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アメリカとイギリスのアルバム・チャートでストリーミングはどう加算されているか

どうも。

 

 

昨日に引き続いて、今日もストリーミングの話です。

 

 

最近、チャート見て、すごく不思議だったことがあります。特定の同じアルバムがずっと上位にいて変わらなかったり、ロック系の新作が全米トップ10に入ったのに、翌週には下手したら100位圏外に近いとこまで落ちることが相次いだり。そして、インディ・ロック系の新人の作品の初登場の数がすごく減っている。これはどうしたことなのか。

 

 

 だって、おかしいと思いません?ロック系の話題の新作って、どんなに話題作でも、プロモーションの勢いが落ちた2週目とか3週目になると、ガンズ&ローゼズのベスト盤とか、ジャーニーのベスト盤より順位が低くなるんですよ!いくら、これが定番ロングセラー作品だからと言っても、前は、多少の話題作ならそんなことはすぐには起こらなかった。それが最近は発売されて2、3週で起こっている。

 

 これは絶対になんかおかしい・・と思っていたら、思い当たったのが

 

 

 ストリーミング換算

 

 これでした。

 

 調べてみると、これ、ビルボードだと2014年の12月に導入されてるんですよね。この、ウィキペディアのページによると(こちら)、2014年12月13日付のチャートより、これまで単純に、アルバムの売り上げそのものの集計だったアルバム・チャートに、ストリーミングの数が加えられるようになったんですよね。これ、つまりどういうことになったかというと

 

 

 前なら、「CD買ったら、もう後はチャートの集計に関係なし」だったところが「アルバムを買った後も、それを聴いた回数がチャートに集計されるようになった」んですね。従って、リスナーの動向が「アルバムを買ったときだけ」集計されるのではなく、「アルバムを聴くそのタイミングまで記録されるようになる」ということなんです。

 

 

 これ、ある意味、「消費される価値」の計算としては正しく見えます。では、今、ストリーミングがアメリカのアルバム・チャートに同計算されるか、説明しましょう。

 

 

 スポティファイとかアップル・ミュージック、こういったストリーミング・サーヴィスは今、結構な数ありますが、そこであるアルバムの曲が一曲ストリームされたとしますよね。そうするとそれがポイント1になるんですが、そのポイントの合計が1500になったらアルバム1枚と見なします。

 

 

 つまり、1枚で10曲収録のアルバムなら、150回聴かれたらアルバム1枚を買ったことになる、と言う計算です。

 

 

 「150回も聴かれないと、アルバム1枚買ったことにならないのか」と思うと、気が遠くなるかもしれませんが、そうでもありません。たとえば、強いヒット曲なんてものを持っていれば、そうしたものはすぐに稼げます。プラス。「今、話題だからちょっと聴いてみたいな」という浮動票が入るから、そんなの、知名度があるメディアで名前が乗りやすいアーティストが圧倒的に有利になるわけです。つまり、大量のライトユーザー票が入りやすくなる。これは、「買ったら集計」にはなかったチャート基準ですよね。

 

 

 これ、どういう影響が出るかというと、「一般には知られてないけど、コア・ファンがいつの間にかついたアーティスト」にすごく不利なんですよね。たとえばCDの時代の、特に後期の方でしたけど、コア・ファンがついてるインディのアーティストのアルバムが突然チャートのトップ10に入ることが多かった。それはなぜかというと、そういうアーティストには、「CDを買ってくれるファン」というのがいたから、それだけでチャートの順位があがりやすくなったわけですけど、今や、「一般に聴かれる」行為がチャートに入りやすくなったせいで、そうした突然の突出が起こりにくくなる。そうしたら、「ある日突然、こんなアーティストがポコッと上位に入って来た!」というドラマ性がチャートで起こりにくくなる。それはすごく寂しいことですよね。

 

 

 あと、この、「もし、買ってでしか聴けなかったアルバム」が「興味本意で好きでも嫌いに関係なく聴いてみた」という票が入るだけでもかなりチャートが変わるわけですが、僕自身がそれよりもさらに気になるのが、「リピートして聴く回数の、リスナーの世代別による差」です。これが大人と子供で平等なわけがないんですから!

 

 

 子供なら大人よりも時間の自由が聴くし、流行っているポップソングの話題だって共有することは頻繁でしょう。一方、大人にはそんな時間もだいぶ限られるし、ましてやポップソングの話題を日常で共有することも減る。それはどんな音楽好きだってそうです。なので、曲をリピートして聴いたり、ストリーミングしたりする回数なども、大人のユーザーの何倍もあっておかしくないはずなんです。これも「何回聴こうが、アルバム1枚買ったらそれが1票」の時代には起こりえないポイントの換算になるわけです。こんなの絶対、「子供に人気のアーティスト」の方が有利になるに決まってるじゃないですか!

 

 

 だから僕としては、望むらくは、そのストリーミングに、「ユーザーの年齢」を割り出して、若年層によるストリーミングに変数をかけて大人のリスナーの差を縮めることをやったらどうかとおもうんですけどね。だって、大人だって音楽好きであることには変わりないのに、その人たちの票が子供のそれより圧倒的に少ないんじゃ、そんなの世の反映にはなりませんよ。どうりで最近、アメリカでダンス・ポップばっかりが上位に入るわけです。大学から20代にファンの多いインディ・ロックとか、それ以上の年齢のクラシック・ロックだったりアダルト・コンテンポラリーのリスナー支持のあるアーティストが割を食ってもこれなら仕方ありません。

 

 

 でも、このやり方が続いたら、今ある音楽、「子供に届くようなアプローチをした方が勝ち」ということになってしまいます。これだと妙な迎合が生まれたりする原因にもなってしまうと思うんですよね。ちょっと心配でもあります。

 

 

 一方、イギリスも2015年3月にチャート改正して、ストリーミング換算がアルバム・チャートではじまっているんですが、こっちのシステムはちょっと変則的です。

 

 

 

 

 

 この票にその集計方が載っているんですが、それによると、ストリーミングによるアルバムの集計は、アルバムは単純なストリーミングの合計ではありません。ここで対象にされるのは、「収録曲の中のストリーミング人気が高い12曲」だけが対象となります。

 

 そして、その12曲の収録曲のうち、上位2曲のストリーミングの実数を無視するんです!そしてそれを7番目に人気の曲と全く同じ数にします!

 

 

 なんでそんなややこしいことをするのかというと、彼らによると、人気1、2位の曲は「アルバムが好きだから聴いたのかどうかが疑わしい」

 

 

ということなんですね。単に、その曲に興味があって聴いただけであって、アルバムに興味があったとは限らない。本当にアルバムで好きなら、他の曲のストリーミングも高いはずだ。そういう論理によって換算が決まります。そして、そのストリーミングの数を1000で割ってアルバム1枚購買とカウントします。

 

 

 これでどういう効果が具体的にあるかというと、これが意外と大きいんですよね。

 

 まずひとつが

 

 ロック系のアルバム初登場1位、初登場トップ10が減っていない。

 

 ここは、ロックにとってはホッとするとこで、翌週以降もアメリカみたいな不自然な大幅ダウンもない。

 

 

 二つ目以降は実数で証明しましょう。

 

 

アメリカで初登場1位だったホールジーとケイティ・ペリーが、前者で12位、後者で6位だった、

 

 この辺りのセンスは、やはり、「曲に興味があっても、アルバムに興味があるか疑問」な票が抑えられての結果ですね。

 

 

三つ目は

 

 

 アメリカで10位代で終わったロジャー・ウォーターズ、リンジー・バッキンガム&クリスティン・マクヴィーのアルバムが前者が3位、後者が5位だった。

 

 

さらに

 

アメリカで40位だった、グレン・キャンベルとチャック・ベリーの人生最後のアルバムがイギリスでは共にトップ10に入った!

 

 

 この比較で見て。どっちが音楽リスナー全体で見て良心的に平等だと思います?若い意見ももちろんすごく大切ですが、「音楽への愛」はどの層でも変わらないわけで。ストリームの換算はこれからもっと重要になりますが、「気まぐれ票」はなるべく外す方向でやっていただきたいです。

 

 

author:沢田太陽, category:評論, 19:24
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