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沢田太陽の2018年7月から9月のアルバム10選

どうも。

 

 

今日は、3ヶ月に1度の、アルバム10選、行きましょう。

 

 

今回は7月から9月で選んでいますが、こうなっています。

 

 

こんな感じでしたが、早速見ていきましょう。

 

Be The Cowboy/Mitski

 

 

 まずはじめはミツキで「Be The Cowboy」。彼女は日本人とアメリカ人のミクストなんですが、今、USインディで台頭しつつある「エイジアン・ガールズ」の勢力の中の一番のアーティストですね。彼女の場合、自身の人種的マイノリティゆえに「どこにも属せない」という孤独感を表したリリックで共感を得てきていたわけですけど、今回のアルバムを聴くに、評価すべきは決してそこだけでないことがわかります。彼女、もともとがクラシック畑の人でもあったこともあり、ポップ・ミュージックのソングライティング・フォーマットに違ったアングルを与えることができるというか。単なる「Aメロ-Bメロ-サビ」という定型パターンを踏襲してません。とりわけ2コーラス目からの省力が多く、聞いてて良い意味で何度も裏切られますが、抜群のメロディ・ラインのセンスがあるから、新鮮味がありながらもかなり聴きやすい。どんなにロックに飽きている人でも、これは聴いた方がいいと思います。

 

 

Chris/Christine&The Queens

 

 

続いてはフランスが誇る才女ですね。クリスティーン&ザ・クイーンズ。前作はフランス語作品ながらイギリスでアルバム2位まで上がるヒットになっていますが、今作も本国で2位、イギリス3位と大ヒット中です。前作は、「エレガントな才女」風なイメージでしたけど。今作では「タフな女」イメージを前面に出してきて、ユニセクシャルなキャラクター設定で、とりわけLGBTへのアピールが強い作品になっていますね。彼女はこのキャラクター設定のうまさと、ビデオやライブでのダンス・パフォーマンスがウリではあるのですが、メロディ・メイカーとしてもかなり秀逸です。前作は正統派エレ・ポップな感じでしたけど、今回は80sのアーバン・ポップ・スタイルを取り入れたレトロで新しいアーバン・ポップを展開しています。もっともっと国際的に聴かれて欲しい人の一人ですね。なお、今作、英語版とフランス語版が出ていますが、サブスクだと一度に両方聞けます。

 

 

Astroworld/Travis Scott

 

 

 続いてはトラヴィス・スコットの「Astroworld」ですが、これは個人的に今年のベスト・ヒップホップ・アルバムですね。とにかく、「トラップを前進させよう」とする気概がいい。「サイケデリック・トラップ」とでもいうべき作品を、ヒットボーイからドレイクのスタッフから、ミーゴス、フューチャー周辺の精鋭集めたプロダクションだけでもすごいのに、そこにドレイク、フランク・オーシャン、ミーゴス、ウィーケンドに加えてテイム・インパーラからジェイムス・ブレイク、さらにはスティーヴィー・ワンダーまで入ってるわけですからね。そして、そのサウンドに合わせた「地元の遊園地を失うことで生じるイノセンスの喪失」というテーマ性がまた絶妙です。これはトラップの歴史の流れの中でも一つのターニング・ポイントになるんじゃないかな。もしかしたら、これがピークになったりするかもしれない。そういうアルバムだと思います。

 

 

Swimming/Mac Miller

 

 

 

 そのトラヴィス・スコットのアルバムと同日にリリースされ、そして、これがまさかの遺作になってしまったマック・ミラーのアルバムです。これ、これまでの彼から考えたらかなり大きく飛躍した力作で、これを聴いて、この先をかなり期待したのに、その矢先の訃報でしたから本当にショックでした。26歳というのは、本当に早すぎます。ここでの彼は、これまでにエイミー・マン、ルーファス・ウェインライト、フィオナ・アップルを手がけた才人、ジョン・ブライオンを迎え、彼らしい流麗さと鋭角さが入り混じったストリングス・アレンジの中、マックが新たなオーガニックなヒップホップを模索しているのは強く理解できたし、「Jコールに対しての白人側からの回答」みたいな感じになりたいのかな(Jも参加してます)と思わせるのには十分な作品でしたからね。まだ、成長するだけの余白もたくさん残っていただけに返す返すも残念ですね。

 

Iridescence/Brockhampton

 

 

 

この人たちも今、最もホットな存在ですよね。テキサス生まれ、カリフォルニア拠点の大所帯ヒップホップ・クルー、ブロックハンプトン。去年からインディでの3枚のアルバムで話題でしたが、満を持してのメジャー・デビューで全米初登場1位にもなりました。彼らの場合は、リーダーがオープンリー・ゲイで、人種交配という、文科系イメージもあって、より、これまでヒップホップに興味のなかった層を惹きつける魅力もありますが、「いかにもインディからのたたき上げ」と思わせる、メジャーでのトレンドとなっているサウンド作りを避けた、昔ながらのセンスの良いヒップホップを丁寧に聴かせているのにも好感が持てます。その分、分かりやすい新鮮さにはやや欠けもするんですが、そのあたりにどう彼らが答えを出していくか。それが出来次第で、今後、ますます面白い存在になっていきそうな気がします。

 

 

Sweetner/Ariana Grande

 

 

続いてアリアナ・グランデの「Sweetner」ですね。ここ、もう4、5年になるのかな。今、現在で世界で最も優れたアイドル・ポップ・アルバムを作っているのは、文句無しで彼女ですね。サウンドが洗練されているというのもあるんですけど、例えば、今のBTSあたりと決定的に違うのは、サウンドの形式的な部分を超えた、メロディとかの楽曲的なコアな部分ですね。彼女の場合、これが他のアイドルのそれと比べてみても圧倒的なんですよね。今回のアルバムは特にそれがわかりやすく出ていますね。最初、正直、「地味かな」と思ってたんですけど、聴き進めば聞き進んでいくうちに中盤以降にだんだん味が染み付いてきて、終わる頃にはすごく好きになっている。彼女みたいなポップスターの場合、頭の方に目立つ曲をガンガンと持ってくる、みたいなアルバム作りを得てしてしやすいんですけど、こういう玄人向けなアーティストのアルバムみたいなことをしてくるあたりは、彼女のスタッフもかなり考えてますね。そして、そういう曲をワンランクうえに聴かせる彼女の歌唱力も見事です。また、スキットのタイトルにSNLコメディアンのフィアンセの名前を使うユーモアにもニヤリ、でした。

 

 

Egypt Station/Paul McCartney

 

 

続いて、ここからはロック、行きましょう。まずはサー・ポールのアルバムから。76歳にして、36年ぶりに全米1位になったアルバムでもあります。彼くらいの大ベテランになると、過去の作品との比較もあって、なかなか素直に絶賛する人って出にくいものではあるんですが、僕はこれ、賞賛に多いに値するアルバムだと思いますね。確かに、特に新しい何かがあるわけではありません。でも、「新しくはないけど、曲はいいじゃないか」というアルバムを、少なくとも彼は「Chaos And Creation In The Backyard」(2005)以降、コンスタントにずっと作り続けているし、それが75歳超えても一向に衰えない。これって、すごいことですよ。特に今回は、「これでもか!」というくらいにポール節が全開。冒頭の「I Dont Know」「Come On To Me」からつかんできます。まあ、確かに、売れっ子プロデューサーのライアン・テダーが絡んだ「Fuh You」みたいな、キッズ向けの俗っぽい曲は嫌われもするんですけど、最近のインディよりのロックのアーティストが恥ずかしくてできないようなことにもあえてトライできる余裕があるところも僕は逆にいいと思っています。

 

 

Ordinary Corrupt Human Love/Deafheaven

 

 

続いては、これは、インディのメタル・ファンの間では以前から話題になっていたバンドですね。デフヘヴン。彼らみたいな音楽性を「ブラックゲイズ」、つまりブラック・メタルとシューゲイザーのミックス、ということも知らないくらいに、この領域、僕は詳しくはないんですけど、そういうことをたとえ知らなくても、これ、純粋にアルバムとして展開がすばらしいし、かつ美しいと思えるので好きです。いうなれば、これ、パッと聴きはここれ、メタルというよりは、初期のレディオヘッドとか全盛期のピクシーズみたいな感じで、その曲の展開力をさらにスケール大きくインストで展開した感じですね。そこにヴォーカルのデス声が乗ってきて、そこで多少好みが分かれそうな気もするんですが、苦手な人でも、慣れてしまえばそんなに問題はないんじゃないかな。どことなくモグワイあたりも思い出すんですが、ギターのノイズに対しての好みの問題もあり、僕はこちらの方がより好きです。この形式としてはこれがベストな気もするんですが、彼ら、今後どうするんでしょうね。より歌モノにシフトしていけば、かなりビッグなバンドにもなれる気もしますが、そうすると古くからのファン離れちゃうかな。

 

 

Joy As An Act Of Resistance/Idles

 

 

 続いて、今年イギリスで最もホットなバンド、ブリストルを拠点とするアイドルズです。彼らが良いのは、もう、とにかくロックンロールを文句無しにカッコよく聴かせられることができることですね。これの前のアルバムはハードコア・パンク調で、そして今回のこのアルバムはポスト・パンク調でそれができています。甘さ一切なしの、エッジをギシギシ立てたまま最後まで疾走。どんなにロックの危機が叫ばれても、本当にカッコいいロックンロール・グルーヴを届けてくれるバンドさえ入れば大丈夫。そう思わせてくれるタイプのバンドです。加えて彼ら、パンクの原点に立ち返った、イギリスの労働階級のなんとなく不満で退屈な気持ちのリアリティもしっかり持って、それをストレートに出しているのも良いです。こう言うバンドがチラホラ出てくると、今後のシーンにも期待できそうな気がします。

 

 

And Nothing Hurt/Spiritualized

 

 

 そしてラストを飾るのは、イギリスの孤高のカリスマ、ジェイソン・ピアースのスピリチュアライズドです。彼の孤高ぶりは90年代から既にそうで、彼独自のスペース・シューゲイズで一般的な人気もかなりあった人ではあるんですが、老成ぶりも素晴らしいものがあります。2000sからゴスペルの要素もサウンドに取り入れるようにはなっていたんですが、このアルバムでは、カントリーやブルースの要素も取り入れ、彼の根底にあったソウル・ミュージックの要素を前面に出すことによって、「円熟するシューゲイズ」の見本をしっかりと示していますね。前に、「デペッシュ・モードがシンセ・ポップのまま枯れるのが美しい」というようなことをここで書きましたが、それをシューゲイザーでやっているのが彼で、枯れ具合で言えばもっと枯れてます。

 

 

 

author:沢田太陽, category:2018年間ベスト, 19:29
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