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沢田太陽の2018 年間ベスト・アルバムTop50  30-21位

どうも。

 

アワードの発表がドドッと重なってましたが、年間ベストの続き、行きましょう。今回は30位から21位。

 

 

ラインナップはこんな感じです。

 

 

 

はい。こんな感じになりましたが、早速30位から行きましょう。

 

 

30.And Nothing Hurt/Spiritualized

 

 

30位はスピリチュアライズド。

 

スピリチュアライズドといえば、もう90sの前半から、イギリスではずっとリスペクトされ続けているアーティストですよね。今やジェイソン・ピアーズのソロ・プロジェクトですけど、彼がメンバーだったスペースメン3の頃から、UKネオ・サイケデリック・ロックの代表者であり、97年に発表した「宇宙遊泳」は、あの年の年間ベストでレディオヘッドの「OKコンピューター」とザ・ヴァーヴの「アーバン・ヒムズ」と1位を争ったほどでした。当時はもう、宇宙的なサイケ・サウンドだったんですけど、この後、ゴスペルを導入しはじめてより肉感的でヒューマンな感じに進化していたんですけど、このアルバムではもう、とうとうアメリカの60年代のルーツ・ミュージックというか、フォーク、カントリー、ソウルの領域にまで突入しましたね。こうした路線は「アメリカーナ」と言って、アメリカでもトラディショナルな伝統芸になってますけど、やっぱりジェイソンの場合、これまでの蓄積から、そこに未来的な浮遊感を刻み込むことができ、「古き良きもの」を過去の時間軸に押し込めることをせずに先に進める役割を果たしています。彼の世代のイギリス、優れたアーティスト、揃ってますけど、まだまだ才能は枯れません。

 

 

29.Oil Of Every Pearl’s Un-Insides/Sophie

 

 

29位はソフィー。

 

彼女は存在は、インディ界隈で話題だったPCミュージックというレーベルの仕事で一部で話題だったんですけど、その時は聞いてません。僕の場合、インディの一部のコアでウケてるものは、「そういうの追ってたら全体が聞けなくなる」と考えるクチで「本当に良いものだったらしかるべきタイミングで大きく注目される」と思うのでそこまで待つタイプなんですが、このソフィーのアルバムがまさにそういう存在です。ソフィー、聞いて思ったのですが、もう彼女の場合はエレクトロ内のジャンルがどうこう、という小さなレベルで収まる人ではありません。エレクトロ全体の基礎値が高いですね。ちょっと懐かしいハードコアな感じが案外強いんだなと思いましたけど、アンビエントも、ハウス(しかもかなりトラディショナルな感じの)も、ヴォーカル・フィーチャリングも、どれにも対応できるしっかりした素地がありますね。これがあれば、シーンの流れがどうあれ彼女なりの対応は十分可能でしょうね。その意味でエイフェックス・ツインに通じるものを僕は感じましたけど、今後、すごく楽しみです。トップ・クラスのセレブ系のアーティストが誰か早く起用しないかなと思いますけどね。

 

 

28.Iridescence/Brockhampton

 

 

28位はブロックハンプトン。

 

このブロックハンプトンは、インディ・ファンの間では昨年から話題になっていたヒップホップ・グループでしたね。ミックステープを3つだったかな、出していて。彼らの場合は、人種も混合だし、さらに言えば中心人物がオープンリー・ゲイということもあって、非黒人の、とりわけ刺激を求めるインディのファンがつきやすかったんですよね。そしてメジャーと契約して、拠点もテキサスから本格的にカリフォルニアに移してのメジャー第1弾。期待値も高く、評判も良かったのでいきなり全米初登場1位もとりました。彼らの場合、やはりフロントのケヴィン・アブストラクトのゲイというアイデンティティゆえ、マッチョで当たり前の他のラッパーとは自ずと視点が違ってくる面白さがあるし、アンダーグラウンドでずっとたたき上げてきただけあって、近年流行のトラップやマンブル・エモ・ラップにも目もくれない、昔ながらの正統派で通してるのも潔くて見てて気持ちいいですね。雰囲気として、90s前半当時のデ・ラ・ソウルとかトライブ・コールド・クエストみたいな当時「ニュー・スクール」とか「ネクスト・スクール」とか言われてた人たちと同じ匂いを感じます。ただ、まだ決定的な「自分たちの音」というのを確立してないのでそこが注文ですね。でも、まだ伸びしろもあって楽しみです。

 

 

27.I’m All Ears/Let’s Eat Grandma

 

 

27位はレッツ・イート・グランマ。

 

このローザとジェニーの二人は、デビュー前に注目された時がまだロー・ティーンだったことで話題になったんですよね。そしてセカンド・アルバムで、それでもまだハイティーンかな、その若さではあるんですが、かなりの成長した姿を見せています。耳をひきやすかったのは、さっき紹介したソフィーとホラーズのファリス・バドワンがプロデュースした、ちょっと刺激的なエレクトロ楽曲で、僕もそれを聞いて引き込まれたものです。ただ、ちょっと時間をおいて聞き返すと、そうした曲がむしろ「いいんだけど、ちょっとネクストLordeの線を周囲が狙いすぎかな」と思い、むしろ自分たちが主導で作った生ピアノを中心とした自作曲の方がやっぱりいいなあと思ったり。彼女たち、確かにLordeが「メロドラマ」での成長と引き換えに失われそうな良い意味でのおどろおどろしいダークな雰囲気を持っていてそこはミステリアスで惹かれるんですけど、その個性を伸ばすのに「Lordeっぽい路線」というのはわかりやすくていいんだけど、でも、それだけでも惜しい。そういう、伸び盛りゆえの未完成ぶりがこのアルバムの良さだったりするのかなと思っています。次のアルバムがさらに楽しみです。

 

 

26.Swimming/Mac Miller

 

 

 

26位は、マック・ミラー。

 

彼はこのアルバムを発表した1ヶ月後の9月に弱冠26歳で他界してしまいましたが、これはもう、本当に惜しい。惜しすぎる!ここ数年でようやく白人ラッパー、かなり台頭するようになってきましたけど、その中でマック・ミラーこそが筆頭格であることをこのアルバムは十分証明できてたんですけどね。まず驚いたのが、彼がこのアルバムで、アレンジャーとしてジョン・ブライオンを起用したことですね。ブライオンって、エイミー・マンとかフィオナ・アップル、ルーファス・ウェインライトで出世して、最近のインディ映画のサントラのスコアとか作ってる人ですよ。最近だったら「レディ・バード」とかもそうでしたけど、ジョン・レノンのコード進行でストリングス作れる人です。彼が半分以上絡んでたこともあって、人種に関係なく、他のラッパーができない表現世界に入れてたんですけどね。このアルバムではJコールも参加してましたけど、彼みたいなギミックなしの、自分のラップと音楽性だけで勝負できるラッパーになりたかったんじゃないかな。それができていたら、まだ白人ラッパーで誰もできていなかった「エミネム超え」を達成する最初のラッパーになっていたのにね。まだ途上な感じを漂わせて終わっているからなおのこと残念です。本当にドラッグが恨めしいですよ。

 

 

25.Sweetner/Ariana Grande

 

 

25位はアリアナ・グランデ。

 

マック・ミラーと連番にしたのは、ええ、もちろん意図的ですよ。現在大ヒット中の「Thank U Next」に出てくるマルコムはマック・ミラーのこと。彼が亡くなった時に、「元カレが苦しんでいるのに見捨てた」とばかりにアリアナも不本意に攻撃され、誰にとっても幸せなことにならなかった。ああいうのは見ててつらいですね。ただ、そのマルコム同様、アリアナもアーティストとして着実に成長していることを示した、これは見事なアルバムです。彼女はこの2作前の「My Everything」 から「楽曲で勝負できるアイドル」で売ってるところがあったんですけど、前作までなら彼女と最も相性の良いイルヤ・サルマンザーデのキャッチーなシングル曲で引っ張る所を、今回のアルバムは前半部をプロデュースしたファレル・ウイリアムスがシングル向きでない、でも、アルバムのクオリティは決して落とさないタイプの佳曲でアルバムの流れを作り、「Breathing」「No Tears Left To Cry」といったイルヤのシングル曲のある後半に徐々に盛り上げるという手法をとった。そのおかげで、「フィラー(穴埋め曲)」がなく、アルバムのトータルとしての完成度が上がっています。こう言う作り方を覚えて、次回、「Thank U Next」を主体にしたアルバムなわけでしょ。もう今からすごく楽しみです。

 

 

24.Oxnard/Anderson .Paak

 

 

24位はアレクサンダー・パク。

 

彼は2016年のアルバム「Malibu」で一躍注目され、「ネオ・ソウル世代のR&B/ヒップホップの期待株」として、自らドラムを叩く生バンドでフェスにもかなり積極的に出演して、満を持してのこのアルバム。結果、全米11位と大きく躍進はしましたが、コアなファンにはちょっとウケの悪いアルバムであります。なんか「メロが薄れた」とか「方向性がわからない」という意見が目だったんですが、僕はこれ、すごく気に入っていて、「方向性に迷い」どころか、彼のルーツがどこにあるのかをしっかりとアピールした作品だと思うんですよね。というのも、これ、全体を通してのエンジニア、ドクター・ドレなんですけど、彼の作るドラム・サウンドの鋭角的なキレとベースラインの太さがもうカッコいいんですよ、これ!ネオ・ソウルの中にしっかりとウェッサイなGファンク精神が生きてますが、NWAの故郷、LA郊外のコンプトン近くの、タイトルにもなったオックスナード出身のパクが作りたかったのはまさにこれだったんじゃないかな。このアルバムにも参加してますけど、コンプトン育ちのケンドリック・ラマーがスタイル全く違うのにトゥパックを神のように崇めているのと同じ感触をこのアルバムからは感じます。地元がつなぐ、過去のレジェンドとのミッシング・リンク。僕がジ・インターネットやブラッド・オレンジよりこちらを評価するのは、それが見えるからです。

 

 

23.The Future And The Past/Natalie Prass

 

 

23位はナタリー・プラス。

 

彼女も数年前から注目のシンガーソングライターですね。2015年のデビュー作が出た時から期待してる人です。元がジェニー・ルイスのバックバンドのメンバーとか、裏方仕事が長かったせいなのか、ちょっと表でのアピールが地味(3年前にライブ見た時にそう感じた)だなという印象だったんですが、今回のこのアルバム、前作の、バロック・ポップっぽいイメージからガラッと変わって、かなり垢抜けたアーバンなブルー・アイド・ソウルに変身してます。彼女自身が「ジャネット・ジャクソンぽい感じ」と表現した80sの、日本流に言うならシティ・ポップの感覚を現代流に表現しています。そうかと思えば、アレンジを取っ払って生っぽいアレンジでやった曲だと、まさに元祖ブルー・アイド・ソウルのローラ・ニーロみたいなテイスト出してきたりとかね。また、ジャネットであれローラであれ、ナタリー、声がキュートな感じでハイトーンだから、すごくハマるんですよね。正直、彼女にここまでの才能があるとは思っていませんでした。ただ、今出てる世界のいろんな年間ベストでも入ってることは入ってるんですが、その最高位がAmerican Songwriterって媒体が選んだ24位と、どうも低い。「オマエだって23位じゃないか」と言われそうですが(笑)。この辺りのアピールの地味さを今後どうするかに将来かかってますね。

 

 

22.Twin Fantasy/Car Seat Headrest

 

 

22位はカー・シート・ヘッドレスト。

 

現在のUSインディのギター・バンドでは、もう最高の実力派だと言い切ってしまいましょう。天才メガネ君、ウィル・トレド率いるカーシート。彼のことは2016年に出た前作から注目しはじめてますが、「声;ベック&ジュリアン・カサブランカス、曲;ストロークス&ペイヴメント」な、もうUSインディのギター・ロックのアイデンティティを考えると最高にツボなところを、実際にそのイメージを崩さずにやりきるソングライティング能力と表現力がありますからね。僕はこのウィルが、これから数年先のこのシーンのトップに立つと睨んでいます。まだ年齢も26と若いですからね。今年新作があって評判の良かったパーケイ・コーツよりは僕は断然こっちですね。このアルバムは、ウィルがまだ学生の頃に作ったデモテープみたいな古いアルバムの、正式には再録アルバムで、それがゆえに年間ベストにカウントしてない人も少なくないんですけど、そんな頃はまだほとんどの人が知らないわけで、純粋に新作として聴いて聞き応えのある作品でしたね。ただ、前作のときも思ったんですが、スケール感があるのはいいものの、とにかく曲が長すぎる!平気で10分超えちゃうような曲を、もう少しなんとかしてくれれば(笑)、もう言うことありません。

 

 

21.Room 25/Noname

 

 

 

21位はノーネイム。

 

このノーネイムですが、彼女のことはチャンス・ザ・ラッパー人脈としてご存知の方もいるでしょう。彼女もチャンスと同じく、レーベル所属を持たないラッパーです。ただ、拠点はシカゴだったんですが、現在はLAに移してまして、これが通算で2枚目、LAでは初のアルバムとなります。彼女なんですが、言われなければラッパーと気がつかれないくらい、見かけがフツーの人です。このラッパー・ネームも「ブランド物の服を着たことがないから」という理由でつけているんですが、この「Room 25」というアルバム名も「25で初めてヴァージン失った」という、およそラッパーの一般イメージとは遠い理由によるものです。ただ、いざラップをはじめてみると、これがメチャクチャうまい!バックはサックス・メインのジャズっぽい感じなんですけど、そこに超高速の彼女のラップが畳み掛けるように乗る姿は、聴感上、過去に聞いたことがないものですね。ダーティな雰囲気が歌詞にないのと、そのジャズ・テイストゆえにこれ、ポエトリー・リーディングにも聞こえるんですが、そういう感じにヒップホップを拡張できる才能だとチャンス以上、ケンドリックにも近いものを感じさせます。ヒップホップのマネーゲームに全く興味なさそうな感じなので、今後もマイ・ペースかとは思うんですが、シーンで一線を画した存在でいて欲しいです。

 

 

author:沢田太陽, category:2018年間ベスト, 06:23
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Comment
ナタリー・プラス、めちゃくちゃ良かったです!このブログで知りました。ありがとうございます(^^)
ALI, 2018/12/13 8:14 AM









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