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沢田太陽の2018年4月から6月のアルバム10選

どうも。

 

 

では、僕自身も好きな企画です。3ヶ月に1度のアルバム10選、行きましょう。

 

 

今回は4月から6月の3ヶ月でのチョイス。あらかじめ言っておきますと、1週間前くらいに今回の10選、「6月末のリリースがすごいので、2週前倒しで締め切り」と言いましたが、そのリリース作が案外それほどすごい感じもしなかったので前言撤回。6月いっぱいまでのリリースで行こうかと思います。

 

では、今回の10枚です。

 

 

 

 

この10枚ですが、早速語って行きましょう。

 

Invasion Of Privacy/Cardi B

 

 

まず最初は4月の頭のリリースでしたね。カーディB。これはアメリカで初登場1位になったのを始め、世界的に大ヒットしてますね。

 

彼女に関しては「Boddak Yellow」のヒットで昨年から話題だったし、エージェントも、彼女のダンナのオフセットも所属しているミーゴスと同じことから、トラップの新しい勢力の一つと見る向きが多いでしょうね。

 

 ただ、僕の場合は、その「トラップ最新型」という要素もさることながら、そういうこと抜きでも充分通用する、フィーメール・ラッパーとしての圧倒的な実力とチャーミングなキャラクターに惹かれましたね。彼女、どんなタイプの曲でもそつなくこなすし、ライム・フローが驚くほど聞きやすいんです。ものすごくポップにわかりやすく聞かせられるんですよね。「このフロー、どこかで聞いたことあるんだよなあ」と思い出してみると、それが実はトゥパックだったりもしてね。そのことはケンドリック・ラマーのエージェント、トップドーグの社長も全く同じこと指摘してるので確かだと思います。

 

それでしっかり、同性の意識を鼓舞するラップができるわけですからね。ニッキ・ミナージュも「口の動き」という意味では旨いんだけど、聞かせる説得力みたいなところでは彼女の方が上です。音楽のトレンドが変わってもしばらく女王なんじゃないかな。その意味でこのアルバム、エポック・メイキングです。

 

 

KOD/J Cole

 

 

続いて、これもアメリカをはじめ、全世界的にヒットしましたね。Jコールのアルバムです。

 

Jコールって、「ケンドリック・ラマー、最大のライバル」と呼ばれるくらいの実力派だったりするんですが、この前の2枚のアルバムが年末ギリギリの発表で、いわゆる「年間ベスト」みたいなところで語られてきていないアーティストだったりするのでコアなヒップホップ・ファン以外にはわかりにくい存在でしたが、ようやく年の真ん中でのアルバム発表となりました。

 

 そんなタイミングで出たこのアルバム、アメリカのレヴューの内容は実はそこまで良くはありません。それはテーマにしたドラッグ問題に関してのリリックに「今ひとつ真実味がない」というのが良く見受けられた理由でしたね。ただ、僕はそこはそんなに気にしていなくて、もっぱら彼の持っている実力そのものを評価したいと思っています。

 

 何度かここでも言っていますが、彼はラップするだけでなく、トラックもほぼ全部自分で作ってるんですね。さらに言えば、これを含めここ3枚のアルバムでゲスト・ラッパー、一人もいません。全部、彼一人でのラップです。今回、クレジット上ではフィーチャリング・ラッパー、いるんですけど、それは彼自身が演じた架空に過ぎません(笑)。そこまで徹底して「ガチンコ・ヒップホップ」にこだわってる人、今、他に誰も存在しませんからね。もう、そこのとこだけで愛さずにはいられない人です。

 

 さらに言えば、ジャジー・テイストが毎度濃くなっているトラックの進化もすごくいいですよ。

 

 

Tranquility Base Hotel&Casino/Arctic Monkeys

 

 

続いては、5月頭に大騒動。このブログでも話題にしましたね。アークティック・モンキーズです。

 

このアルバム、これまでの彼らのアルバムのようなストレートなロックンロール・アルバムではなく、サイケデリックかつソウルフルなテイストにも富んだ変化球的なアルバムだったがために、彼らのファンからは強い反感を買いましたね。あと、「これはラスト・シャドウ・パペッツで収めるべき範囲内のアルバム」という意見も多く目にしました。

 

しかし僕は、それだからこそ大いに評価したアルバムです。LSP、もしくはソロで掘り下げられるようなクリエイティヴィティがあるのなら、どうしてそれをアークティックで活かしてはいけないのか。僕はそっちの方がわからないし、アークティックの発展のためにどんどん試せばいいじゃないかと思うんですよね。しかも、ストリーミングで1曲1曲が分断されて聞かれやすくなっているこの世の中に対してあえて、60s後半のコンセプト・アルバムのような、「1枚通して聞かないと意味がない」ようなアルバムを真正面から出してきた。その、一見時代にも反するような冒険を、ファンからの反感というリスクを背負いながらもあえて行ってきた。その勇気も讃えたいんですよね。それでいて楽曲構成の完成度も高いし、リリックの彼ら自身に対してのリアリティもヴィヴィッドなままですしね。

 

 もっと書きたいとこですが、12月の年間ベストの際に書くネタがなくなると困るので(笑)ここまでにしておきますが、ロック界にとってもすごく意義のある作品だと思ってます。

 

 

Daytona/Pusha T

 

 

続いては6月のカニエ・ウェスト5週連続リリースから1作。その第1弾だったプッシャTですね。

 

今回のカニエのシリーズは僕的には「3勝2敗」って感じでしたね。これとカニエとキッド・カディのKids See Ghosts、女性R&Bシンガーのテヤナ・テイラーは良かったと思うんですが、カニエ本人とNASのアルバムは正直今ひとつでしたね。なんか、この2つにいいトラックが回っていない感じがしたのと、NASの場合は主題が見えにくかったのと、カニエとのトラックの相性があんまりいい感じがしなかったんですよねえ。

 

 そんな中、プッシャTとカニエはバッチリだったと思います。プッシャTはもともとカルト支持の強い40代のラッパーで、ファレルにプロデュースされていたクリップスというラップ・デュオの時代から、ヤバめのドラッグ・ディール・ネタで有名だった人ですけど、今回もこの悪趣味極まりないジャケ写(ホイットニー・ヒューストンの晩年のドラッグ付けのドレッシング・ルーム)が象徴するように、ディーラー・ネタを軽妙なユーモアとともに展開しています。

 

 これだけだと、「英語わかんないと理解できないよ」となりがちですが、ここでのカニエのトラックの冴え、見事ですよ。新しさはないんですけど、得意技のオールド・ソウル下敷きの、決めフレーズの「ここぞ」の電撃的なはめ込み。これに関しては、どんなに言動がおかしな方向に進もうが、さすがに右に出る者がいない名人芸だなと思わされましたね。なんで、こういうトラックを自分のアルバムに取っておかなかったんだろうとさえ思いましたからね。

 

 

Prequele/Ghost

 

 

 続いては、今度はメタルですね。スウェーデンのゴーストです。

 

 ゴーストといえば、今やスリップノットに続く世界的なコスチューム系のメタルバンドとして名高いですが、このアルバムでとうとう世界的にトップ10に入るバンドになりましたね。アメリカ、イギリス、オーストラリア、ドイツ、フランス、スペイン、そして本国のスウェーデンで10位以内で初登場しましたからね。もう、立派な世界的アクトですよ。

 

 ただ、僕自身が彼らに惹かれているのは、そうしたギミックの部分ではなく、むしろ音楽性ですね。この人たち、区分こそメタルであるものの、サウンドそのものは世間が一般的に想像するようなメタルとは随分違いますからね。ルーツとなっているのはむしろ70sのアメリカン・ハードロックみたいな感じで、同じ悪魔の系譜でもブルー・オイスター・カルトみたいな、「ヘヴィというよりは、モワッとした気持ち悪さ」みたいなニュアンスが強いですからね。ヴォーカルも、オペラみたいなハイトーンで歌うわけでも、デス・メタルみたいなシャウトをするわけでもない、普通の人の歌声ですからね。

 

 今回のアルバムは、そうした「アナログ世代」なハードロックが展開された作品で、聞いててボストンとかスティクスみたいな、その昔「産業ロック」なんて揶揄された70sのアメリカン・プログレな風味があり、そこに初期のオジー・オズボーンのテイストが混ざった感じですね。さらにはエイティーズ・ロック的に突然サックスのソロなんかが入ったりもして。やってること自体なんら新しい要素がないのに、唯一無二の聞こえ方をさせている点では新鮮な驚きがあります。

 

 表向きには「法王が死んで、その後継者が・・」みたいな「はあ?」みたいなこと言ってはいますが、そのアホさ加減も含め(笑)、他の誰でもない存在感なので騙されたと思って聞いてみてほしいバンドです。

 

The Future& The Past/Natalie Prass

 

 

 続いてはこの人いきましょう。ナタリー・プラスのセカンド・アルバム。

 

 彼女は2015年にデビューし、その時のアルバムもすごく評判は良かったんですけど、今回のこの2枚目の方が俄然印象には残りますね。

 

 今回のこのアルバムで彼女は、すごく70sや80sのアーバン・ソウル・ミュージックの方に振り切っていまして、それはさしずめ、一昨年の秋に発表されたソランジュのアルバムと、60s-70sのブルー・アイド・ソウルのカルト・シンガーソングライター、ローラ・ニーロのちょうど間を行くくらいの感じですね。ぶっちゃけ、そのどちらかが好きなら確実に好きになれるアルバムだと思うし、とりわけ、それこそ今ソランジュやフランク・オーシャンにハマってR&Bに興味を持ち始めたような人ならかなりアピールすると思いますよ。

 

 ただ、残念なのは、今、これを作ったところで、これをしっかりプロモーションしてくれるメディアがアメリカ国内にないことですね。インディ・ロックでさえちゃんとかけてくれるところが減ってるのに、これはその中でR&B寄り。一方、アダルト・コンテンポラリーにしてはエッジが立ちすぎだし。本来、そういう型にはまらないものこそ優れた表現ではあるはずなんだけど・・

もどかしいとこです。

 

Lush/Snail Mail

 

 

続いてもアメリカの女性アーティスト。こちらはインディ・ロックのスネイル・メイルです。

 

このバンドは、6月に19歳になったばかりの、メリーランド州ボルチモアの女の子、リンジー・ジョーダンのバンドです。ここのところ、アメリカのインディは女の子が自らバンドをフロントで仕切るパターンが増えてきているんですけど、彼女も、「1-3月の10枚」の時に紹介したサッカー・マミー同様(こちらの主役、ソフィー・アリソンは21歳)、インディ女子新世代として今、ちょっとした話題を呼んでますね。

 

 このデビュー作なんですが、リンジーのギター・ロックへの臭覚の良さ、楽曲の構築力の高さを十分に感じ取ることのできる、見事なクオリティのロック・アルバムですね。サッカー・マミーの方は、洒落たコード進行や意外性のあるメロディに特徴があったんですけど、こちらの方はそうした技巧こそはないものの、2本のエレキギターの絡ませ方など、よりバンド・アンサンブル的な醍醐味が強い作りになっていて、職人ポップ的なサッカー・マミーとは対照的なうまさとなっていますね。

 

 スネイル・メイル、サッカー・マミーは2人ともども仲良しで、ライブも一緒にやったり、さらにはお互いのインスタグラムにLikeをつけあうほどの仲で、今のUSインディでの交友も表していたりもするんですが、これもなあ。せっかく、こうして若い世代から新しいインディ・ロックの可能性が出てきているのを誰が注目させてくれるのか。「セレブやダンス・ポップじゃ自分たちの価値観を表現してくれない」と思う女の子も決して少なくないと思うんですけど、そうしたフラストレーションに応える彼女たちみたいな存在が広い共感で迎え入れられるのは果たしていつになるか。

 

Oil Of Every Pearl's Up-Insides/Sophie

 

 

 

続いて、今度はエレクトロのアーティスト、行きましょう。ソフィーです。

 

スコットランド出身で現在はロサンゼルスを拠点に活動している女性エレクトロ・アーティストのソフィーですが、数年前からプロデューサーとして活躍していて、その界隈ではよく聞く名前ではありました。僕はその当時、決して追いかけていたわけではないんですけど、そんな僕でも、満を持して発表されたこのデビュー・フル・アルバムにはおもわず唸りましたね。

 

 ソフィーがこれまでどんなキャリアを積んできたのか知らなくても、彼女がいかにエレクトロ・ミュージックそのものの基礎値が高いかはすぐにわかります。今となってはエレキギターの歪みよりも刺激的な音になっているグリッチ・ノイズの歪ませ方には攻撃的な刺激を覚える(ここがなんだかんだで大きなポイントです)し、ハウス・ミュージック調のソングライティングは完成度が高いし、シューゲイザー的な響もあるアンビエントなんてこともできる。聞いていて、90年代中頃のエイフェックス・ツイン思い出しましたね。やってることは全然違うけど、この全方向にも対応できる器用さが根底にある感じのところなんかは特に。

 

 あと、ソングライティングもうまいです。エイティーズの全盛期の頃のプリンスみたいな曲もあったりして。そういうとこも含め、今後、現在よりもはるかに大きな注目をされる人にはなるでしょうね。惜しむらくは彼女自身のパフォーマンス能力が高くないこと。彼女が優れたシンガーなりラッパーだったとしたら、それこそプリンス級のスターになる素質もあったと思う

んですけどね。今後どう成長するか。

 

 

Heaven And Earth/Kamasi Washington

 

 

 続いては、今度はジャズですね。カマシ・ワシントンです。

 

 2015年に発表されたアルバム「The Epic」以来、現代ジャズの革命児のように言われているカマシですが、このアルバムはもう方々で大絶賛されていますね。「2018年の最高傑作」などと言っている人も少なくありません。

 

 僕自身はジャズはほとんど詳しくないのですが、昨年に発表された彼のEP(と言ってもアルバムの長さ、ありましたけど)「Harmony Of Difference」も昨年の年間ベストに入れたし、本格的なアルバム(しかも2枚組超大作)となった本作も大好きです。彼の場合、何がすごいかって、とにかく、ジャズをほとんど知らない人にまでその音楽の美しさをわからせる妙な説得力があることですね。まず、とにかくメロディが美しい。複雑なリズムがすごく面白い。そして、彼のサウンドの大きなセールス・ポイントの一つでもあるゴスペル・コーラスをはじめとしたアレンジの多彩さと美しさ。そういう、いわば、音楽を好きになる際の極めて原初的な要素で人を惹きつけている感じがするんですよね。

 

 それを、基本的にトラディショナルな、アナログなジャズの演奏のスタイルを基調としてそれができているところがすごいんですよね。他のジャンルとの融合とかでもなく、デジタルのサウンドを使うとかでなしに、あくまでも昔ながらのジャズの方法論のままなのにすごく新鮮な音楽であるかのように響かせる細かい工夫というかですね。こう言う言い方すると妙かもしれませんが、2000年代にホワイト・ストライプスとかアーケイド・ファイアを聞いた時に「ロックって、テクノロジーの進化に頼らずとも、昔ながらの手法の創意工夫でこんなにもまだ新鮮な音楽を作ることができるんだ」と感動を覚えたことをジャズでやられたようなカタルシスがなんかあるんですよね。

 

これは、この先も噛み締めて聴き続けたいアルバムですね。

 

 

I'm All Ears/Let's Eat Grandma

 

 

 

 最後を飾るのはイギリスの少女デュオ、レッツ・イート・グランマです。

 

 ジェニー・ホリングワースとローザ・ウォルトンからなる2人の女の子は、2016年にデビュー・アルバムが出た際に「まだ10代半ば」ということが話題になったものでしたが、その才気はまだ10代のうちにこのアルバムでさらに化けています。

 

 このアルバム、いわば「裏Lorde」とも言える内容ですね。同じく天才少女の名をほしいままにしたLordeは昨年のアルバム「メロドラマ」で世界を代表するアーティストになりましたが、あのアルバムで、初期の良い意味でのおどろおどろしさは同時に失われもしました。それがこの2人のアルバムでは、その失われた部分こそが濃くなって、より刺激的な中毒性を帯びたような感じがしますね。

 

 全曲通じて、そこはかとない不穏な香りがする作品なのですが、その世界観を編み出しているのは紛れもなく彼女たち2人。そこを、この2つ前に紹介したソフィーや、ホラーズのファリス・バドワンという、「よりによってこの2人か!」とも言える鬼才2人が、手加減することなく危うい世界観にさらに火に油を注いでいます。それがエレクトロにおいてもギター・ロックにおいても同様に展開されています。

 

 実際、これを聞いてしまったことで、同じ日に出たドレイクやフローレンス&ザ・マシーン、ゴリラズが全て物足りなく聞こえてしまったのですが、それほどの衝撃のある作品です。話題になって欲しいんですけどね。

 

 

 

 

 

author:沢田太陽, category:2018年間ベスト, 14:01
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