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全オリジナル・アルバム From ワースト To ベスト (第7回)ザ・キンクス その1 24位〜11位

どうも。

 

 

今日はFrom ワースト To ベスト、行きましょう。なんか、早いペースでいろいろ聴けて自分でも驚いているんですが、早くも7回目。今日のお題はこれです!

 

 

 

 

この企画、初の60年代からのアーティストですね。その記念すべき最初のアーティストはザ・キンクスです。キンクスといえば、つい先日、リーダーのレイ・デイヴィスがサーの称号を得たり、彼の久々の最新ソロ・アルバムがイギリスで15位という、一体何10年ぶりなんだろうという成功を70代にして記録している最中です。そんな再評価モードにある中、「最も過小評価されたロックバンド」と言われ続けて来た彼らの計24枚のアルバムに順位をつけてみました。

 

 

 いや〜、これは長いことやってみたかった企画ですね。僕みたいな職の人間にとって、ビートルズ、ストーンズ、ディラン、ツェッペリンあたりは「全部聴いてて当たり前」みたいなところがあったりするし、日常でもよく耳にするし、名盤選でも若いうちから聴き続けてきたものであるんですけど、キンクスとなると、かなり意識的に注意して聴かないと覚えない物ですからね。僕もフリーのジャーナリストになりたてくらいのときに「キンクスのディスコグラフィを全作レヴューできるくらいが理想」みたいなこと考えたことあったくらいですからね。なので思い入れはあります。

 

では、今回は24位から11位まで。まずは24位から。

 

 

24.Preservation Act 2(1974 US#114)

 

 最下位は、キンクスのロック・オペラ路線の混迷期として語られがちな「プリザベーション」の第2幕です。ただ、これ、一方で「駄盤」、一方で「カルト名作」と言われてもいますが、「名作」という評価はあまりに盲目的なので信用しなくていいです(笑)。僕は愛情を込めて「大いなる大失敗作」として「名誉の最下位」にしましたね。

 

 

 作品の善し悪しで言えば・・良くないですよ(笑)!だって、コンセプトがあんまりにも漫画ちっくで、70年代に入ってレイが入れ込んでいたアメリカ南部接近路線も明らかにレイの飽きが感じられる曲調(大編成が似合わないくらいハードなんだもん)が感じ取れるし。女性コーラスの声のセンスなんてかなり悪趣味です。そしてこれが一番タチ悪いんですけど、2枚組で曲多過ぎだし。さすがにどんな好きなアーティストでも、自己満足の、しかも、曲の印象そのものが強く残らない作品を、2枚組で聴かされたらさすがにツラいですよね。「いや、そこを受け入れてこそのファンだ」という意見はあるのかもしれませんが、僕はそこまで着いて行こうとは思いません(笑)。

 

 でもね、これを全作と2部作、計3枚組のヴォリュームにまでして作り上げようとした、その心意気はいとおしいです。なので、これ、僕は「最低1回は聴くべき作品」だと思っています。これ、ロック好きな人ならやってみてほしいです。2回目以上は一切保証しませんが(笑)。

 

 

23.Think Visual(1986)

 

 「プリザヴェーション」は最下位にしたけど愛着はあるアルバムなんですが、「個人的に本当に嫌い」という意味で実はワーストはこのアルバムです。

 

 これは1986年、キンクスが遅ればせながらもアメリカ再進出に成功していた、アリスタ・レコードとの契約が終わったあと、MCAに移籍して発表した最初のアルバムなんですけど、ここからはチャートにかすらないバンドになったんですよね。ただ、このアルバム、キンクスらしからぬ「ザ・エイティーズ」な大仰なプロデュースが目立つ、すごくガッカリな作品です。加えて、ジャケ写のセンスがひどいんだ、このアルバム!「え〜、なんでこんなの作っちゃったの??」って感じのアルバムです。これと、この次のアルバムだけ、ストリーミング・サービスに入ってないんですけど、オススメはあまりしません。

 

22.Preservation Act 1(US#177)

 

 その「プリザベーション」の第1幕にあたるのがこれです。こっちは1枚組なので、疲れないので順位が上です(笑)。なんでも、この第1幕を作っている最中に、没入し過ぎて他のことが目に入らなくなったレイに愛想を尽かした奥さんが小さな娘を抱えて出て行ったという、なんかいかにもレイらしいトホホな話も裏エピソードにある作品です。人生で賭けたものは大きかったんですが、結果が良かったとは正直思えないですね。

 

 

21.Soap Opera(US#51)

 

 「プリザベーション」のあとに発表した、これもロックオペラ路線。ただ、これは、「架空の村の戦争物語」という、なんだかなあなストーリーから一転、今度は、妻もいるサラリーマンの男が、自分がロックスターだという妄想に陥る、という現実的な現代劇。これは1974年にイギリスの第2の局、ITVで放送された「スターメイカー」というミニ・ドラマが元になってて、レイ自身が主演もつとめていました。ただ、このドラマっていうのが、観覧が可能なテレビ局のスタジオでこじんまりとしたセットを組んで演じているもので、超格安でスケール小さいんですよね。まあ、その安っぽさがキンクスっぽさではあるんですけどね。サウンド的には「プリザベーション」の延長ですけど、「もう、ホーンも女性ヴォーカルもいらなくなるね」という曲調にさらに傾いて行きます。

 

 

20.Percy(1971)

 

 これは1971年、キンクスが60年代の黄金期を過ごした、イギリスのパイ・レコードの最後のアルバムなんですが、「パーシー」というイギリスのコメディ映画のサントラです。インストが多めでヴォーカル曲もすごく尺が短いんですけど、ただ、「ローラVSパワーマン」の直後の雰囲気はあるし、やっぱ古き良きパイを惜しみたい意味もあって、そこまで順位を下げたくもない作品ではあります。

 

 

19.Phobia(1993)

 

 現時点でキンクスとしてのラスト・アルバムです。キンクスは最後の2枚はかなりギターはハードなサウンドになっていたりするのですが、このアルバムに関しては時期がちょうどグランジの時期でしたね。どこまで意識してるかは知りませんが。キンクスの場合、元が「ユー・リアリー・ガット・ミー」のバンドだったりするから、そういう路線はすごく歓迎なんですけど、ただ、このアルバム、1曲あたりの尺が長過ぎです。5、6分の曲がザラで、それが17曲もあるという。ある意味でCD時代の悪いとこが出た作品かな。ただ、レイとしては表現したいことが多かったのかな。アルバムのテーマが、「嫌悪感(フォビア)が社会を悪くしているのではないか」という重いテーマでもありましたしね。

 

 そして、このアルバムを伴ってのツアーの際、僕は彼らのライブを渋谷公会堂で体験しています。このときのライブがすごくエネルギッシュで爽快だったから、まさか、このあとに彼らのライブが見れなくなるとは夢にも思ってなかったんですけどね。

 

 

18.Sleepwalker(1977 US#21)

 

 アメリカ再進出をかけた、アリスタ・レコードへの移籍第1弾ですね。このアルバムから、直前までいたRCAでのロックオペラ路線はやめて、コンセプトなしのロックンロール路線になっていて、アリスタの後押しもあって、在籍期間中はアメリカでかなりの成功も実際に収めていますね。このアルバムも、第1弾にして最高位21位という、かなりのヒットになっていますからね。

 

 ただ、「キンクスで1977年」というから、ややもすると「”パンクの元祖”がパンク・ムーヴメントを利用した」かのように思われがちでもあるんですが、このアルバムの発表は1977年の初頭。この時期だと、まだパンクでアルバムが出てるアーティストっていないんですよね。クラッシュやジャムでさえ数ヶ月後ですから。

 

 そういうこともあって、このアルバム、「ロック」には原則的に戻ってはいるんですけど、「どういうロックをやっていきたいのか」が曖昧模糊として見えにくいアルバムなんですよね。なんか、ブルース・スプリングスティーンみたいな曲調の方がむしろ目立つし。キンクスがパンクや、ヴァン・ヘイレンによる「ユー・リアリー・ガット・ミー」のハードロックのカヴァー・ヴァージョンをもって「パンクやメタルの元祖」として自身を売り込みに走るのはもう少し後になります。

 

 

17.UK Jive(1989)

 

 キンクスの最後から2番目のアルバムですね。「シンク・ヴィジュアル」とこのアルバムがストリーミングで聴けません。

 

 このアルバムですが、前作でのオーヴァー・プロデュースが是正された、ソリッドなロックンロール・アルバムになっていますね。この当時だと、イギリスだとマッドチェスターとかシューゲイザーみたいな、サイケデリックなモードが大流行りな時期で、こういうソリッドでストレートなロックンロールをやっている人があまりいなかったものですが、不思議なことに、この4年くらい後から、UKロックバンドのトラディショナルなロック回帰路線がはじまりブリットポップにつながって行ったりするから不思議です。そういう意味で、やっぱ無意識のうちのカンの良さはあるんですよね、キンクスって。このアルバムは、ブリットポップにはやや重くはあるんですけどね。

 

 

16.Misfits(1978 US#40)

 

 アリスタ移籍後の2枚目のアルバムですね。このくらいから、パンク・ムーヴメントに気がつきはじめたか、シングルのB面でも「プリンス・オブ・ザ・パンクス」という曲を作ったのもこの時期ですけど、よりストレートな3コード・ロックンロールの方に足が向きはじめた、といった感じのアルバムですね。そこまでロックンロールロックンロールはしてないアルバムですけどね。

 

 ただ、そうでありながら、このアルバムの最大の聴かせどころは全米シングル・チャートで30位まであがったバラード「ロックンロール・ファンタジー」の存在ですね。これはこのアルバムのレコーディング中に脱退した2人のメンバーにあてたものであり、レイとデイヴのデイヴィス兄弟の分裂の危機にも触れた曲でもあるんですが、「ロックの幻想の中に生きないで、真人間に戻りたい」という、ちょっとその後のレイの人生を考えるに「こんなことを思っていた時期もあったんだな」と思える曲です。ただ、それだけこの人というのは、すごく庶民的な感情を常に持ち合わせていた人でもあるのかな、と思わされますけどね。

 

 

15.Kinda Kinks(1965 UK#3,US#60 )

 

 1965年の初頭に出た、キンクスのセカンド・アルバムです。これは、「ユー・リアリー・ガット・ミー」「オール・デイ・アンド・オール・オブ・ザ・ナイト」のビッグヒットの次を受けたシングル  「タイアード・オブ・ウェイティング・フォー・ユー」とほぼ同時にリリースされたアルバムですね。この3曲が立て続けてヒットしていたときの彼らはブリティッシュ・インヴェージョンの中でも、ストーンズやアニマルズと並んで、「ビートルズにつぐヒットメイカー」の評価を受けてたときで、遅れてデビューし後に比較の対象となるザ・フーよりも全然勢いがあった頃です。

 

 僕はキンクスのパイ時代の60年代のシングルは無類に好きなんですけど、ただ、いい時期に発売されたわりには、このアルバム、ちょっとメロウな曲が多いですよね。やっぱり欲を言えば、「ユー・リアリー〜」みたいな曲をファンとしてはたくさん聴きたいじゃないですか。なのでちょっと順位が抑えめです。

 

 

14.State Of Confusion(1983 US#12)

 

 これは僕に近い世代が思い入れのあるキンクスのアルバムです。というのは、ここからの「カム・ダンシング」という、ちょっとスカというかカリプソというか、ちょっとカリブのビートを入れた陽気な曲が、アリスタ時代のキンクスでの最大のシングル・ヒットになって全米6位まで上がるヒットになりましたから。僕と同世代の人の中には「キンクスといえばカム・ダンシング」という人も少なくありません。その効果もあり、次のバラード「Don't Forget To Dance」も全米29位のヒットになっています。

 

 ただ、これ、アルバム全体として見た場合、この前後の時期のキンクスではちょっと落ちるんだよな、というのが僕の率直な感情です。このアルバムは、パンキッシュなロックンロールと、シングル曲に象徴されるソフトなポップナンバーとの幅で聴かせるタイプのアルバムなんですが、ポップな曲がちょっとオーヴァー・プロデュースなんですよね。シングルになった曲はまだいいんだけど、それ以外の曲でエイティーズの悪いとこが感じられるというか。この直前までの上昇気流がシングル・ヒットとして結実したのはめでたいことなんですけど、それがここで止まってしまうことにもなります。

 

 

13.Schoolboys In Disgrace(1975 US#45)

 

 これがそのRCAの最後のアルバム、ロックオペラ路線の最後のアルバムです。ただ、コンセプトはあるとは言え、もうホーンや女性ヴォーカルはほとんど用がなくなり、アリスタ期につながるロックンロール・アルバムにもうこの時点でなってますね。まだパンクが起こっていた時期ではないんですけど、レイの中でなんとなく虫が知らせたということなのかな。中でも「The Hard Way」はライブの定番にもなる、パンクを先駆けた傑作チューンですね。

 

 ただ、これ、悲しいことジャケ写のセンスが悪いんですよね(苦笑)。AC/DCのアンガスみたいなカッコした少年が叩かれた尻を出してる漫画なんですけど。これ、書いたの、Tレックスのミッキー・フィンだったりするんですけど、しばしば、「ワースト・ジャケ写」の常連作になってますね。

 

 

12.Word Of Mouth(1984 US#57)

 

 アリスタ時代のキンクスの最後のアルバムですね。前作が「カム・ダンシング」の大ヒットが出た作品だったのに、それを受けてのこのアルバムはランクが下がってしまいました。

 

 ただ、「内容が悪かったから」ではなく、単にレーベルからプッシュされなかっただけだったような気がします。実際、このアルバムを聴いてみると、前作でややポップかつオーヴァー・プロデュースになりつつあった部分を修正して、その数作前までにあったような豪快なロックンロール路線に転じています。特に「Do It Again」は、これ以降のキンクスのライブの定番曲にもなります。

 

 あと、しばらく歌ってなかったレイの犬猿の中の弟デイヴが、80年代はじめに出したソロ作の成功の影響もあってか、このアルバムから、ストーンズにおけるキース・リチャーズ枠みたいな感じで、常時歌いはじめるようにもなります。それから、悲しい話題としては、デイヴィス兄弟以外のオリジナル・メンバーだったドラムのミック・エイヴォリーがこのアルバムを最後に脱退してしまいます。

 

 

11.The Kinks(1964 UK#3,UK#29)

 

 記念すべきデビュー作で、全てのロックンロールの原点とでもいうべき「ユー・リアリー・ガット・ミー」が入っていることで価値が永遠に高いアルバムです。

 

 気持ちとしてはトップ10に入れたかったんですけど、ただ、このアルバム、オリジナル曲が少なく、カバー中心なのが残念なんですよねえ。「ユー・リアリー〜」の元ネタになったロックンロールの起源の代表曲、キングスメンの「ルイ・ルイ」のカバーがあったりするんですけど、キンクスの考案したキンキー・ビートの方が勝っているので、そこもあんまり魅力的に響かないと言うか。せめて「オール・デイ・アンド・オール・オブ・ザ・ナイト」が収録されていたらもう少し違った気がする(後にCDのボーナス・トラックで収録)んですけどね。60年代という時代は、特にイギリスでですけど、シングル曲をアルバムに入れない習慣があって、それゆえに損してるアルバムが多いんですよね。

 

 

番外編;レイ・デイヴィス・ソロ

 

 90年代半ばからソロになったレイは、それ以降、セルフ・カバーの3枚も含め、6枚(キンクス時代にも1枚)ソロを出しています。デイヴとの確執でキンクスとして活動出来なくなったオリジナル曲の3枚もランクの対象にしようかなとも思いましたが、デイヴを尊重して今回はやめておきました。ただ、その3枚のソロ、「Other People's Lives」(2006)、「Working Man's Cafe」(2007)、そして「Americana」(2017)はいずれも力作で、仮にランクをつけたらトップ10には入らなかったものの、12位くらいの位置にはつけれたような気がしてます。

 

 

 

author:沢田太陽, category:FromワーストTo ベスト, 10:18
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