- 映画「アリー/スター誕生」感想 (ネタバレ注意)ガガ主演なだけじゃない!音楽的にも、社会的にも進化した傑作定番リメイク
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2018.10.23 Tuesday
どうも。
今週は2本、デカい映画レビュー、行きます。まずは、やっと行けます。これです!
このブログでも以前から度々名前だしてました、レディ・ガガ主演の定番映画のリメイク「A Star Is Born」、邦題は「アリー/スター誕生」。オリジナルは1930年代の作品なんですが、1954年のジュディ・ガーランド版、そしてこの映画に関しては1976年のバーブラ・ストライザントのヴァージョンのリメイクです。監督は、まだ映画監督としては認知されていない、ハリウッドのAリスター・アクターですね。ブラッドリー・クーパーが自ら主演を兼ねて初監督にも挑戦しています。
さて、どんな内容なんでしょうか。
早速、あらすじから見てみますが、今回の場合、話題作であると同時に、レヴュー内容が作品の核心にかなり触れてしまいますので、読みたくない方は、日本公開される12月まで読まないことをオススメします。
では、これ以降 「ネタバレ注意」ということで!
ジャクソン・メイン(ブラッドリー・クーパー)は全米のアリーナを埋めるカントリー・シンガー。ちょっとロックっぽいエッジもあって、ロックリスナーにも聴きやすいタイプです。そんな彼は、ツアーの繰り返しの日々を過ごしていましたが、ドラッグとアルコールは欠かせない体になっていました。
カリフォルニアでのライブの後、ジャクソンはタクシーに乗って飲みに出かけますが、渋滞にハマったことで、予定外のバーに入ります。するとそこはゲイ・バーで、彼はそこで「ラ・ヴィアン・ローズ」を堂々と歌い切る女性シンガーの歌唱力に魅了されます。
その女性とは
アリー(レディ・ガガ)でした。彼女はシンガー、ソングライターとしての生活を夢見ていましたが、現実はレストラン勤務で、たまに彼女の歌を気に入ってもらったゲイ・バーで歌う日々を過ごしていました。
「なぜ君ほどの人が成功していないんだい?」とジャクソンは尋ねますが、「みんな歌は良いって言ってくれるんだけど、この鼻がね」と自分の容姿を彼女はその理由に挙げます。彼女はもう、「自分は音楽で成功なんかしない」と決め込んで自信をなくしていました。
二人は、夜から朝にかけて一緒に過ごしますが、彼女が口ずさんだ自作曲「Shallow」を聞いてジャクソンは驚き、駐車場で軽くそれを録音します。
数日後、アリーの家に、ジャクソンの関係者が現れ、彼女を彼の次のショウに誘うべき、車で待機します。彼女のシンガーとしての成功を支援したいイタリア系の彼女の父親は喜びますが、アリーはそれを疑っていました。しかし、意を決してジャクソンのショーに行ってみると
そこには、もう早速彼女のためのライブの飛び入りコーナーが作られ、そこでジャクソンが先に「Shallow」を歌い始めます。それに加わったアリーは最初は緊張しますが、やがて見事な歌唱力で歌いきり、早速話題になり始めます。
ここからアリーはジャクソンのライブでレギュラーで加わるようになります。そして、2人のロマンスも深まっていきます。ジャクソンの腹違いの兄で、早くに亡くなった父の代わりに彼を育てマネージャーも務めてきたボビー(サム・エリオット)は、ジャクソンがこれまでに見せてきたことがなかった姿を見て焦り、アリーにも敵対心を抱きますが、愛は燃え盛るのみでした。
そのタイミングで、売れっ子プロデューサーがアリーのもとに近づき、大手メジャー・レーベルでのソロ・デビューの話を持ちかけます。かつては諦めていた夢の予想外の実現で大喜びのアリーでしたが、ここから人生の歯車が少しずつ・・。
・・と、ここまでにしておきましょう。
これなんですが、ここまでのストーリーは
この、1976年版の「スター誕生」と、ほぼ似たようなストーリー・ラインです。そういうこともあり、今回の映画をご覧になりたい方は、レンタルでもして、この76年を見ておいた方がいいと思います。その方が確実に感動が倍増します。
というのは、
この76年版、本っ当にひどいんだもん(笑)!
だって、ロックスター役のクリス・クリストファーソンはただの酔っ払いだし、なんでバーブラが惹かれるのかがわからないし、二人してどういうバックグラウンドを持った人物なのかわからない。バーブラなんてあんなに歌が上手いのに、なんで成功していなかったのかとかも全然わからない。
そこに行くと、今回のヴァージョンは、
主演2人のキャラクターのディテールがしっかり描かれている!
ここデカいですね。そういう「理由と結果」の組み合わせを明確にするだけで、映画ってこんなに説得力持って見やすいものになるんだな、と改めて思いましたもの。やっぱり、そういう前提があって、初めてわかる、役者の心境やシチュエーションじゃないですか。そういうところを手を抜かずしっかりと丁寧に描けるところを見ると
ブラッドリー・クーパー、それだけでもかなりの才能、ありますね。
それから、クーパーの今回の演出のもう一つ良い点は
現在の音楽シーンの把握
ここも見事でしたね
今回、カントリーのシンガーの設定にしてあるんですけど、そこがいいんですよね。今時、アメリカでアリーナで客が集まって、しかも一般的な感覚の人がより見やすい、聞きやすいのって、カントリーなんですよね。これが悲しいかな、インディ・ロックとかラウド・ロックだったら、絶対ハマってなかったと思います。まあ、76年版のクリストファソンも本人がカントリー・シンガーなので、サザンロック系のアーティスト演じてましたから、それを踏襲したのもあるとは思いますけど。
で、しかもこれ、あえて、カントリーでのメインストリームな感じにしないで、ちょっとエッジの立った、ロック系の批評家からも人気の高いオルタナティヴ・カントリーっぽいアーティストのキャラにしたのが大成功ですね。それがゆえに、ブラッドリーの歌がすごくカッコよかった!
今回のブラッドリーの曲の音楽担当をしていたのは
このルーカス・ネルソン。かのウィリー・ネルソンの息子ですよ!彼はまだ30になったばかりで、カントリーの世界ではようやく売れ始めてきたかな、くらいの感じなんですけど、今回のこのフィーチャーで一躍売れっ子になるでしょうね、これ。今回は他にも、オルタナ・カントリーの筆頭格の一人のジェイソン・イゾベルも参加していたりもするんですけど、イゾベルとかクリス・ステイプルトン、スタージル・シンプソン、エリック・チャーチといった人たちの中に入っていけそうな気がしますもん。今、ここで名前を挙げた人たちくらいなら、ロック・ファンでも十分チェックして欲しい名前ですね。
そして
ガガの描かれ方、演じ方も見事でしたね。
彼女は、猥雑なエレクトロと同時にピアノの弾き語りでの熱唱が両立できるタイプの人ですけど、この映画でもそのコントラストは、ガガ本人ほどではないにせよ、演じ分けられているのが立派です。これは彼女じゃなきゃ、説得力なかったんじゃないかな。
あらすじでも話していますが、「プロデューサーの存在を機に、元来持っていた音楽性が変わってしまう」というのが、もういかにも今時の音楽界の姿、そのまんまじゃないですか!そこを運命の変わり目にしてるのも「上手いな」と思いましたね。76年版のヴァージョンは、こういう「売れる前」と「売れた後」のコントラストがないから、「なんでサザンロックの人のサポートでブロードウェイ・スターが?」という謎の設定でしたからね。
もっとも
この人なんて、もうすでにそういう人生、生きてますけどね。カントリーやってた子が、ラップとかエレクトロやってたりするじゃないですか(笑)。この映画見てて、彼女のことを思わず思い出してしまいました。だからなおのこと、設定に説得力ありましたね。
ところで、この映画、当初、ヒロインはガガじゃなくてビヨンセの予定だったんですってね。そうならなくて、本当に良かった。だって、演技、とてつもなく下手くそなんだもん(笑)。それに、彼女がやっていたとしたら、売れない理由がないでしょ。容姿も淡麗で歌だって激ウマなわけだから。そこへ行くと
この新旧のヒロイン二人が、両方とも鼻の大きなことで有名だったことも、これ、なんか不思議な因縁ですね。バーブラの時にそれが理由ということにはされてなかったんですけど、今回はこれが売れなかった理由だとして、コンプレックスを持たせる要因にもなった。こうした設定もうまいなと思いましたね。
そして、ガガ本人による熱唱のクオリティの高さ。これも文句なかったですね。これ、
音楽のクオリティも、センスも両方レベルが高い!
これが音楽映画として見て、文句なしに楽しめましたね。ここ数年の中ではもちろんトップクラスだし、僕個人としては
このホイットニー・ヒューストンの「ボディガード」のサントラ、1992〜93年にかけて空前の大ヒットになりましたけど、今回のサントラがあれくらい売れても僕は文句言いません!むしろ、それくらい売れるべきです!
それくらい、この映画は、時代をも代表するエンターテイメント映画になれるポテンシャルを秘めています。
僕がそこまで言い切れる理由が実はもう一つあります。それが
ダイヴァーシティ!
この映画、全くポリティカルな要素はないんですけど、気がついたら、実はかなり多様性があるんですよ。
このガガの親友役の人をはじめ、ゲイの人がかなり出てきます。だいたい、出会いの場がゲイ・クラブですからね。ガガ自身もLGBTのファンベースがかなり強い人だし、そして実はそれは歴代ヒロインのバーブラやジュディ・ガーランドにも言える事。そういう意味で、この映画でそれが反映できたのは良い事だと思ったし
劇中では黒人名コメディアンのデイヴ・シャペルがジャクソンの親友として登場もする。
こういうところは、いかにも昨今のハリウッドらしいなとも思ったんですが、この映画
カントリーを描く事によって、保守側の人までしっかり含まれています!
そこが良いと思ったんですよね。黒人や女性、LGBTを保護するのが昨今のリベラルじゃないですか。僕もそちら側だとふだん思うのですが、でも、時々、そうする事によって「そういうのが白人のプア層を置いてけぼりにしてしまうのかな」と思うこともあったりするわけですけど、この映画ではそうした、ややもすると対立して外される立場の人まで入ってる。その意味で、本当の意味で、いろんな人が取り込まれてるなと思ったんですよね。それが説教くさくならずに無言でできてるのが立派だなと思いましたね。まあ、その代表の白人男性の主演の行く末は悲劇なので、「やっぱり白人の男は没落するじゃないか」との声も上がりそうではあるんですが、でも、それ以前に彼が音楽をプレイする姿や、アリーに対しての真心など良いポイントはしっかりと描かれているわけでもありますしね。
「よくある定番シリーズのリメイク」というところから、人間ドラマとして、音楽ドラマとして、社会描写として、ここまで発展させることができたら、もう、それだけでも十分、後世に残す価値大アリですね。傑作です!現状で、この映画のオスカー・ノミネートを支持する声も、それ以上の、「作品賞の受賞」を訴える人もすでにいたりもするんですが、その可能性に関しては、今週のオスカー近況コラムの中で話すとしましょうかね。
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