、そして、目をまばたきさせながら手を顔の近くにおいて敬意のまなざしで見守る、どう見てもゲイの集団。彼らの姿がモニターにデカデカと映しだされる光景はかなり異様でさえありましたが、この日の彼女のウケ方を物語っていました。おそらくアニーが帰国した後、サンパウロのファッション界隈の人たちのあいだでセイント・ヴィンセントが旬な存在になって行くんでしょうね。
「2015年の現在最新モードのロックスター」の姿をここに見た感じです。最高!
<18:20ロバート・プラント(ステージ1)>
そして、この日の目玉のひとり、ロバート・プラントの登場です。
ここブラジルはレッド・ツェッペリンの存在が本当に大きく、ロック系のラジオでは今でも頻繁に耳にします。そうしたこともあって、この日は、普段フェスとは全く縁のなさそうなロマンスグレーのおじさま方が、時には奥様や子供を連れて会場入りする姿が見られていました。
ライブは「Babe I'm Gonna Leave You」ではじまり、いきなりのZEPナンバーに会場は一瞬にして熱くなりました。プラントの声は、これが世に出た47年前とさほど変わっていません。この年にして、いくら地声が高い人とは言え、あのハイトーンの艶がここまで衰えないというのはすごいことです。
曲はここ最近の彼のソロ楽曲と、プラントの今のムードにあわせたアレンジでのZEPナンバーという組み合わせでしたが、近作がセールス的にも好調ということもあって、ライブにまず現役感がありましたね。彼のソロは2000年代半ばから、そのブルース、フォーク、ワールド・ミュージックの融合路線という、後期ZEPの精神性を引き継いだ感じですが、ZEP再結成を拒み続けるプラントとしては、「再結成以上に現役としてまだやることがあるだろ」と、自らの活動を通して無言で訴えかけてる感じがして、それだけで頭が下がりましたね。ぶっちゃけ、ソロの楽曲だけで僕は十分満足できたくらいです。
で、その上でZEPを無理に否定しているわけでもない。この日も結局「Black Dog」「Going To California」「The Lemon Song」「What Is And What Should Never Be」「Fixin To Die」と惜しみなく披露して行きましたからね。アレンジは今の彼の路線に忠実と言えば忠実なんですが、とは言え、ハードな部分をあえて殺すこともなく、内燃するエモーションの激しさはしっかり表現もしていて。昔取った杵柄の活かし方もしっかりわかっている感じです。
そして「胸いっぱいの愛を」で会場を大団円にした後は立て続けて「ロックンロール」でとどめをさしました。
ポール・マッカートニーも現役感を活かしつつ、その若々しさと共に彼自身のクラシックをここ10数年ほどライブで披露し続けかなり好評を得ているものですが、それと同じ、いや、現役パフォーマーとしての表現力ならそれ以上のことをプラントは出来ていると思います。これはもっと評価されていいものだと思いました。脱帽です。
ただ、「レモン・ソング」をやってしまったことで、ちょっと残念な思いもしました。「あっ、これでジャック・ホワイトとの共演、なくなっちゃったかな」。この1週間前のロラ・アルゼンチンではこの曲でジャックと共演だったからなあ。
<21:15 ジャック・ホワイト(ステージ1)>
ロバート・プラントからしばらくは間が空きました。ステージ2ではスクリレックスのDJだったんですが、ワイフがこのタイプが苦手なので行かず。そしてステージ3では本当ならマリーナ&ザ・ダイアモンズだったんですが、ニューヨークからの飛行機が飛ばなかったことでドタキャン。マリーナに関してはブラジルに局部的に大ファンがいて、嘆願運動が実っての今回のブッキングだっただけに気の毒でしたね。結構、マリーナTシャツを着てた人も見かけたので。
で、ロラパルーザ・ブラジル、今年の初日のヘッドライナーはジャック・ホワイト。僕が彼のライブを見るのはホワイト・ストライプスの「Get Behind Me Satan」以来です。9年ぶりとかなのかな?「Icky Thump」のツアーは全米ツアー中に中止になりましたからね。
そう思っていたら、1曲目が「Icky Thump」だったので、止まっていた時間を穴埋めしてくれたみたいで嬉しかったですね。
今回のライブは最新作「Lazaretto」からの曲が中心でしたが、アルバムで聴くと、「趣味で渋い方向に走り過ぎだよ〜」とメグの不在を嘆いていた僕でしたが、さすがはジャックですね。ライブで見た方が言うまでもなく圧倒的に優れています。あのけたたましいバカ声で、狂おしく暴れるギターは、曲調がなんであれ、関係ありません。
今回のバックは黒人ドラマーに、エレキとウッドを両方弾けるベース、ペダル・スティールとテルミンも弾けるキーボード、そして女性のフィドル・プレイヤーにジャックの5人。ストライプス時代の、あのメグと2人だけの隙間だらけのあの空間のマジックが見られないのは残念ですが、その分、ストライプス時代に出来なかった腕利きミュージシャンを招いての職人プレーが出来る訳だから、そこはイーヴンと言うべきでしょうか。
そして、この編成で由緒あるトラディショナルなカントリー・ロックをやろうとも、いざジャックが爆音でギターを暴発させてしまうと、たちまち「世界一うるさいカントリー・バンド」に早変わりしてしまいます。さすがにパンクもガレージも理解したカントリー・バンドなるものは存在しませんからね。
レパートリーにはストライプス時代の曲もかなり多めに入っていましたね。「Hotel Yorba」「Dead Leaves And The Dirty Grounds」「We Are Gonna Be Friends」「Black Math」あたりはやっぱ嬉しかったですね。個人的にはラカンターズのときにそんなに面白いとは言えなかった「Steady As She Goes」が、ジャックが「俺、俺!」と目立つことで生き生きして聴こえたのガよかったですね。やっぱですね、ジャックの場合、他の仲間たちを立てたバイ・プレイヤーなんて似合いません。存分に好き放題やればそれで良いのです。
ライブは、カントリー・ヴァージョンの「Fell In Love With A Girl」などを交えつつ、5曲やったアンコールでのラスト2曲「Balls And Biscuits」そしてもちろん「Seven Nation Army」は最大の山場になりましたね。「Balls」のロング・ソロと「Seven」の最後のスライドギターは何度聴いても鳥肌ものです。ブラジルの音楽ファンは決めフレーズを合唱するクセがあるんですが、アンコールを呼びかける際も、演奏後にジャックが去ったあとも「Seven〜」の「♪チャ〜、チャッ、チャッ、チャッ、チャ〜ラー」を合唱し続けていました。