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沢田太陽の2018 年間ベスト・アルバムTop50  20-11位

どうも。

 

 

では、年間ベスト・アルバム、いよいよトップ20に入ってまいりました。行きましょう。今回はこんな感じです。

 

 

 

僕自身の思い入れもこの辺りになるとグンと上がってくるんですけどね。では20位から行きましょう。

 

 

20.Singularity/Jon Hopkins

 

 

20位はジョン・ホプキンス。

 

このアルバム、一つ大きな快挙をやっています。それは、アンビエントのエレクトロのインスト・アルバムで、全英チャートのトップ10に入っていることです。確か7位だった気がするんですけど、すごいことだと思います。確かにひところ、BBCでも一般のヴォーカル曲に混じってよく流れてましたけどね。僕は自分の中でエレクトロの優先順位というのはさほど高くはないのですが、エレクトロが最高だった90sに20代を通過したこともあって幸いにして名盤とたくさん出会えて自分なりの判断は出せるくらいにはなっているんですけど、このアルバムはそうした90sのエレエクトロの精神性が感じられる、ストイックで非常に美しいアルバムだと思いますね。全編通して鋭角的な電子音で、EDM以降の媚びた仕掛けもなく、ひたすらメロディと、大きな展開力だけで聞かせるアルバムなんですけど、そこになんか、そこはかとなく聞き手にそれぞれのストーリーを描かせる余白があるような感じがあるというかね。エイフェックス・ツインやボーズ・オブ・カナダの名作群を聞いていて思い出しましたね。こういう遺伝子が絶えることなく、今後も受け継がれていくことを僕は望みたいですね。

 

 

19.Dream Wife/Dream Wife

 

 

19位はドリーム・ワイフ。

 

これも今年の、とりわけ初めの方によく聴いたアルバムです。彼女たちはロンドンを拠点にしたフィーメール・ロック・トリオで、ちょっとカッコよさ気なギターとベースのお姉さんを左右にして、90sのティーン・ムーヴィー・クラシック「クルーレス」のアリシア・シルヴァーストーンを思わせる、アイスランドからやってきたフォトジェニックなブロンド・ガール、ラケルの舌っ足らずのセクシーなヴォーカルのコンビネーションが魅力です。この見かけの時点でかなり華があるんですけど、やってるのはかなり正統派なインディ・ロックンロールでして、いわゆる「ザ・ストロークス以降」の世代のタイプのバンドしては、ソリッドなギターも、ちょっと無機質なリズムの取り方も、ストロークス・フォロワーの中でもかなり出来がいい方だと思うし、そこに彼女たちなりのアイデンティティがちゃんと付与できているところも好感が持てます。今年は、この後に続々出てきますが「インディ・ロック・ガールズ」の当たり年だと思っているんですが、彼女たちも欠かせない存在です。所属レーベルのラッキー・ナンバーでも、彼女たちと、スペインのザ・ハインズと、ニューヨークのサンフラワー・ビーンと今年セットで売り出してましたからね。その中から誰が今後抜け出すかにも注目です。

 

 

18.Freedom’s Goblin/Ty Segall

 

 

18位はタイ・セガール。

 

今年のUSインディの男性を語る際に、このタイ・セガールの存在は欠かせません。僕の目から見ても「内気な大学サークル・ノリの男子バンド」はこのシーンでもかなり淘汰されたように見えるんですけど、タイは、ある時期のジャック・ホワイトやらライアン・アダムスと同じように、ひたすら楽曲を量産することによって存在をアピールしています。今年、これを筆頭に3枚リリースしていますからね。で、このアルバムもそうなんですけど、なんか、この人、「一人サージェント・ペパーズ」とか「一人ホワイト・アルバム」とか、そういうことして遊べそうな、愛すべきロック・バカ的体質がありますよね。メロディのセンスと音の録り方がマシュー・スウィートを思い出させるからですけど、ヒップスターみたいな感じじゃなくて、ああいうちょっとマッドな天才肌、個人的にはインディからもっと見たい気がしています。もう少し大きくなって、どうもここ最近考えすぎちゃってるのか、作品が伸び悩んじゃってるジャック・ホワイトをいい意味で刺激するような存在になって欲しいんですけどね。ちなみにタイとレーベルのドラッグシティ、このアルバムが出てから数ヶ月後に、ようやくストリーミングへの音源解放を始めましたが、それも音楽界にとっては非常にグッド・ニュースでした。

 

 

17.boygenius EP/boygenius

 

 

17位はボーイジーニアス。

 

ここ数年のアメリカでのインディ女子の強さには舌をまくばかりですが、このボーイジーニアスなんて、その象徴ですね。ルーシー・デイカス(右のブルネット)、フィービー・ブリッジズ(左のブロンド)、そしてジュリアン・ベイカー(真ん中のブラウン)という、いずれもここ数年でデビュー作を出して好評だった女性シンガーソングライターが夢の共演ですよ。実際、レーベルのマタドールもそういう打ち出し方してたんですが、全く期待に違わない出来でしたね。落ち着いたアルト声でソフィスティケイトされたインディ・ギターロックを歌うルーシー、ちょっとしゃがれたか細い声でフォーキーで時にフリーキーな「今日的な女ニール・ヤング」といった趣のフィービー、そして小さな体から驚異的な高音の伸びによるダイナミックな歌世界を聞かせるジュリアン。この3人の音楽性が一切の引き算なくプラスされ、さらには完璧な3声ハーモニーまで奏でられたら、もう言うことないですよ。これ、一回の企画で終わらせるんじゃなくて今後も続行希望ですね。「50年前のクロスビー・スティルス&ナッシュへの現代女性からの回答」みたいな存在にすでになれているから。そして3人とも1994〜95年生まれと非常に若い。いずれも本当に楽しみですよ。

 

 

16.Daytona/Pusha T

 

 

16位はプッシャT。

 

この6月に、カニエ・ウェスト絡みのリリースが5タイトル連続で続きました。いずれも7曲で統一されたものでしたが、もう、その中だったら、圧倒的にプッシャT。ズバリ、これしかないですね。このプッシャTは2000年代前半にヴァージニアのラップ・デュオ、クリップスのひとりとしてデビューし、ファレル・ウィリアムズ(当時ならネプチューンズ)のプロデュースでデビューし評判高かったんですよね。とりわけプッシャTはその後も「過小評価ラッパー」として長らく語られても来ていましたけど、ようやく、その実力に見合った評価とヒットをこれで記録しました。かねてから、こと「ドラッグ・ディーリング」の話を面白おかしくさせたら天下一品の評価だったんですけど、そんな彼の個性を、カニエが久々に得意のフレーズ早回しによる御囃子と、オールド・ソウルのサンプリングを微妙にカッコ悪く聞こえさせる手法で、プッシャのラッパー・イメージを巧みに掴むと同時に、カニエ自身がここのところ忘れかけていた、彼自身の初期の、まだユーモアに富んだラップとキャラクター・イメージを巧みに蘇らせていましたね。最近、いろいろ試すカニエですけど、ラッパー・デビュー時からのユーモア精神にあふれたサンプリングでの得意技、やはりこれに関しては10数年経とうがやはりベストなものに変わりはない。それがわかっただけでもかなりの収穫でしたね。

 

 

15.Prequelle/Ghost

 

 

15位はゴースト。

 

いわゆる”メタル”の中では、この数年、このバンドが一番好きですね。彼らの場合、そのコスプレ的な格好と「教皇がどうたらこうたら」のワケわかんないコンセプトのせい(笑)で、真正面から聞かれる機会というのをファン以外の人たちから勢い失いがちなところがあると思うんですが、僕は彼らを見つけた前々作の時から、その音楽に対しての重箱の隅というか、極めてマニアックなセンスに血眼ですね。彼らって、「見かけはあんななのに、曲は激しくもなく、キャッチーでもないじゃん」と思う人も少なくないかと思うんですが、それこそ”元祖ヘヴィ・メタル”、ブルー・オイスター・カルトのスタイルなのです。1970年代初頭、「サイケデリックでちょっとハードで、なんとなく安心できない気味の悪い音楽」をやっていたBOCについた呼称こそヘヴィ・メタルであり、今となっては忘れられているそんなところに目をつけるところが僕的なツボだったりもするんですが、彼らの場合、その発展のさせ方も面白い。このアルバムなんて、ボストンとかスティクスみたいな、70s半ばの「産業ロックという名のアメリカン・プログレ」みたいだし、そこに曲によっていきなりディスコとかサックス・ソロの要素足したりで「なんだこりゃ」感を増幅させてるのも面白い。この音楽性で、世界で10カ国くらいでトップ10入っているからすごいです。もっと注目されていい異質の存在だと思います。

 

 

14.El Mal Querer/Rosalia

 

 

14位はロザリア。

 

これは2018年の最大の衝撃の一つですね。だって、これ、”フラメンコ”ですよ!フラメンコと言ったら、やはりイメージとしては伝統音楽か、堺すすむの「なんでかフラメンコ」(大好きなんです、笑)のイメージしかなく、まさかポップ・ミュージックとして聞く日が来るなんて、夢にも思ってませんでしたからね。しかもこれを、もう見かけは完全にアイドルな可愛い女の子が、R&B聞くようなすごくカジュアルな感覚で、あの「オーレイ!」なハンドクラップとか、「アアアアアアアアアア、オオオオオ」という、ジプシー・キングスまんまの長いヴィヴラートのかかった歌声を差別化のアクセントにして、ものすごくポップに聞かせているわけですからね。「こんなこと、できるんだ」と、僕はとにかく驚きましたね。しかもこれ、フラメンゴに関して付け焼刃感が一切なく、仮にそのトラディショナルな世界だけでやっていたとしても第一人者になったであろう(この前作はこれとは対照的なアコースティック!)、基礎値がちゃんとあるのも見逃せないところです。それでいてライブ・パフォーマンス見たら、ジャネット・ジャクソンみたいなこともやっていたりして、創造性の拡張がすごいことになっています。国際的な売り出しかけるの来年みたいなんですが、これはスペイン発の世界的なセンセーションになるような気がしています。

 

 

13.Lush/Snail Mail

 

 

13位はスネイル・メイル。

 

スネイル・メイルは、まだ今年19歳になったアメリカン・ガール、リンジー・ジョーダンのバンドなんですけど、先ほどから何度も言うように、2018年は本当に女の子の年で、彼女たちがインディのロック・シーンを支えていてくれたと言っても過言ではありません。このスネイル・メイルも、リンジーの鮮やかなソングライティング能力と、ピクシーズくらいの時からUSインディのアイデンティティの一つとして脈々と受け継がれる、鋭角的な2本のギターのアンサンブル、これが見事です。この年で、曲の展開がここまで錬れることに素直に感服しましたね。その秘訣はどうやら、彼女の幼い時からの音楽リスニング体験にあるようですね。彼女のインスタグラムを覗いてみるとわかるんですが、リンジー、中学生くらいの時から、地元ボルチモアのライブハウスにやってくるインディ・バンドのライブにはことごとく通っていたようで、その頃からビーチハウスやらスクリーミング・フィーメールズやらプリースツやら、かなり通なものを見に行ってて、バンドもその頃からやってたようです。そういう、USインディ・ロックをカジュアルに聞いて育ったような彼女みたいな存在が、ちょっと停滞気味の今のシーンを変える原動力にならないものか。僕は期待しています。

 

 

12.Songs Of Praise/Shame

 

 

12位はシェイム。

 

「ロックのシーンが停滞した時に、一番効くのはなにか」となったら、やっぱり、「純度の高い本物のロックンロール」が一番です!この南ロンドンから出てきた5人組の、まだ20歳そこそこの若さのシェイムはまさにそんなバンドです。初期エコー&ザ・バニーメンを思わせる、ダークな中に鋭いエッジを併せ持つロックンロールを、若き日のジョー・ストラマーみたく、音程も気にせずにぶっきらぼうに歌いきる。そんなストイックなロックンロールの追求ぶりが彼らはすごく魅力的です。それでいて、初期のオアシスみたいなメロディックでアンセミックな曲を作る力もあってですね。いくらメディアの注目が遅れたからと言っても、これほどの力を持ったバンドが、なぜまだ最高位たかだか32位の位置に収まっているのか、本当に不思議でならないし、これが現状のロックの悲しいとこだと言わざるを得ないです。ただ、シェイムを筆頭として、現在のサウス・ロンドンのインディ・シーンが盛り上がり始めているのは事実だし、ここを起点にUKロックが息を吹き返したりすると本当にいいんですけどね。そういう期待感を持ったバンドが、今年は彼らと、トップ10に入れたもう一つのイキのいい存在と2つ見つかっているのはすごくポジティヴなことです。

 

 

11.Heaven And Earth/Kamasi Washington

 

 

11位はカマシ・ワシントン。

 

彼が現在のジャズに果たしている役割、本当に大きいですよね。60〜70年代、評価高くないけど、僕のリアルタイム体験からして80sもそうだったかな。マイルス・デイヴィスがジャズ以外のファンにアピールしているようなことを、今のカマシがやっている気がします。実は誰よりも実験的だったりするのに、そういう風に思わせることなく、極めて美しく敷居の低いフレーズ(あの、トレードマークになってるゴスペルのハーモニーは絶品!)と、ファンクからヒップホップからヴォーカル・フィーチャリングから万能になんでもこなせてしまう音楽性で、非ジャズ・ファンにとってのジャズの入り口になる。彼というのはそういうアーティストだし、そういう人こそが本物の存在なんです。ある人が本作を称して、「マイケル・ジャクソンのスリラーのようだ」とも表現してもいましたが、それもとどのつまりはそういうことです。親しみやすくバランスがいいから、2枚組で今のストリーミングのご時世から考えるとちょっと長すぎる収録時間を気にせずに聴き通すことができますからね。カマシ周辺の他にも、今はサンズ・オブ・ケメットをはじめとしたロンドンのジャズのシーンなんかも盛んになってくるなど大衆的にジャズが開かれてきたような感じがしますが、そんな中、今後のカマシがどういう表現をしてくるかにも注目です。

 

 

では、ワーストを挟んで(笑)、週末にトップ10、いきます!

 

 

 

 

author:沢田太陽, category:2018年間ベスト, 12:26
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