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沢田太陽の2017 年間ベスト・アルバムTop50  20-11位

どうも。

 

 

では、年間ベスト・アルバム、続けていきましょう。今度は

 

 

 

トップ10目前だった20位から11位を見てみましょう。こんな感じでした。

 


20.Who Built The Moon/Noel Gallagher's High Flying Bird

 

 

20位はノエル・ギャラガー。21位のリアムと兄弟で続きました。最初はそうしてなかったんですけど、リアムがグングン上がったことによって接近し、「じゃあ」と思ってノエルの順位を下げたらこうなりました。でも、連番でも、別グループになったとこも、この兄妹らしくていいでしょ(笑)。

 

 このアルバムは、僕はかなり「やったなあ、ノエル!」と快哉をあげましたね。なんか、ようやく、オアシスの呪縛から離れることができたというかね。リアムは、やっぱりあの声なので、どうしてもオアシスらしい曲の方がカッコいいし聴く側もそれの方がしっくりくるんですけど、ノエルはソングライターだけど、やっぱりシンガーでは元々無いので、オアシスみたいな曲を歌い続けても最終的な説得力ではリアムにはどうしてもかなわない。だったら、もともとはソングライターなんだから、もっと自由にやってもいいのにな・・と思っていたら、今回思い切ってそれをやった感じですね。

 

 なんとなく、「変わりたいのかな」とはオアシスの「Don't Believe The Truth」のときに思ったし、ソロになって以降、多彩な楽器やデジタル・リズムも取り入れたがっていたのはなんとなく感じてはいたんですけど、ようやく彼固有の「くせメロ」から距離を置いて、一人の個人として自由に作ったなと。「オアシスというよりニュー・オーダー」みたいな曲もあるし(笑)。あと、このアルバムでもう一点好きなのは、アルバムの曲順を意識した、収録曲のそれぞれの楽曲の位置と役目までしっかりと計算して作れているなと思ったとこですね。だからすごくトータルにまとまって聞こえるし、そこまで気を配る余裕があったところにアルバムの充実があったのかな、とも思います。

 

 ただなあ。今はノエルのこのアルバムにもそれなりの感慨があるので彼のを上にしてますが、もしかしたら1年くらいした時、リアムのアルバムの方が好きになっている可能性はなきにしもあらずです。

 

 

19.Capacity/Big Thief

 

 

19位はビッグ・シーフ。アメリカはブルックリンを拠点にした、女性ヴォーカル+野朗3人のバンドです。

 

 これは僕的に、2017年の、ちょっと隠し球的な気持ちのあるバンドですね。2枚目のアルバムなんですけど、知ったのは今年のサウス・バイ・サウスウェストの頃でしたね。ブライト・アイズを輩出したサドル・クリーク期待のバンドということで、ちょっと期待してこのアルバム、これが2枚目だったんですけど、聞いてみたら沁みましたね。

 

 この人たち、ヴォーカルのアドリアンヌ・レンカーの、内側に呟き、語りかけるように歌う、壊れやすそうに繊細な歌世界がまずカリスマ性あるし、そこだけを聞くのでも十分に行けるのですが、僕はそれにくわえて、後ろの3人の演奏とアレンジに才能を感じていて、それとアドリアンヌとの歌の絶妙な相性とコンビネーションがいいなと思っています。いわゆる、90sから2000年代以降のフォーキーなインディ/オルタナティヴ・ロックの系譜にある人たちなんですけど、それこそブライト・アイズやウィルコに通じるアメリカン・ルーツ・ミュージックの要素を吸収しながらも、同時に演奏のタイトさとリズム感覚を聞いていると、「イン・レインボウズ」以降のレディオヘッドの要素も感じたりするところは、まだ20代のバンドらしい新鮮さがあると思いましたね。

 

 最近、アメリカのインディで、優れた女性シンガーソングライター、ソロのロックシンガーというのは結構少なくないんですが、ソロで聞かせるものがしっかりありながらも、バンドのアンサンブルのスケールの大きさまでを感じさせてくれるバンドとなると、ちょっと他に思いつかないですからね。世が世なら、今の時点でもそこそこセールスも伴う形でウケてたはずなのに、そうじゃなくて残念ではあるんですが、すごく力のあるバンドなので、長く残って実力を証明してほしいです。

 

 

18.Go Farthar In Lightness/Gang Of Youths

 

 

18位は、これも僕的な隠し玉、その2ですね。ギャング・オブ・ユースです。

 

 彼らはオーストラリアのバンドで、まだ大きな国際展開をしてない段階なんですが、いやあ、すっごいいいですよ!そのサウンドは例えて言うなら、ザ・ナショナルがブルース・スプリングスティーンとかストロークスとかU2を大きなスケールでやったみたいな、そんなバンドです。本当です!ここのフロントマンのデヴィッド・ルオペペっていう人、とにかく声が美声です。「技術のあるジュリアン・カサブランカス」みたいな感じでね。それが、ちょっと文学的で、やや宗教的なニュアンスも感じられる歌を歌うわけだから、そりゃカリスマ性も出ますね。

 

 実際、このアルバムが9月に出た時、これが2枚目のアルバムで、デヴィッドも25歳と若いんですけど、ローリング・ストーン・オーストラリアの表紙をいきなち飾ってて、初登場で全豪1位。そして先月には、オーストラリア版のグラミー賞であるARIAアワードでアルバム・オブ・ジ・イヤーにも輝いています。もう、今やオーストラリアではカリスマでかの国のメディアでこのバンドなりデヴィッドの姿を見ることも結構増えてきてますね。あの国、ロック盛んですけど、「GOY出てきたから、もう、しばらくはロックは大丈夫だ」くらいな気分なんじゃないかな。

 

まだ、なかなか聞く機会もないバンドだと思うので、動画貼りましょう。このパンキッシュで前のめりなアンサンブル!スタジオ・ライブでここまでできてることにただならぬヤバさを感じているんですが、そこに「火が消えちまったら、どうすりゃいいんだい?」という、スプリングスティーン調のスピリチュアルな暗喩による訴えかけが今の世の中、なかなか新鮮です。それこそ、ボスとか、エディ・ヴェダーに注目してほしい存在ですけどね。

 

 

 

17.Concrete And Gold/Foo Fighters

 

 

17位はフー・ファイターズ。

 

僕はフー・ファイターズに関しては、1995年のファースト以来ずっと好きなバンドであり続けているんですけど、今回何がいいかというと、「あのフー・ファイターズが変わった!」という事実ですね。彼らは多少作品によってハードになったりポップになったりしてますけど、基本的には”デイヴ節”による爽快な70s半ばくらいののアメリカン・ハード・ロックンロールの継承者だと思ってたんですね。そこにちょっとパンク世代的な味付けがされた感じというかな。これがいい意味で金太郎飴的な普遍さがあっていいよな、と思って愛していました。

 

 ところがこのアルバム、初めて試すものが多くてビックリしましたね!ちょっとメタル的なハードさは前作、あるいは前々作でも顔は覗かせていましたけど、今回の驚きはビートルズ・エッセンスの大胆な取り入れ方ですね。だいたい、彼らの曲でこれまで美しい3声ハーモニーなんて聞いたことなかったですからね!あと、サイケ期以降のジョン・レノンに顕著だった半音ずつ上がるコードとか。あと、ギターね。これまで重低音聞かせてストロークでガーッと鳴らしてたタイプのリフだったのが、今回、ストロークの腕っ節じゃなくて、アンプの振動の方をビリビリ言わせる、それこそビートルズの60s後半からジョンのソロの初期みたいな音色になってて。スプーンがまさにそのギターの音なんですけど、なんか、そっちの方向に近づいたなと。シングルにもなった「Sky Is The Neighborhood」とかテイラー・ホーキンスの歌う「Sunday Rain」がまさにそんな感じで。

 

 これ、僕、思うにグレッグ・カースティンのマジックかな、と思いますね。彼、こないだ書いた、リアムのアルバムのプロデューサーでもあるんですけど、多分、この両アーティストの仕事、同時期にやってて、頭の中が完全に「68年のビートルズ」になっていたのではないかと(笑)。そして、このあたりの音の感触が好きなんじゃないかな。それが両者ともに、これまでのキャリアをさらに深みを与えるものになっていましたからね。おそらくフー・ファイターズ、ここで作った音を元に今後新しいフェーズに入るんじゃないかな。なお、カースティン、ベックの「Colors」もやってて、そっちを絶賛する向きも聞きますが、すごいことですよね。

 

 

16.Yesterday's Gone/Loyle Carner

 

 

 

16位はロイル・カーナー。ストームジーのところでも書いたように、今年も引きつづいてUK産ヒップホップは充実の1年でしたが、僕的にそのシーンで今年トップだったのはロイル・カーナーですね。

 

彼のことはリリースが1月だったのかな。その時は存在は知っていたけど聞き逃して、マーキュリー・プライズにノミネートされた時にジックリ聞いたんですけど、ビックリしましたね。すごくジャジーに洗練されたり、ハイハットがシャンシャンなってスネアのヒットがタイトなあの感じ。90s初頭のイースト・コーストのヒップホップを思い出しましたね。トライブ・コールド・クエストとかマーリー・マールとか。イギリスの場合、まさにその当時にアシッド・ジャズのブームとかあったから、リアルタイムでトライブやデ・ラ・ソウルもウケてたことは確かなんだけど、そこからこういう音がUK方面から本当に長いこと出てこなかったよなあ、と改めてしみじみ思いましたね。

 

 そうでありながら、いざロイルがラップをはじめると、なんかすごく洒脱なイギリス人になって、あの上品な感じのブリティッシュ・アクセントを、魅惑の低音ヴォイスでスマートに決めるのもなんかカッコ良くてですね。今のイギリスにはストームジーみたいないかにもグライムなハウスを取り入れた人から、Jハスみたいにトラップとかすごく今のアメリカの影響を感じさせる人までいろいろいて、層の厚さも感じさせます。

 

 あと彼は、コリアン系のイギリス人だったり、女性蔑視発言をした客をライブから追い出したりとか、キャラクター的にも気になるところが多いですね。今後、ちょっと楽しみにして見てみようかと思ってます。

 

 

15.Sleep Well Beast/The National

 

 

15位はザ・ナショナルです。

 

 今やすっかり、「セクシーな大人のインディ・ロック」の代表格になりつつありますね。僕が彼らのことを注目したのは2007年の「ボクサー」というアルバムでしたけど、あの当時は本当に「知る人ぞ知る」バンドだったのが、その後の2枚のアルバムでたちまち商業的にもビッグになり、もう、この最新作に関してはアメリカで2位、オーストラリアで2位、イギリスで1位を始めヨーロッパのほぼすべての国でトップ20入りという大出世ぶりです。僕が知った当時、マット・バーニンジャーはすでに30代の後半だったんですけど、今、40代後半。むしろ、その持っている魅力からしたら、「適齢期」に差し掛かったくらいかな。50、60代に向け、枯れていけば枯れていくほど音楽の説得力が上がる。シーンにおいて、極めて稀有な存在だと思います。

 

 今回のアルバムも、その根本的な世界観には変わりはないんですけど、同じフォーマットの中、曲の使い減りみたいのが全然感じられず、一曲一曲に力強さを感じますね。メロディや楽器のフレージングもさることながら、歌われる歌詞の語感が常に新鮮だから、というのもある気がしますが。さらにサウンドの方も「今やキングス・オブ・レオンとかインターポールでも、こんなにヴィヴィッドに響かせてくれなくなったな」と思える2000s型のポスト・パンク的なインディ・ロックを高水準に鳴らしてくれる一方で、人真似でない、彼らのセクシーなメランコリックさに合う形での非常にゆるやかな感じのエレクトロ・テイストをまぶす事が出来たりしているのも強みですね。

 

 僕の場合、あんまりにもアダルトすぎると、今年出たウォー・オン・ドラッグスみたいに引きつけ起こす場合(ゴメンナサイ、本当に起きました、苦笑。だってダイア・ストレイツみたいなんだもん)があるんですが、こういうロキシー・ミュージックとかニック・ケイヴみたいな渋くセクシーな深化なら歓迎です。

 

14.I See You/The XX

 

 

14位はThe XX。

 

このアルバムは1月の発売ということや、リリース後の中押し、ダメ押しがなかったために12月の現在からすると過小評価されているようにも見えますが、すごくいいアルバムです。実際、イギリス1位、アメリカ2位をはじめ全世界的にヒットして、いろんな国のフェスのヘッドライナー、あるいは準ヘッドライナーで来ましたからね。ブラジルのロラパルーザでも準トリで、もう、それはそれはものすごい人気と人の波でしたよ。

 

 そして、そのロラパルーザでも言えたことでしたけど、この人たち、表情明るくなりましたよね。特にオリー。昔は絶対笑わない、低い声でブツブツ言うだけだったのに、今回のライブで満面の笑みでよく喋ってね。ロミーも、相変わらずおとなしくはあるんですが、よく動くようになったし、気持ちがすごく前に出るようになってきましたね。この前に出たジェイミーXXのアルバムがすごくフロア向きのアッパーなテイストがあったんですが、それが彼らの昔からのメランコリックでダークな世界観とうまく絡むようになってきたし、これまで以上にセクシーに聞こえるアルバムになっていましたね。もちろん、「ダークなカリスマのままでいてほしい」タイプのリスナーも彼らにはすごく多いんですが、ジェイミーのダンス・グルーヴあってのバンドだし、オリーとロミーがリアルな感じで自己表現できるのであれば、僕はこの路線は全然ありだと思います。

 

 もう、次あたりは完全にヘッドライナー・クラスの彼らですが、さて、どんな作品になるかな。

 

13.Science Fiction/Brand New

 

 

13位はアメリカのエモ・バンドのブラン・ニュー。

 

 これは僕は目からウロコの、本当にビックリしたアルバムでしたね。彼らのことは2002年だか03年に、「アメリカで注目され始めた、本格的なインディ・エモ・バンド」みたいな触れ込みで聞いたのが最初で、それ以降は追っていなかったんですが、これが今年の8月に出た時からエラく評判が騒がしく、遂には全米1位にまでなったので「なんだろう」と思って聞いたら、ちょっとした衝撃でしたね。

 

 これ、もう、「エモ」だなんだ、そうした次元を通り越した、ちょっとサイコパスで非常にアクの強いアルバムでしたね。何せSEに、精神病棟の患者のインタビューが挟まって、その合間に出てくる曲がもう、暗いのなんの!なんか、「パンク・バンドがピンク・フロイドの境地に達した」みたいなというか、はたまた、曲の大半がアコースティックなんですが、アリス・イン・チェインズのアコースティック・アルバムに近い感触というかね。静寂なのに猟奇性が混ざってるあの感じですね。それが痛々しくも、耳をそらすこともできずに、気がついたら向き合って積極的に聞いてしまっている、説得力と切迫感のあるアルバムでしたね。僕が方々でエモ・ラップを批判するのは、こういう、心の闇を高い音楽性とともに訴えているものが実際にあるからです。

 

 ただ、フロントマンのジェシー・レイシーという人は本当に病んだ人らしく、先ごろ、10年くらい前にやったと疑われている、女の子のファンの前でわいせつなな行為をしたことを暴露されてしまっています。これもme tooハッシュタグの余波ですね。僕はそれを聞いて、実はトップ5も夢じゃないくらいに好きだったところをトップ10から外しました。ただ、まだ疑惑の段階で、そんなに知名度が高いとは思えない日本において、良い作品なのに紹介もしないのではちょっと大げさかなとも思い、不吉番号の13位に置くということで対処しました。そんなオチまでなくても良いのになあ。

 

 

12,Melodrama/Lorde

 

 

そしてLordeは12位でした!

 

自分でもビックリするくらい低い順位になってしまいましたね。てっきり自分の中ではトップ候補としても考えてさえいましたからね。。やっぱ、僕の場合は「Royals」がビルボードのチャートを急上昇してる時からのファンだし、彼女が新世代代表としてカート・コベインやらボウイのトリビュートを見事にこなした時も嬉しかったし、彼女にこそ時代を作って欲しいと思いましたから。

 

 このアルバムも、すごくその期待に答えたと思うんですよね。あえてマニアックな方向に逃げずに、メインストリームの方向性で勝負して、今時の20歳の女の子の人生模様を1枚のアルバムのコンセプトにして、「現代版ケイト・ブッシュ」のようなアレンジで聴かせる。お見事だと思うし、作品自体にケチをつけようとは思いません。

 

 ただ、それでも僕の中ではこれ、猛烈とリピートして聞いたのがリリース当初のみで、あとはそんなに聴かなくなったんですよねえ。今回の上位13枚くらいは実はガチンコに全作をフルで聴き直して、その末に順位を決めているんですが、その時点でトップ10から落ちたんですよね。理由はですね・・、僕の中のどこかにこれ、Lordeがこの作品を後年「若けのいたり」みたいに扱ってあまり振り返りたくないアルバムになるんじゃないかって気がどこかでするんですよね。確かにポップから逃げなかったのは勇敢で素晴らしいことだし、大いに称えたいところです。でも、ちょっとポップに作りすぎちゃってるかなあ。プラス、今回、トップ10には実は6組くらい女子がいるんですけど、彼女達の作品の方が愛着がわいたし、その中にはここ数年、熱烈なファン状態の人が2人いるんですけど、彼女達の最新作とどっちが完成度と品格があるか、と言ったらその答えがLordeじゃなかったんですよね。

 

「多分、次で作ってくるであろう、ちょっとポップ色抑えてくるだろう作品の方が僕は好きなんじゃないか」。なんかそんな気がしてしまうんですよね。多分、それは僕の好みだけの話で、一般的にはそうじゃないのかもしれませんが。

 

 

11.Damn/Kendrick Lamar

 

 

 そしてケンドリック・ラマーが11位でした。

 

 これ、前もこれだけチラッと話しましたけど、「主観を完全にゼロにして客観性だけで選べば、これが1位になってしかるべきアルバム」だと、今持っても思います。ぶっちゃけ、何もケチつけるとこはないんです。今の彼の変幻自在の驚くべきラップ・スタイル(曲によっては、よく舌と腹筋が持つなと思えるほど、物理的にあまりに無理な曲もあるし、笑)で、強い社会性と、皮肉と、ポジティヴなメッセージ性のあるリリックを自在に操られ、曲も硬軟取り混ぜてなんでもできたとか言ったら、そんなの無敵に決まってます(笑)。

 

 今回の場合はとりわけ彼のラッパーとしてのヴァーサタイルな面が最も発揮されたアルバムになりましたね。彼の金字塔的代表作である「good kid MAAD CITY」 は彼の出自、「To Pimp A Buttefly」は今日のブラック・コミュニティの姿と、ある程度テーマ性と統一性をもたせた作品でしたが、今回はあえてそうした統一的な主題から離れて、客観的なお題とともに抽象性のあるものを複数、それを前作のようなジャズ・テイストにこだわるでなしにトラップから歌からなんでもこなすので、自由なだけ、彼の力量を存分に発揮できてるような気もします。

 

 聞いてて、これ、エミネムで言うところの「エミネム・ショウ」を思い出すし、実際、そういうレヴューを書いてる人も幾つか例も見てますけどね。ただ、僕の場合は、そここそが気になったのです。僕の中で「エミネム・ショウ」というアルバムはいい作品ではあるんだけれど、「スリム・シェイディLP」とか「マーシャル・マザーズLP」ほどかけがえのないものとして聞けるか、と自問した場合、そうではない。やっぱり最初の2枚の限定したコンセプトの中で発揮した表現の方が今も愛おしいんですよね。僕はケンドリックの場合も、それと同じ理由で後年そこまで愛せなくなるんじゃないかな、と思い、それがトップ10から漏れる大きな理由にもなったわけです。まあ、Lordeにせよ、ケンドリックににせよ、「他で十分騒がれているし、今さら僕が追加で騒がなくてもいいよね?」という気持ちも正直ありました。でも、優れた作品であることに異論は全くないですけど。

 

author:沢田太陽, category:2017年間ベスト, 00:15
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