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今週聴いた新作アルバム寸評

どうも。

 

 

昨日は全英チャート、解説出来ずにすみません。

 

 

時間があったら更新しますが、先にこちらを。これ、定例化するかもしれません。今週聴いたアルバムです。

 

 

 

Light Upon The Lake/Whitney

 

 

今週1番良かったのはダントツでこれでしたね。シカゴの新しいインディ・ロックバンドでウィットニーっていうんですけど。前、スミスウェスタンズって言って、すごく期待されてたサイケデリックなグラムロック・バンドがいたんですけど、その元メンバーが作ったバンドです。こちらも70sの、フォーキーなバロックポップを持ち味にしたバンドですが、とにかくメロディが美しい!なんか聴いていて、ベルセバが出て来た当時というか、90sの中頃から後半にかけて、サニーデイ・サービスとかキリンジとかが耳の早い外資系CD屋さんのバイヤーに押され、渋谷のHMVあたりでものすごくウケてた頃をなんか思い出します。あの時期の日本だったら、これ、局地的にウケてたと思いますね。ただ、スミスウェスタンズ同様、60s〜70sの豊富な音楽的造詣とそれをモノにするセンスがありながらも、それを受け止める土壌が今の音楽シーンに見つけにくいところが難しいところ。すごく応援したいんですけどね。

 

 

Let The Record Show/Dexys

 

 80年代に「カモン・アイリーン」の大ヒットで知られるイギリスのブルーアイド・ソウルバンドのデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズの再結成2作目。本国ではどうやらウケて全英トップ10に入りましたね。気になって僕も聴いてみたんですが・・聴かなきゃ良かった(泣)。これ、メインとなるのは、ビージーズの「Love Somebody」みたいな懐かしの曲のカバーなんですが、しかもそれがケルト風とかそんな感じじゃなく、すごく凡庸な甘ったるいアダルト・コンテンポラリー。しかも、これ見よがしにアイリッシュ訛で歌ってるとかね。なんか、東北弁で歌われる演歌を思い出しました。こんな生き残り方はちょっと個人的には・・。

 

 

Seal The Deal&Let's Boogie/Volbeat

 

 

 これ、先週、ひそかに世界のマーケットで売れてたんです。デンマークのヴォルビート。アメリカで4位でドイツで1位ですからね。今、ラウドロック系ではかなり上位で売れてるバンドです。彼ら面白くて、顔はサイコビリー系のレザーにリーゼントなんですが、曲の方はポップ・メタルのフィルターを通してメロコアやってる感じです。ただ、ヴォーカルのすごくドッシリとした声の太さを活かした歌い上げと、重低音のガシッとしたギターリフ、わかりやすいメロディと、すごく一聴して「ヴォルビート」とわかるハッキリとした個性があるんですね。今どきのバンドとしては珍しいくらい確固とした個性があります。その点で僕は彼ら、評価します。ただ、あまりにキャラがハッキリしすぎて、全曲同じに聞こえないわけではないんですけど(笑)。

 

 

Strange Little Birds./Garbage

 

 

 このガービッジの新作が、今回わりとどこのレヴュー見ても好評なんですよね。僕は前2作で聴かれた、力みすぎたハードなギターがダメで敬遠してたんですけど、あんまりにも好評なので聴いてみました。正直、そこまで言われてるほど良いとは思わなかったんですけど、初期の2枚にあった、シャーリー・マンソンのダークな妖艶さが戻って来たことはしっかり感じられました。あれこそが、このバンドの本来の魅力ですからね。良い意味でブロンディの後継者だった彼らですが、彼らのようなレジェンドになれるか否かはここからのキャリア次第ですかね。

 

 

 

Ash&Ice/The Kills

 

 

 ただ、僕自身は、ガービッジよりはこっちでしたね。ザ・キルズの5枚目のアルバム。この人たちって、「ファッション業界御用達バンド」の印象が先行して、さらに曲が一本調子だったので正直、僕の好みではなかったのですが、今回、その単調さが取れて、すごく1曲1曲を大切に歌う感じになりましたね。それは、これまでの不健康なゴス・ファッションから、ブロンドでスッピン・メイクになったアリソン・モスハートの変化に合わせたような感じですね。その晴れやかさが良いし、同時にこれまでのらしさもちゃんと残ってるからセルアウトした感じもないし。しかも5枚目にして、全英18位、全米45位と自己最高位を更新しているのも好材料。息の長く、成熟したバンドに成長しましたね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

author:沢田太陽, category:CDレヴュー, 19:41
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レディオヘッド新作「A Moon Shaped Pool」を聴いた
どうも。


いやあ、もちろん、聴いてますよ、これ。





レディオヘッドの新作、「A Moon Shaped Pool」です。今現在、itunesで販売、配信だとApple MusicとTIDALで、ロンドン時間の8日午後7時から解禁となりました。僕もApple Musicを介して聴くことができました。


いや〜


最高です!


ここまでいきなり満足度の高いレディオヘッドのアルバム、久しぶりですね。


前も言ったように「イン・レインボウズ」もかなり好きな作品なんですけど、あのアルバムは最初が当時としては画期的だった「ダウンロード先行発売」で、「価格はあなたが決めて」なんてやったものだから最初が好きになれなくて、アルバム的にも聴きこんで好きになったものです。「キッドA」以降のアルバムは他はどれも「良いんだけれども、もうちょっと・・」とどこか注文をつけたくなるところが残ったものだったんですけど


今回、注文つけたいところがありません!


そんなアルバムということになったら、「ベンズ」や「OKコンピューター」以来じゃないかな。いやあ、本当にすごいアルバムですよ。


まず、何が良いか。ズバリ、曲です。全曲通じて、ここまでメロディ的に優れたアルバム作ったの、いつ以来なんでしょう?たしかに前述の「イン・レインボウズ」も良い曲の集まったアルバムではあったけれど、今回ほどではなかったですね。


 しかも、「歌のアルバム」と言っても、感傷的な甘ったるさが一切なく、どの曲でも実験がほどこされているのがいかにもレディオヘッドらしいんですよね。今回、先行シングルとなった1曲目の「Burn The Witch」に象徴されるストリングスや、もうひとつのシングルで2曲目収録の「Daydreaming」のような生ピアノの音が全体通じてかなりフィーチャーされているんですが、ストリングスはデジタルっぽくカット&ペイストされているし、ピアノの響きは、クラシックの現代音楽でいうところの、ドビュッシーとかサティみたいな「印象派以降」の趣きがあって、鋭角的な神秘性が染み出たものになっていますね。このあたりのアレンジの妙はジョニー・グリーンウッドによるところが大きいかな。



 こうした印象は3曲目の「Decks Dark」、6曲目の「Glass Eyes」えも続きますが、4曲目の「Desert Island Disk」8曲目「The Numbers」は、レディオヘッドの曲の中にかねてから感じられたブリティッシュ・トラッド・フォーク色を濃厚に生かし、それを未来系に発展させた感じがあり、7曲目「Identikit」9曲目の「Present Tense」ではレゲエやサンバといった、これまでのレディオヘッドからは感じられなかった南国風のグルーヴを感じさせます。特に前者でのエド・オブライエンのレゲエ・カッティングのフィーリングを活かしたギター・ソロは秀逸です。それでいて、トムが「キッドA」の頃からやりたがっているクラウト・ロック〜エレクトロニカを背後にした歌ものも5曲目「Ful Stop」10曲目「Tinker Tailor Soldier Sailor Rich Man Poor Man Beggar Man Theif」でしっかり生きているし。歌に力を入れたアルバムでありつつ、それらのメロディを支えるアレンジでのアイディアがしっかり多様な価値観を表現出来ている点も光ります。クラシックに、フォークに、南国リズムにテクノロジーって、まるで「フィジカル・グラフィティ」の頃のレッド・ツェッペリンみたいな多様さですからね。音楽表現的にかなりの高みにさしかかっていることがハッキリとわかります。


 また、歌詞的にも今回非常に興味深いポイントがありましてですね。それは今作に「トム・ヨークのブレイクアップ・アルバム」とする説が結構目立つんですよね。トムは昨年、23年連れ添った奥さんのレイチェル・オーウェンと離婚しているんですが、そのことを彷彿させる歌詞が目立ちます。


 たとえば「Daydreaming」では「夢見る者は学ばない。取り返しのつかないことになっているのに」「人生の半分、お互いのために仕えて来た」というかなり直接的な言葉が出て来ます。そう思ってポール・トーマス・アンダーソンの手によるこの曲のビデオを見ると、リアル過ぎて胸につまされます。うつろな表情で様々な場所で見つからないものを探した末に最後、洞穴ですからね。


 また、その次の「Decks Dark」でも「人生に暗闇が立ちこめる」と歌われますし、「Glass Eyes」では「この愛が醒めて行くのを感じるんだ」ですしね。そして極めつけはラストの「True Love Waits」。この曲は2001年のライブ盤「I Might Be Wrong」にライブ・ヴァージョンで収録されていた曲で90年代からライブで披露されていたことで有名な曲だったんですけど、今回、ようやくしかるべきアレンジが見つかったこともあって、遂にスタジオ録音盤が登場したわけですが、奥さんと一緒になって比較的日の浅いときに作られた「本当の愛は待ってくれる」なんて曲でアルバムをシメているところに、今回のこのアルバムでのトムの生々しいエモさがにじみ出ています。ここまで自分の私の部分に赤裸々だった彼って、ちょっとないかもしれませんね。



 あと今回、この「True Love Waits」のほかに「Burn The Witch」(「ヘイル・トゥ・ザ・シーフ」のアウトテイク)、「Ful Stop」「Identikit」(共に「キング・オブ・リムズ」のツアー時に披露)、「Present Tense」(2009年のトムのソロ・ライブで披露)と、古くから存在していた曲を多く収録しているんですが、それだけ、時間をかけて練られた曲が多かったことも、今回のアルバムの美しさの理由にもなっているのかもしれないですね。


 ボブ・ディランの最高傑作のひとつに数えられる作品に「血の轍」という、1975年の作品がありますが、さしずめこのアルバムはレディオヘッドにおけるソレなのかもしれないなと、歌詞の面では思わせますね。それが、先述した、ツェッペリンの「フィジカル・グラフィティ」の頃(奇しくも,これも75年作だ)のようなバンドの円熟期ならではの多様性・熟成を持って作られた感じかな、と僕は感じています。そう思わせるだけでも、やはりキャリア円熟期の傑作に数えていいんじゃないかと思いますね。
 
author:沢田太陽, category:CDレヴュー, 11:56
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Apple Musicで聴くMTV のEMAノミネートの非英米のアーティスト
どうも。

昨日に続いて今日もApple Musicを使った実験です。今回はこんな話です。




ノミネートが発表になったばかりのMTVのヨーロッパ・ビデオ。ミュージック・アワード(EMA)。このアワードはその名の通り、ヨーロッパのアーティストを対象に行なわれもしますが、同時にアメリカもオセアニアも南米もアジアもアフリカも対象にした世界的な規模でのアワードとして有名です。今回はそんなEMAで地域別のカテゴリーで選ばれた人立ちの中で僕が気に入ったものをApple Musicで探してみて、音が見つかったものをYoutubeで見つけて音をアップしてみる、という企画です。


基本的に今MTVは子供向けの曲なので,どこの国でもラッパーやEDMのDJ、リアリティ・ショーのオーディション番組出身者が強かったりはしますが、その中で稀に点在しているロック系のアーティストを見つけるとうれしいものです。


では、まず最初は、今回の開催地、イタリアはミラノを拠点にしている、このバンドから行きましょう。



これ、今イタリアで爆発的に人気のバンドです。名前をThe Kolorsといいます。キラーズと一字違いですが、サウンドもそんな感じです。ポスト・パンク・リヴァイヴァルっぽいサウンドをベースに、そこにワン・ダイレクション的なポップさと、ブルーノ・マーズ的なソウル・フィーリング、そしてワム!やデュラン・デュラン、a-haみたいな80sニュー・ウェイヴ・アイドルの感覚が加わった感じですね。僕、彼らは英語詞だし、ちゃんと国際的に売り出せば結構行けると思うんですけどね。すっごくスター性もあるし、いろんなファン層、掴めそうな感じがあるので。




ルックスもこれですからね。フロントの,彼はスタッシュって名前なんですけど、華ありまくりの美形で、この髪型ですからね。こういう特殊な訴え方をする人は瞬間的な爆発力がいつの時代も強いものですけどね。そしてメンバーも、この手のサウンドであからさまにゲイなメンバーがサイドにいるところも、80sのニュー・ウェーヴ・ポップ的ですよね。


では続いてフランス見ましょうか。




最近のフランスのインディ・ロック周りの人の多くがこの人を薦めますね。クリスティーン&ザ・クイーンズ。フローレンス&ザ・マシーンみたいな名前ですが、この名前が功を奏したかわかりませんが、本国ではかなり売れてて、長期でチャート上位に入ってます。今回のフランスからのノミネートでは、もうひとつTHE DOという、女の子がヴォーカルを取るこれもエレクトロのユニットがあるんですけど、そっちも良いですよ。




続いてはベルギーのオスカー&ザ・ウルフというエレクトロ・バンド。この人たち、ちょっと影のある、マニアックなタイプの音楽性ですが、本国ではチャートのトップ狙えるくらいの人気バンドです。国際的に売り出せば面白いと思うんですけどね。




ただ僕として一番の発見はこのスペインのバンドでしたね。ネウマンというバンドなんですけど、すごく趣味の良いシューゲイザー・ギター・ロックですね。ヴォーカルがイアン・マカロックみたいのも説得力ありますしね。今、スペインってプリマヴェーラ・サウンドとかに代表されるインディ・ロックの国際的フェスが多い国なんですけど、国産のインディのシーンも活発のようでして、彼らの所属するレーベルもスペインではかなり大きなインディ・レーベルらしく、質も数もかなり豊富です。すごく興味湧いてます。


では続いてオセアニア、行きましょう。




男性シンガーソングライターのアヴァランチ・シティ。ニュージーランドの人ですね。オセアニアだとSiaみた異な自作自演派そう熱いですね。

では、ラテン・アメリカに行きましょう。




メキシコでは国民的人気の女性シンガーソングライターです。ナタリア・ラフォルカーデ。メキシコはバンドもシンガーソングライターも層が厚い国で、ラテン・グラミーのオルタナティヴ・ロック部門はいつも独占してるんですが、その関係でナタリアのことも何年か前から知ってました。ただ、風貌、すっごいイメチェンしたんですよ。前はすごくガーリーっぽいタイプだったんですけど、髪をバッサリとヴェリーショートにして雰囲気かなり変わりましたね。




そしてアルゼンチンからはインディオス。まだアルバムは1枚しか出していませんが、ロックの盛んなアルゼンチンでは注目を浴びてるバンドのようですね。この国からはタン・ビオニカというエレクトロ系のバンドもエントリーされてましたね。

ちなみにブラジルからのエントリーは・・今年は正直微妙なので割愛します(苦笑)。


あと、アジア、アフリカは正直今回はグッとは来ませんでしたね。日本からはBABYMETAL、電波組Inc、三代目J Soul Brothers、ONE OK ROCK、SEKAI NO OWARIがエントリーされてましたが、このあたりは僕より皆さんの方がご存知だと思うのであえて語りません。ただ、日本のアーティストがApple Musicに全然ないんだよなあ〜。


 
author:沢田太陽, category:CDレヴュー, 11:32
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Apple Musicで話題のメタル・アルバムを4枚聴いてみた
どうも。

今日と明日は、Apple Musicを使った一種の実験企画です。

まず今日のお題は

話題のメタル・アルバムを4枚聴く!


こういうことが出来るのは、Apple MusicとかSpotifyのある世の中ならではだと思います。普通、僕の持つ趣味感覚だと、メタル系のアルバムを4枚も試し聴きなんてまずしないのですが、この数週間、世界各国のヒットチャートを見ていると、この時期にすごく話題盤が集中していて、ちょっと元気のなかった(と少なくとも僕には映っていた)ラウドロック系で、ようやっとコアファンではなく、一般浸透しそうな勢いのあるものが、新旧のバンドで出たなあ、と印象だったんですね。で、こういうときに、定額配信サービスだと、いざ思い立ったときに高いモチベーションで試し聴きできるのがいいですよね。こういうの、少なくとも10年前までだったら不可能だったし、つい最近でもYoutubeに音があっても、やっぱ音質の問題とか、曲間がつながったまま次の曲に行ったりするのってやっぱり抵抗がなかったと言えば噓になりますからね。腰を落ち着けてしっかりと試聴が可能、というわけです。

では、聴いたものをあげていきましょう。



まずはじめはブリング・ミー・ザ・ホライゾンの「That's The Spirit」。キッカケは彼らですね。ここ数週間、あまりにも彼らの話題をFBのタイムラインで聞いて、NMEもすごくプッシュしてて、あそこの読者が「来年以降のフェスのヘッドライナーに」まで言うので何事かと思って気になって聞いてみたのですが

たしかにいい!

今まで、「エモっぽいルックスのメタルコア・バンド」なイメージだったんですけど、今回、サビのとこあたりはベタにエモな感じは残してはあるんですけど、EDM的なシンセを導入したり、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジみたいな贅肉削ったソリッドなヘヴィ・ギターにしてみた曲があったりと、かなり音色にセンスのいいこだわりがある人たちなんだな、という印象を抱きました。


聴きようによってはリンキン・パークみたいに聞こえない訳ではありません。曲によってはぶっちゃけかなり似てるものもあったりもします。ただ、楽曲というか、曲調の引き出しがこっちの方が広いし、シンガーの抑制した時のコントロールも、このアルバムを聞く分にはこっちの方がうまいと思います。リンキン・パークが変化への欲求はあれど、壁に当たって超えられなかったところを、このバンドはより最近の音楽手法をうまくつかって乗り越えた感じですね。


そういう感じなので、イメージとしては、「リンキンとか、エモとか、前みたいに元気なくなったからなんとなく離れちゃった」といった感じの少し前のニューメタルやエモの、比較的軽めかつまだ20代くらいの人だったり、メタルやラウドロック体験がないUKロックのファンの人が聴いても「あら、案外行けるね」と、たとえばMUSEやロイヤル・ブラッドを聴いて抵抗がないようなタイプの人だったら思うんじゃないかな。コアなメタル・ファンじゃなくても「少し激しくても多少は大丈夫」な感じのロックファンなら、「こんなに才能あったのか!」と素直に思うような気がします。とりわけメロディはよく書けてて記憶に残りやすいので、そういうアピールはなおさら強いと思います。


聴いててですね、これ、グランジのときにいたシルヴァーチェアーというバンドの3枚目のアルバムを思い出しました。「Neon Ballroom」というアルバムだったんですけど、これがグランジしながら徐々にファンタジックなメロディとか、リズミックな実験とか入れはじめた作品で、これの次のアルバムではストリングス交えてファルセットで歌いはじめて、遂にはラウドな要素も消えて行ってしまったんですけど、このバンドも広い視点で音楽聴けそうなバンドなので、そういう方向に行きがちな雰囲気はこれを聴く分には感じますね。

今、これ、欧米圏のメディアでもすごく絶賛されている最中なんですけど、一般ユーザーの評価で「こいつらはメタルを裏切ってインディ・ポップになった」みたいなものが目立ちますね。そういう狭い了見だったから、ラウドロックって、ある時期からどれも同じような音圧の、自由度の少ない作品ばっかり出てたのにね。そういう風通しの悪さを解消する役割を果たせそうな力強い作品だと思いましたね。


では、次はこちらですね。



スウェーデンのバンド、ゴーストの「メリオア」というアルバム。彼らは2年前にいきなりロック・イン・リオに出演したときに知ったんですけど、そのとき、骸骨の教皇のコスプレしてたんで、「何だ、このイロモノ?」と思ってみてたものですが、2年経ってアルバム聴いてみたら、ものすごく良くてビックリしてるとこです!


彼らはデイヴ・グロールの最近のお気に入りバンドとして知られているんですが、いかにもデイヴが好みそうな、オーヴァー・プロデュースになりすぎない「低音弾いてるんだけど実は音自体は軽快」なリフを奏でるタイプのバンドで、ウザったくなりかねない圧ぬりのコンプレッサーとかを極力カットした音作りは、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョッシュ・ホーミあたりが好みそうなアレンジでもありますね。


そう思ってプロデューサーのクレジットみたら、これ、手がけているのクラス・アールンドなんですね。この人、テディベアーズっていうスウェーデンのテクノ系のバンドの片割れやってる人(もうひとりは「Jerk It Out」っていうitunesのCM曲に使われたガレージロック・バンド、シーザーズのメンバー)です。たしかにテクノDJやってるようなタイプの人が、一番いい楽器の音色を編集感覚的に選んでそれをバンド・サウンドとしてひとつにまとめた感じですね。そういうこともあって、やってることはきわめて生音っぽいのに、音の響き自体に得も言えぬ編集感覚が働いてる感じがするんですよね。「せーの」で一発で録音したように見せかけつつ、実はきわめて音の粒子までこだわって作った感じです。


そうした「21世紀的なエディット技術」を70年代の、「悪魔のことは歌うけど、適度にハードロックで適度にプログレ」な感じのブルー・オイスター・カルトみたいなロックにあてはめてみたら、こういうのが出来ちゃった、といった感じの作品ですね。その意味ですごく通好みで地味な作品ですが、音色のセンスがすごくモダンなので、むしろハードロック免疫のない人の方がウケがいいかもしれません。このアルバムがあのピッチフォークで8点台獲得したのもわかる気がします。実際問題、ブリング・ミー・ザ・ホライズンみたいな、若めのリスナーにウケそうな扇情的なエモ・メロディも一切ないので、そういうタイプのメロが苦手なタイプの人でもこれは大丈夫だと思います。インディ・ロックのリスナーが聴くには、これが一番入りやすいんじゃないかな。


ただ、良くも悪くも洗練され過ぎた作りで、押しの強さには欠けるので、その点でBMTHには人気の点ではかなわないかもしれないなとは思いました。




続いて、今や大御所中の大御所、アイアン・メイデンの新作「The Book Of Souls」。


いわゆる、80年代までのオールド・スクールのメタルの実績者の中で、2000年代以降で一番勢いのあったバンドって、間違いなくこの人たちだったと思います。僕も2002年か03年に一回だけライブ見てますが、演奏力とショーの構成力は完全にプロフェッショナルでしたからね。しかも、40代突入してたのに、その当時の新作からの曲が増えてましたからね。元からの自力に、モチベーションの高さが合わさった感じで見てて頼もしい感じがしたものでした。


で、これが2000年代以降で、たしか5枚目だったかな。いわゆる、ブルース・ディッキンソンが戻ってきて、プロデューサーにケヴィン・シャーリーがついて以降、ずっと同じ布陣で作ってるんですが、それが彼らの表現的に最もふさわしいと判断してのものなのでしょうね。


で、そのシャーリーになってから、メイデンが初期の頃に売りだった、「作り込まない疾走感」を元に作られている感じがありますが、そのあたりが僕の抵抗感が少ない理由のひとつでもあるんですよね。今回のアルバムでも、ファスト・チューンはすごくロックンロールでカッコいいです。このあたりは、メタル云々関係なく、もっと聴かれていいとこだと思ってます。


ただ、この音色のまま、今のメイデンって、ものすごく長い曲をやるんですよね。8分とか、10分とか、13分とか。このあたりはですねえ・・、音楽でも映画でも、長尺なものが基本的に苦手な僕にはややツラいところもあります(汗)。ただ、この芸当を自信持って出来るのがメイデンだし、それをスカスカの疾走感のまま強引にやり遂げてしまう姿もワン・アンド・オンリーであることはたしかです。その美学を50代後半になっても「もっと良いものを作りたい」とばかりに攻めてる感じは見ていて好感は持てます。趣味的に必ずしもストライクではないものの、その姿勢には一目置きたいとは思っています。


そして最後はこれでシメましょう。




モーターヘッドの「Bad Magic」。フジロックでも話題になってましたよね、今年。


今回、驚いているのは、モーターヘッドのこのアルバムが、イギリスで33年ぶりのトップ10入りを記録して、アメリカでもキャリアハイの30位台を記録したことです。「エッ!一体何があったの?」と思って調べたら、この前作が、ドイツとスウェーデンでトップ10入りする快挙だったんですね。この2国でのヒットというのなにげにオイシイのです。なぜなら、ドイツで売れたらほぼもれなくオーストリアとスイスでも売れるし、スウェーデンで売れるとノルウェーとフィンランドもついてくるので。ヨーロッパで広がりのあるブロック圏で、しかもそれを2つ抑えられたのは大きかったんでしょうね。そこが英米に跳ね返ってきたわけです。


ただ、それがなくても、最近はデイヴ・グロールがモーターヘッドの熱烈なサポーターとして応援したり、レミーが「メタル界のキース・リチャーズ化」してて、70超えて、明らかに顔色も悪いのに、ステージではファストなロックンロールを聴かせるという、完全に「キャラ勝負」できる領域に入ってきましたしね。


あと、2000年代にAC/DCがあそこまでリスペクトを受けてビッグになっちゃったあと、「次は誰をリスペクトして再評価する?」となったら、モーターヘッドが最適だった、ということはあったと思いますね。代表作の「エース・オブ・スペーズ」をはじめ、30数年前から実際に「パンクスの好きなメタル」でしたけど、時代を経て、いろんな音の強度に慣れた後にこれを聴くと、もう「エッジの効いた普遍的なロックンロール」として広く聴かれやすいものになったのかな、という感じもします。


その今回のアルバムですが、やってることは基本的にいつもと同じです。ただ、世間の注目が集まっているタイミングで、「彼らからこういうのが聴きたい!」と思われていたことを期待を外さずにまんまやりきったのが良かったんでしょうね。それがアルバムの好評とセールスに直結したのだと思います。AC/DCが「ブラック・アイス」のタイミングでやれたことが彼らにも出来たんでしょうね。で、もっと言うならAC/DCの最新作が微妙に丸くなった観があった(まあ、いろんな諸問題もありましたから・・)ところが、こっちは疾走感に溢れて痛快で抜けの良い印象もあります。


これ聴くと、ラモーンズとAC/DCとモーターヘッドって、やっぱセットにして聴きたくなるんだよなあ〜。


・・ってな感じです。

ぶっちゃけ、「非メタルファン」的な観点からいろいろ語りましたが、逆に言えば、そういう人にも良さが伝わることも重要だとは思いますからね。あと、エモブームが終わったあとくらいからかな、どうもラウドな系って、ネットの批評メディアからもフェスからも対象から外されて、かつ、ジャンル内のフェスでも新しいヘッドライナー格が見えて来なかったから端から見てても正直気にはなってたんですけど、なんとなく、なんとかなりそうな気がしてきて良かったかな、とも思ってます。


 
author:沢田太陽, category:CDレヴュー, 13:04
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U2「ソングス・オブ・イノセンス」レヴュー〜発売方法ばかりが記憶に残りそうな嫌な予感
どうも。

やっと聴きました。これのレヴュー、行きましょう。




U2の新作「Songs Of Innocence」ですね。

このアルバム、世間的には、「事前予告なしの、itunes限定フリー・ダウンロード」みたいな触れ込みでしたね。

ただ、事前予告なしにいきなりダウンロードで発売というのは、2007年のレディオヘッド以降、もう何件かやられていることで決して珍しいことではもうないし、このジャケ写自体も、カニエ・ウェストの去年のアルバム「Yeezus」もあったし、その昔、システム・オブ・ア・ダウンの未発表曲集だかにこういうのがありましたしね。

あと、「U2とitunesとのタイアップ」というのも、ちょうど10年前の「Vertigo」を思い出させるものでしたね。あの頃のitunesは右肩あがりで、まだitunes storeは日本には上陸してなかったんですよね。そういうこともあって、そのときはカッコよくもみえたものでした。

ただ、今やitunesもspotifyとかパンドラに押されっぱなしで良いとこなく、U2の方も2009年のアルバム「No Line On The Horizon」がキャリア史上はじめての失敗作になり、そのあとのツアーもボノのヘルニアの手術で中止になったりと、イメージとしては落ちてる状態でした。


そんな中、itunesとU2が組むというので、正直な話、なんとなく、「大丈夫?」な予感はしてました。


で、僕の聴いた感想は・・

う〜ん・・・・

ひとつだけわかりやすく前作よりいい点を言うと、楽曲自体はわかりやすくなっています。その前のアルバムは、「実験的なことをやってみよう」とした割に、どこか実験的なのかよくわからず、ただ曲がわかりにくかった、という作品に映ってしまっていました。今回はそこの反省があったのか、1曲1曲はわかりやすく作られていると思います。

ただ、聴いててですね、たとえて言うと


90年代以降のマイケル・ジャクソンのアルバム聴いてるみたいな気分になりました

と、いう喩えはですね、直接的に言いますと、

中身自体は自分の手癖で、それを外部の有名プロデューサーが料理してくれるのをただ待っている

厳しい言い方すると、そういうアルバムにしか聞こえません。

プロデューサーの名前自体はビッグです。デンジャーマウスにポール・エプワースにライアン・テッダー。デンジャーマウスはブラック・キーズやベックであて、エプワースはブロック・パーティとかのポストパンク・リバイバル系のあとにフローレンスやアデルであてた人です。それだけなら、まだしも、今回はそこにワンリパブリックの中心メンバーで、マルーン5とビヨンセであてて有名になった人ですよ!ここにまず違和感がありましたね。なんで、U2ともあろう方が、そんな産業ポップス系のプロデューサーとかと組んじゃうわけ?なんか、それじゃ昔、ボン・ジョヴィやエアロスミスがデスモンド・チャイルドとかジム・バランスとかの職業ソングライターと組んでポップなロック・アルバム出してたのと同じ感覚じゃないか!


しかも、そのライアンの名前がプロデュースに多い。彼のプロデュースの場合、基本的に自分が作曲にかかわっていることがほとんどなので、今回のU2もソングクレジットは自分たちだけど、どう考えてもライアンが作曲に関与していないとは考えにくい。加えて、せっかく、デンジャー・マウスにせよエプワースにせよ、アルバム1枚でトータルでまかせられるプロデューサーなのに、それをいたずらに分担させる意味が正直なところわからない。それじゃ、ある時期からのR&Bシンガーのアルバムみたいじゃないか。なんでそんな寄せ集め的なアルバムを、これまで立派にトータルに素晴らしいアルバムを数々作ってきたU2がわざわざ作らなくちゃならないのだろう。それはクレジットを見たときに思いました。


そして、そのいや〜な予感はあたりました。

冒頭の「The Miracle」でのいつになくアグレッシヴなギターを聴いた時は、「おっ!」と一瞬思いました。このときは、2004年の「How To Dismantle The Atomic Bomb」をより力強くした感じのアルバムも期待できるのかな、と思いました。

しかし!

そこから先は、皮肉にもコールドプレイのパクリ返しみたいなアダルト・コンテンポラリー曲の連続

ここで一気に退屈しちゃいましたね。2曲目でいきなりテンション、落ちました。それがしばらく回復することなく、何曲か進んだ時点で、「こりゃ、苦しいなあ」と思わずにいられなくなりました。U2の場合、2000年代にコールドプレイ、キラーズ、キングス・オブ・レオンとフォロワーが出てしまったがために、彼らの歌メロや歌い回しが使い古されてしまった感がどうしても否めなかったのですが、少なくとも2〜5曲目の楽曲は、そうした次の世代の楽曲に飲まれた感じが否めません。新鮮さがないだけじゃなく、「こういう曲だったら、やっぱ本家が一番だよね」と言わせる力強さが残念ながらないんです。


ようやく6曲目の「Volcano」で初期っぽいパンキッシュな頃のサビでのギター(それをバックにしたボノのファルセットも良し)や、7曲目「Raised By Wolves」でのちょっと変則的なリズムや楽曲構成は独自の色(これもサビが初期っぽい)が出ててそこは面白くなってきたんですが、そこからがまた面白くない。


9曲目のアナログ・シンセにディストーション・ギターを噛ませた噛ませた「Sleep Like A Baby.Tonight」は耳を引く曲ではあるんですが、それもどっちかというと、デンジャーマウスのアレンジに助けられただけで、曲そのものは正直おもしろくない。そして、通常、U2ってアルバム・クロージング・ナンバーって余韻の残る強い曲を持ってくるんですけど、11曲目の「Troubles」も、リッキ・リのバック・ヴォーカルという話題性はあるものの、これも特に何かが残るという感じでもない。


概して言えることは、U2自身からメロディやサウンドで伝えたいものが伝わってこないことです。なんか、すごくコラボレイターに助けてもらうのを待っているような感じに聴こえるんですよね。それがなんか聴いててガッカリなんですよね。U2の場合、初期から、スティーヴ・リリーホワイト、ブライアン・イーノ、ダニエル・ラノワといった才人たちと組んで来ています。ただ、U2の才能が彼らに喰われることはなく、彼らはあくまでU2のよきヘルパーに過ぎませんでした。「ヨシュア・トゥリー」でのアーシーなアメリカン・ルーツロック的方向性なり、「アクトン・ベイビー」以降3枚のエレクトロ路線なり、「All That You Can't Leave Behind」での成熟なり、「How To〜」での成熟があったうえでのロックンロール回帰なり、それらにはすべて、U2が主導を握った明確な意思表示が感じられました。


ところがこのアルバムは、そうした彼ら自身が進みたい方向が見えず、ただ単にロックでの流行を後追いしたもののようにしか聴こえない。U2はもうかれこれ30年近く聴いてますが、そんなU2の姿見たの、これがはじめてなんですよね。そこがなんかガッカリなんですよね。特に冴えを感じないのがボノですね。エッジのギターに関しては、まだプロデューサーにいじりがいがあったのか、通常のあのギシギシのトーンにいろんなヴァリエーションを加えることができてるんですけど、肝心なボノのメロディが手癖になってるうえに、新しいことをやろうとする姿勢が感じられないんですよね。


もう、U2といえば、存在自体がかなり大きなブランドだし、今回の発売法もかなりの話題を呼びました。ほめてる媒体もあります。そういうことで今作はとりあえずはチャートでも1位を獲得するし、場合によってはシングル・ヒットも出るかもしれません。その意味でこのアルバムのツアーで、彼らが「懐メロ・サーキット」のバンドへと堕すことはかろうじて避けられるでしょう。

しかし!

もし、これがあともう1作続いたら、いくらU2でもさすがにキツいです!


U2のキャリアというのは、結成して35年くらいになりますけど、致命的な失敗作や才能の停滞がないまま、ずっとアーティストとして成長してこれた、本当に希有なバンドだったんですね。なので僕自身も彼らのバンドとしてのコンディションやクリエイティヴィティの維持に関しては本当に頭が下がる思いだったし、80年代に10代を過ごした元少年としては見守って行きたい共感できるバンドであり続けてたんですよね。それだけに「U2にもついにこういう日が来ちゃったかあ」と思うと、なんかすごく淋しい思いが去来してしまいます。

そんなわけで、今回のU2、100点満点で僕が点数出すとしたら


55/100点


何曲かはキャッチーで耳に残るので、そこでかろうじて50点以上はやれますけど、でも、これ、彼らの持ってるレベルからしたら、点数はかなり下げないとダメだと思います。こんなもんじゃない。


それにしても、ローリング・ストーンはなんで★5つつなんて出したんだろうな。「アクトン・ベイビー」以来の傑作だって?だとしたら、世界を制したU2がほぼ180度に近い別アプローチで自身に新たな挑戦を挑んで来たあの衝撃だった名作の意味さえわかってなかったってことだよ。


結果的に、「ああ、itunesとタッグしたね」ということ以外は、あまり思い出してもらえないアルバムになっちゃうんじゃないかな。


 
author:沢田太陽, category:CDレヴュー, 12:21
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アーケイド・ファイア「Reflektor」を聴いた
どうも。


やっぱ、このアルバムのレヴューをやっておかないといけないでしょうね。


今年秋のロックの最大のリリース。もちろん、これです!





アーケイド・ファイアの「Reflektor」、こちらを語ることにしましょう。


このアルバムですが、さすがに事前期待値がものすごく高まっていましたね。過去3作はいずれもその年のリリースのベスト作クラスの評価が続いた上に、前作がグラミー賞の最優秀アルバムなわけでしょ。ちょっと前までの「インディでの期待の逸材」がもういつの間にか音楽界のひとつの頂点とも言える賞まで取ってしまったんだから。


そんなわけで、今回は所属のレーベルも金の掛け方が違いましたね。前作「The Suburbs」のときも、発売タイミングでマジソン・スクエア・ガーデンで発売記念のライブやって、それをテリー・ギリアムにライブ映像をとってもらうなどしてましたが、今回も、もう「これでもか!」というくらいに期待が入りまくっている。まず、アルバム発表の告知の時点で日にちからデザインに謎を施し、プロデューサーは今をときめくジェイムス・マーフィー(LCDサウンドシステム)、そしてミュージック・ヴィデオの監督はひとつをアントン・コービンに撮らせ、もうひとつにはボノ(U2)、ジェイムス・フランコ、ベン・スティラー、マイケル・セラといった豪華セレブ・ゲストが出演し、今シーズンの幕開けの会の「サタディ・ナイト・ライブ」で最初の新曲お披露目・・・。扱いが破格に特別クラスになっております。


これまで「Merge出身のインディのバンド」のイメージを持っていらっしゃる方には「なんで急に」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、僕としてはそんなに不思議なことではありません。彼らのあの、「クラシック音楽とパンクの両方理解出来ないとできない」パフォーマンスの圧倒力から考えれば今のポジションは決しておかしなものではないし、加えて、「カナダの素朴なバンド」のふりして実は野心がかなり強いバンドなのもわかってたし。そうじゃないと、前作の時点で発売タイミングでMSGでライブやったり巨匠クラスの映画監督のテリー・ギリアムに映像撮らせたり、さらにはグラミー賞で演奏したり、なんてことは引き受けたりしないでしょ。この前の最新の曲だった「ハンガー・ゲーム」の主題歌に近い曲だったわけだし。今回のこの出方も含めて、シーンのトップになる気なんて満々でしょ。ただ、それが、「酒とバラの日々」であるか「とことんまで最高の芸術を求めるアート肌」なのかの違いだけであって。僕も、こういう人がロックスターになるんだとしたら、それはもう大賛成です。


で、今回のアルバム、聴きました。今回のアルバムは、各媒体のアルバム・レヴューを総合したMetacriticのレヴューの合計は全40レヴューで点数では80点。これがどういうことかと言うと、1stの「Funeral」が90点、2ndの「Neon Bible」3rdの「Tge Suburbs」で87点、それに比べたら、80点なんで十分高くはあるんですけど、中には批判的なものもあった、ということです。今回の40のレヴューのうち、実は60点未満の厳しい評をのせた媒体が6つあったんですね。こういうことは、これまでの彼らにはなかったことなので、僕は個人的にそれにビックリしていました。

で、そういうことがなぜ起こったのか。聴いて確認しようとしました。そして、その意味がなんとなくわかりました。


この「Reflektor」ですが、アーケイド・ファイアのこれまでのことを何も知らなければ、素直に素晴らしい作品だと思います。ジェイムス・マーフィーのエレクトリックでエッジィなグルーヴ・センスがうまく生きてますね。彼の関連作品を聴いていつも思うことですが、ディレイのかけかたとシンバルの「バシシシ」っていう鋭い響きはカッコいいですね。あと、今回はスネア・ドラムの硬い音も、これまでのアーケイズにはないリズム感ですね。そういうところは、ジェイムス・マーフィーの起用効果がしっかり出たと思います。

で、そのマーフィーの作り出す、それだけで十分作品の強い個性になりえている葵の紋章みたいなサウンドに負けず、アーケイズはアーケイズで、しっかりいつも通りの生身のグルーヴもしっかり前に出せてると思いましたね。フューチャリスティックなサウンドを使いつつも、しっかりとフィジカルだからこそ可能な肉感性もしっかり現している。それは冒頭のタイトル曲の従来からのトーキング・ヘッズ路線でもそうだし、「We Exist」でのソプラノ・サックスの響きしかり、「Here Comes The Night Time」のラテン・フレイヴァーのピアノとダブル・パーカッション。「Normal Person」でのフリーキーなギター・トーン、「You Already Know」でのモータウン調のカッティング。このあたりのリズムと時間軸の折衷感覚で言えば、僕は初期の、まだブライアン・イーノがメンバーにいた頃のロキシー・ミュージックの雰囲気に見えます。

そして「Here Comes The Night 2」〜「Awful Sound」〜「It's Never Over」でチルアウトしながら抑制の効いた彼ららしい美メロを展開しているのもうまいと思いましたね。それプラス、彼らの場合、このタイプの曲を聴くと、ウィン・バトラーのメロディ・メイカーとしての高い資質がよくわかります。アップの曲も含め、彼のメロディとリズムの臭覚の良さと楽曲が弛緩しないようにまとめあげる手腕もたいしたものだと思います。そして終盤をもう一度グルーヴで盛り返して、最後は混沌で終わる。この辺りの流れは見事です。アルバムとしてのトータル力はしっかりある作品です。メロディにも1度聴いたら忘れない、名人的な上手さがあると思います。


・・と、これまでのことを何も考えずに、ただこの作品にだけ注目して聴けば、このようなポジティヴで興奮するカタルシスは十分得られる作品ではあります。


しかし!


このアルバムに唯一「困った点」があるとしたら、それは「過去の個性や印象からのつながり」、ここに絡めとられて、新しい路線に違和感を持つ人が予想されることです。やはり今作の場合、これまで以上に電子音グルーヴを前に出し、全体の楽器の音数を減らしている作品であるので、これまでのようなホーンやストリングスなどを駆使した多彩なアレンジがやはりどうしても減ってしまっているんですね。加えて、これまで以上に「静」の部分での抑揚が弱いために、これまでの作品に比べたら、テンポ感も曲調の表情もややバラエティさには欠けますね。この楽曲ひとつひとつの多彩さの面も、彼らのキャラクターを語る意味での力強いアピール・ポイントになってましたから、それがあまり感じられずに淋しい思いをした人もいたでしょうね。


あと、「ウィンとレジーナの2人以外」の存在感がこれらの新曲からはあまり感じられないんですよね。ぶっちゃけ、この夫婦がマーフィーとノリで結託してそのままの勢いで作ったな、という印象を今作では受けます。まあ、今は彼らのキャリアの中でも最も勢いのついている頃なので、その「勢い」のままでも十分押し切れる作品であったのは確かです。ただ、削り取ったところには惜しい部分も多い、ということです。


それに加えて、元々「大所帯」というのをウリにしてたところが、シンプルになったがゆえに一部のメンバーに手持ちぶさたな感じがしてしまうんですよね。正直、幾人かのメンバーをレイオフしているかのようにも感じられるんですよね、「瞬時の勢いと創造力」で今のタイミングは十分乗り切れていますが、「今後このバンド、どうするんだろう」といった将来的な方向性が見えにくいことでしたね。そのヒントが見えないままで終わってしまったのはちょっと残念な気もしましたね。このアルバムが、一時の勢いだけの特別なタイミングで出したものなのか、それとも今後に繋がりうる何かのはじまりを意味するのか。そこが非常に見えにくい作品でもあります。


・・ということもあり、反対派の突っ込みどころもわかる作品でもあります。

あと、それに加えて、このアルバム自体が持つシーンにおける意味合いみたいなものも、ちょっと見えにくいところがあるんですよね。たとえばダフト・パンクの「Random Access Memories」だったら「EDMを終わらせる」みたいなところでドラマがあるし、アークティック・モンキーズの「AM」には「ハードなギター・ロックでの実験性にあえて挑む」みたいなものが見えるんですけど、このアルバムがシーンで何にあたるのか、それが見いだしにくいんですよね。


ズバリ、「アーケイド・ファイアというバンド史」という意味においては、純粋に良い、耳の印象にも強く残る曲が多いアルバムなので、「ライブのセットリストに多く加わる姿が見える」という意味では立派な作品だし、間違いなく大ヒットもするだろうから「代表作」には十分なりうるはずです。でも、逆に、これが当たってしまうことでここからの曲がメインになり、前3作までにあった良さがライブの面で徐々に削られていくことにならないか。その危惧は僕の中に少しあります。その意味で、今度のアルバム、旧作の曲とまじえてツアーでどう表現するかがかなり重要になってくると思います。


ということをふまえ、僕の今作、点数をつけるとするならば


81/100


こういったところですね。★★★★よりちょっとだけ点数高いけど、★★★★☆には近くない、といったところでしょうか。年間トップ10的なところで言えば、それは確実に入るとは思いますが、さっき言ったダフト・パンクとアークティック、そしてボウイの後にはなりそうな気がしてます。
author:沢田太陽, category:CDレヴュー, 11:42
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