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「非英語圏の101枚の重要なロック・アルバム」第10回(最終回) 2010's

どうも。

 

では、ワールドカップの開幕とともにはじまった「非英語圏の101枚の重要なロック・アルバム」。今回でいよいよ最終回。最後はこういう並びです。

 

 

 まさに現在。2010年代の非英語圏のロックを紹介したいと思います。今の世の中、英語を母国語としない地域でおもしろいロックとは一体何か。早速行きましょう。

 

 

Matloob Zaeem/Cairokee(2011 Egypt)

 

 

まず、初めは、最終回にして初登場の国です。エジプト。カイロキーというバンドです。

 

「エジプトでロック」というのは、なかなか存在しなかったものです。エジプトではポップ・ミュージックそのものの歴史は古く、1910年代にはレコーディングが行われ、ウム・クムスームという女王みたいなシンガーがいて、彼女が70年代の半ばになくなるまで、いわゆるアラブ民謡みたいな曲しか受け付けない感じでした。その後、エジプトのポップ・ミュージックはモダン化はされましたが、取り入れたのはディスコであり、ロックでは決してありません。中東の場合、イスラム教が西欧文化を受け付けない傾向が強いので、その象徴とも言えるロックはなかなか受け付けられませんでした。

 

 そんなエジプトで、カイロキーのようなロックバンドが出てこれた背景には「アラブの春」があるようです。アラブの春とは、2000年代の終わりに、まずチュジニアで民衆が立ち上がって独裁政権を終わらせたのをキッカケに、その輪がアラブのイスラム教の国々に広がったものです。エジプトでも、30年以上独裁政権を続けていたムバラク大統領の政権に終止符が打たれます。

 

 カイロキーは、この「アラブの春」の際に一役買ったバンドとして知られています。2003年にカイロで結成された際は英語で歌っていたそうなんですが、やがて、「自分たちの国の言葉で歌おう」ということでアラビア語に切り替えたところ、ちょうど時代が「打倒ムバラク」に差し掛かっていました。彼らは政治色の強いメッセージ・ソングで民衆の心を打ちはじめるわけです。このアルバムにも入っている最初のヒット曲「Sout El Horeya」はその名も「自由の声」という意味で、これが「アラブの春」のある種のテーマソング的存在となります。これをキッカケにカイロキーは、アラブ圏内で最もダウンロードされるアーティストとなり、アラブのロックを代表するバンドとなりました。

 

 そんな彼らなんですが、サウンドの方は歌い方やメロディには多少アラブ・テイストが感じられなくもないですが、基本は「ビューティフル・デイ」から後のU2とかコールドプレイとか、21世紀に入ってからのフェスのヘッドライナーの一つの定番パターンでもある「良識優等生」な感じのタイプのアラブ版、という感じですね。ミディアム調の曲でのキラキラした感じのギター・ソロなんか特にそうですね。

 

 エジプト国内での自由な空気は、ムバラクを打倒した大統領の政権がクーデターで倒されるなど挫折もあったりはしますが、カイロキーは依然、facebookでのファンが250万人を超す大物バンドとして活動中です。

 


Outlaw Gentlemen & Shady Ladies/Volbeat(2013 Denmark)

 

 

 続いてデンマークに行きましょう。ヴォルビーツです。

 

 デンマークという国は、90年代に差し掛かる頃に、自国のロックシーンがかなり活発になります。以前、ここで紹介したDADを初め、ハードロック方面にもインディにもかなりの数のバンドが生まれています。90年代にもデンマークで記録的に売れ、日本でもブレイクしたディジー・ミス・リジーが出ましたし、00年代に入るとジュニア・シニアやレヴォネッツ、MEWといったインディ・バンドがイギリスでヒットしましたし、デンマーク本国でもレディオヘッドみたいなカシミールとかエレポップのネフューが国民的なバンドになりました。2010sでも、ソウル・バンド、ルーカス・グレアムが「7 Tears」の世界的ヒット・シングルを出しています。

 

 ただ、そんな中で最も国際的に成功したと言えるのはヴォルビートじゃないかな。彼らは区分こそラウドロックに入れられていますが、いわば「なんでもあり」なデンマークらしく、とにかく雑多な要素が彼らのサウンドの中には含まれています。だって、あえて言ってしまうとこのバンド「メタリカmeetsグリーン・デイmeetsエルヴィス&ジョニー・キャッッシュ」ですよ。「なんだ、それは?」って感じですよね(笑)。

 

 でも、実際、本当にそうなんですよね。彼らは、エルヴィスのモノマネも非常に上手なレザー・ジャケットのリーゼント野郎、マイケル・ポールセンがとにかく歌の上手い芸達者な人で、基本、グリーン・デイみたいな王道ポップ・パンクを骨太に歌いはするんですが、その昔にコピーでもしていたのか、時々思い出したようにスラッシュ・メタルをプレイしはじめ、さらにはウッドベースをバックにロカビリーのリズムをはじめ、ジョニー・キャッシュのごとく、「旅人の孤独」を語りはじめたり・・。ぶっちゃけ、こんなバンド、世界のどこにも存在しないし、「ここまでバラバラでまとまるの?」とも思うんですけど、不思議なことにちゃんと統一感もって聞かせられるんですよね。

 

 さらに言ってしまえば、どのアルバムもそこまで内容に大差もありません。一貫して同じようなことをやっています。デンマークでのローカル・バンドの時から、世界的に成功した今日でもそれは同じ。このアルバムは通算で5枚目で、今作でデンマークはもちろん、ドイツでも1位、スウェーデンやアメリカでもトップ10入りし国際的な足がかりを掴んだ作品なのですが、これも「いつも通り。ただ、他のアルバムより幾分ポップ」くらいなものです。芯がぶれない強烈な個性があれば普遍的な成功も可能、ということでしょうか。


Darmaduman/Duman(2013 Turkey)
 

 

 続いて、これも最後で初登場ですね。トルコで、ドゥマンというバンドを。

 

 実はトルコでは、2000年代にかなり大きなロック・ブームが起こっています。しかもそれがニュー・メタルのサウンドとファッションで起こってます。トルコには70年代から「アナトリアン・ロック」という、サイケデリックの影響を受けた独自のロックが存在してはいたもののシーンとして商業的に成功したかどうかが今ひとつよくわからなかったんですが、この年代のブームは本当に大きかったようで、モル・ヴェ・オテシやマンガといったバンドや、「トルコのエヴァネッセンス」みたいなゴス女王のシェブネム・フェラなどが人気です。こう言うシーンが起きた理由の一つには、ドイツにトルコ系の移民が多いことが関係してるようです。前回ラムシュタインのところで「ノイエ・ドイッチェ・ハルテ」の話をしましたが、おそらくドイツ経由で、このテのロックの人気がトルコに飛び火したんでしょうね。

 

 そんな勢力の中において、この四人組バンド、ドゥマンはひときわクールなカリスマ性で知られるバンドですね。彼らのやってるサウンドは直球のグランジ。彼ら自身もニルヴァーナやパール・ジャムからの強い影響を公言しているのですが、もうそのサウンドはあからさまに「トルコのパール・ジャム」。ヴォーカリストの歌い方もかなりエディ・ヴェダー風です。

 

 そんな彼らはやはり社会的なメッセージを歌詞に乗せることが多いのですが、彼らの名前を一躍世界的に広めたのが、2013年に3ヶ月続いた、イスタンブールでの反政府デモ。あの当時、世界的に話題になりましたね、これ。その際に、このアルバムにも収められることになるこの曲「Eyvallah」がプロテストのテーマソングみたいな感じになりました。

 

 

先ほどカイロキーのとこでも言いましたが、「ロックとは反抗の音楽」というのが一般社会的にはだいぶ風化した概念にもなりつつあるのですが、まだ地球上では、こうやって自由を求める人たちのアンセムとして機能しているところもあるのです。そして残念なことに、トルコでもこの後、政権は反動化してるんですよね。本当は、そうしたことで戦わないのが一番理想なんですが、まだロックのプロテストの力が必要かもしれません。

 

 

 また、このドゥマンですが、ライブに定評があるバンドとしても知られています。これまでオリジナル・アルバムが6枚のところ、すでに3枚のライブ盤を出しているほどです。

 

Raasuk/Mashrou Leila(2013 Lebanon)
 

 

 そして今度も中東、行きましょう。レバノンのバンドです。マシュルー・レイラ。

 

 レバノンという国は中東の中では変わった国でして、国民の4割がカトリックなんですね。そういうこともあってか、他のイスラム教の国より西欧文化とその流通に関しては寛容な感じがありますね。中東のセクシー女性のダンス・ポップといえばほとんどイコール、レバノンだし、ハリウッドのレッド・カーペットで女性セレブが着るガウンのデザイナーにもレバノンの人が結構います。そういうところゆえなのか、マシュルー・レイラのようなオシャレなバンドも登場します。

 

 彼らはアナログ・シンセを使って、サイケデリックかつエレクトロな独自のダンス・ポップを展開する、西欧でもほとんど見ない類のかなり独自のサウンドを聞かせてくれますね。特に、アラビア地方以外で弾かれることのないであろう、弦楽器の存在がかなりのアクセントをつけています。これまでのロックになかった「第三世界からの視点」がしっかりと根付いている感じがします。そうしたこともあり、ニューヨークのエレクトロ・ユニット、ハーキュリーズ&ラヴ・アフェアに目をつけられ、2017年に彼らのシングルにフィーチャリングされます。その縁で彼らを知った人も少なくありません。

 

 そうしたこともあり、彼らはアメリカでもツアーをしていて、こういうウェブ番組にも出ています。

 

 

このスタジオ・ライブの番組で、フロントマンのハメド・シノは冒頭でこう語っています。「この曲はベイルートのクラブで起こったマス・シューティングについての曲だ。この曲で僕は、男性優位主義や、彼らのLGBTの人たちについての態度について歌ってるんだ」と語っています。いくらレバノンはまだ寛容な方だとはいえ、それでも国民の大半がイスラム教の国なわけです。ハメド自身もオープンリー・ゲイなんですけど、彼はよく「中東社会において、LGBTで音楽活動を行うことがどんなに辛い事であるか」についてよくインタビューでも語っています。こうしたところにも、まだ戦いが残されているわけです。

 

 

Chaleur Humaine/Christine And The Queens(2014 France)
 

 

 続いてはフランスです。クリスティーン&ザ・クイーンズです。

 

 フローレンス&ザ・マシーンやマリーナ&ザ・ダイアモンズ以降、一見、「女性シンガーとバックバンド」と思わせつつ実は一人の女性アーティストのソロ・プロジェクトというパターンができていますが、このクリスティーン&ザ・クイーンズも、本名がクリスティーナでもなんでもない、エロイーズ・レティシアというフランス人女性のプロジェクトです。でも、今となっては彼女、「クリス」と普通に呼ばれてますけどね。

 

 そんなクリスがかなり面白い存在であると聞かされたのは、彼女がデビューして間もない2014年に、もう早速でしたね。その当時はまだフランスでしか音源を出していなかったんですけど、「本国ですでにブームになりつつある」と聞かされて気にはなっていました。それから時は過ぎ、2016年、このデビュー作は突如イギリスに進出し、なんと全英トップ10入りまで果たしてしまいました。しかもフランス語のままで!さらに驚くべきは、結果的に2位まで上がったんですよね。

 

 その快進撃の最中、ちょうど僕がストリーミング・サービスのケータイでの使用を覚え始めた頃でもあったので早速聞いてみると、かなり新鮮な驚きでしたね。鮮度の高いエレクトロ・サウンドでもあったんですけど、それがなくても十分に通用する優れたメロディ・メイカーとしてのセンス。そして、フランス語の鼻にかかったアンニュイな響きを最大限に利用したセクシャルにそそるヴォーカル。これなんて”ズルい”とさえ思いましたからね。この魅力があれば、英語でなくても十分通用します。

 

 さらに言えば、彼女、MVでもステージでも、常に曲に合わせてダンスを踊るんですけど、その世界観が完全にコンセプトになってて、ストーリー性とコアグラフ(振り付け)の調和が完璧なんですよね。マドンナ以降、いろんな女性ダンス・アーティストは出てきましたが、ここまで個人で考えられた踊り、なかなかないですよ。それを大かがりなプロジェクトでなく、1個人の脳内世界でDIY的にできてるところが彼女のすごいとこです。

 

 クリスですが、9月に2枚目のアルバムが出ます。先行シングルはもう2曲でてますが、いずれもかなり好評で、アルバムへの期待が高まります。

 

Hasta La Raiz/Natalia Lafourcade(2015 Mexico)

 

 

続いてメキシコに行きましょう。ナタリア・ラフォルカーデです。

 

メキシコではインディ/オルタナティヴ・ロックは盛んなんですが、それを支える勢力の一つに女性シンガーソングライターの存在があります。90sにフリエタ・ヴェネガスという女性が出て、同国だけでなく中南米(彼女の場合はブラジルも含みます)でもかなり人気なんですが、それ以降にエリー・ゲーラ、カルラ・モリソン、そしてこのナタリアが続いている感じですね。

 

 ナタリアは18歳だった2002年にデビューして、メキシコで一大センセーションになるくらいに話題になります。奇しくもこの頃、世界的にアヴリル・ラヴィーンのブームもあったりしています。「10代の女の子アーティスト」というのが話題になりやすかったんでしょうね。ただ、ナタリアの場合は、オルタナティヴ・フォークという感じで、その素朴さがウケた側面の方が強そうですけどね。

 

 彼女は音楽の方向性を一つにとどめることを好まず、ある時は自身のバンド、ナタリア&ラ・フォルケティーナ名義でロック・アルバムを出したり、前述のフリエタ・ヴェネガスと共演アルバムを作ったり、ボサノバっぽい作品を作ったりと、才能は誰もが認めるものの、なかなか本人単独名義での作品にフォーカスしなませんでした。ところが2015年に出したこのアルバムは、彼女のそうした多面性が、彼女の名妓の作品でようやくまとまり、極めて高い評価を得ましたね。彼女、声は昔から舌足らずの幼さが残る歌い方なんですけど、そういう少女性を残しながらもアーティストとしては成熟。アメリカのインディ・ロックでも通用しそうなシャープな音像に乗せ、中南米のあらゆるフォーク・スタイルを飲み込んだ曲の数々は大絶賛を受け、2015年のラテン・グラミーでは5部門を受賞。最優秀アルバムを受賞できなかったことがサプライズとして話題になったほどでした。本作は中南米のみならず、イタリアやスペインでもヒットを記録しています。

 

 彼女は常にスペイン語で歌うのですが、アメリカにもファンベースがありまして、KEXPみたいなインディ・ロック専門のラジオ局ではよく曲がかかっていたりもしますね。


Meliora/Ghost(2015 Sweden)

 

 

 続いてスウェーデン、行きましょう。ゴーストです。

 

 いわゆる”北欧メタル”、”スウェディッシュ・メタル”に関しては、それこそヨーロッパの「ファイナル・カウントダウン」の頃からあるので誰で代表させようかで迷いました。ある時期までは、スウェーデンでの圧倒的な評価の高さを考えて、90sのメロディック・デスメタルの雄エントゥームド(マニアックに聞こえるかもしれないけど、本国で唯一殿堂入りしているメタルバンドが彼らです)にすることも考えたんですが、今後、北欧メタル史上で最大のバンドになりそうな予感もして、僕自身も心から大好きなゴーストにすることにしました。

 

 彼らを最初に見たのは、2013年にテレビ中継で見たロック・イン・リオでした。いきなりテレビに映った、「スリップノットみたいな、骸骨の顔した司教、ありゃ一体、なんだ?」というのが最初の印象でした。しかも風貌の割にやっているサウンドは全然メタルっぽくなく、歌ってる人の声も極めて普通。「なんじゃこりゃ?」と当惑しましたが、今から考えたら、あれは本当に見る目のあった大抜擢だったと思います。

 

 そのあとに、デイヴ・グロールがシングルをプロデュースしたり、結構名前も聞くようになったので注目してこのアルバムを聴いてみたら、ちょっとした衝撃でしたね。このバンド、同じ「悪魔」をモチーフにしたバンドでも、70s前半のニューヨークのブルー・オイスター・カルトのような、「よくそんな細かいマニアックなとこに目をつけるな」といった感じの、ロック史を裏側までしっかり学んだ感じのある重箱センスが非常にくすぐりましたね。そう。もともとヘヴィ・メタルとは、やたらめったら激しい音楽というわけではなく、「悪魔をモチーフにした気持ち悪い音楽」なんですよね。今では忘れ去られそうになっったそうした事実にスポットを当てるという通な芸風を醸し出しつつ、ステージ上ではコスチュームに身を包むという極めてキャッチーな職人芸を見せる。しかも、このアルバムのプロデューサー、はクラス・アーランド。前回紹介した、エレクトロのRobynのプロデューサーですよ!エレクトロのプロデューサーに、オールドスタイルのロックをプロデュースさせることで、同じ古いサウンドでもどこか違うように聞こえさせる(確かに音のキレ、すごくいいんです、これ)。こうしたしたたかさはすごいなと思いましたね。

 

 このアルバムで彼らは北欧のみならず、ドイツやアメリカでもトップ10入り。6月に出たばかりの新作「Prequelle」は英米、スウェーデン、ドイツ、フランス、オーストラリア、スペインでトップ10入り。次代のメタル界の頂点に立ちそうな勢いがあります。

 


Amanecer/Bomba Estereo(2015 Colombia)

 

 

いよいよ残り3つ。次はコロンビアでボンバ・エステレオです。

 

現在、全米チャートウを見ていて、「非英語圏で最もチャートインしている国」は、K-Popの韓国もそうですが、それ以上のコロンビアのレゲトンですね。Jバルヴィンとかマルーマとかの。しかし、彼らを選んでしまうと、「ロック」という部分で明らかに引っかかる。R&B/ヒップホップでも、インディ・ロックの聞き手が納得しそうにないと、そうした判断は苦しいとこありますからね。

 

 それだったら、このボンバ・エステレオを選ぶ方が断然妥当でしょう。彼らはシモン・メヒアとリー・サムエットによる2人組なんですが、サウンド・メイキング担当の男性のシモンがもともと90sにオルタナティヴ・ロックバンドをやっていた人で、彼が作り出すエレクトロ・サウンドと中南米伝統のダンス・ミュージックを融合させたサウンドが特徴です。そのエレクトロ・サウンドにはEDM的な通俗的な妥協がない上質な音なんですけど、そこにはアフロ・キューバン的なワイルドなエネルギーに溢れている。テクノロジーと人間本来の肉感性が理想的な形で融合しています。

 

 そこに加え、女性ヴォーカルのリーの猥雑で力強いヴォーカルも武器ですね。声がただでさえエネルギッシュなんですが、そこ彼女の声から歌われるのは、「ブラウンのプライド」。つまり中南米に生きるラテン女性としての誇りで、このアプローチゆえに彼女は中南米女性のロール・モデルの一人にもなっています。

 

 彼らは南米のロラパルーザを始め、中南米のロック・フェスでは常連出演者で、去年はアーケイド・ファイアのブラジル・ツアーのオープニング・アクトも務めましたね。また、欧米のフェスでもかなりお呼ばれの回数が多く、さらにはラテン・グラミーのオルタナティヴ部門の常連にもなっています。

 

 なお、彼らのデビューを後押ししたのが、前々回で紹介したアテルシオペラードスでもあり、そうした良質の連鎖もしっかり受け注がれてもいます。

 


Clashes/Brodka(2016 Poland)

 

 

 ラストから2番目はポーランドから。ブロトカです。

 

 ブロトカは、女性シンガーソングライター、モニカ・ブロトカ率いるバンドですが、彼女の経歴が実に2000年代っぽいんですよね。彼女、キャリアの始まりはリアリティTVなんですよ。しかも、あの「アメリカン・アイドル」のポーランド版、その名も「Idol」のコンテスタントだったんです。

 

 

これはこの番組の第3シーズンで、この時、彼女、16歳だったんですけど、このドアーズの「ハートに火をつけて」のカバー、自己アレンジで、その年齢にしてはかなり見事に歌えてますね。彼女はその年齢で、このアイドルっぽい容姿ながら、かなりロックっぽい選曲にこだわったコンテスタントだったようですね。

 

 彼女はこの翌年にデビューし、すぐに国民的人気になりますが、ポップな売られ方に反抗して、2006年から10年にかけて押して2010年に復活するや、インディ・ギターロックも、エレクトロも、フォークもブリースもブッ込んだ、かなり先鋭的なアーティストになって戻ってきました。この「Granda」というアルバムで、彼女は国内チャートの2位まで上がり、ダブル・プラチナムの大ヒットを記録します。

 

 そして、その間にアメリカ進出も狙ったEPを作った後、2016年にこの「Clashes」を発表し、さらなる大きな成功を彼女は手にします。

 

 路線的には、「Granda」で築いたものはブレずに成長している感じなんですが、彼女自身が自分の体も使ってだんだんかなりアートになっていきます。

 

 

 彼女に関してはこういうジョークもあります。これは「彼女は一人で『ストレンジャー・シングス』の出演者の髪型を全部やった」というものなんですけど、とにかくヘアスタイルに関しては同じ髪型で止まることがほとんどありません。今はピンクのツンツンのヴェリー・ショートかな。ファッションも斬新で、とりわけこのアルバムのツアーで頭を剃った時にはフェイス・ペインティングして、やけにモードな想像上の和服(このジャケ写でなんとなくイメージできますが)を着て歌ってましたね。彼女はファッション誌からも引っ張りだこで、検索すればたくさんのファッション・シュートも出てきます。

 

 まだ30代になりたてと若いし、これから国際的に大きく注目されて欲しいです。 

 


23/Hyukoh(2017 South Korea)

 

 

 

 

 そして、いよいよラストです。最後を飾るは韓国でヒョゴです。

 

「韓国でラスト」というのは、昨今の非英語圏のポップ・ミュージックを考えた場合に、国際進出が最も著しいのが韓国だと客観的に判断したためです。前もこの話しましたけど、ちょうど。この101枚のリストを発表する直前にBTSが全米アルバム・チャートで1位になったので、それでシメることも考えないではなかったのですが、内容は悪くはないものの、でも、どう聞いてもロック風な解釈はできない。それに関しては、僕がK-Pop全体に感じているフラストレーションでもあります。R&B/ヒップホップをベースにしたポップスでも、でも、やりようによってはビヨンセくらいブッとばした、ロックよりも刺激的なこともできるんじゃないか。そんな風に考えるとK-Popって、完成度の高いものは作ってはくるんですけど、だけどひっくり返るくらい独創性のあるものがないんですよね。

 

 なので僕はあえて、他のK-Popのアーティストが集団でダンス・ポップをやる中、あえてエレキギターを手に取り、バンドをやるという選択をしたヒョゴを選んだんですよね。それ自体がなかなか気骨があるじゃないですか。

 

 さらに言うと彼らは、以前ここでも紹介した、韓国のポップ・ミュージックの潮流を大きく変えた、90s前半にミクスチャー・ロックを実践したソテジ・ワ・アイドゥルの元メンバーが運営するYGミュージック傘下のインディ・レーベルからデビューしてるんですよね。この後も、気鋭の精神性の後継が感じられます。YGって、そうじゃなくても、BIg Bangとか2NE1とか、K-Popの中でちょっと尖ったものやってる印象ありましたからね。

 

 そのヒョゴでしたが、出てきた当初はなんかマルーン5みたいというか、R&B/ヒップホップをやってる人たちのレーベルから出てくることを考えればそれらしい、でも、「それだとポップっぽくなって、ロックには聞こえないんじゃない?」と思える、ちょっとライトなアーバンっぽい曲を作ってました。ところがこのアルバムで全体的に彼らを聞くに、ちゃんとしっかりロックなんですよね。とりわけギターのセンスが好きですね。なんかブリットポップ期のギタリスト、ブラーのグレアム・コクソンあたりかな、そこに通じる鋭角さがあったりして。イム・ヒョンジェという人みたいなんですけど、いいギタリストだと思います。

 

 そして、そういうギター・ロックの上に、フロントマンのオ・ヒョクの清涼感のある高音のスモーキーな歌声と、ちょっとソウルフルなメロディが意外性ある組み合わせになって面白いケミストリー生むんですよね。また、その感じが、今年出たばかりの「24」というEPでは、さらにサイケデリックかつハードに進化もしたりして。彼らはまだ面白くなる気が僕はしてますね。

author:沢田太陽, category:非英語圏のロック・アルバム, 12:48
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