RSS | ATOM | SEARCH
沢田太陽の2017 年間ベスト・アルバムTop50  10-1位

どうも。

 

では、年間ベスト・アルバムもいよいよトップ10を残すのみとなりました。全体では、こんな感じでした!

 

 

 

だいたい、わかったかな?では、10位から行きましょう。

 

 

10.All We Know Of Heaven,All We Need Of Hell/PVRIS

 

 

10位はPVRISです。

 

僕がこれを選ぶことを予想した人はほとんどいないんじゃないかな(笑)。これ、僕としても、もしかしたらイケないものにハマったかもしれません(苦笑)。「言うの恥ずかしいけど、実は好き」みたいのを英語でギルティ・プレジャーっていうんですけど、これはまさにそんな感じがあります。PVRISはどちらかというとイギリスのキッズ系ロック雑誌がすごく押してるアメリカはボストン出身の紅一点フロントの3人組ゴス系シンセ・ポップバンドで、これが2枚目です。

 

 ただ、なんで興味持ったかというと、最初のきっかけはメタクリティックで、得点が80点以上とかなり高かったんですよ。そしたら、イギリスのチャート速報聞いたら「アルバムがトップ5に入りそう(結果は4位)」というので気になって聞いてみたらすごくハマって、8月の発売なんですけど12月になった今もまだ聴いてるくらい愛聴するものになってます。

 

 ただ、これ、なんで好きかというと、とにかく全曲、曲がちゃんとよく書けてるんですよ。作ってるのはリン・ガンという名前のヴォーカルの女の子なんですけど、彼女の書く曲がすごくツボを押さえたメロディックさがあるんですね。しかもアレンジがすごく絶妙なんです。一歩間違うと通俗的なインダストルアル・ロックになりそうなところを、ギターの音量はだいぶ下げ目でストロークよりはアルペジオのフレーズを大事にしてたり、声の多重録音を多めに駆使したり、さらにリンがなんか不思議な歌い方というか、ファルセットとガッツのあるソウルフルな唸りで聞かせたりするんですね。なんか、こういう組み合わせが不思議というかね。「エヴァネッセンスとガービッジとホールジーを足して3で割った」というか「スマパンの 『アドア」の後継者が20年かかってやっと出てきたか」というか、「エレクトロ方面に行きたいのならチェスタ・ベニントンはこういうバランスでやればもしかしたら良かったのかなあ」とか、聞いてていろいろ考えさせてもくれて、それも面白いんです。

 

 ただ、結構すでに反響が良くて、BBCではすごく曲がかかるは、全英、全米ツアーではソールドアウト続出するは、ロック・サウンドっていうケラング!に人気が近づいてるイギリスのキッズ系の雑誌のアーティスト・オブ・ジ・イヤーになったり、気がついたら次で知らぬ間にデカくなってた、というパターンの面白い動き、実際にしてもいますよ。

 

 

9.Vision Of A Life/Wolf Alice

 

 

9位はウルフ・アリス。

 

これは今年のUKロックではかなり強いアルバムでしたね。とにかくイギリス国内の押しが強かった。アルバム発表されるだいぶ前からシングルの解禁があればその都度活字メディアが盛り上がったし、BBCでもずっと何らかの曲がオンエア・リストから外れない状況がありましたからね。惜しむらくはその波がイギリス国内から出るものではなかったことですが、それでもイギリスにおいてこのバンドの重要性が増した1作であることには間違いありません。

 

 このアルバムは、デビュー時から持ってた彼らの多様性が広がったアルバムですね。よく「グランジ」とも評される彼らの音楽性ですが、僕としてはそうは思っていません。どっちかというと、シューゲイザーまで含んだ「90s」の感覚のバンドだな、という印象が強かったんですけど、今回はその硬軟のレンジをよりハッキリつけ、リズム・パターンも新しいものを試し、さらに後半になると、一部で「レッド・ツェッペリンのようだ」とも評されるフォーク&大曲の展開へと流れていきますね。これをあくまで生のアンサンブル中心で表現しているところが、ギター・ロックの危機を感じているような人たちへの安心感と希望も与えていて、そこも良いと思います。

 

 あとエリー・ロウゼルのヴォーカルですね。彼女、声が細いキンキン声ですけど、こうした本来ロック的でない声を逆に武器に変えられるところは、PJハーヴィーの良き後継者な感じがして、そこも共感できますね。彼女がバンドのロック・クイーンとしてシーンの中で需要な存在でいる時間は長くなりそうな気がしています。

 

 それにしても去年がThe 1975に今年がウルフ・アリス。今のUKロック、この2バンドのレーベル、ダーティ・ヒットの一人勝ちですよね。音楽をたくさん聞くように育成している誰かがレーベル内にいたりするのかな?

 

 

8.The Navigator/Hurray For The Riff Raff

 

 

8位はフーレイ・フォー・ザ・リフ・ラフ。この人たち、名義はバンドになっていますが、プエルトリコ移民の女性シンガーソングライター、アリンダ・セガーラのソロ・プロジェクトのニュアンスが強いです。

 

このアルバムは、今年、せっかくトランプ政権が誕生し、いくらでもプロテストしようがあった1年においてそれがほとんど生かされなかった状況の中、数少ない、「聞くべきリリック」を持ったアルバムだったと思います。プエルトリコといえば、トランプからかなり意図的に徹底して差別意識を持っていじめられたところですからね。これ、レコーディング時期は昨年のはずなので直接トランプを攻撃しているようなものはないんですけど、それでも移民として小さなコミュニティの中で世知辛い生活を強いられ続けている同胞、そしてその本音をより広い層に伝えようとする彼女の強い気概を感じさせます。しかも「Living In The City(この町で生きること)」「Nothing's Gonna Change That Girl(誰もあの娘を変えられない)」など、すごくわかりやすい言葉でそれを訴え、クライマックスではスペイン語で、移民のパイオニアたちへの強いリスペクトの思いを絶唱するなど、プエルトリカンでなくとも思わず胸をわしづかみされる瞬間があります。

 

 さらに面白いのは彼女、この前のアルバムまでカントリー寄りのフォークの曲を歌ってたんですね。それがこのアルバムでは前半にルー・リード・スタイルのロックンロールが出てきたかと思うと、途中からはそのフォークやソウル、さらに自分のルーツであるラテン・ミュージックの影響までハッキリ出たものまで多彩に展開されます。

 

 これ、もう少し注目されて欲しかったんですけど、気にする人は気にしていて、イギリスではMOJOとUNCUTの年間ベストでTop10入りしてBBCの「Later With Jools」に呼ばれてテレビ・パフォーマンスもしています。アメリカでもNPRの年間ベストでトップ10入りしてましたね。

 

 

7.4:44/Jay Z

 

 

そして7位はジェイZ。これが今年の僕のベストの、ヒップホップでは最高位のアルバムになります。

 

もともとジェイZは僕と歳が同じこともあって兼ねてから共感とリスペクトを持った人ではあったんですが、今回はそんな彼の作品の中でも屈指のいいアルバムになったと思います。この10年くらいどこかから回っていた感もあったジェイZだったのですが、このアルバムでは、たった一人のプロデューサーとガチに向かい合って、ゲストも限られた人しか呼ばないという、昔ながらのヒップホップの作り方に立ち返っているのがいいです。最近のヒップホップの作品、あまりにも一曲ごとにプロデューサーが違ってゲストラッパーも多すぎで、何が実力なのかがわからない作品があまりに多すぎましたからね。

 

 そして、プロデューサー役を務めたNo IDの談話がまたいいんですよ。今回の彼、ジェイZにとってのラップ・セラピスト役までやってるんですね。あのジェイZに「このリリックはつまらない」とかってダメ出ししてたという!具体的には「ヤツ自身、もっと自分を掘り下げたリリックを出したいようだった。だからジェイZとしてもうみんなが知っているような話じゃなく、新しい話を引き出させた」とのことです。その結果が、ビヨンセへの浮気の謝罪から、お母さんのレズビアン・カミング・アウト、OJシンプソンへの批判、そして全てのビーフで許しあうことなどを歌った、これまでのジェイZに見られなかった新鮮なリリックにつながっています。

 

 あとトラックの中の三曲、スティーヴィー・ワンダーとソニー・ハザウェイとニナ・シモンの曲をサンプルネタに使っていたんですけど、これ、いずれもジェイZが自分のやってるストリーミング・サービスのタイダルの「ブラック・ライヴス・マター」に触発された「Music For Survival」という黒人のメッセージ・ソングを集めたプレイリストからのピックアップで、こうしたところからもコンシャスでスピリチュアルなものを作ろうとする彼の気概が伝わってきましたね。若いラッパーやプロデューサーからしたら地味な作りかもしれませんが、あえて時代の対局をいく、一本筋の通った、もはや現役第一線では長老クラスのラッパーだからこそできる貫禄の一作だと思いますね。

 

 

6.Masseduction/St.Vincent

 

 

 

6位はセイント・ヴィンセントです。

 

2014年のセルフ・タイトルの前作とそれに伴うツアーでの彼女は、「ああ、これこそがロックの最新型の姿だよ!」と思わせるものがありましたね。エレクトロ・ビートに彼女自身によるフリーキーなギターに加え、担当楽器プレイヤーの配置から衣装、体の動きにまでこだわった、徹底して「見られる」ことを大前提にしたステージでの自己演出。「ああ、こうして聴覚だけでなく、視覚でも最高のものを見せつけてくれる。これこそが最近のインディ男子に決定的に欠けているものなんだ」と思い、ここ最近のロック女子の元気さと、どんどん内に地味に篭るだけのインディ男子への苛立ちが募っていった(それは今もそう)ものでした。

 

 それから3年半。セイント・ヴィンセントは戻ってきましたが、最初は「どうかな?」とやや不安もありました。やはり前作があまりにも刺激的でかなりの完成度だったから。上回るのは容易なことではありません。実際、最初に「Los Angeles」聴いた時、「ちょっと地味かな」とも思いました。 しかし、いざしっかり聞いてみると、いやはや、ちゃんと進化はしていましたね。前作ほどギターは大暴れはしていないんですがそれと引き換えに肉感的なファンク感とセクシャルな雰囲気はさらに増量していましたね。こういうところは前年にプリンスを失ったばかりだったので「ああ、よかった。しっかり継承する人がここにいた」という感じで嬉しかったですね。

 

 そして今回は、果敢にもバラードやミュージカル調の遊びの曲までうまい具合に変化球を取り入れることができるようになって、聞かせる幅が広がりましたね。このあたりの感覚はLordeの「メロドラマ」も手がけた、元funのジャック・アントノフ(レナ・ダナムの彼氏)の手腕によるところも大きいのかな。彼がいなかったら、ポップに砕けたいところが硬いままで終わっていたかもしれません。ユーモアの感覚がヴィンセントの方にある分、僕はジャックはLordeよりは彼女の方と相性いい気がしましたけどね。

 

 二作連続の充実作で、これで彼女も英米でトップ10に入るアーティストになりましたが、持ってる潜在的実力からすれば、それでもまだまだな商業実績かな。でも、ボウイやプリンスのいなくなったロスをどこで埋めたらいいかはしっかり示されたアルバムだと思いますね。

 

5.Ctrl/SZA

 

 

5位にはSZA(シザ)が入りましたが、これも今年、かなり話題のアルバムでしたね。

 

彼女はケンドリック・ラマーのマネージメント、Top Dawgが力を入れてプロモーションした女性R&Bシンガーなんですが、これがまた、この言葉しょっちゅう使ってますけど、いわゆる昨年からのフランク・オーシャンとソランジュ以降の、ソフィスティケイトにソフィスティケイトを重ねた新世代R&Bのライン上にある人ですね。このアルバムはまさに、商業的にも批評的にも、昨年のあの金字塔的な2枚を今年に引き継いだ一作だと思います。凝って洒落たコードの感覚に、生楽器とエレクトロをその両者のコントラストがハッキリするような絶妙なアレンジ。この世代のR&Bって、クラシックで言うところのドビュッシーとかサティの雰囲気さえあるんですけど、独特の浮遊感と幻想感があります。

 

 そして、そうしたサウンドだけでなくて、SZA自身もかなり魅力的です。一つはまず歌い方ですね。彼女、すごくスラングで歌って文法もヒップホップのリリックみたいな感じで歌うんですけど、アクセントも「いったいどこの訛り?」っていうくらいに、かなりクセのある歌い方です。ちょっとレゲエぽいのかな。ただ、彼女、出身はニュージャージーで家もお父さんがCNNのエグゼクティブ・プロデューサーだったというから裕福な家のはずです。実際、彼女自身がインタビューで話す口調はかなり綺麗な英語ですからね。

 

 そして、さらに才能を感じさせるのがリリシストとしてのセンスですね。とにかく語感と状況設定がうまいんです。例えば、「昔の恋がジワジワと懐かしくなってくる」を「Love Galore(愛の霧雨)」という曲名で、ちょっと自分に自身のない、内気な恋の歌を、ドリュー・バリモアの代表作の一つ「25年目のキス」をイメージして、その名も「Drew Barrymore」という曲名にしてみたりね。彼女のリリックを読んでいると、他の女性と自分を比べて自身をなくしてしまう劣等感とか、孤独感から浮気が疑われるカレ氏の友人と恋に落ちたりなど、ストーリーの組み立ても立体的にうまいですね。

 

 この感覚、今、HBOでやってる「ガールズの黒人版」みたいなドラマ「Insecure(まさに「自信のなさ」という意味です)」にすごくピッタリなんですよね。今時の、都会の中流以上の黒人女性の日常を描いたコメディなんですが、頭も切れてファッション・テイストなんかもかなりいいのにどこか自信のなさや孤独感でちょっぴりペーソスある話になったりするドラマです。一回劇中で「Drew Barrymore」がかかったんですけど、あまりにハマりすぎてニヤリでしたね。

 

4.Pure Comedy/Father John Misty

 

 

4位はファーザージョン・ミスティ。

 

彼のことは、フリート・フォクシーズのドラマーとして覚えてくれている人も少なくないとは思うんですけど、2015年発表のアルバムの中の「Bored In The USA」 でのユーモラスな風刺がウケて一躍注目されるようになって、今回、かなりの期待を持たれてのアルバム発表でしたね。

 

 そして今回のアルバム、まあ何が驚いたって、この人のメロディ・メイカーとしての抜群のセンスですね。これ、現代版のエルトン・ジョンであり、ジョン・レノンであり、キャット・スティーヴンスであり、ジャクソン・ブラウンですよ!それがつまんないと思ったような批評もあったようですが、そんなの一切無視してください。これ、スタイルがどうとかの問題超えて、普遍的なメロディ書くセンス、メチャクチャ高度ですよ。ここまでのメロディ書ける人、この後でもいい時のエリオット・スミスとかライアン・アダムス、ルーファス・ウェインライトくらいのものですよ。基礎的な楽曲構築レベルが物凄く高いんですね、この人。これは軽視すべきではありません。確かに前作「I Love You Honeybear」でのエレクトロとか、ちょっとひねったフィル・スペクターみたいなアレンジの方がインディ・リスナーウケはするとは思うんですけど、そんな小手先の違いなどどうでもいいですよ。

 

 あと、リリックも今回は読んでて、ジェイムス・テイラーの「ファイア&レイン」の現代版みたいな世界観ですね。10分を超える大曲の「Leaving LA」とか「A Big Paper Bag」とかの曲に顕著ですけど、ドラッグ中毒と隣り合わせの彼の日常がかなり写実的に描かれていて、そこが興味深かったですね。あと、合間合間で見せるユーモアのセンスもさすがといったところか。

 

 あと、今年は古巣のフリート・フォクシーズも素晴らしいアルバムを出しましたけど、やっぱりオーディエンスと真っ直ぐに向かいあおうとする気持ちが強い分、こっちのアルバムの方に惹かれますね。両者とも英米でトップ10に入りましたが、勢いは今、圧倒的にこっちの方が上ですね。

 

 

3.Lust For Life/Lana Del Rey

 

 

3位はラナ・デル・レイ!

 

このブログを普段お読みの方なら、今年の夏頃に僕に空前のラナ・デル・レイ・ブームが来たのを覚えていらっしゃる方もいると思います(笑)。彼女のことは前から好きだったんですけど、このアルバムでその思いが溢れてしまいましてね。というのも彼女、デビューしてからここまで6年でアルバム4枚(それに加えて8曲入りEPも1枚)出しているという、今どき他にライアン・アダムスくらいしかやってないくらいの早いペースで作品作るのに、楽曲のクオリティにムラがなく、どれも水準以上の作品作ってるわけでしょ?まず。それが素直に物凄いことだと思ったし、誰も彼女みたいなキャラクターの作品とアーティスト・イメージ、作らないでしょ?そう考えると、今もっとも創作力あって個性あるアーティストって、彼女なんじゃないか?そう思ったら「すごいことだよなあ」と素直に思ったんですね。

 

 そしてこのアルバムは、一つは「全く変わらない」ところが圧巻です。それはたとえゲストにウィーケンドが入ろうが、ラッパーのASAPロッキーが入ろうが、スティーヴィー・ニックスが入ろうが、ショーン・レノンが入ろうが、彼女の以前から持ってるカラーが何もぶれない。結構、エレクトロだったり、トラップだったり、フォークだったり、いろんな要素入れてるのに、どう聞いてもラナ・デル・レイでしかない。そこにあるのは、いつもの通り、古き良き60sへのゴシックな憧憬。このフォーマット自体が何ら揺るぎません。

 

 さらにもう一つ特筆すべきが、逆説的かもしれませんが「大きく変わった」こと。これまでの彼女、登場した時のイメージが「Born To Die」だったり、フェミニズムに対して賛同しないかのような発言を行ったことで、ややもすると閉塞的で保守的な印象も抱かれたりもしたのですが、ドナルド・トランプという、彼女の中の精神的敵が登場したこともあり、今回のアルバムでそことは完全に一線を弾く姿勢を見せ、コーチェラにウッドストックをダブらせてみたり、広い意味での社会や地球への愛を口にすることで、彼女の本当の姿である「エリザベス・グラント」の本音の部分をさらけ出したり。だいたいタイトルからして「生への欲求」な訳で、「死ぬために生まれた」からは大きく変わったところです。

 

 このアルバム、「とは言っても、何も2017年を象徴する作品でもアーティストでもないから、僕が感じているようにこのアルバムを見てる人は少ないだろうな」と思っていましたが、案外注目度はあるようでして、年間ベストでもNMEが8位とか、ローリング・ストーンで26位、ピッチフォークで32位とか、届く人には結構届いていることもわかり、次作以降の期待もさらに高まるのでした。

 

2.Aromanticism/Moses Sumney

 

 

 

 そして2位はいきなり新人アーティスト、来ました!モーゼズ・サムニーです。

 

 彼のことは9月の末くらいから評判を耳にし始めて、出たばかりの際にダウンロードして聞いたんですけど、まあ〜。とにかくビックリしましたね、これは!今回の年間ベストに関して、僕は「フランク・オーシャン、ソランジュ以降のR&B」という言い方を頻繁にしているんですけど、これもそのライン上にあるとはいえ、もうその次元さえ超えてますね。これ、まるで、「21世紀突入以後のレディオヘッドがR&Bにトライしたらこうなった」みたいなノリですよ!もう、ギターとドラムの音色の使い方がモロですね。加えて、彼はファルセットの名手でもあるんですけど、裏返った際の声の伸びと神秘性がジェフ・バックリーとかシガーロスを思い出させます。曲によっては、そういう感じからいきなり全盛期のスティーヴィー・ワンダーが混ざるみたいな感じもあったりして。すごく浮遊感溢れるファンタジックな感覚ありますね。これ、どっちかと言ったら、R&Bのファンより、レディオヘッド・ファンをはじめとしたインディ・ロック・ファンの方がこれは刺さるんじゃないかな。

 

 だいたい、このアルバムのリリース元自体が、アメリカのインディ・ロックの人気レーベルのジャグジャグウォ−ですからね。その時点ですでに普通のR&Bではないのはわかるんですけど、これはあまりにも異形というか、黒人アーティストの一般イメージから出てくるとはちょっと思えないですね。

 

 しかもこの人、今時本当に珍しい、出自がほとんどわかんないんですよ。だいたい、かなり話題になったのにウィキペディアのページがないし、アルバムのクレジット探すだけでも結構骨なんですよね。わかってるのは、カマシ・ワシントンが参加した、というのと、拠点がLAってことくらいで、このかなりの完成度を誇る楽曲のアレンジを彼自身がやったのか、あるいはプロデュースに才人が存在するのかとか、そういうことがわからないんですよね。

 

 この謎解きの部分も含めて今後見てみたくなる、ものすごいニューカマーの誕生だと思います。

 

 

 

 では、行きましょう。沢田太陽が選ぶ、2017年間ベスト・アルバムTop50、第1位になったのはこのアルバムでした!

 

 

1.American Drem/LCD Soundsystem

 

 

はい!LCDサウンドシステムの「American Dream」でした!!

 

 これ、なんで1位なのかというとですね、まず一つは単純な話、13位までに入った候補と並べて一斉にもう一回聴いた場合に、これが一番カッコよかったからですね。その直前までは僕もこれが1位になることを予想してなかったんですけど、聞かせる力が潜在的にすごくあったアルバムだなと感心しましたね。

 

 で、「なんでカッコよく聴こえたのか」ということですけど、まず音色が「もう、これやられたらさすがに目がなくなるよね」というくらいに音色がカッコいい。エイフェックス・ツインとかジェイムス・マーフィーの作品って、どんなにエレクトロの音が世に浸透しようとも、他では絶対に聞けない鮮度の鋭角的な音を出すし、今回のアルバム、7年ぶりだったわけですけど、「ああ、これはやっぱり他では聞けないな」と思えるものでしたからね。それに加えて今回、ポストパンク・ギターが要所要所でキラーになってるでしょ?もう、ポストパンク・リバイバルの時代でもないですけど、やっぱりジェイムスの場合、あれが入ることですごくカッコよくなるし、ちょうどロックも今の状況だとまだ「この先」を示すものが明確にない状態ですから、これ、エレクトロの視点でも、ロックの視点でも、現時点ではやはりハイブリッドなものですよね。さらに今回のアルバムは、かのデヴィッド・ボウイに「君はなぜ活動休止なんてしたんだい?」と言われたのが発端となって作られた作品でもあり、意識してかしないか、サウンド・スタイルがベルリン三部作〜「スケアリー・モンスターズ」のボウイみたいにもなっており、いみじくもジェイムスなりのトリビュートにもなっているなとも思えましたね。

 

 

それからリリックですね。ジェイムスは類い稀なサウンドメイカーであるだけでなしに、社会風刺能力もある優れたリリシストでもあるんですけど、今回はそんな彼がこれまで以上に自分の鬱などを主題としたこれまで以上に内省的な心情を見せつつ、それでいて、トランプ政権誕生による世の閉塞感もしっかり表現している。でも、それでも「American Dream」という言葉をあえて標榜することの勇気。言葉の一つ一つがすごくリアルでもあるんですよね。聞いてて「本当はU2がこういうアルバムを作るべきなんじゃないか」と「アクトン・ベイビー」の頃など思い出しながら考えたりもしました。

 

 

 今思えば、「時代の流れに乗っていた」という意味では、2007年の「Sound Of SIlver」にはかなわないでしょう。あれは世がインディ・ロックからニュー・レイヴ、EDMへと変わっていく瞬間に出た時代の変わり目のサウンドであり、ニューヨークでの温楽シーンの拠点がマンハッタンからブルックリンへと遷都して行く瞬間を捉えたものでもあり、カルチャー・シティとして繁栄を築いていたニューヨークに対する憧憬と皮肉も絶妙に表現した、時代とともに生きた見事なアルバムでした。今回はそういう波はジェイムスには本来なかったとは思うんですが、自らの持つ才能と実力で7年の空白を物ともせず、もはやシーンにとって不可欠な重鎮として時代を再びモノにした文句なしの傑作だったと思いますね。このアルバムが今年の多くの媒体の年間ベストでケンドリックやLordeと匹敵してこぞって上位にあったのも大いに納得、というか当然でしょう!

 

 

 

author:沢田太陽, category:2017年間ベスト, 01:14
comments(3), trackbacks(0), - -
沢田太陽の2017 年間ベスト・アルバムTop50  20-11位

どうも。

 

 

では、年間ベスト・アルバム、続けていきましょう。今度は

 

 

 

トップ10目前だった20位から11位を見てみましょう。こんな感じでした。

 


20.Who Built The Moon/Noel Gallagher's High Flying Bird

 

 

20位はノエル・ギャラガー。21位のリアムと兄弟で続きました。最初はそうしてなかったんですけど、リアムがグングン上がったことによって接近し、「じゃあ」と思ってノエルの順位を下げたらこうなりました。でも、連番でも、別グループになったとこも、この兄妹らしくていいでしょ(笑)。

 

 このアルバムは、僕はかなり「やったなあ、ノエル!」と快哉をあげましたね。なんか、ようやく、オアシスの呪縛から離れることができたというかね。リアムは、やっぱりあの声なので、どうしてもオアシスらしい曲の方がカッコいいし聴く側もそれの方がしっくりくるんですけど、ノエルはソングライターだけど、やっぱりシンガーでは元々無いので、オアシスみたいな曲を歌い続けても最終的な説得力ではリアムにはどうしてもかなわない。だったら、もともとはソングライターなんだから、もっと自由にやってもいいのにな・・と思っていたら、今回思い切ってそれをやった感じですね。

 

 なんとなく、「変わりたいのかな」とはオアシスの「Don't Believe The Truth」のときに思ったし、ソロになって以降、多彩な楽器やデジタル・リズムも取り入れたがっていたのはなんとなく感じてはいたんですけど、ようやく彼固有の「くせメロ」から距離を置いて、一人の個人として自由に作ったなと。「オアシスというよりニュー・オーダー」みたいな曲もあるし(笑)。あと、このアルバムでもう一点好きなのは、アルバムの曲順を意識した、収録曲のそれぞれの楽曲の位置と役目までしっかりと計算して作れているなと思ったとこですね。だからすごくトータルにまとまって聞こえるし、そこまで気を配る余裕があったところにアルバムの充実があったのかな、とも思います。

 

 ただなあ。今はノエルのこのアルバムにもそれなりの感慨があるので彼のを上にしてますが、もしかしたら1年くらいした時、リアムのアルバムの方が好きになっている可能性はなきにしもあらずです。

 

 

19.Capacity/Big Thief

 

 

19位はビッグ・シーフ。アメリカはブルックリンを拠点にした、女性ヴォーカル+野朗3人のバンドです。

 

 これは僕的に、2017年の、ちょっと隠し球的な気持ちのあるバンドですね。2枚目のアルバムなんですけど、知ったのは今年のサウス・バイ・サウスウェストの頃でしたね。ブライト・アイズを輩出したサドル・クリーク期待のバンドということで、ちょっと期待してこのアルバム、これが2枚目だったんですけど、聞いてみたら沁みましたね。

 

 この人たち、ヴォーカルのアドリアンヌ・レンカーの、内側に呟き、語りかけるように歌う、壊れやすそうに繊細な歌世界がまずカリスマ性あるし、そこだけを聞くのでも十分に行けるのですが、僕はそれにくわえて、後ろの3人の演奏とアレンジに才能を感じていて、それとアドリアンヌとの歌の絶妙な相性とコンビネーションがいいなと思っています。いわゆる、90sから2000年代以降のフォーキーなインディ/オルタナティヴ・ロックの系譜にある人たちなんですけど、それこそブライト・アイズやウィルコに通じるアメリカン・ルーツ・ミュージックの要素を吸収しながらも、同時に演奏のタイトさとリズム感覚を聞いていると、「イン・レインボウズ」以降のレディオヘッドの要素も感じたりするところは、まだ20代のバンドらしい新鮮さがあると思いましたね。

 

 最近、アメリカのインディで、優れた女性シンガーソングライター、ソロのロックシンガーというのは結構少なくないんですが、ソロで聞かせるものがしっかりありながらも、バンドのアンサンブルのスケールの大きさまでを感じさせてくれるバンドとなると、ちょっと他に思いつかないですからね。世が世なら、今の時点でもそこそこセールスも伴う形でウケてたはずなのに、そうじゃなくて残念ではあるんですが、すごく力のあるバンドなので、長く残って実力を証明してほしいです。

 

 

18.Go Farthar In Lightness/Gang Of Youths

 

 

18位は、これも僕的な隠し玉、その2ですね。ギャング・オブ・ユースです。

 

 彼らはオーストラリアのバンドで、まだ大きな国際展開をしてない段階なんですが、いやあ、すっごいいいですよ!そのサウンドは例えて言うなら、ザ・ナショナルがブルース・スプリングスティーンとかストロークスとかU2を大きなスケールでやったみたいな、そんなバンドです。本当です!ここのフロントマンのデヴィッド・ルオペペっていう人、とにかく声が美声です。「技術のあるジュリアン・カサブランカス」みたいな感じでね。それが、ちょっと文学的で、やや宗教的なニュアンスも感じられる歌を歌うわけだから、そりゃカリスマ性も出ますね。

 

 実際、このアルバムが9月に出た時、これが2枚目のアルバムで、デヴィッドも25歳と若いんですけど、ローリング・ストーン・オーストラリアの表紙をいきなち飾ってて、初登場で全豪1位。そして先月には、オーストラリア版のグラミー賞であるARIAアワードでアルバム・オブ・ジ・イヤーにも輝いています。もう、今やオーストラリアではカリスマでかの国のメディアでこのバンドなりデヴィッドの姿を見ることも結構増えてきてますね。あの国、ロック盛んですけど、「GOY出てきたから、もう、しばらくはロックは大丈夫だ」くらいな気分なんじゃないかな。

 

まだ、なかなか聞く機会もないバンドだと思うので、動画貼りましょう。このパンキッシュで前のめりなアンサンブル!スタジオ・ライブでここまでできてることにただならぬヤバさを感じているんですが、そこに「火が消えちまったら、どうすりゃいいんだい?」という、スプリングスティーン調のスピリチュアルな暗喩による訴えかけが今の世の中、なかなか新鮮です。それこそ、ボスとか、エディ・ヴェダーに注目してほしい存在ですけどね。

 

 

 

17.Concrete And Gold/Foo Fighters

 

 

17位はフー・ファイターズ。

 

僕はフー・ファイターズに関しては、1995年のファースト以来ずっと好きなバンドであり続けているんですけど、今回何がいいかというと、「あのフー・ファイターズが変わった!」という事実ですね。彼らは多少作品によってハードになったりポップになったりしてますけど、基本的には”デイヴ節”による爽快な70s半ばくらいののアメリカン・ハード・ロックンロールの継承者だと思ってたんですね。そこにちょっとパンク世代的な味付けがされた感じというかな。これがいい意味で金太郎飴的な普遍さがあっていいよな、と思って愛していました。

 

 ところがこのアルバム、初めて試すものが多くてビックリしましたね!ちょっとメタル的なハードさは前作、あるいは前々作でも顔は覗かせていましたけど、今回の驚きはビートルズ・エッセンスの大胆な取り入れ方ですね。だいたい、彼らの曲でこれまで美しい3声ハーモニーなんて聞いたことなかったですからね!あと、サイケ期以降のジョン・レノンに顕著だった半音ずつ上がるコードとか。あと、ギターね。これまで重低音聞かせてストロークでガーッと鳴らしてたタイプのリフだったのが、今回、ストロークの腕っ節じゃなくて、アンプの振動の方をビリビリ言わせる、それこそビートルズの60s後半からジョンのソロの初期みたいな音色になってて。スプーンがまさにそのギターの音なんですけど、なんか、そっちの方向に近づいたなと。シングルにもなった「Sky Is The Neighborhood」とかテイラー・ホーキンスの歌う「Sunday Rain」がまさにそんな感じで。

 

 これ、僕、思うにグレッグ・カースティンのマジックかな、と思いますね。彼、こないだ書いた、リアムのアルバムのプロデューサーでもあるんですけど、多分、この両アーティストの仕事、同時期にやってて、頭の中が完全に「68年のビートルズ」になっていたのではないかと(笑)。そして、このあたりの音の感触が好きなんじゃないかな。それが両者ともに、これまでのキャリアをさらに深みを与えるものになっていましたからね。おそらくフー・ファイターズ、ここで作った音を元に今後新しいフェーズに入るんじゃないかな。なお、カースティン、ベックの「Colors」もやってて、そっちを絶賛する向きも聞きますが、すごいことですよね。

 

 

16.Yesterday's Gone/Loyle Carner

 

 

 

16位はロイル・カーナー。ストームジーのところでも書いたように、今年も引きつづいてUK産ヒップホップは充実の1年でしたが、僕的にそのシーンで今年トップだったのはロイル・カーナーですね。

 

彼のことはリリースが1月だったのかな。その時は存在は知っていたけど聞き逃して、マーキュリー・プライズにノミネートされた時にジックリ聞いたんですけど、ビックリしましたね。すごくジャジーに洗練されたり、ハイハットがシャンシャンなってスネアのヒットがタイトなあの感じ。90s初頭のイースト・コーストのヒップホップを思い出しましたね。トライブ・コールド・クエストとかマーリー・マールとか。イギリスの場合、まさにその当時にアシッド・ジャズのブームとかあったから、リアルタイムでトライブやデ・ラ・ソウルもウケてたことは確かなんだけど、そこからこういう音がUK方面から本当に長いこと出てこなかったよなあ、と改めてしみじみ思いましたね。

 

 そうでありながら、いざロイルがラップをはじめると、なんかすごく洒脱なイギリス人になって、あの上品な感じのブリティッシュ・アクセントを、魅惑の低音ヴォイスでスマートに決めるのもなんかカッコ良くてですね。今のイギリスにはストームジーみたいないかにもグライムなハウスを取り入れた人から、Jハスみたいにトラップとかすごく今のアメリカの影響を感じさせる人までいろいろいて、層の厚さも感じさせます。

 

 あと彼は、コリアン系のイギリス人だったり、女性蔑視発言をした客をライブから追い出したりとか、キャラクター的にも気になるところが多いですね。今後、ちょっと楽しみにして見てみようかと思ってます。

 

 

15.Sleep Well Beast/The National

 

 

15位はザ・ナショナルです。

 

 今やすっかり、「セクシーな大人のインディ・ロック」の代表格になりつつありますね。僕が彼らのことを注目したのは2007年の「ボクサー」というアルバムでしたけど、あの当時は本当に「知る人ぞ知る」バンドだったのが、その後の2枚のアルバムでたちまち商業的にもビッグになり、もう、この最新作に関してはアメリカで2位、オーストラリアで2位、イギリスで1位を始めヨーロッパのほぼすべての国でトップ20入りという大出世ぶりです。僕が知った当時、マット・バーニンジャーはすでに30代の後半だったんですけど、今、40代後半。むしろ、その持っている魅力からしたら、「適齢期」に差し掛かったくらいかな。50、60代に向け、枯れていけば枯れていくほど音楽の説得力が上がる。シーンにおいて、極めて稀有な存在だと思います。

 

 今回のアルバムも、その根本的な世界観には変わりはないんですけど、同じフォーマットの中、曲の使い減りみたいのが全然感じられず、一曲一曲に力強さを感じますね。メロディや楽器のフレージングもさることながら、歌われる歌詞の語感が常に新鮮だから、というのもある気がしますが。さらにサウンドの方も「今やキングス・オブ・レオンとかインターポールでも、こんなにヴィヴィッドに響かせてくれなくなったな」と思える2000s型のポスト・パンク的なインディ・ロックを高水準に鳴らしてくれる一方で、人真似でない、彼らのセクシーなメランコリックさに合う形での非常にゆるやかな感じのエレクトロ・テイストをまぶす事が出来たりしているのも強みですね。

 

 僕の場合、あんまりにもアダルトすぎると、今年出たウォー・オン・ドラッグスみたいに引きつけ起こす場合(ゴメンナサイ、本当に起きました、苦笑。だってダイア・ストレイツみたいなんだもん)があるんですが、こういうロキシー・ミュージックとかニック・ケイヴみたいな渋くセクシーな深化なら歓迎です。

 

14.I See You/The XX

 

 

14位はThe XX。

 

このアルバムは1月の発売ということや、リリース後の中押し、ダメ押しがなかったために12月の現在からすると過小評価されているようにも見えますが、すごくいいアルバムです。実際、イギリス1位、アメリカ2位をはじめ全世界的にヒットして、いろんな国のフェスのヘッドライナー、あるいは準ヘッドライナーで来ましたからね。ブラジルのロラパルーザでも準トリで、もう、それはそれはものすごい人気と人の波でしたよ。

 

 そして、そのロラパルーザでも言えたことでしたけど、この人たち、表情明るくなりましたよね。特にオリー。昔は絶対笑わない、低い声でブツブツ言うだけだったのに、今回のライブで満面の笑みでよく喋ってね。ロミーも、相変わらずおとなしくはあるんですが、よく動くようになったし、気持ちがすごく前に出るようになってきましたね。この前に出たジェイミーXXのアルバムがすごくフロア向きのアッパーなテイストがあったんですが、それが彼らの昔からのメランコリックでダークな世界観とうまく絡むようになってきたし、これまで以上にセクシーに聞こえるアルバムになっていましたね。もちろん、「ダークなカリスマのままでいてほしい」タイプのリスナーも彼らにはすごく多いんですが、ジェイミーのダンス・グルーヴあってのバンドだし、オリーとロミーがリアルな感じで自己表現できるのであれば、僕はこの路線は全然ありだと思います。

 

 もう、次あたりは完全にヘッドライナー・クラスの彼らですが、さて、どんな作品になるかな。

 

13.Science Fiction/Brand New

 

 

13位はアメリカのエモ・バンドのブラン・ニュー。

 

 これは僕は目からウロコの、本当にビックリしたアルバムでしたね。彼らのことは2002年だか03年に、「アメリカで注目され始めた、本格的なインディ・エモ・バンド」みたいな触れ込みで聞いたのが最初で、それ以降は追っていなかったんですが、これが今年の8月に出た時からエラく評判が騒がしく、遂には全米1位にまでなったので「なんだろう」と思って聞いたら、ちょっとした衝撃でしたね。

 

 これ、もう、「エモ」だなんだ、そうした次元を通り越した、ちょっとサイコパスで非常にアクの強いアルバムでしたね。何せSEに、精神病棟の患者のインタビューが挟まって、その合間に出てくる曲がもう、暗いのなんの!なんか、「パンク・バンドがピンク・フロイドの境地に達した」みたいなというか、はたまた、曲の大半がアコースティックなんですが、アリス・イン・チェインズのアコースティック・アルバムに近い感触というかね。静寂なのに猟奇性が混ざってるあの感じですね。それが痛々しくも、耳をそらすこともできずに、気がついたら向き合って積極的に聞いてしまっている、説得力と切迫感のあるアルバムでしたね。僕が方々でエモ・ラップを批判するのは、こういう、心の闇を高い音楽性とともに訴えているものが実際にあるからです。

 

 ただ、フロントマンのジェシー・レイシーという人は本当に病んだ人らしく、先ごろ、10年くらい前にやったと疑われている、女の子のファンの前でわいせつなな行為をしたことを暴露されてしまっています。これもme tooハッシュタグの余波ですね。僕はそれを聞いて、実はトップ5も夢じゃないくらいに好きだったところをトップ10から外しました。ただ、まだ疑惑の段階で、そんなに知名度が高いとは思えない日本において、良い作品なのに紹介もしないのではちょっと大げさかなとも思い、不吉番号の13位に置くということで対処しました。そんなオチまでなくても良いのになあ。

 

 

12,Melodrama/Lorde

 

 

そしてLordeは12位でした!

 

自分でもビックリするくらい低い順位になってしまいましたね。てっきり自分の中ではトップ候補としても考えてさえいましたからね。。やっぱ、僕の場合は「Royals」がビルボードのチャートを急上昇してる時からのファンだし、彼女が新世代代表としてカート・コベインやらボウイのトリビュートを見事にこなした時も嬉しかったし、彼女にこそ時代を作って欲しいと思いましたから。

 

 このアルバムも、すごくその期待に答えたと思うんですよね。あえてマニアックな方向に逃げずに、メインストリームの方向性で勝負して、今時の20歳の女の子の人生模様を1枚のアルバムのコンセプトにして、「現代版ケイト・ブッシュ」のようなアレンジで聴かせる。お見事だと思うし、作品自体にケチをつけようとは思いません。

 

 ただ、それでも僕の中ではこれ、猛烈とリピートして聞いたのがリリース当初のみで、あとはそんなに聴かなくなったんですよねえ。今回の上位13枚くらいは実はガチンコに全作をフルで聴き直して、その末に順位を決めているんですが、その時点でトップ10から落ちたんですよね。理由はですね・・、僕の中のどこかにこれ、Lordeがこの作品を後年「若けのいたり」みたいに扱ってあまり振り返りたくないアルバムになるんじゃないかって気がどこかでするんですよね。確かにポップから逃げなかったのは勇敢で素晴らしいことだし、大いに称えたいところです。でも、ちょっとポップに作りすぎちゃってるかなあ。プラス、今回、トップ10には実は6組くらい女子がいるんですけど、彼女達の作品の方が愛着がわいたし、その中にはここ数年、熱烈なファン状態の人が2人いるんですけど、彼女達の最新作とどっちが完成度と品格があるか、と言ったらその答えがLordeじゃなかったんですよね。

 

「多分、次で作ってくるであろう、ちょっとポップ色抑えてくるだろう作品の方が僕は好きなんじゃないか」。なんかそんな気がしてしまうんですよね。多分、それは僕の好みだけの話で、一般的にはそうじゃないのかもしれませんが。

 

 

11.Damn/Kendrick Lamar

 

 

 そしてケンドリック・ラマーが11位でした。

 

 これ、前もこれだけチラッと話しましたけど、「主観を完全にゼロにして客観性だけで選べば、これが1位になってしかるべきアルバム」だと、今持っても思います。ぶっちゃけ、何もケチつけるとこはないんです。今の彼の変幻自在の驚くべきラップ・スタイル(曲によっては、よく舌と腹筋が持つなと思えるほど、物理的にあまりに無理な曲もあるし、笑)で、強い社会性と、皮肉と、ポジティヴなメッセージ性のあるリリックを自在に操られ、曲も硬軟取り混ぜてなんでもできたとか言ったら、そんなの無敵に決まってます(笑)。

 

 今回の場合はとりわけ彼のラッパーとしてのヴァーサタイルな面が最も発揮されたアルバムになりましたね。彼の金字塔的代表作である「good kid MAAD CITY」 は彼の出自、「To Pimp A Buttefly」は今日のブラック・コミュニティの姿と、ある程度テーマ性と統一性をもたせた作品でしたが、今回はあえてそうした統一的な主題から離れて、客観的なお題とともに抽象性のあるものを複数、それを前作のようなジャズ・テイストにこだわるでなしにトラップから歌からなんでもこなすので、自由なだけ、彼の力量を存分に発揮できてるような気もします。

 

 聞いてて、これ、エミネムで言うところの「エミネム・ショウ」を思い出すし、実際、そういうレヴューを書いてる人も幾つか例も見てますけどね。ただ、僕の場合は、そここそが気になったのです。僕の中で「エミネム・ショウ」というアルバムはいい作品ではあるんだけれど、「スリム・シェイディLP」とか「マーシャル・マザーズLP」ほどかけがえのないものとして聞けるか、と自問した場合、そうではない。やっぱり最初の2枚の限定したコンセプトの中で発揮した表現の方が今も愛おしいんですよね。僕はケンドリックの場合も、それと同じ理由で後年そこまで愛せなくなるんじゃないかな、と思い、それがトップ10から漏れる大きな理由にもなったわけです。まあ、Lordeにせよ、ケンドリックににせよ、「他で十分騒がれているし、今さら僕が追加で騒がなくてもいいよね?」という気持ちも正直ありました。でも、優れた作品であることに異論は全くないですけど。

 

author:沢田太陽, category:2017年間ベスト, 00:15
comments(0), trackbacks(0), - -
沢田太陽の2017 年間ベスト・アルバムTop50  30-21位

どうも。

 

 

では引き続いて行きましょう。

 

 

 

こんな風になった、2017年の僕の年間ベスト・アルバムの30位から21位です。ここは一部デーマがありますが、それについてはおいおい触れて行きます。では30位から。

 

 

30.Harmony Of Difference/Kamashi Washington

 

 

30位はカマシ・ワシントン。

 

 カマシはこの一つ前のアルバムが話題になってましたね。僕のロック系の友人でも結構多くの人が聞いてて、「最近のジャズ、本当に一部の新しもの好きのロックファンに刺さってるんだなあ」と思った記憶があります。ただ、その時のアルバムがすごく長かったのと、僕が普段ジャズに手を出さない性分なのでチラッとしか聞いてなかったんですね。

 

 ところがこれを聞いた時に「うわっ、これは美しいわ!」と思ってハッとしましたね。僕、ジャズはマイルス、コルトレーン、オーネット・コールマンの代表作くらいしかちゃんと聞いてなかったりするんですけど、そんな僕が「ジャズ初心者にこういうアルバムがいいよ」と素直に思いましたからね。これ、ジャズの技能のこととかわかんなくても、とにかくメロディ・ラインが美しく、ホーンのアンサンブルが綺麗ですね。これだけで感覚的につかまれるんですが、それプラス、70s初期のソウル・ミュージック黄金期のようなリリカルなベースラインに、皮の響きのカツーンとした音がカッコいい複合的なスネアのリズム。そして懐かしく暖かい響きのあるハモンド・オルガン。パッと聴きは60sから70sのファンキー・ジャズみたいなんですけど、ヒップホップも通過した後追い世代なりの感覚がどこかに入っているから、トラディショナルな様式は守ってあるんだけど、どこかすごくコンテンポラリーなんですよね。そこがすごく新鮮かつ不思議です。

 

 今年、ジャズ畑の注目の一枚は世間一般にはサンダーキャットの「Drunk」のようなんですが、僕はあっちは正直、「アース・ウィンド&ファイア好きだった人が好きそう」な感じの70sのアーバンなAOR系フュージョンな感じがしてそこまでグッとこない(逆にAOR好きな人にはたまらなさそう)感じだったんですけど、今回のカマシの方がもっと大きな普遍性が個人的に感じられる分、僕の好みではありますね。

 

 

29.4eva Is A Mighty Long Time/Big KRIT

 

 

29位はBIG K.R.I.T.。

 

彼は今年の掘り出しものの一つでしたね。なんとなく名前を知っていた程度で聞いたことはこれ以前になかったんですが、これはもう、微笑ましいまでのアウトキャスト・フォロワーでしたね。ジョージア州アトランタといえば、今やもうトラップ系ヒップホップの最大の都なんですが、さしずめKRITは「おい、ちょっと待ってくれ。アウトキャストのことを忘れちゃ困るぜ」とばかりに、彼らが得意としたジミヘンばりのワウワウ・ギターに、ゴスペルやブルーズといったサウスにまつわる伝統音楽をぶち込むさまを聞いてると、「スタンコニーア」「スピーカーボックス/ザ・ラヴ・ビロウ」と言ったアウトキャストの傑作アルバムを彷彿させる瞬間があります。今のトラップもそれはそれでクリエイティヴなことをやってはいますが、この地が生んだ素晴らしいヒップホップの伝説を受け継ぐ存在というものは絶対いてしかるべきだと僕も思います。

 

 しかも今回これ、2枚組なんですよ。聴き倒すの結構大変なんですが、このヴォリュームも「スピーカーボックス/ザ・ラヴ・ビロウ」を継承するものだと思います。こういうのに逆に触発されて、引退状態のアンドレ3000が復活しないかなあとも思うんです けどね。

 

 あと、最近かなり人気の白人ラッパー、ポスト・マローンの一言多いツイートに「聞くべき何かを求めるなら最近のヒップホップは聞く必要がない」というのがあってかなりの騒動になってるんですが、反対派が「最近の聞くべきリリックを持ったラッパー」としてこぞってあげていたのがケンドリック・ラマー、Jコール、そしてビッグKRITだったことも追記しておきますね。

 

 

28.Spirit/Depeche Mode

 

 

28位はデペッシュ・モードの「Spirit」。

 

彼らのことはそれこそ中高生の時から知って聴いてはいましたけど、本当に息の長いグループになったものです。アリーナ級になってからも軽く30年近くの月日が経ちますが、未だにアルバムのリリース間隔が4年より長く間ことが一度もありません。まず、これがすごいことです。そして、ここ最近の作品を聴いてると、「電子音使った音楽なのに、年輪を重ねたことによる枯れた味わい」、そういうものが出せるようになってきて、また面白くなってきていました。そうしたことから、聞く前から「今回はなんかすごく良さそうだぞ」という気分がありました。

 

 そしたらドンピシャでしたね。今回のアルバムは、ドナルド・トランプをはじめとした、ポピュリズムの台頭に関しての彼らの強い怒りを表現したアルバムで、それがゆえに「DMがポリティカルなことを歌うなんて昔のポリシーに反している」みたいなネガティヴな批評も一部であったりはしたんですが、やはり、何らかの強いモチベーションが働いた時というのはメロディや歌声にもそれが反応されることが多いです。今回のこのアルバム、少なくとも2005年の「Playing The Angel」、僕もそうだし人によっては93年の全米No.1アルバム「Song Of Faith And Devotion」以来の傑作にあげる人も少なくない。それくらい、力強さと楽曲の説得力に溢れているし、前述した涸れた味わいも過去最高になっていますね。

 

 そしてこれ、世界でのセールスがすごいんですよ。英米はともに5位でそんなでもなかったんですが、ドイツ、フランス、イタリア、そしてポーランドを初めとした東ヨーロッパで軒並み1位。そしてこのアルバムのツアーで150万人以上の動員を記録していて、今年のツアーの興行収入でダントツの世界一なんですって。こういう事実はちゃんと逃さない方がいいですよ。

 

 

27.Broken Machine/Nothing But Thieves

 

 

27位はナッシング・バット・シーヴスのセカンド・アルバム。

 

 ここから10位台まで若い人たちが多くなりますが、彼らもその一つです。彼らは前作も全英トップ10ヒットで早くから人気だったんですけど、このセカンドで化けましたね。デビュー時はいかにもなMUSEフォロワーだったんですけど、このアルバムでダイナミックなハードな曲と、ちょっと変化球的な引きの曲との緩急のバランスが絶妙になりましたね。加えて、ここのシンガーのコナー・メイソン!彼のヴォーカルがとにかくハイ・レベルですね。最近の若手のロックシンガーで、ハイトーンの伸びとアタックの強さ、朗々とした声の響かせ方、これらの技術がここまで備わっている人、そうはいないですよ。実際、BBCのスタジオ・セッションで彼がジェフ・バックリーのカバーをしているのを聞いたことがあるんですが、あんな難易度F級のジェフ・バックリーを難なく歌いこなしてましたからね。あれ聞くと、ほとんどの人、ビビると思います。

 

 ただ、そこまで実力のあるバンドの割に、ちゃんとレビューしてるメディアが少ないこと!なんか裏があるのかもしれないですけどね。「作られたバンドだ」とか、「俗っぽくポップだ」「面白くない」とかなんとかいうので。でも、仮に彼らが「作られたバンド」で「ポップ」で「面白くないバンド」であったとしても、「だったら、すごく売れるバンドになればいいじゃん!」としか僕は思わないですけどね。少なくとも、こういうバンドが売れて一般にとってのロックの顔になってくれた方が、今現状、イマジン・ドラゴンズがそうした立ち位置にいるより断然健全だとすら思うんですけどね。コンテンポラリーな若いロックが本当に一般に聞かれなくなっている今だからこそ、こういう大衆性とパフォーマンスでの実力のあるバンドに育ってもらいたいですけどね。

 

 

26,Crack Up/Fleet Foxes

 

 

26位はフリート・フォクシーズ。

 

 彼らにとっては今作が6年ぶりのアルバムでしたが、クオリティ的にはさすがでしたね。彼らって、いわゆるフォーク・ロックとか60sのサイケデリアのリバイバリストみたいな見方もされがちですが、それはあのCSNYみたいなヴォーカル・ワークによるものだと思うのですが、それはあくまで組み合わせのパーツにすぎません。それを証明したのがこのアルバムですけど、いやはや、頭の中がすごいことになっていますね。表面的にはフォーク・ロックなんですけど、多くの曲で組曲形式になっているような複数の楽曲要素が組み合わさったものになっていて、それはさながら「フォークロック内プログレ」の様相も見せていますね。あるいは、「レディオヘッドがペット・サウンズをやったらこうなった」ともいうべきか。作っているものそのものは壮大な凄い作品だと思います。

 

 それにもかかわらず、僕の順位がそこまで高くない(実は直前までトップ20に入れてたのに外してます)のは、彼らの音楽シーンに対してのスタンスにどうも共感できないことですね。まだ、30歳いくかいかないかの若いバンドにもかかわらず、貴重な20代後半に仙人みたいに沈黙を決め込んで、6年も時間をかけてアルバムを作る・・なんてことは正直、僕は望んでないですね。40代のバンドじゃないんだから。せっかくロックを牽引できるくらいの素質があるんだから、積極的にアルバムを作って世代を牽引するくらいのバンドにならないと。いや、意識してそうなるんじゃなく、作品を積極的に出していくうちに自然とそんな風になっていくようにしないと。そういうとこも、USインディのこの世代が僕にはもどかしい理由の一つですね。せっかく今回もすごいものを作ったにもかかわらず、各媒体の年間ベストの順位も今ひとつ高くないのは、作品そのものよりも、思わず肩入れして応援したくなるような姿勢を見せてくれないからだと思いますね。次作はもっと早いペースで、人目に触れるのを恐れずにツアーなりなんなり、もっと目立ったことやってほしいですね。

 

 

25.Cigarettes After Sex/Cigarettes After Sex

 

 

 25位はシガレッツ・アフター・セックス。

 

 このバンドのこのアルバム、今年デビュー・アルバムを出したバンドの中でも、これはかなり秀逸だったと思います。この、いかにもセルジュ・ゲンズブールにでも耽溺していそうなナルシスティックなバンド名ですけど(笑)、思い切り名を体で表したような、あまりにそのまんますぎる、すごいか細い声で囁くように歌われる、セクシーでメランコリックなドリーム・ポップ。ジャケ写のこの4AD感も「ああ、わかってるね(笑)」という感じで。いかにもドゥルッティ・コラムとかコクトー・ツインズ、そしてジョイ・ディヴィジョンとか聞いてます、という感じの、黒の感じもいいですね。ここまでわかりやすいイメージ展開って、デビュー当時のThe XX以来じゃないかな。それでいて本人たちはアメリカ南部の出身で、フロントマンは生え際の後退したヒゲがボーボーの人、というギャップも良いんです(笑)。

 

 このアルバム、アメリカではチャートインせず、イギリスでも27位という成績だったんですが、国際的なウケがよく、ベルギーではトップ10入り、フランスやドイツでもトップ40前後まであがるヒットになっているんですね、これが。こういう売れ方する場合、国際的なアクトになる可能性が高いので、僕も注目しています。そして、実は彼ら、週明けにブラジルに来るんです!今度の水曜にライブをやるんですが、僕ももうチケットも買ってて見に行きます。これも結構、チケットの売り上げが良いみたいなんで、口コミで広がるタイプなんだと思いますね。

 

 

24.Culture/Migos

 

 

 24位はミーゴスの「カルチャー」。これも大ヒットしましたね。

 

 ここんとこ、ヒップホップで世代闘争みたいのがあって、上の世代が若い世代のマンブル・ラップとかエモ・ラップを批判する傾向にあります。それに関しては僕も概ねでは実は賛成していて(とりわけエモ・ラップは本当に苦手。リリックがドラッグと死を扱うというのでシリアス風に見せてるのを免罪符に音楽ひどくていいのかよ!)、ラップも基本的に満足にうまくない、派手な髪型とファッションばかりが目立つ。プロデューサーも一曲ごとに変える。フィーチャリング・ラッパーが多すぎで、その豪華感だけで売っている・・。ひところのインディからの突き上げでシーンが再活性したのが嘘みたいで僕もこういう現象にはガッカリです。

 

 とはいえ、アトランタのトラップ勢に関しては僕は肯定的です。あそこはトラップがブームになる前からラッパーもトラックメイカーも切磋琢磨してたとこだし、ラッパーならフューチャー、トラックメーカーならメトロ・ブーミンというアイコンが筆頭となる形でシーンができていってたわけだし。このミーゴスも、「マンブル(ブツブツ)」って言われるかもしれないけど、だけど、クウェイヴォ、オフセット、テイクオフの、独特のリズム感と語感のコール&リスポンスによるマイクリレーは実に鮮やかだし、トラックにしても、メトロを始め、ゼイトーヴェンとかのトップのトラックメイカーが選りすぐりの作品を彼らに集めている感じもするしね。

 

 この勢力に関してはフューチャーの2枚一気のアルバムも、リル・ウージ・ヴァートも、21サヴェージ、ヤング・サグも、アルバム、なかなか良かったんですけど、やっぱり「代表」となると、このアルバムだったかな。やはり、あのマイクリレー、あれはヒップホップ史に残るものがあります。あとは、悪貨に駆逐されないように踏ん張ってほしいものです。

 


23.Slowdive/Slowdive

 

 

23位はスロウダイヴ。

 

伝説のシューゲイザー・バンドの、実に22年ぶりの新作ということでまず話題になり、それがすごく良かったものだから、輪をかけて騒がれたアルバムですね。イギリスでも、過去最高のヒット、16位を記録し、「むしろこれから!」の印象をシーンに与えているのはすごいことだと思います。

 

 僕自身はですね、当初、このアルバムに気後れしてたんです。「もともと、シューゲイザーのファンではないからなあ」と。リアルタイムはおろか、後追いでもそれほど聞いてきてないし、名前のよく似たスワーヴドライヴァーは好きで聴いてたけど、この人たちはアルバム単位で抑えてなかったんでねえ。なので、今回のブームにも、「入っていいのかな」と遠慮してるとこがあったんです。なので、当初、ここまで上の順位にしてなかったんですね。

 

 ところが聞き返してみて、今回、なんでこれが話題になっているのかの理由が、そんな僕にもスンナリわかったんですよ!「ああ、これは”シューゲイザーがどうだ”とか、そういうの関係なしに、普遍的にいいアルバムだな」と。もちろんシューゲイザー特有の浮遊感溢れる轟音に、囁くようなセクシーで儚げな女性ヴォーカルというのも魅力です。でも、そうした表向きに目立つもの以外でも、例えばギターのリフのセンスが凄く良かったり、凄くスケールの大きな楽曲展開(ここ、特に重要ですね!)ができたり、一度聞いたらしっかり覚えることのできるメロディ・ラインがあったり。「なんだ、ギター・バンドとしてものすごく優れてるじゃないか!」と見直したんですね。ここまでの才能がありながら22年も封印してたとは。「タラ・レバ」は禁物とは言いますが、もし、しっかりとした活動をしていたならば、今頃もっとすごいカリスマになっていたのかもなあ、と思わせるものは確実にありましたね。

 

 これで、マイ・ブラディ・ヴァレンタインに接近するもう一つのこのジャンルのカリスマが出来たな。そう思わせる充実の傑作だと思いますね。

 

22.4 Your Eyez Only/J.Cole

 

 

22位はJコール。

 

このアルバムは正確には昨年の12月のアルバムなんですが、無視するには非常に惜しいアルバムなので、ピックアップしてみました。このJコール、日本からはあまりそうした意見を聞きませんが、アメリカのヒップホップ・ファンの間では「ケンドリック・ラマーの最大の対抗馬」として見られている人です。ヒップホップの熱心なファンであればあるほど、この2人の名前をよくあげます。

 

「なぜ、そうなのかな?」と思い、この1年、彼の旧譜も含めよく聴いたんですが、この人はですね、言うなれば「今のヒップホップ界最高のガチンコ・ラッパー」なんですね。彼はトラックを自分のクルーだけで作り、そのクルーで生演奏でライブ・ツアーも積極的にやります。さらに、アルバムにはゲストのフィーチャリングも一切しません。少なくとも、ここ2枚、そうしたアルバムを作っていますね。それで全米1位になったラッパー、20数年振りという記録まで作っています。こうしたところからも、彼の強いリアルなものへのこだわりを感じさせます。

 

 そして、このアルバムはコンセプト・アルバムです。話が物語になっていて、ドラッグ・ディーラーだった男が改心して家庭を持って真っ当に生きようとするも殺される。その男の小さな娘に当てた遺書」という設定で、ジャジーな生演奏主体のトラックに乗って、社会意識の強いポジティヴな人生のメッセージが発せられる、というものですね。ストーリーそのものはクリシェではあるんですが、いざ、彼が真摯なフロウを紡ぎだすと切実な切迫感があるというか。ケンドリックほど技巧の利くタイプのラッパーではありませんが、ラップも歌も無骨でストレートながらもハートにしっかり届けるタイプです。

 

近くケンドリックと久々の共演もするそうで話題になっていますが、注目されて欲しい人です。

 

 

21.As You Were/liam Gallagher

 

 

 そしてリアム・ギャラガーは21位でした!

 

 ただ、このアルバム、前もここに書きましたけど、すごく好きなんですよね。自分でも予想した以上に。なんかですね、利く回数が上がれば上がるほど染みてくるんですよね。そのくらい、曲がすごく丁寧に書けた作品で、リアムの声で歌われることにすごく説得力があるアルバムだと思います。

 

 これはリアムの声もさることながら、グレッグ・カースティンをはじめとしたソングライティング・チームの勝利だと思いますね。今回、リアムがソロになるということで、本来のリアムらしい「オアシスっぽい曲」というのはかなり念頭に置いて書かれたと思うんですけど、これ単に「リアムっぽい」というだけでなく、リアムの声がもともと似ていたジョン・レノン(鼻にかかったとこですね)の「ホワイト・アルバム」以降のメランコリックなメロディとソリッドなギターのニュアンスまでしっかり嗅ぎ取ってアレンジを作ってますね。だからただ単に「オアシスっぽい」というだけでなく、もっと普遍的な楽曲の良さが滲み出たものとなっていますね。このポイントは見逃さない方がいいと思いますね。

 

 このアルバムはイギリスで出た当初にバカ売れしてるんですが、トップ10に5週、最新の週でもチャートイン9週めで17位から18位にワンランク下がっただけという、かなりロングヒットしそうな兆候を見せています。いやあ、良いことです。ナッシング・バット・シーヴスのとこでも言いました(そう、これがテーマです!)けど、これ、「大衆に向けてのロックの理想」みたいな音になっています!こういう音が、イマジン・ドラゴンズに代わって(笑)、一般のキッズたちにアピールするくらいが、本当は一番良いんですけどね。こういう音を出す若いバンドが出てこないと。あと、ここからヒット曲も欲しいですね。「Wall Of Glass」「Bold」「China Town」「Universal Gleam」と、そうなるポテンシャル持った曲も多いのでね。

 

 

 

author:沢田太陽, category:2017年間ベスト, 00:30
comments(0), trackbacks(0), - -
沢田太陽の2017 年間ベスト・アルバムTop50  40-31位

どうも。

 

では、2017年間ベスト、今日は

 

 

こんな感じになった、40位から31位行きましょう。なかなかバラエティに富んだと思ってますけども。

 

では、40位から行きましょう。

 

 

40.Carry Fire/Robert Plant

 

 

40位はロバート・プラントの「Carry Fire」。

 

僕の場合、レッド・ツェッペリンはロバート・プラントのソロ・アルバムまで含めて重要だという、捉え方をしています。とりわけ、2002年に発表した「Dreamland」というアルバム以降はどれも良い。というのは、ここから現在につながる「一人フィジカル・グラフィティ」状態が始まったというか、フォークとブルーズを基調に、そこに若干のワールド・ミュージック色を加えたロックンロールというか。とりわけ、ジャスティン・アダムスっていう、今の彼のバンドのギタリストと組むようになって、こういう路線が自在にできるようになりましたね。

 

 路線が固定されているので、あえてこの前の作品との違いについて語る必要もあまりないのですが、安定して「彼らしい」作品を提供し続けてますね。今回も変わらないのだけれど、「プラント、聴いた」という気分にはしっかりさせてくれますからね。表現方法の違いこそあれ、ポール・サイモンがやり続けていることを、音楽の構成要素の配分の違いで表現している感じもありますね。

 

 プラントといえば、ソロで活動し続けている傍らで、ずっと「ツェッペリン再結成待望論」を囁かれる人ではあるんですけど、2000年代に入ってからのソロでの作品のクオリティ考えても、オリジナル曲でペイジやジョーンジーがここまでの曲を書けるとも正直思えないので、このままそっとしてあげた方が良いのではと思います。

 

 

39.V/Horrors

 

 

39位はザ・ホラーズの5枚目のアルバム。

 

いわゆる、イギリスの「ポスト・アークティック・モンキーズの世代」って、不遇というか、生き残った人、少ないんですけど、The XXとフォールズほどビッグにはなっていなくはあるのですが、ホラーズは安定した固定ファン層をつかんだカルトなカリスマ化してますよね。立派だと思います。あの初期の、「一発屋?」とも思われた猥雑で刹那的な感じ(あれはあれで好きなんですが)から、よく脱皮できたものだなと思います。

 

 ある時期からはヴォーカルのファリスのバリトン・ヴォイスを生かした、メランコリーかつメロディックな路線に転じていましたけど、今回はミドル・テンポの曲の説得力が素晴らしいですね。あの、独特のモワッとしたアンビエントなやや重い感じを生かしつつ、そこに乗るメロディとファリスの声の艶やかさが光りますね。ある時期からイギリスのインディ・バンドも「困ったら、エレクトロに手を出しちゃえ」みたいな安易な方向性が見て取れてそれが嫌だったりもしたんですけど、このアルバムは、そうした手法に頼らず、あくまで、「ホラーズだから表現しうること」に徹している感じで、そこが彼らの孤高のオリジナリティを磨いているな、とも思いましたね。

 

・・と思って聴くと、最後の数曲だけ、ちょっとエレクトロっぽいので、そこがやや浮いて統一感を失うんです(苦笑)。これさえなければ、30位以内に入れてたんだけどなあ。いや、ラストのシングルにもなった「Something To Remember Me By」、いい曲なんですよ。エレクトロやらせてもセンスはあるのは認めるんだけど、なんか違和感は残るんだよなあ。

 

 

38.Flower Boy/Tyler, The Creator

 

 

 

38位はタイラー・ザ・クリエイター、4枚目のアルバム「フラワー・ボーイ」。

 

この人は、オッド・フューチャーがLAのアンダーグラウンドで話題になった2011年から注目されてた人で、ラッパーとは思えないボーッとした風貌とユーモアのセンスで個性も抜群なんですが、なぜかこれがアルバムになると、途端にフツーというか、なんか潜在能力を活かしきれていない不完全燃焼な感じが残って、どうも聞くのがもどかしい人でもありました。

 

 それが今回、ようやく、そのかねてからの将来性への期待に応えるアルバムを作りましたね。今回はトラックが、まさに「フランク・オーシャン以降」とでもいうべき(本人自身も参加)、コード進行とアレンジに凝ったかなりソフィスティケイトされたものになっています。だいたい、しょっぱなの曲からクラウト・ロックのCANの「スプーン」をサンプリングしたりもしてますしね。しかもタイラーは今回これらのトラックをちゃんと自分で手がけてるんですよね。前からトラックは自前で自給できる人ではあったんですが、「ここまで出来るようになったんだ」と思うと、嬉しい手ごたえを感じますね。

 

 あと、本当のところはまだ明確ではないですが、このタイトルといい、ジャケ写といい、自身の性的指向をほのめかしている感じも、作風のアイデンティティにつながったとこもあるのかな、とも思いましたね。

 

 

37.To The Bone/Steven Wilson

 

 

37位はスティーヴン・ウイルソン。

 

 この人のことは、このアルバムが8月にいきなり全英3位に上がるまでは知りませんでした。この人のやってたポーキュパイン・トゥリーというモダン・プログレバンドのことは、彼でなく、元ジャパンのリチャード・バルビエリがキーボードで参加していたバンドという認知で、ヨーロッパ圏では2000年代にかなり人気のあるバンドだったことも知ってはいたんですが。プログレにそこまで思い入れがなかったこともあり、ノー・マークだったんですが、このアルバム、イギリスで3位になったばかりでなく、ドイツ2位、オランダ4位、フィンランドは1位で、フランス、イタリア、スペイン、オーストラリアで軒並みトップ30、アメリカでさえ58位まで上がっていて、プログレ・ファンのコミュニティの広さを改めて思い知りもしました。

 

 その中心人物だったスティーヴンの、これが5枚目のソロ作です。ただ、プログレと言っても、もちろん長い曲もあるんですけど、大半は別に組曲とかでない、オーソドックスな曲構成だし、ラッシュとかジェネシスの70年代を思い起こすようなメロディックな曲ではあるんですが、彼はいわゆる90sのブリットポップのアーティストとほぼ同世代ということも影響してるのか、別にそうしたUKロックが好きな人でも全然余裕で入れる敷居の低さがあります。その、コンテンポラリーなポップ感覚をしっかりと保ちながら、しっかりプログレらしい変拍子やメロディ・センスを使い、時にダイナミックな長い曲(このアルバムでの最長は9分台)もやる、という感じで、プログレに偏見がある人であればあるほど入りやすい感じになっています。

 

 この人のことを知ったのは、少なくとも僕にとってはロックの視界を広める意味で意義あるものだったと思っています。

 

 

36. Gang Signs&Prayers/Stormzy

 

 

36位はストームジー。

 

去年に引き続き、イギリスはUKヒップホップ、グライムのブームだったんですが、その中で商業的な面で牽引者となったのはストームジーでしたね。元々、彼が最近のシーンでは筆頭人気に見られ、今年の初め頃、満を持してのアルバム・デビューで期待されたものでしたが、リリースと同時にシングル・チャートにダウンロードでたくさんの曲が入ったのも印象的でしたね。

 

 このアルバムですが、こと、「エンタメ感」においてはグライム・ブームの中でも最高でしたね。UKヒップホップの一つのお家芸でもあるハウス色の強いトラックに、彼自身の声を裏返しながら捲したてる高速ラップ、そしてヴォーカルまでできる器用さ。こうしたヴァーサタイルな感じは、他の同系のラッパーにはない多彩さでしたね。こうした面はすごく楽しめました。

 

 ただ、その勢いが今年の後半まで持たなかったこと、必ずしもUKヒップホップの今年最高のアルバムに選ばれることが少ないのは、ややパターン化した作りが課題だからかな。このアルバムを聴いてて、ハウスっぽいトラックに戻る瞬間というの3回は出てくるんですが、「もしかして、同じ曲、3曲やってない?」と思えるくらい、ちょっとワンパターンなんですよね。こういうとこでの切り抜け方を覚えると、文句なしの傑作が今後作れるかな。

 

 

35.After Laughter/Paramore

 

 

35位はパラモアですね。

 

 このアルバムは、世界の結構いろんな年間ベストにランクインしてますね。それがインディ・ロックのメディアでまで目立つんですよね。そこまで高い順位ではなかったりもしますけども、50位以内にはなんとか入ってたりして、どこのメディアも無視していない存在になってますよね。

 

 僕にとっても、これは微笑ましいアルバムで、彼らが昔のエモ・スタイルにこだわらず、音楽的に意欲的に成長を続けていることが証明されて嬉しかった1枚です。でも、ぶっちゃけ言うと、その変化って、今作からではなく、2013年の前作にはもう始まっていたんですけどね。前作の「Paramore」ってアルバムでもう彼ら、すごくヤーヤーヤーズを意識したような曲を何曲も既にやってたし、ストリングスやフォークも試したり、脱エモならもうあの時点でやってたんですよね。僕自身も、今作は好きだけど、実は前作ほどじゃないのも事実です。それは今作に、前作で言うところの、シングルでも大ヒットした「Ain't It Fun」みたいな決定的なキラー・チューンがなかったから。あの曲はヘイリーがファンキーな16ビートでも乗れることを示した重要曲でしたけど、あれに匹敵する曲まではなかったかなあ。

 

 でも、ストロークスとか、ヴァンパイア・ウィークエンド、フォールズみたいな、軽快なギターとダンス・グルーヴを主体としたインディ・ロック・スタイルという、統一したアイデンティティが感じられたのは良いと思います。これはひとえに、今のソングライティングの要のギターのテイラー・ヨークの手腕だと思いますが、これにきちんと対応出来るヘイリーも見事。あと、彼女にとっては、ニュー・ファウンド・グローリーの元ダンナとの決別を示唆するアルバムでもあり、そこが「再スタート」感をより深く印象付けてもいますね。

 

34.Hopeless Fountain Kingdom/Halsey

 

 

34位はホールジーのセカンド・アルバム。

 

僕の場合、毎年、アイドルというかポップものは必ず1枚はどこかに入れるようにしているのですが、今年はストレートなアイドルで良い盤がないので、エレクトロとポップの狭間にいる彼女の作品をあげてみました。なんかすごく過小評価されてる印象のある彼女ですが、いいですよ。デミ・ロヴァートみたいな、どう音楽頑張っても面白くない人とか、ケシャみたいに「頑張ったのかもしれないけど、どうにもセンス悪いよ、やっぱ」みたいなもの(最新作、評価されすぎだろ)より、よっぽど選ぶ価値があります。だって、そりゃ、そうですよ。いくらポップと言ったって、こっちはLIDOとかキャシミア・キャットみたいな、ちゃんとしたエレクトロのプロデューサーついてますからね。クオリティはもともとある程度は保証されているわけです。

 

 あと、今回いいと思ったのは、彼女、チェインスモーカーズの「Closer」のフィーチャリング・シンガーとして当てて、もっと俗っぽい方向でいくのかなと思っていたら、案外そうじゃなく、あくまでも正統派なエレクトロ路線で来たので、そう簡単にセルアウトしそうな感じがしません。それゆえか、1位を取ったアメリカでも売れ方は地味です。でも、2作連続でトップ50圏外でアルバムが延々とチャートに残り続けてヒットを続けているし、カットしたシングルもセカンド・シングルの「Bad At Love」がアルバムのリリース半年後にトップ10入り目前の位置まで上がるなど、地力のあるところ見せています。ファンベースの作り方としてはすごく理想的だし、今後に向けてすごく楽しみです。

 

 

33.Turn Out The Lights/Julien Baker

 

 

33位はジュリアン・ベイカー。

 

 

まだ22歳になったばかりの、テネシー州の大学生なんじゃないかな、まだ。女の子のシンガーソングライターなんですけど、今、名門インディ・レーベルのマタドールが高い期待をかけている人です。この一つ前のアルバムの配給をマタドールが買った時に少し話題になって、その際に僕も聞いたんですけど、その時はそこまでピンとこなかったんですけど、ある程度、しっかりしたアレンジが施されるようになると、さすがにグレードが上がりましたね。すごく聞き応えのあるアルバムです。

 

 基本はアコースティック・ギターやピアノの弾き語りで、そこに流麗なストリングスが加わるみたいなタイプなんですけど、どの曲もキメは、ジュリアン自身のサビでの、圧倒的な声域を生かしたハイトーンの歌い上げですね。このダイナミックな声のレンジで「おおっ!」とリスナーの耳を引きつけます。ズバリ、この魅力だけで彼女、かなりデカくなれると思います。マタドールと言わず、世が世ならもっとデカいメジャーのレーベルと契約してたらものすごいスターになった可能性もありますが、アーティスト寿命考えたらマタドールの方が良かったでしょう。でも、みんなが知るのにそう時間はかからないと思います。若干、その得意技に頼りすぎて連続して聴くと単調にも聞こえるんですが、そこを克服すればもっともっといい作品が作れる気がしています。

 

 このコ、年代が年代なんで、出自はエモであることは公言してるんですが、エモもブレイクした際のイメージがちょっとネガティヴな印象があって損してるものですが、The 1975といい、彼女といい、良い遺伝子も確実に出してるものでもあります。

 

32.More Life/Drake

 

 

32位はドレイクの「More Life」。

 

今や世界で5本指に入るヒットメイカーになったドレイクですが、このアルバムも出てすぐにダウンロードで話題になり、収録曲が英米のシングル・チャートを独占する事態が起きました。もうチャートの基準も変わって、ああいう独占は見られなくなりましたが、ストリーミング時代の混乱が引き起こした一つの事象として記録には残る出来事でしたね。

 

 このアルバムは、今の彼のサウンドのスタンスを示したものですね。彼がデビューの時から拠点とするトロントの馴染みのプロデューサーたちと、盟友フューチャーが拠点とするアトランタのトラップ勢、そしてロンドンのグライムと、現在のヒップホップの都とでもいうべき3拠点を結んだ、「現在ヒップホップ入門編」みたいな、すごく一般向けにいい意味で入りやすいアルバムですね。ただ、このアルバムで一番良いのはヴォーカル曲で、シングル・ヒットもした「Passion Fruit」はドレイク史上でも屈指の名曲だし、2018年のブレイクの期待のかかる、結局カノジョかどうかはわからないんですが、ロンドンのジョージャ・スミスとのデュエット「Get It Together」あたりですね。

 

 このアルバム、前作の「Views」よりは全然いいアルバムだし、もっと評価されていいアルバムでもあるんですけど、一つだけ気に入らないのは、彼のこのアルバムの呼び名ですね。 なんだ、「プレイリスト」って。前も「ミックステープ」と言って、通常のアルバムと何が違うのかがよく分からないアルバムを出してましたが、そういう「アルバム」という名義を使わないがゆえに、作品の品位を微妙に落としている感じは正直好きじゃないですね。「なにカッコつけてんだよ」みたいな感じでね(笑)。まあ、その気取りも、彼らしいといえば、らしいんですが。

 

 

31.How Do We Get So Dark/Royal Blood

 

 

31位はロイヤル・ブラッドのセカンド・アルバム。

 

このアルバムに関しては一部で「期待はずれ」みたいな声も聞きますが、総体的に見ればそんなことないと思います。少なくともイギリスではフェス期間中に出て全英1位になってしばらくチャートの上位に君臨していたし、国際的にも上々と言えるヒットでした。その後もイギリスではアット・ザ・ドライヴ・インを従えてヘッドライン・ツアーをやり、アメリカではクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのオープニング・アクトで全米ツアーもしたり。なににせよ今、メタリカからも、フー・ファイターズからも、トム・モレロからも、QOTSAからも「次代の期待株」として目をかけられてるのはデカいです。やはり彼らの場合、マイク・カーによる、ベースとギター一体型のあの魔法の楽器が健在な限り、しばらくライブ・アクトとしては無敵なのが大きいですね。

 

 このアルバムも、そんな好評のツアーにおいて、代表レパートリーになってるし、今後のキャリアにおけるライブでもセットリストの中核になることも目に見えるので、僕はその観点から良い評価を下しています。やっぱ、将来的にはフェスのヘッドライン・クラスになって欲しいのでね。ただ、「ライブやフェスに行かない」という人たちに対しても説得力のあるアルバムを次くらいで作る必要もあるかな、とも思いましたけどね。あのマイク・カーの必殺技に並ぶような、ドカンとした何かがアルバムに欲しい。次あたりで、面白いプロデューサーと共演してみるのも一つの手だと思いますね。ジョッシュ・ホーミとか、やってくれないかな?

 

 

author:沢田太陽, category:2017年間ベスト, 00:42
comments(1), trackbacks(0), - -
沢田太陽の2017 年間ベスト・アルバムTop50  50-41位

どうも。

 

 

思ったより早く出来ちゃったんで、予定より1日行きます。これです!

 

 

沢田太陽の2017年間ベスト・アルバムTop50!

 

 

いきなり名前、デーンッと使ってごめんなさい(笑)。ただ、「何の年間ベストか」はわかった方がいいし、幸い、分かりやすい名前、持ってますからね(笑)。

 

 

では、今日は早速

 

 

 

こういうメンツになった、50位から41位を紹介したいと思います。

 

 

 ただ、その前に、「実はこれも候補だったんだよ」というものをHonorable Mentionsという形で発表したいと思います。

 

 

Honorable Mentions

Process/Sampha

Mura Masa/Mura Masa

The Dusk In Us/Converge

Antisocialites/Alvvays

All American Made/Margo Price

Hot Thoughts/Spoon

Soft Sounds From Another Planet/Japanese Breakfast

Songs Of Experience/U2

Everybody Works/Jay Som

Luv Is Rage 2/Lil Uzi Vert

Nashville Sound/Jason Isbell

Youth Is Only Ever Fun In Retrospect/Sundara Karma

 

このあたりは考えましたけどね。

 

実際、頭から3つ目までの作品は、一回はトップ50入ってたんですが、調整段階で外れました。それがなぜかにも、触れることになると思います。

 

 

 では、まだ、じらしますよ(笑)。次点の51位から行きます。

 

 

51.Villains/Queens Of The Stone Age

 

 

51位はクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジの「Villains」。「低い」と思う人もいらっしゃるかと思いますが、これ、今回のいろんな媒体の年間ベストで賛否がハッキリ割れたアルバムで、僕は「非」の方の意見に近いですね。

 

 これですね。進んだ方向性としては、「よし!」だったので期待したんですよ。サウンドの方向性が2007年の「Era Vulgaris」みたいな、ちょっとひねくれたハードロックで、プロデューサーがマーク・ロンソンでしょ。なので、クセのあるアルバムを期待してたんですが、いざ、出てきたら、案外フツーだったので肩透かしだったんです(笑)。

 

 マーク・ロンソンって、ヒット請負人的なイメージある割には、自分のカラーを押し付けずに、素材の良さを生かすタイプのプロデューサーであることはデュラン・デュランの復活作などでわかってはいたんですが、これはちょっと、何もしなさすぎというか(苦笑)、普通にジョッシュ・ホーミのアルバムだった気がしますよ。特にマークが入ったからって、新しさは感じなかったですね。

 

 加えて曲も、「ダンサブルかつポップに作った」つもりなのかもしれないけど、「Era 〜」での名ブルーズ・バラードの「Make It Witchu」や「3s&7s」、前作「Like Clockwork」での「Sat By The Ocean」みたいなキラー曲がなかった。ここが残念でしたね。せっかく、もっと冒険できるアルバムだっただけに、物足りなかったかな。出てきてすぐは飛びついて聞いたんだけど、何度もリピートする気にならなかったタイプのアルバムでした。

 

 

では、お待たせしました。50位、行きます!

 

 

50.Colors/Beck

 

 

 

 

50位はベックの「Colors」でした!

 

 これはですね、僕自身が想定したよりも低い順位でしたね。このアルバムにはすごく期待してました。しかも、1年以上前に。シングルで2015年に「Dreams」、2016年に「Wow」が先行して出ていて、「おおっ、これはポップに攻めてきてるぞ!」と思って、本当はこの頃に出るはずだった昨年10月前にはかなり期待してたんです。それが突然延期になって、1年待った末に出てみたら、あんまり何か新しいものが加わった様子もなく、先述したシングルも目玉曲として生かされたままだったので「な〜んだあ」という気になって、あんまり盛り上がらなかったんですね。

 

 ただ、日本の僕の友達界隈はエラく盛り上がってましたね。どうやら前もって「Dreams」とか「Wow」を知らなかった人たちは「ベックがこんなにポップなことするんだ!」と新鮮な気分で驚いたようです。だけど、僕としては、「いや、それはわかってたんだけど、だったら、なぜ去年のうちに・・」と思ったし、そのタイミングで聴いてたら確実にもっと評価は上がっていたはずです。

 

 それプラス、僕の中で、「フォークのベック」から受ける感動を上回らなかったんですね。僕の場合、彼の最も好きな部分が「Sea Change」とか「Morning Phase」「Mutations」みたいなフォーキーなヤツなので。ポップでファンキーなヤツも「Midnight Valtures」みたいなヤツだったらすごくいいなと期待していました。あのアルバムみたいなものがもう一回ちゃんと再評価されて欲しいというのもあったし、あの時よりも少なくとも歌唱力は上がってもいましたしね。ただ、今回は、そこまでの僕の期待値には達しなかった、ということでした。でも、好きな曲はそれなりにはあるんですけどね。

 

 

49.Awaken,My Love!/Childish Gambino

 

 

49位は、当初、本当はサンファだったんです。だけど、ちょうど選定をしている頃に、このアルバムがグラミー賞の最優秀アルバムにノミネートされたと聞いて、「そういえば、去年の12月のアルバムだったな。対象内だな」と思い、「サンファとこれだったら、どっちが後の記憶として残るかな?」と判断した結果、こっちが逆転しました。

 

 チャイルディッシュ・ガンビーノというのは、このブログでも非常に登場頻度の高い、「アトランタ」でエミー賞を受賞し、映画でも「オデッセー」やら「スパイダーマン ホームカミング」やらと最近とみによく見かけるマルチ俳優ドナルド・グローヴァーの音楽活動での名義です。彼のことはNBCの「Community」というコメディに出てた時から知ってるので、もう7年くらい見てるし、それがゆえに今でもドナルドと呼んでるくらい、音楽活動がピンとこない人なんですけどね。彼の演技とか、手懸ける脚本ほどではないというか。そんなもので、どうもこれまでは音楽の方の僕の評価が高くなかったんですけど、このアルバムに関しては、革新性とかそういうのはないんですけど、70sのファンク・リヴァイヴァルというか、ファンカデリックあたりのファンクを現在の視点でやったみたいな新鮮さと趣味の良さが感じられて、そこが良かったですね。

 

 でも、決め手はシングル・ヒットした「Redbone」かな。この曲は、彼の中のインナー・プリンスが突き動かされたような、殿下への包み隠さぬオマージュが感じられてそこが胸を打ちます。なんとなく、「♪ダンスフロア〜に」と「今夜はブギーバッグ」歌いたくなるんですけどね、メロディが。この曲は、映画「ゲット・アウト」の前半部でも印象深くかかって、うちのワイフも「これいい曲ね」というので、「これ、ドナルドが作って歌ってるんだよ」と言ったら「What a talent!」と、彼女も驚いていましたね。

 

 

48.Trip/Jhene Aiko

 

 

48位はジェネイ・アイコ。名前の通り、日系アメリカ人の女性R&Bシンガーで、存在自体は5年くらい前から知ってたんですけど、ちゃんと聞いたのは今回が初めてでしたね。

 

 

聞いたきっかけはBBCのアニー・マックがやってる番組で、このアルバムの中の「While We Were Young」を聞いて「おやっ!」となったからですね。こんな、去年のソランジュのアルバムみたいな幻想的なトラックを歌うような人だったんだな、ということを知って、「フランク・オーシャン以降」の、コード進行とアレンジに凝った新世代R&Bの位置付けで語れる人なんだな、と思って注目度をあげました。さらに言えば、彼女、ラナ・デル・レイの全米ツアーのオープニグ・アクトも決まってるんですよね。そういうとこでも信頼のブランド・イメージがつきました。

 

 アルバムも全編、「While〜」と同じイメージのファンタジックなキーボードの浮遊感と彼女の清涼感あふれるヴォーカルが気持いい一作です。製作陣も彼女以外の作品以外であまり耳にしない自前スタッフで、そこも好感持てましたね。ただ、難点が一つあって、このアルバム、とにかく長すぎる(笑)!全部で1時間25分もあって!これ、コンセプト・アルバムで、記憶を失った女性の旅を描くとか、そんな感じなんですけど、それにしても曲を潔く切り捨てることができなかったからなのか、ダラダラ続く感じなんですね。それさえなければ、もっと上位に入ってたんですけどねえ。

 

 

47.Love In The 4th Dimension/The Big Moon

 

 

47位はロンドンの期待の女性4人組のロックバンド、ザ・ビッグ・ムーン。彼女たちのことは2016年の頭くらいには知ってたので時間かかったなとは思いましたけど、出てきましたね。

 

 曲調はすごく90sのアメリカによくいたタイプの、ブリーダーズとか、リズ・フェアとか、スリーター・キニーとか、ノイジーなギターで勝負するガール・インディ・ギターサウンドをまんま踏襲してきたな、という感じですね。すごくナインティーズ感が強いんですが、時代がほと回りしたなと改めて感じた瞬間でもありました。ギターのガリッとしたセンスはすごくカッコいいです。結構スケールの大きなソロとかも弾けるしね。

 

 難を言うなら、イメージ作りはうまいんだけど、まだそこだけにとらわれていて、傑出したタイプの曲をかけていないな、という印象を抱いたんですけど、そのあたりは次作以降の課題かな。そこにはまだ猶予が与えられている感じもします。このデビュー作、イギリスでは最高66位に終わってるんですが、こだわってる音楽センスとかはやはり批評家の心をくすぐるからなのかレヴューはことごとくよく、マーキュリー・プライズにノミネートもされ、年間ベストでも結構名前は見ますからね。ソングライティングを磨けばまだ光ると思います。

 

 

46.Utopia/Bjork

 

 

46位はビヨークを入れましたが、僕にとって、この人の作品をベストの類に入れるのはかなり久しぶりのことです。軽く15年は縁のない時期が続いていました。というのも、ある時期の彼女が本当に苦手でね。昔はすごく好きだったんですよ。「デビュー」とか「ポスト」の頃は特に、作品的に一番優れてるのが「ホモジェニック」なのは認めるんですけど、その後がなんか、神々しい路線に行っちゃって、なんかとにかく「褒めなきゃいけない」みたいな雰囲気になっちゃって。でも、その実、サウンドの難解化は始まっていて、ややもすると、すごく自己満足的になってね。それがハナにつくようになってすごく嫌になっていました。時期でいうと、「メドゥラ」とか「ヴォルタ」とかね。後者の中盤から後半のアジア音楽導入とか未だに意味わかんないもん(笑)。

 

 それが前作あたりから、本来の彼女らしいメロディックさが戻ってきてるなあと思ってはいたんですけど、今回のアルバムのストリングスとエレクトロの交錯ぶりは美しいですね。今回のアルバムでプロデューサーのアルカとは二作目なんですけど、ビヨークとはかなり相性が合う気がしますね。アルカ自身も自分のソロ作になると気持ち悪いんですけど(苦笑)、本来、「美しい狂気」が紡げる人なのか、それがビヨーク本来のポップなアート感覚を媒介させると効果が出ますね。これは両者にとって、良い出会いだった気がします。

 

 ただなあ。やっぱ、これまで、コア・ファン相手だけでかなり無理のあるアヴァンギャルド路線だったからでしょうね。欧米では人気は正直下降中で、どこの国も最高位が20位台に落ちてます。欧米の人たちの方が日本人よりはるかに「ワケわかんない」とか「こんなの自己満足」とかハッキリ言いますからね。そうした人たちを取り戻すには、あと2作くらい、こういうアルバムが必要かもしれません。

 

45.Big Fish Theory/Vince Staples

 

 

45位はLAの新進ラッパーですね。ヴィンス・ステイプルズ。彼はゴリラズの新作でもフィーチャーされていたので、それで知っていらっしゃる方も少なくないでしょう。

 

 この彼ですが、まだ年齢も24歳と若く、最先端のエレクトロのサウンドをヒップホップに導入できる点で有望視されてますね。ゲストもボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンを始め、フルームや、前述のゴリラズのデーモン・アルバーンを始め、インディ・ロック畑の人ともコラボもやっていたりするので、ロックのフィールドでのアピールもバッチリですね。

 

 ただ、そういう越境的なことのできる存在だと、伝統的にヒップホップのメインのとこでの評価と人気がちょっと下がっちゃうんですよね。これ、この世界の悲しいとこですけど、彼の場合も必ずしも例外ではありません。この実力がありながら全米では16位ですからね。その一方で、同郷の先輩のケンドリック・ラマーともしっかり共演してるんですけどね。

 

 でも、それを差し引いたとしても、ラッパーとしての強い個性がもう少し前面に出てくるとさらに良くなると思います。ここのポイントで圧倒できたら、その時には一流の仲間入でしょう。

 

44. Emperor Os Sand/Mastodon

 

 

44位にはマストドンを。

 

ここ数年、今まで常識だと思っていた「いつの世も若い人というのは激しいサウンドを聞きたがるものだ」という仮説が通用しなくなってきた、ということを知り、個人的にすごく残念というか、不安になっています。僕はメタルは得意ではない人なんですが、それでも、ロックに求められているものとして「破壊衝動的な激しさ」というのはあってしかるべきものの一つだと解釈はしているので、そこが求められなくなるのはキツいなと思っていました。

 

 なので、こうした年間ベストを通じて、僕も毎年最低でも1作はハードなものを入れていけたらなと思って選んだのがコレでした。本当はHonorable Mentionsに入れたコンヴァージの新作の方が刺激はあったのですが、普段メタルリスナーでない状態の人がいきなり選ぶべきものではないなと。やはり、インディのリスナーがコンテンポラリーなメタル関係で最初に入れるべきは、もう、「インディ・ロックファンに人気のある定番バンド」としてマストドンかな、と思いまして。彼らだと僕も3、4作前から聞いているので、そんなに遠慮することもないかなと。

 

 

 マストドンのいいのは、音像が低温で塗りつぶす感じではなくて、ギターがビリビリとファズの振動音とともにしびれるような感覚があって、その生々しさがあるのと同時にかなり正確無比なタイトな手数の多いドラムが食い込んでいくかんじですね。しかも、かなり曲はメロディックで買う緊迫感がある。その感じがいつもそんなにドラスティックに変わることはないんだけど、これを持って、「他ジャンルにも通用する」、そうした外交的なイメージも立派だと思います。

 

 

43.Yours Conditionally/Tennis

 

 

43位はテニスです。この人たちの良さはこのアルバムでわかりましたね。というか、以前、2011年くらいだったかな。インディでサーフ・ブームってのがあって、ベスト・コーストなんかが注目された際に、この人たち、その末端くらいで出てきたんですけど、あのブーム自体がっ極めて胡散臭いものだったから、あんまり前向きに聞かなかったんですね。で、ブームが去って、でも、そのブームの時以上にこのアルバムが売れたのを知って聞いてみたら、「あっ、あんなブーム、全然余計だったじゃん!」と思えるくらい素直にすごく良くて、そこからすごく好きになりました。

 

 この人たち、というか、このアライナ・ムーアという、70s風カーリー・ヘア(って死語だけど、そういう髪型、あえてしているから、そうとしか表現できない)の彼女の音楽って、ローラ・ニーロとか、キャロル・キングみたいな1970年前後のソウルフルなシンガーソングライター・ポップを今のサウンドでストレートにやってますよね。今時、こういうソングライティング・スタイルをとっていること自体が新鮮だし、いつか取材して、そうした音楽の趣味自体について聞いてみたいですね。今、こういう曲かけるの、テーム・インパーラのケヴィン・パーカーかフランク・オーシャンくらいなものだと思うので。こういう、ローラ・ニーロとか、トッドラングレン・スタイルの遺伝子、これ、僕、本当に大好きなんですが、ピアノのメジャー・セブンスの三連符を駆使したタイプの良質ポップス、生きながらえてほしいものです。

 

 彼女たちは、この後にも早速「I Miss That Feeling」というシングルを出してて、これがすごくいい曲なので、早くも次のアルバムが楽しみなんです。

 

 

42.Hippopotamus/Sparks

 

 

 42位は10月には日本にもやってきましたよね、スパークスです。

 

 この盤、イギリスだと結構話題になってたんですよね。秋口、BBCでこの中の「エディット・ピアフ」という曲がかなりの回数オンエアされてましたね。本人たちもゲストに呼ばれてトークしたりもして。そうした影響もあって、このアルバム、彼らにとって実に43年ぶりとなる全英トップ10入りまでしてしまいました!なので、さすがにですね、彼ら、僕でさえ、後追いですよ。よく、名盤選に「70年代の名盤」として、彼らの「キモノ・マイ・ハウス」というアルバムが紹介されるんですが、それを「グラム〜プレ・ニュー・ウェイヴの傑作」として、ボウイやロキシー・ミュージックの初期とセットで聴くのが定番コースでしたね。

 

 彼らの持ち味というのは、いわゆる「シンセ・ポップ・デュオ」というものの走りなんですけど、そこはさすがにグラムロックの時期に出てきたバンドということもあり、バンド色に、オペラチックで性を超越したキャンプ趣味全開のヴォーカルというのも、彼らの場合、実の兄弟ではあるんですが、「シンセ・ポップ=ゲイ」みたいなイメージの先駆みたいな感じになってますよね。

 

 このアルバムがすごいのは、そうした彼らの持ち味そのものが、どんなに年を重ねても全く変わりも衰えもしないことです。キーボードのお兄さんの方、もう70過ぎですよ!これで、こんなにみずみずしい、アヴァンで猥雑なポップ感覚が未だに表現できるというのが本当に驚きです。これまでシンセ・ポップ自体の再評価が遅かったものですが、その遅れた再評価で、ようやくこの稀代の兄弟デュオもむくわれましたね。

 

 

41.A Kind Revolution/Paul Weller

 

 

41位は今やUKロックの御大、ポール・ウェラーです。

 

 オリジナル・パンクの世代で全英トップ10に入るのって、もう彼くらいになってきましたが、そんな彼は、今の感じだとまだまだ、トップ10どころか、トップ5から落ちる気配もないですね。モッド・ファーザーは依然健在です。

 

 ポール御大は、こと、この10年くらい、表現者として調子は良く、2作に1作はイギリスの音楽雑誌の年間ベストでも上位に食い込んでいたりもしますが、これも同様で、結構、いろんなとこで入ってるの見ますね。彼の場合、ここ最近は作品のごとに、これまで蓄えてきた音楽的蓄積を渋く垣間見せることに成功してるんですけど、このアルバムでも序盤は、「骨太なロックンロール」でグイグイ攻めるのかと思いきや、中盤から後はソウル・ミュージックのアルバムになってましたね。それも特に、スタイル・カウンシルの時代のソウル・テイストを、ブルーズ・ロック飲み込んだ今の解釈で再解釈し直したみたいな感じでしたね。それは、1曲、「生演奏ハウス」みたいな曲があるんですけど、それなんかは後期スタカンがやろうとして失敗したことを、今、冷静になって、そこもやり直したようにも感じられて、長年のファンとしてはおもわず微笑ましくもなりましたね。

 

 今年は結構ベテランも入れてますけど、ホント、ロックやるのに年齢というのはただの数字しか意味しなくはなってきていますね。

 

 

 

 

author:沢田太陽, category:2017年間ベスト, 02:00
comments(0), trackbacks(0), - -
マイ年間ベスト・アルバム発表を前に・・大物、常連たちが次々ランクインせず

どうも。

 

 

僕の年間ベストの50枚ですが、もう、やる準備はできてます!

 

 掲載日程の発表しますね。

 

 

50〜41位 12/7(木)

40〜31位 12/8(金)

30〜21位 12/14(木)

20〜11位 12/15(金)

10〜1位  12/17(日)

 

 

 こういう風にゆっくりやっていきます。それは、ある音楽誌にトップ10が掲載されるので、その兼ね合いもあるんですけどね。発売前までは、トップ10が教えられないので。解禁されたらすぐに発表するスケジュールなんですけどね、これ。

 

 

 でも、今年は自分で選んでみて思ったんですけど、なかなか面白い年ですよ。それは「音楽が素晴らしかった」という意味ではなく、例年だったら上位常連みたいなアーティストの作品が外したパターンが今年目立つな、という意味で。

 

 

 実際問題、

 

 

 

これとか

 

 

 

これとか

 

 

 

そして、僕が心から愛する、これまでもがトップ50、入りませんでしたから!!

 

 

 もうね、アーケイド・ファイアに関しては、もう、あまりにもガッカリしたというかね。今までアルバム出すたびにビックリさせてきたあの音楽的な懐の深さは一体どこに行ったんだよ!って感じでしたね。ただでさえ前作で、「エレクトロ方面でそんなにキレるタイプじゃないな」と思ってたのに、あれよりも刺激のないただのポップ・アルバムになっちゃって。

 

 

 あとゴリラズも、ただのキュレーション・アルバムになっちゃってねえ。確かに、あのプロジェクトって「デーモン・フェス」みたいな側面はあるんですけど、デーモン本人の影がほとんど感じられないのは、最初のアルバムの頃を知ってる身からすると、なんか寂しいなというか。トラックメイキングの技術が上がれば上がるほど陥りやすい罠にハマッたなという感じでしたね。

 

 

 キラーズは、最初、50位で考えてたんですね。アルバム、正直、冴えがなくてかったるかったんだけど、それでも「The Man」と「Run For Cover」の2曲は傑出してよかったし、ライブでのキーになる曲もできたとは思うんだけど、でも、いろいろ聞いていくうちに、あのアルバムよりいいと思える作品が50枚以上になっちゃったので、入れることは叶いませんでした。そこんとこは客観性に徹しないといけないなとも思って。

 

 

あと、こういう人たちも今回漏れましたね。

 

 

HAIM

アルトJ

ファイスト

カサビアン

グリズリー・ベア

ライアン・アダムス

フェニックス

 

 

この辺りもなあ〜。

 

 強いて挙げればファイストのはその中では好きな方だったのと、カサビアンはいつもは興味ないんだけど、これはそんなに悪くないなとは思ったんですけど、及ばなかったというか。でも、あとは正直・・。HAIMは期待がすごく大きかったからちょっとガッカリというか、アルトJはごめんなさい、もともとやや苦手だったんですけど、今回さらに・・って感じでしたね。

 

 

 その中で一応最終候補までは残しておいたものの中には

 

 

 

 スプーンとかU2は最後まで残して考えたんですけどねえ〜。

 

 スプーンって、一作おきに僕のトップ10に入っていたりするんですけど、今回は外れるタイミングでしたね。ストレートなロックンロールを素直にやった時の方がカッコいいんだけどなあ。

 

 U2は「ヨシュア・トゥリー」のライブは本当に感動したし、その余波もあって前向きにエントリーさせたかったんですけどねえ。実際に曲の方もここ数作のスランプはちょっと抜けつつあるというか、いい曲はかなり良かったですからね。ここ3作では間違いなくベストでした。でも、サプライズ要素が何もないのと、2000年代最初の2枚と比べるとまだ弱かったですからねえ。そこが気になったので、対象期間ギリギリまで引っ張って検討したんですけど、ギリギリで外れましたね。

 

 

あと、一応、これもね。

 

 

 

はい・・。

 

ストリーミング解禁で聞いたけど、イタかったなあ・・。

 

僕、この人、2作前の「レッド」までは評価してるんですよ。デビューの最初の2作なんて、コンテンポラリー・カントリーのロック、ポップ路線のアルバムでは、他とは全く比較できないくらいのオリジナリティと完成度でしたよ。そういう彼女にしか表現できない良さって、あったと思うんですよね。

 

 

 それが「アーティストとしての殻を破る」というのを、それこそ「レッド」くらいのとこでやめときゃよかったのに、前作でふり切りすぎて僕は「マズいよ」って不満言ってたら周りがあまりにも褒めるので引いちゃってたんですよね。

 

 

 でも、やっぱり、昔の良いとこの痕跡消えちゃうとこまで突き進むと、さすがに違和感は出てきたのか、今回、レヴュー、微妙ですよね。前作を絶賛しちゃったものだから、引くに引けなくなった歯切れの悪いものも読みましたけどね。単純な話、この人からラップ聴きたいとかって、どうやったら思うんですかね?エレクトロとか。それじゃ、それこそ普通の今時の女の子のポップでしかないじゃないですか。

 

 まあ、昔の路線に戻ってくれるんだったら、今も歓迎するんですけどね。

 

 

 あと

 

 

 エド・シーランのこれとかも、入れてない、というか、入れることそもそもを考えなかったですね。一般的な記録的には大事かもしれないけど・・。

 

 

 ・・と、そんな感じでしょうか。

 

 でも、逆に言うとですね

 

 これらの存在がなくても、50枚くらいは十分にいい作品はあったよということでもあります。それは僕の主観的な判断を通してのものだから、僕が外したものの方が、僕が選んだものよりも断然良く見えることもあると思います。でも、50枚をあげていくことによって、「あっ、これっていいんだ?」とか、「これ、知らなかった」みたいな発見とか、知るキッカケみたいなものになったらいいなと思っています。

 

 

では、あと3日ほどお待ちください。あっ、50位近辺も、結構、大物が並んでいますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

author:沢田太陽, category:2017年間ベスト, 10:00
comments(0), trackbacks(0), - -