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Live評「ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ@サンパウロ」現在世界最高のライヴ・アクトによる、「今」を揺さぶったエモーショナルな瞬間  

どうも。

 

 

では、予告通り、このライヴ・レヴュー、行きましょう。

 

 

10月14日、サンパウロの3000人規模のホール、エスパッソ・ダス・アメリカスで行われたニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ、このライブ評、行きましょう。

 

 

僕がニック・ケイヴのライブを見るのは、1998年の7月以来、20年ぶりでした。その時はフジロックでセカンド・ステージの最後から2番目。その時のそのステージの最後を飾ったのはイギー・ポップだったという、かなりレジェンダリーな並びだったものです。

 

 ただ、期待値としては、その時以上でしたね、今回は。それはやはり、彼のここ最近のアルバムが絶好調で、今や欧米圏ではアルバムがトップ10に入る国続出。遅咲きのニュー・ウェイヴの、黒づくめのダーク・カリスマは、現時点の実力では今やキュアー、モリッシー、デペッシュ・モード、ニュー・オーダーを上回ってると言っても過言ではありません。それくらい、アーティストとしての熟成があまりにも素晴らしい。その意味ですごく楽しみにしていました。

 

 そして彼はブラジルにも非常にゆかりのあるアーティストです。1990〜92年頃、ブラジル人ジャーナリストと恋に落ち、サンパウロで生活していましたからね。今回のサンパウロでのライブはその当時以来。そういうこともあり、今回はその当時のファンらしき人たちがかなり多めの、「かつて尖っていた大人たち」が集まった会場でした。

 

 

 

 ライブの始まりは20時を10分ほど過ぎたあたりでしたね。ただ会場が暗くなって、おもむろにバッドシーズ、そしてニック・ケイヴ本人がステージに現れ、現時点での最新作「Skelton Tree」(2016)の「Jesus Alone」「Magneto」から、厳かに、かつ静かにライブをはじめます。

 

 この緊迫したウォーム・アップの後、ケイヴは観衆に対してにこやかに挨拶。「帰ってくるのが遅くて申し訳なかった。でも、今夜のこのライブは本当に楽しみなんだよ」と、約25年ぶりくらいのサンパウロ帰りについてしみじみと語りかけます。

 

 そして、彼らのライブバンドとしての本領が、この後から続々と発揮されます。3曲目、彼らのセールスを上げる契機にもなったアルバム「Push The Sky Away」からの「Higgs Bobson Blues」から、彼らは、現時点で世界最高に知的なロックンロール・バンドぶりを発揮します。

 

 麗しの低音の美声を朗々と響かせながら、エモーショナルにステージを駆け聴衆を煽るその姿は、まさにジム・モリソンとミック・ジャガーの継承者そのもの。60sからのロックの偉大なる遺産を身一つで引き受けたかのようで、すごく頼もしく見えました。と同時に、「現在61歳のこの人がいなくなったら、このロックの伝統芸を果たして誰が継ぐのだろう」と不安になったりもしました。

 

 さらに、この次の「Do You Love Me」からが、この日のライブの最初の最高潮に至ります。最初期の代表曲「From Her To Eternity」を挟みながら「Loverman」「Red Right Hand」と、1994年の最高傑作アルバムのひとつ、「Let Love In」からの曲を畳み掛けます。代表曲が続きます。ここでの彼らは、鋭角的なノイズを撒き散らす混沌としたロックンロールをベース(1980年代の最初期はそんな感じ)にしながらも、メロトロンをはじめとしたオルガン類に、ヴァイヴラフォン、ウィンドチャイムといったオーケストラ用の打楽器を多彩に操って、アナログ感覚ながらも実に精巧に、知的に考えられたロックンロールをパワフルにプレイします。

 

 

 

これはとりわけ、今やケイヴの最高のクリエイティヴ・パートナーとなっているマルチ・プレイヤーのウォーレン・エリスと、第2パーカッションのジム・スクラヴーノスの2人による影響が大きいですね。なんか、バンドの中にブライアン・ジョーンズみたいな役目の人が2人いるというか、もしくは「デジタル楽器を使わないジョニー・グリーンウッド」が2人いるというかね。ただでさえ、ガレージロックを演奏させたらとてつもなくうまいバンドなのに、それを豊かに拡張させる才能を持った人がこんなにいるわけです。これは最強なワケです。とりわけ、さっきフリーキーなエレキ・ギターノイズをまきちらしたかと思ったら、今度はエレクトリック・バイオリンを全身のたうち回りながら弾くエリスの姿はケイヴのお株さえも奪っていましたね。

 

 

 

 ここからライブはケイヴによるピアノ弾き語りのバラードのコーナーになるんですが、ここからブラジル人オーディエンスによる、現在彼らの置かれたつらい状況が爆発することになります。もう今や「setlist FM」の存在で、ライブのセットリスト、「次のどの曲をやるか」と言うのは分かられてはいるんですが、ケイヴが「The Ship Song」をプレイする前に、ある女性から「Ele nao!」という悲鳴に似た叫びが起こり、そこから会場が「Ele nao」コールが巻き起こることになります。

 

 この「Ele nao」(エリ・ノン、ポルトガル後で「彼ではダメ!」)というのは、前に2度ほどここでも書きましたが、ブラジルの極右大統領候補ジャイール・ボウソナロに対しての抗議運動のキャッチフレーズです。これは、ちょうど同時期にブラジル公演をしていた元ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズのライブでもウォーターズが煽って大合唱と、それに反対するボウソナロ支持者からの怒号が交錯する瞬間を作っていましたが、それはここでも同じでした。

 

 そのことをケイヴも、しっかり把握していました。彼は「The Ship Song」の中で

 

Come sail your ships around me
And burn your bridges down
We make a little history, baby

(僕のそばで船の帆を上げな。橋なんか焼いて、これから歴史を作るんだぜ)

 

と歌いかけてブラジル人を励まします。

 

さらに、「この曲はブラジルに捧げる僕の祈りだ」と語りかけ、最大の人気バラード「Into My Arms」で

 

But I believe in Love
And I know that you do too

(でも、僕は愛を信じている。もちろん君もそうだと知っている)

 

と歌ったんですが、これが泣けてね。

 

というのも、ボウソナロという極右候補が、女性もLGBTも黒人も先住民も、何もかも嫌いなヤツで、そんなヤツが一国の大統領に今にも手がとどく位置にいることに怯えてる国民が本当に多いんですよ。この日、終始、ヒステリックに「Ele nao」を叫んでいる女性というのは、大げさな話ではなく、本当に切迫した「助けてくれ!」という出口のない叫びだったんですよね。そういう状況だったものだから、ケイヴのこの心遣いがグッときました。

 

 

 その後、ライブはバラード・コーナーをもう2曲でシめ、初期の代表曲「Tupelo」で再びアッパーに。その次になだれ込んだ、ここ最近のケイヴの一番の代表曲「Jubilee Street」の「静」と「動」のコントラストを巧みに使った、彼らにしかできないボディ・ブロウのようにジワジワと時間をかけて体からエモーションが立ち込めてくるロックンロールも圧巻でしたね。

 

 

 そして、次のクライマックスは1990年の代表曲の「The Weeping Song」。ケイヴはこの曲で、観客席の中ほどに作ったミニ・ステージに移りますが、ここで本格的に、先ほどの「Ele Nao」を今度は彼から観客に煽ります。もう、この時には、「ロックに政治を持ち込むな」なんて叫んでいた連中の声がかき消されるほどに、会場全体が「エリ・ノン」コールに包まれました。  

 

Father, why are all the women weeping?
They are all weeping for their men
Then why are all the men there weeping?
They are weeping back at them

(中略)
But I won't be weeping long

(父さん、かあさんはどうして泣いているの。それは男のために泣いているんだ。では、どうして男は泣くの?それは女に鳴き返しているんだ。でも、僕は長くは泣かないよ)

 

 この曲がケイヴが煽るハンドクラップで¥盛り立てられ、さらにケイヴが女性にマイクを渡すと、その女性が「Ele nao」と口走り、それでさらに盛り上がる。ケイヴとブラジル人オーディエンスの間で、何にも代えがたい結束力が生まれていましたね。

 

 続く「Stagger Lee」でケイヴは10数人の観客をステージに上げて、ワイルドにロックンロール。客のヴォルテージも最高潮に達し、続く「Push The Sky Away」で一旦、ライブは終了します。

 

 

 そして、この熱狂の後です。アンコールも通常の2曲の予定から4曲に増えました。ここでは「City Of Refugee」や「Mercy Seat」という初期の代表曲がプレイされるんですが、そこに加えて、「これはサンパウロのヴィラ・マダレーナで作ったんだ」と、ブラジル在住時の話を交えながら「Jack The Ripper」をプレイするという、他の公演にはなかったサプライズを披露した後、再gは最新作のクライマックス・ナンバー、「Ring Of Saturn」で幕を閉じました・・。

 

 

 内容的にも、「20年前、ここまですごかったっけ?」と思えるほどの内容だったのに、その上に、僕でさえも苦い思いをしているブラジルの現状にここまで真心で接したライブを展開されることになるとは思っていませんでした。本当に、心から泣けました。この夜のことは、一生忘れることはないでしょうね。

 

 

 

author:沢田太陽, category:ライヴ・レヴュー, 19:38
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