どうも。
以前、ここに書いて割と反応をいただいたブラジルの大統領選、こちらでは明日、26日が決選投票日です。
でも、なんか興奮できないんだよなあ〜。というのも、これ、現状で。
現職のジウマが当選しそうだから。
・・っふーっ、とため息が出てしまいますよ。
明日の決選投票では彼女と
このアエシオとの争いなんですけどね。
ちなみに、日本の報道では「ルセフ大統領とネベス氏の対決」なんて言われてますけど、こちらでは誰もそんな呼び方はしていません。あくまでファースト・ネームで「ジウマとアエシオ」です。
10月5日の一次投票では、ジウマが41%だか42%とって、最初3位の予想だったアエシオが2位のマリーナ・シウヴァに勝って上がって来ました。そのとき意外にも33%取ったことで、そこまで本命視されていなかったアエシオの注目度があがってきていました。
そこまでのいきさつは
きょうブラジルは大統領選挙です
こちらの方に書いてあるので、興味のある方は読んでください。
今回の選挙の争点は、ジウマの所属する労働者党の汚職や経済停滞に対し、「政治改革」を求める勢力との戦いでした。この一次投票のあと、一次で破れた数多くの立候補者がアエシオの側を支援しました。それがどのくらいのものだったかは、3位から7位の候補のうち、4位以外の人を除いて全員がアエシオの支持に回った、と言えばわかりやすいところでしょうか。
それに引き換え、この際にジウマの支援に回ったので聞いた名前は、昔から汚職で有名な上院議長と、20年ほど前に大統領を罷免されたコーロル元大統領という、これまた汚職で有名な人。新聞で取り上げられて目立った名前って、せいぜいそれくらいでした。
それに加えて、この決選投票までの3週間のあいだに、「ペトロブラス」という、ブラジルの産業でもっとも大事だとされている石油公社で、労働者党が汚職を率先して行なった、ということが、ここの元上層部で、現在逮捕中の容疑者から供述が上がったんですね。
また、ジウマ政権というのは、世界の経済界で信用されていません。ジウマの前任者のルーラ大統領の時代に経済成長を果たし、ブラジルはBRICS諸国のひとつとして注目されたわけですが、ジウマになって経済の勢いが落ちてしまいました。それはジウマに経済干渉が強く、外国資本が投資しにくいと不満が強く漏れてるんですね。それプラス、なんやかんやで投資が止まり、国の産業自体が止まってしまいました。そんなわけで、ブラジル企業に対する株価も、「ジウマが当選しそう」という情報が流れたら株が大暴落し、「対立候補が有利だよ」と聞くと株が上がるという状況。国際経済的にもジウマの当選は望まれていないのです。
そして、これは日本でも知っている方も多いと思いますが、昨年のサッカーのコンフェデレーションズ・カップ前のブラジルでの大暴動。あれも現在の政権の治世に対する怒りが爆発したものでした。
そういう状況で、どう考えてもジウマが有利なわけない・・・
はずなんですが!!!
世論調査の支持率でジウマの支持が揺るがない!!
これはもう、非常にガッカリしましたね。
マリーナをはじめとした諸々の大統領候補がアエシオについて、「さあ、イケイケ!」ってときにも、アエシオの支持率は51%で止まって、それ以上あがらずに、ジウマに逆転されてしまったのです。
この地図で言うところの、右腕に出っぱった部分、BAとかPIとか書いてるところから右の部分、これをノルデスチ(北東部)と言うんですけど、ここだけが極端にジウマ支持が強いんですね。
僕の住んでるサンパウロは、その地図の右下のくぼみのあたりのSPってとこで、ブラジルの都会部分は、その周辺のRJ(リオ)とかMG(ミナス・ジェライス)とかに固まっています。このあたりはスデスチ(南東部)と言われていて、こっちだとアエシオの方が強いんですね。あと、他の地域でも、アエシオの方がやや支持率が上か、ほぼ互角です。
ところが、ノルデスチだけで、ジウマが70%を超える支持率なんですね。
なぜか。それは
労働者党による社会福祉政策の強い部分だから
この地域は、前任のルーラがボルサ・ファミリアという社会福祉生活で貧困層に経済支援がなされた家庭が多いところなんですね。そういうこともあり、このあたりの人は労働者党のことを「命の恩人」風に思っている人たちもいる。また、今でも基本的に貧困層は多いところなので、こういうところの人が新聞やネットなどの情報を得ているかさえも微妙。そういうところで、去年の暴動とか、今のペトロブラスのスキャンダルが知られているかどうか微妙なんですよね。
ただ、今回のキャンペーンで、このあたりで労働者党が何をやったかといいますとですね
前任のルーラも出て来て、北東部で共に
アエシオの政党の民主社会党を徹底的にこきおろしたんですね。で、そのときの批判というのが「あの政党だとボルサ・ファミリアがなくなるかもしれない」と、根拠がある訳でもないことを言ったんですね。もともとボルサ・ファミリアの原型自体が、民主社会党が労働者党の前に政権を持っていた時代に作っていたものなのにもかかわらず。
そしてさらには、「
民主社会党は北東部の人に偏見がある。アエシオが当選すれば、北東部の人に第二次大戦のナチス・ドイツがユダヤ人にやったことと同じことをする」「キリストを殺したヘロデよりも残忍だ」とまで、これ、笑っちゃうかもしれないけど本当に言ったんですね(苦笑)。
ただ、悲しいかな、こういう滑稽な口車に乗ってしまう人が本当にいるから困るんです。
さらにですね
ジウマとアエシオがテレビ討論をした際、ジウマが政策論そっちのけで、相手の経歴批判ばかりしてくるのにカチンと来たアエシオの言った、ややキツい口調の反論部分がジウマの選挙CMに使われ、
「アエシオは女性に対する配慮がない」という放送を作ったんですね。これが、そこまでさして選挙に関心のない主婦層を刺激してしまったんですね。ブラジルの場合、国民全員が投票義務があるので、「政治に関心がある・ない」は関係ないんですね。そこをジウマは「女である」ことを利用し、それで功も奏す訳です。
ただ、全部で4回あった、ジウマとアエシオによる政治討論放送、「どちらの候補が良かったか?」の
ニュース・サイトのアンケートでは、ほぼ毎回、3〜4倍の差を付けてアエシオが勝っていました。
・・と、ジウマ陣営が投票日までにやって来たことというのは、こんなことばかりです。
相手の揚げ足ばかりを取って、具体的な政治論争はまるでやらない。これ、一次選の前に人気のあったマリーナにも同じことやったんですよね。テレビのCMで徹底的に貶しまくって彼女を落としたんですよね。ハッキリ言って、マリーナやアエシオが名誉毀損で訴えてもおかしくないことを言い回って、人々を信じさせて勝ち上がって来ています。
加えて、本来8月、9月に発表されてておかしくない
、社会や経済関連のいくつかのデータの発表が封じられてるんですよね。これらの発表がないために「ジウマの治世が上がってる」という「?」な向きが出て来ているんですけど、これも
立派な職権乱用です。
こうなると、「こんなの許せねえ!」と思う勢力が熱くなっても当然おかしくはありません。ただ、「政治改革」を求める人の中にも二の足を踏んでいる人が多いのも事実です。それは
アエシオの民主社会党がそもそも保守的イメージの強い政党だから。
この政党はもともとがエリート志向が強く、「企業家の味方」のイメージが強いんですね。そんなこともあって、「貧乏人の敵」というイメージがあって、労働者党から長いことボロカス叩かれてるところなんですね。加えて、90年代に政権を持っていた際に汚職も多かった。そういうこともあって、「古くて保守的」なイメージを持つ人も多く、「この政党では政治改革できない」という人も結構いるんですね。
ただ、労働者党を飛び出して一匹狼で選挙戦を戦おうとした、およそ保守からはほど遠いマリーナまでをはじめ、
労働者党よりも左よりである政党が「政治改革」を求めてアエシオの支持に回っている。これが何を意味するかを解釈すべきですよね。「イデオロギーを変えた」とさえ思われかねない決断までなぜあえてしなければならないところまで追い込まれているのかを。
それにいくら民主社会党が「保守寄り」と言っても、それがアメリカの共和党みたいな感じとは随分違います。
別にキリスト教右派に近いとか、特定の人種に差別を行なったとか、「家族に重きを置く」とか、そんな話は聞いたことないですからね。実際問題、
LGBTの組織の上層部は今回アエシオ支持です。
一方、労働者党というのは、ブラジルが60年代に軍事政権だった頃に学生ゲリラだった人が多く集まってできた政党です。名前の通り、労働者の味方であり、イメージとしてはリベラルで左翼です。そういうこともあり、ブラジルでも、他の欧米諸国同様、エンタメ関係者にはこの政党の支持者はすごく多いです。学生運動の盛んな大学でもそれは同様です。
そういう意味では、僕も事情をここまでよく知らなければ、労働者党を押したいのもやまやまではあるんです。僕のことで言えば、「政教分離がちゃんとしている」「いかなる理由があれ人種差別や性差別はしない」「他の人種や国の文化に寛容」「軍国的な匂いがしない」「排他的な愛国主義を掲げない」ことが守られる限りは、そういう政党は支持します。まあ、ブラジルの場合、今のどこかの国とは違って、ある程度勢力のある政党は大体上記のことは守られているので、その意味ではすごく住みやすいし、耳にするのも不快な言葉を聞かなくて言い分、マシと言えばマシです。そこまでは病んでません。
ただ、労働者党の場合、
汚職が多い上に、軍事政権時代の大物政治家の支援を受けていたり、キリスト教右派政党、エヴァンジェリスタ系政党とも結びついちゃってもいるから、その意味で他の国の左派ともなんか違うものになりつつあります。
今でも、貧乏人や人種差別になると、昔からのアイデンティティが働いて大げさに騒ぐ優しさみたいなところは労働者党はまだ残ってはいるんですけど、長いこと政権取って来て汚れてしまっている部分はハッキリ言って否めません。
それもこれも、なんかこの
今は亡き、この南米の独裁者、ベネズエラのチャベス大統領を思い出すんですよね。彼も貧乏人には本当に優しくて、アメリカに楯つく勇気があって、南米の他の政治家にも人気があって、その影響でブラジルも含めてたくさん左翼政権もできた。だけど、経済政策は本当にダメで経済発展は止まり、マスコミはだまらせ、政敵を理論武装ならぬ感情的な言葉の暴力でだまらせ、権力の座に長くいることを望んだ。
ブラジルの場合、ルーラが大統領になった際に「チャベスの二の舞にならないか」を心配されたものですが、その恐れにルーラが気をつかって経済政策もうまくおこなったがために国の発展も彼自身の人気も最高潮にあがったものですが、それがジウマが大統領をついでから、だんだん行動が悪い意味でチャベスに近づいて来てますね・・。なんか、「遅れて来た社会主義」みたいで。
そして、投票日の直前に及んでもですね
この「ヴェージャ」という雑誌が、先ほど言ったペトロブラス疑惑において、「ルーラもジウマも汚職工作について知っていた」という、この疑惑の中心人物からの供述があった、というセンセーショナルな話が表紙になりました。さらにルーラに関しては、「汚職の支払いの命令まで行なっていた」というもの。これが
もし仮に本当なら、刑事裁判に問われる問題です。
この「ヴェージャ」は労働者党が2000年代に起こした「メンサロン事件」という大型汚職事件について最初にスッパ抜いた雑誌で、尊敬されてるジャーナル誌なんですね。ここにそういうことを書かれてしまったわけです。
これに関して当然ジウマは慌てて、記事の取り下げを求めていますが、裁判所は「ノー」を出しました。ジウマはヴェージャのことを、
「メディアによるテロ」と呼んでいます。この人、自分が攻撃される時はものすごく被害者意識を持った物言いをしがちです。
ただ、労働者党支持者も相当に狂信的でして
こんな風に「ヴェージャ」の発行元の出版社を襲ったりもしています。
まあ、選挙結果にかかわらず、結果が出た後、ブラジルは荒れそうですね。つい一昨日にも
サンパウロの誰でも知ってる人通りの多いところで、ジウマ支持派とアエシオ支持派が旗持って乱闘してましたからね。なんか今回の選挙は両陣営の支持者共にかなり加熱してるので、この後が心配ですね。僕的にはセレソンが大敗したときなんか以上に心配してます。
まあ、覚悟はしてはいますが、「避けようと思えば避けられる4年なのになあ〜」という倦怠感はしばらく頭をもたげそうですね。