どうも。
今週は本当に世界中でボウイ一色でしたね。
僕自身も「ボウイ以外に聴きたくない」心理状態でしたね。いみじくも今、イギリスのアルバム・トップ100でボウイのアルバムが19枚も入っている状況(オーストラリアに至っては、トップ50に13枚!)なんですけど、僕もご多分に漏れずです。よく、「声を聞くと悲しくなるから聴けない」みたいなことを言うタイプの人もいますけど、僕は逆。「これからボウイに出会うことになる人たちに語り継ぐためにも聴かないと」と奮発するタイプです。
そこで最近、いろんな時期のアルバムを家庭内BGMで聴いてて、今、これも「ステーション・トゥ・ステーション」をパソコンにヘッドフォンつないで書いてる状況なんですけど、ふと思いついたことがあるので、そのことについて書いてみたいと思います。
それは、
「ボウイ初心者にはどのアルバムがいいか」
スバリ、これなんですけどね。彼くらい、アルバム数がたくさんあると、1枚単体のアルバムだけを聴くのでは惜しい。そういうことは、ある程度、彼の楽曲に慣れた後にすることだと思います。ボウイはものすごい量のベスト盤が出てるので、それから聴けば良いと思うのですが、そこでどれが個人的にオススメかと言われれば、これですね。
この、ベスト盤としては最も最新となる「Nothing Has Changed」ですね。これの、3枚組デラックス・ヴァージョン。これがオススメです。
これですね、「3枚ある」と思うとしんどいとこもあるんですけど、聴き疲れしません。すごく聴きやすいです。そして1枚、1枚の意味がすごくあります。
これ、逆編年体になってて、今に近いところから過去にさかのぼる、感じで聴けます。
初心者も初心者の方は、これのディスク3を聴けば、70sのグラム期のオイシイ曲はほとんど聴けます。まずは、これからほぐすと良いと思います。それもまずは16曲目の「スペース・オディティ」までで良いと思います。
ただ、そこまでだったら彼の初期ベストを買うのと効用が同じになってしまうのですが、このベストの良いところは、それ以降が充実してるとこです。グラム期を超えて聴きたい人はディスク2の「70s後半から90s前半」までを聴くのがいいでしょう。いわゆる、僕に近い世代で、「スーパー・セレブのボウイ」だった頃を楽しみたい人ならここでしょう。
しかし!
僕的にうれしいのは。実はディスク!なんですよね、これが。
なぜかっていうと、「ボウイその人が復活するキッカケとなった曲の数々」がここにしっかり刻まれているからです。ここのポイントがジワリジワリと効いたから、2013年の「ネクスト・デイ」での復活時の絶賛につながったわけです。あの時の復活を、「しばらく出してなかったから待望論が高まって、出てみたらすごく良かった」みたいな物言いをする向きを結構よく見かけます。事実、今回の死を受けて、この時期のアルバムを「ネクスト・デイ」以外に買おうとしている方もそう多くはありません。それは仕方ないとも思うのですが、「『ネクスト・デイ』で復活した」という考え方には僕は断固反対だし、それだとボウイ史をちゃんと把握していないことになります。
僕がこのディスク1でうれしいのはですね
1999年に発表した、この「hours」ってアルバム、ここから3曲も収録されてるんですよね。このアルバム、実はボウイ史を振り返るに重要です。なぜなら、このアルバムで彼は、70sの時期のソングライティングの感覚を完全に取り戻し、以降のアルバムをその路線に沿って作るようになっていたから。
このディスク1の最後を占める「アウトサイド」というアルバムも3曲入っているから、おそらく、この2枚がボウイ自身の中で意味の大きなアルバムだったのだと思います。「アウトサイド」はナイン・インチ・ネールズを意識して作った作品で、40代後半を超えたボウイが、再び当時の若い最前線のリスナーと向かい合い、当時の新鋭のアーティストたちと張り合おうとした作品でした。これも、ディスク2の1曲目に入っていて、ボウイ自身が「この曲を書いた辺りからソングライティングが戻って来た」と常々公言していた「ブッダ・オブ・サバービア」のすぐあとの作品なので、気分的な高揚感があったんでしょうね。たしかに、モチベーション的には少なくとも80s後半の「Never Let Me Down」からティン・マシーンを経て、ソロ復帰の93年の「Black Tie White Noise」に比べたら、心理的な状況がかなり上向きになっていたことはたしかです。
ただ、「hours」で、「自分が元から持っていた良かったもの」に向かい合ったことから、ボウイの作品がグングン蘇っていったんですよね。それが証拠に
このディスク1には、「hours」の2年後に本当はリリースされる予定だった幻のアルバム「Toy」から3曲が入っています。このアルバムは、過去の自分の未発表曲のセルフ・カバーを中心とした作品で、「自分見直しモード」がさらに高まっていた作品なんですね。「hours」は、曲調は70sっぽいんだけどアレンジは90sっぽい作品だったんですけど、ここではサウンドも70s風の、あまりごちゃごちゃ手を入れないタイプのソリッドなバンドサウンドに戻ってるんですよね。これは、音源リークなどもあった関係で発売されずに終わってたんですけど、このあとに、70sの黄金期のプロデューサーだったトニー・ヴィスコンティを呼び戻して2002年の「ヒーゼン」を作っているんですが、それ以降、遺作の「ブラックスター」までずっとヴィスコンティですからね。正直、「ネクスト・デイ」聴いたときも、「基本線は『ヒーゼン』と一緒なのに、なんで手のひらを返したように急に絶賛するんだろう」と僕は思ってましたからね。
ディスク1はそんなボウイの「復活の奇蹟」が刻まれた大事な1枚なんです。もし、この1枚の時期がなかったら、今回亡くなったとしても、ここまでの騒ぎにはなってなかっただろうし、ましてや最新オリジナル作が世界中で1位になるような復活はなかったと僕は思いますね。
1曲目に、当時の新曲として、「ブラックスター」の予告編となる「Sue」が入ってるんですよね。この曲は、別ヴァージョンが結局「ブラックスター」にも入っているので、結果的にキャリアを網羅できたことにもなってるんですよね。これ、将来的に「ラザラス」と「ブラックスター」を冒頭に追加収録すればそれだけでボウイの完全ベストになると思います。
そして、さらにディスク3まで戻って、今度は残りの5曲を聴くと良いと思います。この時期は、ボウイが「スペース・オディティ」を書き上げるまでの5年間、まだしがないかけだしのアーティストだった頃の試行錯誤が聴けます。ボウイのことをよく、「天才的イノヴェーター」みたいに言う人がいますが、この初期の5年といい、ディスク2の前半に顕著な不調期といい、意外と苦しんで試行錯誤する過程ってボウイには目立つんですよね。だから、その意味で実はものすごく人間的なんですよね、ボウイって。そこは僕が彼にすごく親近感もって惹かれる大きな魅力になっていることも追記しておきましょう。
こういう風に聴けば、「ボウイ史の堪能」も楽しくなると思うんですけどね。