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映画「20th Century Women」感想 アネット・ベニングの主演でブラック・フラッグ!?かなりパンクなフェミニズム映画

どうも。

 

 

先週はロラパルーザ、先々週はブラジリアに行っていた関係上、映画が全然見れなかったのですが、今週末は反動で連続して映画館で映画見ました。なので、そのレヴューを。今日はこれです。

 

 

 

この「20th Century Women」という映画を。これ、オスカーのノミネート候補にもあがっていた映画で、脚本の部門ではノミネートされた映画です。ゴールデン・グローブでもコメディ/ミュージカル部門、主演女優賞にノミネートされていましたね。そうじゃなくても、12月からの津方レベルでのオスカー前哨戦でも結構ノミネートされていたので気になっていた映画でした。

 

 

 主演はアネット・ベニングで、助演にエル・ファニングろグレタ・ガーウィグといった、今のインディ映画に引っ張りだこな2人の女優が加わりました。「頑張る女性たちの映画かな」と思っていたら、その内容にちょっとビックリしました。

 

 

 では、あらすじから行きましょう。

 

 

 舞台は1979年のロサンゼルス郊外。そこにドロシー(アネット・ベニング)と、ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズーマン)の母ひとり子ひとりの親子がいました。

 

 

 ドロシーは現在55歳。生まれは1924年。1940年代の映画と音楽に憧れて育ち、第2次世界大戦に女性パイロットとして望もうとした活発な女性です。あの頃のハリウッドにあこがれが強いためか、かなりのヘヴィ・スモーカーです。熱心に働く彼女は、40歳の高齢出産でルーカスを産み、その後は離婚。以降はつきあう男性をとっかえひっかえしながら、今は元ヒッピーの陶芸家、ウィリアム(ビリー・クルダップ)と住んでいます。

 

 

 一方、ジェイミーは15歳。好奇心多感なティーンエイジャーは、友達とのゲームで危うく死にかけるなど、行き過ぎたことに興味を持つクセがありました。この当時の西海岸の少年らしく、スケボー、そしてパンクロックに興味を持ちはじめていました。

 

 

 そんなジェイミーにジェネレーション・ギャップとコミュニケーションの難しさを感じていたドロシーは、自分の経営する下宿宿に住んでいたカメラマンの卵アビー(グレタ・ガーウィッグ)と、近所に住むジェイミーの幼なじみのジュリー(エル・ファニング)にジェイミーの面倒を見るように頼みます。

 

 

が!

 

 

 

 

 これはジェイミーへの強い刺激を高める選択でした。アビーは24歳。1973年にニューヨークに渡り、パンクの前夜の熱狂にニューヨークのアンダーグラウンド・カルチャーに身を投じます。訳あって西海岸にわたることになり、ドロシーの下宿に住むことになりますが、部屋の中でもパンクロックで踊る彼女は、ジェイミーが興味を持ちはじめていた、当時勃興しはじめていたロサンゼルスでのローカル・パンク・シーンへの興味をさらに強める役割をし、ロサンゼルスのライブハウスにも連れて行きます。さらに性に関するフェミニズム本をジェイミーに勧めます。

 

 

 

 

 一方のジュリーは17歳。ちょっと年上の彼女は、近所のセラピストの娘でしたが、複雑な家庭環境からの逃避と、「性」への強い好奇心から男友達との夜遊びに精を出し、幼なじみのジェイミーの寝床を裏窓から忍び込み、ほぼ毎日のように一緒に寝る生活をします。

 

 

 ジェイミーの15歳の日々は、この3人の刺激的女性により引っ張られて行きますが・・

 

 

・・と、ここまでにしておきましょう。

 

 

 こういう風に紹介してきましたけど、

 

 

なんか「えっ?」って感じの映画じゃないですか(笑)?

 

 

 だって、「主演アネット・ベニング」ってことだけを事前に耳にしてたら、こんなストーリー、まず想像しませんよ(笑)。話がメッチャクチャ、パンクに触れてますからね。

 

 

 

 これ、ちょっとした、当時の勃興当時のパンクの様子を知るのに役に立つ映画でもあります。劇中に、ニューヨーク・パンクから、ロンドン・パンク。これらが1974年から77年くらいに起こりますが、そこでの写真がきわめてたくさん劇中に登場して来る上に、この当時に遅れて勃興しはじめたブラック・フラッグを筆頭としたLAパンクシーンにも話が行きますからね。

 

 

 劇中にはこんな会話もあります。「トーキング・ヘッズが好きだと言ったら、ブラック・フラッグのファンからいたずらされたんだ」「パンク内では、細かいジャンル内での対立が激しいのよ。特にハードコアの連中はね」。こういうところなんかは、いちロック・ファンとして、当時のシーンの一端を知るのに重宝しましたね。

 

 

 これに象徴されるようにですね、この映画

 

 

 グレタ・ガーウィッグがかなり強い意味を持ちます。70年代の、「先進的な女性」の象徴ですね。60年代後半のヒッピーの影響を受けたフェミニストをさらに上回る、オリジナル・パンクの思想を持った芸術家。この当時だけじゃなく、今現在の歴史から見ても一番トンがったタイプです。しかも、あえてあんまり詳しく書きませんが、屈折し、傷ついた経験をいっぱい持つ女性です。こういう人が多感な時期に身の回りでいろいろなこと教えれば、刺激受けない方がおかしいです(笑)。

 

 

 これを、グレタ・ガーウィッグが演じたのが妙に説得力ありましたね。彼女は今、ちょっとしたアメリカ・インディ映画界の女王的存在です。一番有名なのは、実際につきあっていたノア・バウムバック監督の「フランシス・ハ」への主演ですけど、ノアの映画中心に結構、その界隈の話題作に頻繁に主演で出てますね。

 

 

 

 そして、ジェイミーと同世代の刺激的な女の子としてエル・ファニングが出てるのも良かったですね。エルも、注目されたのがソフィア・コッポラの「サムウェア」だったことや、ことのほかファッション業界ウケする、モードな風貌の持ち主であることから、アート系の監督の作品に引っ張りだこですね。そういうこともあったので、今回の役、ピッタリでしたね。

 

 

 ただ、そうでありながらも

 

 

 主演のアネット・ベニングの「若い感覚はないけど、彼女の世代ではトバしてるお母さん」も説得力があって良かったですね。アネットも出演映画は、とりわけ今回のオスカーではからずも再びスポットライトを浴びてしまった作品賞読み間違いのウォーレン・ベイティと結婚して以降、出演作にインディ関係のものが多いんですけど、それが結構、映画賞でのノミネートにつながることが少なくなかった人です。一番記憶に新しいのは「キッズ・アー・オールライト」での、ジュリアン・ムーアとのレズビアン役かな。ここでは、パンクのことは全くわからないながらも理解はしようとしている母の姿を、コミカルに演じていますね。また、それだけじゃなく、シングルマザーとしてのリアルな姿も本格派女優として説得力もって演じています。

 

 

 あとフェミニズムに関する文化的なディテールも細かくて学べるんですよね。女性飛行士のさきがけのアメリア・イヤハートに憧れる女性像とかハリウッドの喫煙とか、40年代当時の先進的女性のイメージだったり、70年代当時から社会現象になる離婚だったり、70年代当時の性教育に関する児童書を書いて話題になっていたジュディ・ブルームの作品(僕も一冊持ってます)をはじめ、この当時のフェニミズムの重要作と思えるもののたくさんの文章引用とかも。こういう社会断面が知れるのも、映画のいいところでもあります。

 

 そんな風に、実はかなり文化的にトンがった映画なんですけど、これは

 

 

 マイク・ミルズという監督が作っています。彼は「ビギナーズ」といって、2011年度のオスカーでクリストファー・プラマーがユワン・マクレガーにゲイ・カミングアウトする映画で助演男優賞を受賞していたりもするんですけど、それの監督です。ただ、それ以前はMTVでミュージック・ヴィデオの監督をしていて、主にエールのヴィデオの監督をして有名になった人でもあります。今回の映画で、次作以降が気になる監督として僕のリストにしっかり乗りました。

 

 

 僕だったら、これ、オスカーの作品賞のノミネートに入れたんだけどなあ。「ラ・ラ・ランド」「ムーンライト」ほどではないけれど、全体の3、4番目に入るくらいは好きですけどねえ、これの方が。

 

 

 

 

author:沢田太陽, category:映画レビュー, 20:08
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