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ライブ評「ポップロード・フェスティバル(2018.11.15@サンパウロ)」Lordeとブロンディの新旧ロック・ディーヴァの揃い踏みに感動!

どうも。

 

 

ちょっと仕事が押した関係で、更新しながらのアップになりますが

 

 

 

 

11月15日に行ったサンパウロのラテン・アメリカ記念館(と言っても野外ですが)で行われたポップロード・フェスティバル、これのレヴューやりましょう。

 

 

このフェスは、サンパウロの音楽ジャーナリストが主催しているもので、毎年、1日限りではありますがかなり鋭角なラインナップ組んでくれる良質なイベント。去年もPJハーヴィー、一昨年がウィルコ、その前がスプーンとベルセバなど、毎年オイシイんですけど、今年はLorde、ブロンディ、MGMT、デス・キャブ・フォー・キューティー、アット・ザ・ドライヴ・インというかなり豪華な並びでした。

 

 

では見た順に。

 

 

・アット・ザ・ドライヴ・イン

 

 この日は昼の12時にイベントがスタートしました。国内組のアーティストも素敵な感じだったので、午前から外に出る気満々だったのですが、家を出ようとした途端に大雨!あまりに雨脚が強いので「ちょっと小止みになってから」と思っていたら、なかなか出れず。少しずつ会場に近づくような行き方してたら3時を回っていました。

 

 なので、3番目に出演したアット・ザ・ドライヴ・インも、会場が駅前なんですけど、駅から聞こえてきたのが2曲目。空耳アワーでの「童貞ちゃうわ!」の曲でした。そこからリストバンドの引き換えとかいろいろしてたら、彼らの姿を見たのが3曲くらいになってしまいました。

 

 ATDIはミレニアムの頃、最も旬なバンドだったんですけど、当時、初期エモとポストロックって好きになろうとしてどうしても難しかったジャンルでしてね。ATDIも、2、3回ライブ見てるんですけど、どれもピンとこなかったんですね。なので今回、「改めてもう1回!」と思ったんですけど、天候アクシデントでちゃんと見れず。「やっぱ、縁が薄いのかなあ」と思った次第でした。

 

 で、聞いていくうちに何がそうさせるのかがわかりました。ギター!僕の好きなギター・スタイルって、AC/DCとかハイヴスみたいな、「リフでロールする」タイプだったりするんですが、彼らの場合、それがなく「♩チラリラリララー」みたいなフレージングでリフ作ってリズミカルじゃないんですよね。そこが多分、身体的にノレなかったのかな。ただ、そこが冷静にわかっただけでも収穫ではありました。

 

 

・デス・キャブ・フォー・キューティ

 

 

続いてデス・キャブ・フォー・キューティ。僕がライブ見るのは2回目ですね。ブラジルではこれが初のライブでした。

 

ただ、一つアクシデントが。フロントマンのベン・ギバードが多分ギックリ腰だと思うんですけど、腰を痛めた都合で椅子に座ってのライブでした。そのことは主催者側から発表され、「そこまでして」という心意気に打たれてファンは大盛り上がりでした。

 

 このライブに関してはATDIとは逆に、「これまで僕がうまく捉えきれてなかったのかな」と若干の後悔もありました。これまで「ウィーザーの内気ヴァージョン」とか「声が弱いなあ」とか「歌詞がよく読むとキモいな」とか思っていたんですけど、ライブで見ると、そうしたキャラクターが徹底されている感じがして、「アイデンティティがかなりしっかりしたバンドだな」という印象になりましたね。

 

 昔からそうだし、近作の曲(多めにやりました)が余計にそうなんですけど、やはり「ニュー・オーダーのギター・バンド解釈」みたいな曲をやらせたら、いい曲書きますね。この辺りはちょっとメランコリックなアルペジオのフレーズ聴くだけで高揚するものありました。あとベンの歌い方も、どうしても力が入らず空気が抜けるような歌い方ではあるんですが、でも声はそれでもちゃんと聞こえるし、ただ単に脆弱というわけでもない。この辺りのバランス加減もいいなと思いました。

 

 あと、女の子が歌詞を口ずさんでる姿が印象的でしたね。僕は「失恋した男の女性への粘着性」みたいな歌詞って好みではないんですが、「そこにシンパシー覚える女性って案外多いのかな」と思いながら見てました。大合唱になる曲に限ってそういう曲だったし。ベンの場合、どうしても前妻のゾーイ・デシャネルを思い出すんですけど、「リアル(500)日のサマー」みたいに実生活でも至ってしまったことを考えると、皮肉にも説得力は増したのかな、とも思いましたね。

 

 

・MGMT

 

 

この日の目玉はLordeでしたが、僕はMGMTも気になっていました。このバンドに関しては、もう「終わったな」とさえ思っていたのですが、今年でた新作「Little Dark Age」が会心の復活作で、久しぶりに満足感得られたので、すごく楽しみになっていました。

 

 

 ただ、これまで彼らのライブは3度見ているのですが、一度たりとも良いと思ったことがない。とにかくマインド的にもう未熟も未熟。「いつになったら学生インディ・バンドの気分、抜けるんだよ」というくらい、ステージ上でおどおどして、オーディエンスとのコミュニケーションもまともにとれない、演奏力は推して知るべしなライブをずっと見せられ続けてガッカリしてましたからね。これが傑作ファーストの頃に立ち返ったようなアルバムとともにどう変わるか、楽しみでした。

 

 天候は一度止んだ雨がまた降ってきたんですが、このバンド、サンパウロ的には究極の雨男です。だって、やった3度のライブで全て雨降りましたからね(笑)。2014年の時なんて豪雨の中で見て、地面が土だったんですけど、川辺みたいになりましたからねその記憶があったので「まただ」と思いながら見てました。

 

 で、結論から言うと、「こんなライブに前向きに向かい合ったMGMT、初めて見た!」というくらい、真摯なものを感じました。アンドリュー、まだオドオドしていて、「視線、どこ見てんだよ」とツッコミたくなる瞬間はあったものの、それでもオーディエンスに話しかけたり、手でウェイヴ作って客と一体となる瞬間作ろうとしたり、これまでにない姿が見られました。演奏や歌も、これまででは間違いなく一番安心して聴けましたね。

 

 そうした本人たちの努力と、新作のクオリティが気に入られてたんでしょうね。これまで、「ファーストの人気曲聴き終わったら客が帰る」というのがすごく見られた光景だったんですが、この日は「James」「Me And Michael」といった新作内のキャッチーな曲もすごく人気でしたからね。構成的にも「Kids」で大団円で終えるのではなく、「Electric Feel」で続けて、最後にファーストの中のシングルでなかった「The Youth」でシメるなど、「自分たちでライブをこう運びたいんだ」という彼らのライブに対しての気持ちが伝わってきたのも好感持てました。

 

「こういうライブがデビューの時からできてたらなあ。せっかくの才能が10年、無駄になっちゃったよ」とは思ったんですが、今からでも遅くはないから取り戻して欲しいですね。

 

 

・ブロンディ

 

 

続いてはブロンディ。僕は10年くらい前に東京で「最後のツアー」を見たはずなんですが、いつの間にか撤回され(笑)、デボラさん、御年73歳なんですが、全然元気にやってます。

 

 ちょうどフェスなので、ディナーを取らねばならず、Lordeは前方で見たいのでその時間を有効利用したかったので「ブロンディの最初の方を犠牲にするか」と思い、人気のピザ屋台で窯焼きピザを待ってて、それは思いの外、早くできたのですが、1曲だけ、オープニングの「One Way Or Another」を見逃したのだけが非常に悔やまれます。

 

 それにしてもデボラさん、カッコいい!この日のファッションはオレンジの色違いのタンクトップにスカートで、スカート部分はとってケープにできる仕様になっていましたね。あとトレードマークのブロンドはウィグっぽかったんですけど、サングラスして歌うと妙に様になってカッコよくてね。元々、低めの声で歌うので声の衰えはさほど目立たないし、声の艶はまだ全然現役。姉御肌の、ちょっとつっぱった口の悪そうなエラそうな風格もカッコいいし、「ボーイズ」ともいうべき、若い(と言っても余裕で中年ですが、笑)野郎バンドを従える姿も元祖ロック・クイーンらしいです。

 

 選曲も、「ブロンディの先駆性」を示したものばかりで過去の曲が構成されてるのもよかったですね。「ハート・オブ・グラス」「アトミック」「ドリーミング」「コール・ミー」「夢みるナンバーワン」、そして「ラプチャー」。パンクも、エレクトロも、レゲエもヒップホップもいち早くみんなやって、それを流行にしてしまった「モード」と「ポップ」の絶妙なバランス感覚。これ、今、「クラシックス」として聞いても全然新鮮。そこに、その感覚とあまり違和感のない新曲群を足してね。ロック界の温故知新のためにはやはり必要な存在です。

 

 

彼女とか、スティーヴィー・ニックス、パティ・スミス、ハートのアン・ウイルソン。プリテンダーズのクリッシー・ハインドもそうかな。いずれも40年くらい前から「ロック・クイーン」として君臨し、今もしっかり現役やってますけど、女性アーティストが今やロック界で不可欠で男よりもパワーあるんじゃないかとさえ思える昨今ですからね、彼女たちパイオニアの存在はいまいちどしっかりリスペクトを受けるべきだとの思いを強くしましたね。

 

 唯一残念だったのは、デボラの夫でバンドリーダーのクリス・スタインが欠席してたことですね。「残念ながら今日はこれてないけど」という説明がデボラさんからあっただけで理由は語られませんでしたが、年齢が年齢だけに気になるところです。

 

 

・Lorde

 

 

 そしてヘッドライナーはLordeです。ブロンディが終わると同時に、オーディエンスが一斉に前の方に集まっていきました。僕ももちろん、その中にいました。

 

 Lordeを前回見たのは、2014年のロラパルーザでしたね。あの時は夕方のスロットで第3ステージの扱いのところで見ました。「Royals」がすでに大ヒットしていた割にはそこまで人は多くなかったですね。まだ’一発屋かも?’と思われた時期でもありましたしね。だけど、もう、この日は早くから前の方はギュウギュウ。周りにも、アルバムのツアーTシャツを着た男女で溢れかえっていましたからね。Lorde、まだ22歳ですが、もうしっかりカリスマになってますね。この時点でかなり嬉しかったものです。

 

 

 そしてライブが始まると、もう、その盛り上がりが凄まじかった!僕の周囲、もうどの曲も最初から大合唱の嵐ですよ。どの曲も、どの曲も。こう言うライブを見るのはラナ・デル・レイもそうでしたけど、ブラジルのオーディエンスの、カリスマティックな女性アーティストでの熱狂ぶりは本当にすごい。単語のひとつひとつ、全部覚えて合唱に備えますからね。そのせいで、肝心な音楽の方が聴こえなくなりますからね(苦笑)。

 

 そしてLorde自身もお見事なものです。ファースト・アルバムは本当に音数が少ない作品だったので、ライブも彼女以外にドラムとシンセと一部ギターのような限られた編成でしたけど、セカンド「メロドラマ」で幾分音の要素増えたと言っても、ミニマルな音構成はそのまんま。大きな会場でやるにはスカスカな音なのに、それでもしっかり魅了できるから大したものです。一つには、今回のツアーからつけたアーティな動きのダンサーたち。これが彼女のサウンドのシンプリシティと絶妙に呼応する感じで、基本的に静寂な音世界とうまくケミストリーを起こします。そしてもう一つはLordeのカリスマ性ですね。声の出る出ないでいえば、フローレンスよりは全然でない方だとは思うんですが、あの独特の声の呪術性で歌世界の緊迫性を上げるあの魔力はさすがですね。これだけで会場を一つにできます。そして、レッドのロングドレスをただ単に着てるだけなんですけど艶やかさも増してますね。前回が暑い時にやったからスポーティで軽装だったのもあるんですけど、やっぱ、この人は基本、ドレッシーに着込んだ方がいいタイプですね。よく比較されるケイト・ブッシュ同様、ヘアとドレスは長い方が絶対にいいタイプです。

 

 そして今回改めて思ったんですけど、彼女のさらなる魅力は、その「エモーション」なんですよね。ステージでは彼女、本当によく喋って。コミュニケーションとって自分の気持ちを訴えますね。ブラジルにいかに早く戻ってきたかったか、今日のライブがツアーのラストから2番目でいかに気持ちが高揚しているか。こういうことを伝えるのがうまい。そして曲に説明を加えるんですけど、特にブラジル人の心をつかんだのが「Liability」の前振りですね。彼女はここで「この曲は、どうしてもある規範に自分をカット・ダウンできない人の疎外感を歌ったものなんだけど、いいのよ、カットダウンなんてしないで。そのままのあなたが素敵なんだから」と語った後、会場のとりわけ女性が悲鳴に似た叫び声をあげます。「この国でも特にそうなんでしょ。カットダウンしようとする感じが強まってて」というと、もう会場は「Ele Nao!」と、女性嫌いで有名な極右大統領、ジャイール・ボウソナロに対するアンチの掛け声をあげます。Lordeはニヤリと微笑んだまま、ボウソナロについてはあえて言及せず、そのまま「Liability」を、曲途中で感極まって涙を流しながら熱唱。こうしたエモーションとパッションが、結局のところ、彼女を支えているんだろうと確信しましたね。

 

この後は最大の代表曲「Royals」を惜しげもなく、ラストから3、4曲目で披露してもなんの打撃にもならないくらい他の曲でも十分盛り上がって、ラストは「怒りや孤独、クレイジネスをぶつけて盛り上がりましょう」と呼びかけて「Green Light」の大団円で幕を閉じました。

 

 この先に出たデボラ・ハリーとは51歳差。これにもおどろくばかりなんですが、ロック・ディーバのトーチはこの22才の才女に確実に受け渡された、ある意味、歴史的瞬間の目撃者になれたようで、嬉しい一夜でした。

 

 

 

author:沢田太陽, category:ライヴ・レヴュー, 21:38
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Live評「ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ@サンパウロ」現在世界最高のライヴ・アクトによる、「今」を揺さぶったエモーショナルな瞬間  

どうも。

 

 

では、予告通り、このライヴ・レヴュー、行きましょう。

 

 

10月14日、サンパウロの3000人規模のホール、エスパッソ・ダス・アメリカスで行われたニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズ、このライブ評、行きましょう。

 

 

僕がニック・ケイヴのライブを見るのは、1998年の7月以来、20年ぶりでした。その時はフジロックでセカンド・ステージの最後から2番目。その時のそのステージの最後を飾ったのはイギー・ポップだったという、かなりレジェンダリーな並びだったものです。

 

 ただ、期待値としては、その時以上でしたね、今回は。それはやはり、彼のここ最近のアルバムが絶好調で、今や欧米圏ではアルバムがトップ10に入る国続出。遅咲きのニュー・ウェイヴの、黒づくめのダーク・カリスマは、現時点の実力では今やキュアー、モリッシー、デペッシュ・モード、ニュー・オーダーを上回ってると言っても過言ではありません。それくらい、アーティストとしての熟成があまりにも素晴らしい。その意味ですごく楽しみにしていました。

 

 そして彼はブラジルにも非常にゆかりのあるアーティストです。1990〜92年頃、ブラジル人ジャーナリストと恋に落ち、サンパウロで生活していましたからね。今回のサンパウロでのライブはその当時以来。そういうこともあり、今回はその当時のファンらしき人たちがかなり多めの、「かつて尖っていた大人たち」が集まった会場でした。

 

 

 

 ライブの始まりは20時を10分ほど過ぎたあたりでしたね。ただ会場が暗くなって、おもむろにバッドシーズ、そしてニック・ケイヴ本人がステージに現れ、現時点での最新作「Skelton Tree」(2016)の「Jesus Alone」「Magneto」から、厳かに、かつ静かにライブをはじめます。

 

 この緊迫したウォーム・アップの後、ケイヴは観衆に対してにこやかに挨拶。「帰ってくるのが遅くて申し訳なかった。でも、今夜のこのライブは本当に楽しみなんだよ」と、約25年ぶりくらいのサンパウロ帰りについてしみじみと語りかけます。

 

 そして、彼らのライブバンドとしての本領が、この後から続々と発揮されます。3曲目、彼らのセールスを上げる契機にもなったアルバム「Push The Sky Away」からの「Higgs Bobson Blues」から、彼らは、現時点で世界最高に知的なロックンロール・バンドぶりを発揮します。

 

 麗しの低音の美声を朗々と響かせながら、エモーショナルにステージを駆け聴衆を煽るその姿は、まさにジム・モリソンとミック・ジャガーの継承者そのもの。60sからのロックの偉大なる遺産を身一つで引き受けたかのようで、すごく頼もしく見えました。と同時に、「現在61歳のこの人がいなくなったら、このロックの伝統芸を果たして誰が継ぐのだろう」と不安になったりもしました。

 

 さらに、この次の「Do You Love Me」からが、この日のライブの最初の最高潮に至ります。最初期の代表曲「From Her To Eternity」を挟みながら「Loverman」「Red Right Hand」と、1994年の最高傑作アルバムのひとつ、「Let Love In」からの曲を畳み掛けます。代表曲が続きます。ここでの彼らは、鋭角的なノイズを撒き散らす混沌としたロックンロールをベース(1980年代の最初期はそんな感じ)にしながらも、メロトロンをはじめとしたオルガン類に、ヴァイヴラフォン、ウィンドチャイムといったオーケストラ用の打楽器を多彩に操って、アナログ感覚ながらも実に精巧に、知的に考えられたロックンロールをパワフルにプレイします。

 

 

 

これはとりわけ、今やケイヴの最高のクリエイティヴ・パートナーとなっているマルチ・プレイヤーのウォーレン・エリスと、第2パーカッションのジム・スクラヴーノスの2人による影響が大きいですね。なんか、バンドの中にブライアン・ジョーンズみたいな役目の人が2人いるというか、もしくは「デジタル楽器を使わないジョニー・グリーンウッド」が2人いるというかね。ただでさえ、ガレージロックを演奏させたらとてつもなくうまいバンドなのに、それを豊かに拡張させる才能を持った人がこんなにいるわけです。これは最強なワケです。とりわけ、さっきフリーキーなエレキ・ギターノイズをまきちらしたかと思ったら、今度はエレクトリック・バイオリンを全身のたうち回りながら弾くエリスの姿はケイヴのお株さえも奪っていましたね。

 

 

 

 ここからライブはケイヴによるピアノ弾き語りのバラードのコーナーになるんですが、ここからブラジル人オーディエンスによる、現在彼らの置かれたつらい状況が爆発することになります。もう今や「setlist FM」の存在で、ライブのセットリスト、「次のどの曲をやるか」と言うのは分かられてはいるんですが、ケイヴが「The Ship Song」をプレイする前に、ある女性から「Ele nao!」という悲鳴に似た叫びが起こり、そこから会場が「Ele nao」コールが巻き起こることになります。

 

 この「Ele nao」(エリ・ノン、ポルトガル後で「彼ではダメ!」)というのは、前に2度ほどここでも書きましたが、ブラジルの極右大統領候補ジャイール・ボウソナロに対しての抗議運動のキャッチフレーズです。これは、ちょうど同時期にブラジル公演をしていた元ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズのライブでもウォーターズが煽って大合唱と、それに反対するボウソナロ支持者からの怒号が交錯する瞬間を作っていましたが、それはここでも同じでした。

 

 そのことをケイヴも、しっかり把握していました。彼は「The Ship Song」の中で

 

Come sail your ships around me
And burn your bridges down
We make a little history, baby

(僕のそばで船の帆を上げな。橋なんか焼いて、これから歴史を作るんだぜ)

 

と歌いかけてブラジル人を励まします。

 

さらに、「この曲はブラジルに捧げる僕の祈りだ」と語りかけ、最大の人気バラード「Into My Arms」で

 

But I believe in Love
And I know that you do too

(でも、僕は愛を信じている。もちろん君もそうだと知っている)

 

と歌ったんですが、これが泣けてね。

 

というのも、ボウソナロという極右候補が、女性もLGBTも黒人も先住民も、何もかも嫌いなヤツで、そんなヤツが一国の大統領に今にも手がとどく位置にいることに怯えてる国民が本当に多いんですよ。この日、終始、ヒステリックに「Ele nao」を叫んでいる女性というのは、大げさな話ではなく、本当に切迫した「助けてくれ!」という出口のない叫びだったんですよね。そういう状況だったものだから、ケイヴのこの心遣いがグッときました。

 

 

 その後、ライブはバラード・コーナーをもう2曲でシめ、初期の代表曲「Tupelo」で再びアッパーに。その次になだれ込んだ、ここ最近のケイヴの一番の代表曲「Jubilee Street」の「静」と「動」のコントラストを巧みに使った、彼らにしかできないボディ・ブロウのようにジワジワと時間をかけて体からエモーションが立ち込めてくるロックンロールも圧巻でしたね。

 

 

 そして、次のクライマックスは1990年の代表曲の「The Weeping Song」。ケイヴはこの曲で、観客席の中ほどに作ったミニ・ステージに移りますが、ここで本格的に、先ほどの「Ele Nao」を今度は彼から観客に煽ります。もう、この時には、「ロックに政治を持ち込むな」なんて叫んでいた連中の声がかき消されるほどに、会場全体が「エリ・ノン」コールに包まれました。  

 

Father, why are all the women weeping?
They are all weeping for their men
Then why are all the men there weeping?
They are weeping back at them

(中略)
But I won't be weeping long

(父さん、かあさんはどうして泣いているの。それは男のために泣いているんだ。では、どうして男は泣くの?それは女に鳴き返しているんだ。でも、僕は長くは泣かないよ)

 

 この曲がケイヴが煽るハンドクラップで¥盛り立てられ、さらにケイヴが女性にマイクを渡すと、その女性が「Ele nao」と口走り、それでさらに盛り上がる。ケイヴとブラジル人オーディエンスの間で、何にも代えがたい結束力が生まれていましたね。

 

 続く「Stagger Lee」でケイヴは10数人の観客をステージに上げて、ワイルドにロックンロール。客のヴォルテージも最高潮に達し、続く「Push The Sky Away」で一旦、ライブは終了します。

 

 

 そして、この熱狂の後です。アンコールも通常の2曲の予定から4曲に増えました。ここでは「City Of Refugee」や「Mercy Seat」という初期の代表曲がプレイされるんですが、そこに加えて、「これはサンパウロのヴィラ・マダレーナで作ったんだ」と、ブラジル在住時の話を交えながら「Jack The Ripper」をプレイするという、他の公演にはなかったサプライズを披露した後、再gは最新作のクライマックス・ナンバー、「Ring Of Saturn」で幕を閉じました・・。

 

 

 内容的にも、「20年前、ここまですごかったっけ?」と思えるほどの内容だったのに、その上に、僕でさえも苦い思いをしているブラジルの現状にここまで真心で接したライブを展開されることになるとは思っていませんでした。本当に、心から泣けました。この夜のことは、一生忘れることはないでしょうね。

 

 

 

author:沢田太陽, category:ライヴ・レヴュー, 19:38
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Live評「レディオヘッド」(2018.4.22サンパウロ) ところ変わればヴァイヴも違う

どうも。

 

では、約束していたこれを。

 

 

 

レディオヘッドのサンパウロ公演。行きましょう。

 

 

レディオヘッドといえば、もう日本では何度もツアーをやってますよね。僕も通算で日本では6回か7回、見に行っています。今回、ブラジルで見るのは初めてなんですけど

 

 

日本とはまるきり雰囲気が違った!

 

 

本人たちのライブどうこう以前にそこが一番新鮮でしたね。

 

 

ポイントを箇条書きにしていこうかと思います。

 

 

‘本ほど人気があるわけじゃない

 

まず、一番言えることはここですね。ファンの熱狂度は日本より低いです。今回4万人収容のアリアンツ・パルケっていう、デペッシュ・モードやったとこと同じサッカー・スタジアムでやったんですけど、ソールドアウトにはできませんでしたからね。日本だと、それより収容大きいはずの幕張メッセを軽く売り切るバンドですからね。そう考えると、寂しいものはありましたね。見たとこ、3万5人くらいの入りで、見た目には悪くない入り方でしたけど、それでも日本での神格化を知っている身からすれば物足りない感じはありましたね。

 

 

▲侫.鸛悗若くて、女性が多く、オシャレ

 

ここが決定的に違いますね。

 

日本のイメージだと、いかにも「下北のバンドの兄ちゃん」みたいな日常的な身なりした理屈っぽそうな男子が好きそうな、そういうイメージあると思うんですけど、そんな人が皆無でした。客層見てみると、どっちかというと女性ファンの方が多かったです。しかも結構オシャレ度の高い。男子も、ジェントルなブラジル男子という感じではありましたけど、さっき言った日本でよく見かけるタイプの人はほとんどいません。

 

 

 そして、先にネタをバラしますが、イメージとしては男女が「Fake Plastic Tree」を演奏でもしようものなら、もうチーク・ダンス・タイムです。「Creep」が熱望される雰囲気はあまりなかったですね。確かにこっちのラジオ局でも未だに「Fake Plastic Tree」やら「High And Dry」がよくかかりますからね。

 

 

 ただ、その割に客層が若いんですよね。ブリットポップ世代にあたる人があまりいません。もう少し若く、20代後半から30くらいの人がメインでしたね。盛り上がる曲も「In Rainbows」か、その前の「Hail To The Theif」からの曲でしたからね。これには理由があって、レディオヘッドって、初の南米ツアーが「In Rainbows」だったんですよ。2009年。今回はそれ以来2回目。だから、ファン層の形成が遅れているところがあります。

 

 あと、長いこと「カレッジ入ったら聴くバンド」みたいなイメージを持たれてるんですよね。学生タイプの人が多かったのは、そのせいもあるかと思われます。

 

 

今回のツアーの選曲はかなり自分好み

 

レディオヘッドのツアーというのは、もう近年ずっとそうですが、選曲に関しては毎日違うのが通例です。行ってみるまで、何をやるかはわかりません。

 

 

ただ、今回の南米ツアーに関しては、選曲は違えど、用意してきている曲は決まっていて、多かったのは「In Rainbows」の曲でしたね。とりわけ前半の曲はどの公演でもだいたいやってました。あと新作の「A Moon Shaped Pool」はやはり多いし、「Hail To The Theif」「OK Computer」も多いですね。この4枚が僕のとこでは中心だったし、他のとこでも「Hail」が「The Bends」に変わるとこがあったくらいかな。

 

僕はもっぱら「ソング・オリエンテッドなレディオヘッド」の大ファンなので、この選曲は非常にありがたかったです。「Kid A」と「King Of The Limb」の曲は2曲ずつで「Ideoteque」を除けば、どっちかというと流れを変えるための脇役的存在。いろんなタイプの彼らのファンいると思うんですけど、このバランスが一番僕にはちょうど良いです。実は「Kid A」、未だにそんなに好きじゃないもので(苦笑)。だって、曲、そんなにいいかあ、あのアルバム。

 

 

い笋辰僉A Moon Shaped Pool」っていいアルバム

 

 今回ライブ見ていて一番感じたのがこれですね。この新作からは1、2曲めに「Daydreaming」「Ful Stop」、そして以降も「The Numbers」「Identikit」「Present Tense」をやりましたね。他のとこでは「Desert island Disc」もやったみたいですけど、これらの曲は過去の名曲に混ぜてもまったく負けて無いですね。むしろ映えます。改めて「Numbers」が聞かせる曲だと思ったのと、「Identikit」「Present Tense」のラテン・フィーリングは今回のアルバムからの新路線なのでやっぱり新鮮ですね。唯一、「True Love Waits」をやってくれなかったのが心残りなくらいですね。今回のツアーで最も人の入りが悪かったリオではやったっていうから、すっごい悔しいんですけどね。

 

 

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 ここまでほめてきていますが、全てが良かった訳ではありません。今回の公演、前半の滑り出しは良かったんですけど、中盤がちょっとガタガタだったんですよ。

 

 というのは、中盤で誰の耳からもわかるミスが2つあったんですよね。一つが「The Gloaming」で、トムが歌詞を忘れたか、マイクの問題が生じたか、歌が出なくなった。あと、「2+2=5」でジョニーのイントロのギターのチューニングが合わずに、やり直しをやったんですね。ジョニーのギターに関しては、他の曲でも「あれ?」と思うところがありました。

 

 これ、多分、あまりに即興で曲を決めすぎてるから、周囲との打ち合わせが完全にうまくいっていないのかな、と思えたとこでしたね。

 

 それに加えて、この中盤の曲の流れに曲の前後との流れの関連性がなさすぎて、かなり行き当たりばったりな感じがしたのも惜しいとこでしたね。序盤は「All I Need」から「Pyramid Song」の流れなんて鳥肌が立つくらいカッコ良かったんだけど、「Numbers」→「My Iron Lung」→「The Gloaming」って、「フォーキー」→「ダイナミックなギターロック」→「エレクトロ」って流れは、正直、あんまりいいものとは思えなかったですね。

 

 同じく即興セットリストを売りにしている存在にパール・ジャムがいますけど、彼らはレディオヘッド以上に選曲がバラバラ(レディオヘッドは1曲目と終盤の山場の「Weird Fishes」、アンコール前のラストの「Ideoteque」、アンコールの最後から2曲めの「Paranoid Android」は固定)なのに、流れにブレがないんですね。レディオヘッドみたいに展開がガタガタになることがない。そこのところ、どうしたら良いのかは、まだ改善の余地があるのかなとは思いましたね。

 

 

まだ、少しあります。後で加筆します。

author:沢田太陽, category:ライヴ・レヴュー, 20:28
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レディオヘッド、見てきます!

どうも、

 

 

もう明日に迫ってきました。

 

 

レディオヘッドのサンパウロ公演!!

 

 

いやあ、すごく楽しみですよ!

 

僕自身、彼らを見るのは「イン・レインボウズ」の時に埼玉スーパーアリーナで見て以来10年ぶり。過去に何度も見てるバンドだけど、日本以外の国では見たことなかったので、他の国でのレディオヘッド体験ってどんな感じになるのか。すごく興味津々です。

 

 

 南米ツアー自体も2週間くらい前から始まってましたけど、セットリストも事前にチェックして対策も練ってましたね、今回は。それくらい楽しみにしています。

 

 

 この模様は、こっちの月曜にレポするのでお楽しみに!

 

 

 

author:沢田太陽, category:ライヴ・レヴュー, 14:28
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Live評「デペッシュ・モード」(3/27サンパウロ)20数年も一部の国の人しか享受されていなかった至宝

どうも。

 

 

ここのところレギュラーのチャートものがチャートの発表だけで終わって申し訳ありません。今日まで待ってください。

 

 

僕の方は、忙しかったロラパルーザが済んでわずか2日後にこの単独ライブでした。

 

 

 

デペッシュ・モード!

 

デペッシュ・モードといえば、ヨーロッパの、特に英語件でない国だと、未だにどこの国でもアルバムが初登場で1位になります。特にドイツ、イタリア、フランス、東欧では圧倒的です。去年のアルバム「Spirit」を携えたツアーも、去年の世界興行でトップクラスでした。

 

 

ただ、日本にも28年来てなかったのと同様に、南米にも24年来てないなど、力を入れているところとそうでないところに開きがありました。ところが今回のアルバムに関しては自信があったのか、去年の今頃には南米ツアー敢行宣言をしました。ライブ会場はアリアンツ・パルケという、名門サッカー・チーム、パルメイラスのスタジアム。「そんなに長い間来てないのに埋まるのか?大丈夫か?」の声は事前にありました。

 

 

 僕はこの会場にデヴィッド・ギルモアとポール・マッカートニーを見に行ってますが、人の入りからしたらソールド・アウトになったそれらに比べるとしょっぱかったのは事実です。グラウンドは4分の1くらいがデッド・スペースになって、観客席が狭くなっていました。公式発表で2万5千人の客の入りだと発表されていましたが、僕の目には1万人台のように見えましたね。僕はスタンドでワイフと一緒に見たんですが、スタンドも空席多かったですからね。

 

 

なので心配していたのです

 

 

が!

 

 

いざライブがはじまってみると、完全に彼らの独壇場でした!

 

いや〜、ブラジル人の盛り上がるときの声がデカ位のにも助けられてはいましたけど、それだけ盛り上がるのも納得の演出でしたね。終始バレリーナのようにクルクルとスピンするデイヴ・ガーンはかなりの煽り名人。オーディエンスに畳み掛けるようにコール&レスポンスを仕掛けてきますね。ステージでの動きも実に華麗です。

 

 

ただそれ以上に

 

 

 

観客はマーティン・ゴアに盛り上がってましたね。

 

ゴアはデイヴの隣で黙々とギターを弾いてましたけど、ご存知の人も多い通り、セカンド・ヴォーカリストでデイヴ以上の美声の持ち主です。彼がヴィヴラートの声を響すと、会場がさらに「ウォーッ!」とヴォルテージがさらに上がります。

 

 

 僕の位置からはこの二人しか見えない感じでしたけど

 

 

 

アンディ・フレッチャーは黙々とシンセを弾いてました。今はもうサポートを含めた、完全なロックバンド編成ですね。生ドラムの音がすごく目立ちますからね。

 

 

今回のツアーですが、新作「Spirit」のツアーではあるんですが、ツアーの後半ということもあり、そこからの曲は3曲。むしろ一番多かったのは、97ねんのアルバム「Ultra」の曲でしたね。彼らの中ではヘヴィでかなりロックっぽいアルバムだと思うんですが、あのアルバムのファースト・シングルだった「Barrel Of A Gun」なんて完全にロック化しててすごくステージ映えしてましたね。

 

 

 この2枚のアルバムに、最近の作品では人気の高い2005年の「Playing The Angel」から2曲。前半はこれらの曲で構成されていましたね。こうしたところも、単なる「ベスト盤の再現」という、彼らくらいのビッグネームが勢いやってしまいがちな展開とは違って、すごく意外性があって面白い選曲でした。

 

 

 とりわけ盛り上がったのはこれですね。

 

 

 

 

マーティン・ゴアの歌う壮大なバラードの「Home」でしたね。ストリングスの入る、彼らのキャリアの中でもスケールの大きな曲でしたけど。これが後半の山場以降に大合唱になって、終わってもオーディエンス、ずっと「オーオオ!」と歌い続けていましたね。僕、これまであまり好きな曲ではなかったんですけど、このライブで見直しましたね。

 

 

 そして後半がベストヒット週だったんですけど、これが良かった!曲は「Enjoy The Silence」とか「Everything Counts」(今回は一番古いのがコレ)「Never Let me Down Again」とかおなじみのものばかりだったんですけど、アレンジが随分変わってましたね。DMって、とりわけシンセで奏でられるリフ・メロがすごくキラーな感じでカッコいいんですけど、ライブだとこのメロディが必ずしもシンセじゃなくて、ギターやベースの音で差し替えられたりして意外性があるし、間奏の長さも通常音源で聴くよりかなりアドリブで長くなっているんですね。

 

 

 そしてアンコールでも「Strange Love」が完全にアコースティックで演奏されていたし、「A Question Of Time」のリフがエレキギターで再現されたりと面白いアレンジが続きましたね。その合間に挟まる「Waliking In My Shoes」はやはりアガるし、最後の「Personal Jesus」ももちろん大団円。最後の方はどれも会場が割れんばかりの大歓声の嵐になっていました。

 

 

 いやあ、もう、「名人級」のライブでしたね〜。エレクトロのデジタル・サウンドにヒューマンな生々しさを注ぎ込むことって、彼らが、とりわけ今の3人編成になってから20年くらいはもうやってることだとは思うんですけど、それがすごくうまく表現できるようになったというかね。ここまでできるアクト、エレクトロの側でも、、ロックの側でもいないですよ。

 

 

 奇しくも、日本も、南米も、以前のシンセの要だったアラン・ワイルダーがいた時代までのライブの記憶で更新がされていない状態だったんですよね。僕は今回が初めて見に行ったDMだったんですけど、それ以前の彼らのライブの聞いていたイメージとは全然違いますからね。今の布陣でのライブは、これまでも動画を通じて見て知ってはいましたけど、それでも実際に見てみないと正確にはわからないものですね。

 

 

 それにしても、ここまでのライブの才能がこれまでヨーロッパとUSAにのみ、ほぼ限定されていたとは本当に惜しいですよね。今回の盛り上がりを機に南米にはまた来てもらいたいし、そして日本でも、「Violator」以来のツアー、来てほしいですね。それ以前にはむしろ積極的に来日していたからなおさらですよね。

 

 

 

author:沢田太陽, category:ライヴ・レヴュー, 19:41
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ライブ評「U2ヨシュア・トゥリー30周年記念ツアー(2017.10.21サンパウロ・モルンビ・スタジアム) もはやライブを超越!”名盤再現”ならぬ、全身感覚に訴えた”名盤再構築”

どうも。

 

では、お待ちかね、U2のヨシュア・トゥリー30周年記念ツアーのレヴュー、行きましょう。

 

これ、当初は、行こうかどうしようか迷ってたとこなんです。僕の中で、1987年に出たこのアルバム、彼らの中で決して一番に好きなアルバムではなかったから。「でも、こうやってせっかく南米で観れるチャンスがあるからなあ」と思っていたところ、ワイフにこの話を振ったら、「そんな貴重な”一生に一度級のチャンスを逃せるわけがない」と背中を押してくれ、フェイスブック上の友人の後押しもあり、行くことに決めました。ただ、今回、サンパウロ一箇所のみの公演だったので、チケットの争奪が本当に大変でした。トライした最初の公演はもう速攻で売り切れ。追加公演1回目の際も、ネット販売はどうしようもなく秒殺で、プレイガイド販売に賭け、早朝からチケットセンターの本部に並ぶこと5時間かけて、根性で獲得しました。そのあと、2回追加が出たんですけど、計4公演、すべて売り切れ。凄まじい人気ぶりです。僕らの方でも今回は、ワイフも、彼女の兄夫婦も行きましたからね。

 

 

 この、骨の折れるチケット獲得合戦を体験してから思い入れはさらに上がり、行くのがすごく楽しみなライブとなっていました。

 

 

 この日ですが、幼いこども2人をワイフの両親に預け、午後7時になる少し前に会場のモルンビ・スタジアムにつきましたが、67000人入るこのスタジアムの前には長蛇の列。また、全国各地から来たことを示す、いろんな企業の長距離バスが所狭しとスタジアムの周辺に置かれ、ワイフ曰く「いろんな国の方言が飛び交っていた」と言います。

 

 

 そして中に入って座席に着いたんですが、こんな感じでしたね。

 

 

 アリーナには横長のステージがズトンッでしたね。僕らは今回、ちょうどこのステージが真正面に見えるスタンド席だったんですけど、これだけパノラマ風に横に広いと、引きの絵でしっかり左右対象に包括的に見えるのはかえって得した気分になりましたね。すごく見てて、風光明媚な感じがしました。

 

 そして、この写真を撮って間もなく、豪華なオープニング・アクト、ノエル・ギャラガーがスタートしました。

 

Noel Gallagher&The High Flying Birds  1.Everybody's On The Run 2.Lock All The Doors 3.In The Heat Of The Moment4.Riverman 5.Champagne Supernova 6.Holy Mountain 7.Half The World Away 8.Little By Little 9.Wonderwall 10. Don't Look Back In Anger 111.AKA What A Life

 

 今回のノエルの前座、結構、もう長いですね。ヨーロッパ・ツアーは全部一緒だったし、南米も10月入ってからメキシコ公演から、コロンビア、アルゼンチン、チリ、そしてブラジル。ブラジルだけでも4公演ありますからね。

 

 南米は基本的にオアシス強いので、客はU2目当てとはいえ、半分強のお客さんはしっかり聞いてましたね。ノエルの選曲的には、かなり勝負に来てるなと思いましたね。ソロの1stと2ndからはほぼベスト選曲できてましたし、6曲めには来月出る新作からのニュー・シングルやってましたね。なんかサビの部分がリッキー・マーティンの曲みたいな、ビーチボーイズノリの異色曲ですけどね。

 

 そして、オアシス楽曲もかなり勝負に行ってましたね。個人的には「シャンペーン・スーパーノヴァ」や「ハーフ・ザ・ワールド・アウェイ」は嬉しかったですね。1995年の、一番脂乗ってる時の曲ですから。あと、さすがに「ワンダーウォール」「リトル・バイ・リトル」そして「ドント・ルック・バック・アンガー」あたりはブラジルでもよく流れてる曲だったりするので、あちこちから一緒に歌う声が聞こえてきてましたね。そこのところはさすがです。

 

 そして、最後はマンチェスター・シティ熱烈サポーターだけあって、今、同チームで活躍中の20歳のセンターフォワード「ガブリエル・ジェズスにこれを捧げるよ」と言って、ソロ転向後最大の代表曲の「AKA What A Life」でシメました。

 

 

 オアシスの代表曲も多めで、なかなか聴かせるライブだったと思いますね。ただ、ああやって聞くと、というか、最近、リアムのソロ・アルバムも出たこともあって、やっぱり声のところでなんか物足りなさというか、地味さを感じてはしまいますね。それは今後、ずっと避けては通れない道なのかなとは思いましたけどね。

 

 

 ノエルが終わった頃に午後8時30分。さすがにこの時間ともなると、スタンド席には人がギュウギュウ詰めになてる手前、もう、身動きできないものになっていました目・このブレイクの時に食事しに行きたかったんですけど、もう席を立つ余裕すらなくなっていました。

 

 そして、9時を少し回ったくらいのところで、ウォーターボーズの「Whole Of The Moon」がかかり、照明が消えた時点で、U2のライブはスタートしました。この日は曇っていたので名月は見れませんでしたが、ちょうどU2と同世代のウォータボーイズのこの名曲を聴いてると、U2が若い頃、どういうシーンから登場し、どう期待をかけられていたのかがフラッシュバックしますね。いい選曲だと思います。

 

 

1.Sunday Bloody Sunday 2.New Year's Day

 

 スタートは1983年の、彼らの出世作「War(闘)」から。僕もここからU2を知ったものです。事前にセットリストを見てきてるから驚きはないんっですけど、あの、「Sunday」のドラムのイントロから、エッジによる、あの鋭角的で哀愁を帯びたフレーズが入ってくると、、やはり熱いものがこみ上げてきます。そして、ボノの声量の安定した咆哮。オリジナルから半音下げているアレンジとはいえ、それでもハイトーン・シンガーとしての醍醐味は十分味わえます。そして、つくづくもこの2曲を聴くと、彼らがそもそも最初に世界のロックシーンに躍り出ることができたのは、このロックンロールのパフォーマーとしての圧倒的な力量と、スケールの大きな楽曲ゆえだなと、改めて思う次第。パンク/ニュー・ウェイヴって、あのクラッシュが1982年に全米トップ10に入って、スタジアムで全米ツアーを行っていただけでも快挙のように言われていたものでしたが、U2がそのすぐ後に続けることができたのも、パンク/ニュー・ウェイヴのカルチャーから生まれたバンドの中での、その早くからの桁外れな音楽的実力ゆえだったんだなと、この2曲の演奏を聴くに改めて思わされますね。

 

 ただ、この時点ではモニターに彼ら自身が大写しされないので、ほとんど「影」しか見えない状態です。

 

3.Bad 4.Pride(In The Name Of Love)

 

 そして、続いては1984年の「アンフォゲッタブル・ファイア」から。この辺りは、「ヨシュア・トゥリー」に至るまで、彼らがどんなバンドだったかを伝えるものですね。「ヨシュア・トゥリー」への導入としては綺麗な入り方だと思うし、ドラマを作るにはもってこいの流れですね。

 

 そして、「Pride」の合間だったか前だったかでボノが語り始めます。彼は前日、サンパウロにある、コパン・ビルって言って、ブラジリアの建築行ったので有名なオスカー・ニーマイヤー建築のビルに言ったとのことですが、「そこから国全体を眺めたんだけど、なんて美しい国なんだ」とブラジルを褒め、そこで「キミたちにもそのうち、この美しい国にふさわしい政治家を得るよ」と言って、観客を沸かせました。ちょうど今、ブラジルは政治大混乱期で、ボノが支持していた左翼政権の労働者党が元大統領を筆頭とした汚職大スキャンダルの最中にあるんですが、ボノは、この党やルーラっていうその元大統領の名前を一切出したり、肩をもったりすることなく、良心的にブラジルに見合ったメッセージを送っていたのはさすがだなと思いましたね。

 

 

 そして、「ヨシュア・トゥリー」の本編登場を思わせるキーボードのイントロが流れ始めると、ステージが

 

 

 このように真っ赤に光り始めました!本当はもっと真っ赤に染まってたんですけどね。そして、その写真で黒く見えてる、縁の黒のブツブツ、これが電球でして、これが激しく点灯し始めてそれから

 

 

5.Where The Streets Have No Name

 

 

 

 横長の巨大モニターがここで映像を初めて写し始めます。曲はご存知、「Where The Streets Have No Name」ですが、この道が観客の僕らの目線で、進行方向にちゃんと動いていくので、その瞬間、「おお〜っ」という大歓声が一斉に上がりましたね。この転換は本当に鮮やかなものでした。

 

6.I Still Haven't Found What I'm Looking For

 

 

 そして続く「I Still」では、今度は砂漠に浮かぶヨシュアの木の映像に。この映像がですね、本当に美しいんです!僕が25年くらい前にNHK入った頃、ハイヴィジョンっていう、巨大な画面の視聴形態の開発をあの会社がやってて、「走査線が従来の2倍以上

だから、ものすごい高画質なんだぞ」と言われたものですが、あの時の映像の鮮明さを思い出しました!風景一つとってもハイパー高画質のアートですよ、これは!

 

7.With Or Without You

 

 そして、彼ら最大のヒット曲でもあるこの曲では、今度は渓谷を空撮した雄大なショットで。

 

8.Bullet The Blue Sky

 

 そして、この曲で初めて、演奏するU2の姿が中央に映し出されます。両端で、戦争に対しての批判のテーマに合わせ、アメリカ星状旗の前で陸軍のヘルメトをかぶる動作をするいろんな人たちを映し出します。

 

9,Running To Stand Still

 

 そして、スローバラードのこの曲は、付帯映像一切なしで、誠実に曲を奏でるU2の姿がモノクロで浮かび上がります。

 

10.Red Hill Mining Town

 

 そして、この曲はここだけの独自アレンジ。画面には、軍楽隊の演奏が映し出され、このホーン部隊の演奏とともにこの曲が聞かれました。

 

 この曲の終わりで一度ボノがMCを入れ、後半に流れます。

 

11.In God's Country

 

 この曲では、今回の象徴にもなっている、ヨシュアの木のイラストが、パノラマ画面の中で、いくつもの色にカラフルに光り続けましたね。

 

12.Trip Through Your Wires

 

  当時、U2史上初の本格的なアメリカン・フォークと謳われたこの曲ではボノがイントロでブルース・ハープを披露し、画面はその演奏を写しながらも、田舎の民家の壁を塗る、セクシー美女を映し出します。

 

13.One Tree Hill

 

  ゴスペル・コーラスも導入したスローなこの曲では、画面は赤く光る惑星の姿が映し出されます。

 

 

14.Exit

 

 アルバムの中で最も地味なこの曲は、ひたすら演奏する彼らの姿。

 

15.Mothers Of The Disappeared

 

 そして、今回のこの「ヨシュア・トゥリー」再構成、最大のクライマックスは実はこの曲でした!

 

 これまで、そこまで知られた曲とは言いにくかったんですけど、チリやアルゼンチンで70〜80年代に頻発していた子供の誘拐事件の被害者の母親たちによる献身的な活動を歌った荘厳なこの曲では

 

 

 

このように母親(役)たちの姿が映され、持ってるロウソクが一つずつ消えていく、という演出です。この曲に「オー、オオー」というコーラスがあるんですが、この部分が会場中でアンセミックに歌われます。こう言うフレーズを合唱するのが大好きなブラジル人は、曲が終わっても合唱をやめません。こうして「ヨシュア・トゥリー」再構築は、母たちを祝福するポジティヴな力強さとともに大団円の興奮とともに幕を閉じます。

 

16.Beautiful Day 17.Elevation 18.Vertigo

 

 

そして、あまり待たせることなく、巨大画面は虹色に光り始め、そこからアンコール。その初めは「Beautiful Day」! 「Mothers Of The Disappeared」の多幸感の陶酔状態を引き継げるのはこの曲しかありません。このあたりの、ポジティヴなエネルギーの昇華の巧みさ、この点においてはU2は本当に巧みですね。

 

 ここは「その後のU2」な趣ですね。2000年代の彼らを代表する3曲のヒットがエネルギッシュに披露されます。「Elevation」も「Vertigo」も、そうじゃなくても、ここ10数年の彼らのライブで定番でアゲアゲになる曲ですが、前からの流れが絶妙なので、特に盛り上がりましたね。

 

 

19. You're The Best Thing About Me 20. Ultraviolet(Light My Way) 21.One

 

 そしてアンコール第2弾は、彼らの新曲「You're The Best Thing ABout Me」。この曲は、今回のツアーの、9月の全米第2弾からプレイし始めたんですけど、これ、久々にいい曲です。サビ終わりでちょっとひねるとこがいいんですよね。

 

 この曲がストレートなラヴ・ソングということもあるんですが、ここでボノが、「素晴らしい女性たちを大いに称えようではないか」との呼びかけのもと、「アクトン・ベイビー」後半の名曲、「Ultra Violet(Light My Way)」へ。この高揚感がまた素晴らしいい!

 

 

 

 ここでは、婦人参政権に貢献した人、公民権運動で戦った人、あのノーベル賞少女のマララさんといった、歴史上に活躍した女性たちの写真が曲中で紹介されたんですけど、その中にブラジル人女性もたくさん紹介されたんですよ!ブラジル音楽の女性のパイオアニアのシッキーニャ・ゴンザーガ、ブラジル芸術のパイオニアのタルシラ・ド・アマラル、「ブラジルのマザー・テレサ」のイルマ・ドゥーセ、ドメスティック・ヴァイオレンスの法律に彼女の名が冠せられた活動家のマリア・ダ・ペーニャ、そして、黒人の今のトッPう女優のタイース・アラウージョ。「なんで、U2、ここまでブラジルのこと、知ってるんだ?!」となって、会場、大盛り上がりでした。

 

 そして、この祝福のオーラの絶頂の中、最後はこの流れにふさわしい厳粛なバラード、「One」で心の中に静かな高揚感を残し、ショウは幕を閉じました。

 

 

 いや〜、もう、「ロックのライヴ」という次元を超越した、壮大な「ステージ・アート」でしたね!!

 

 最近、「発売から○周年」みたいなライブはいろんなところで頻繁に行われますけど、ただ演奏で再現しただけなものが普通な中、U2のはさしずめ、その名盤を軸とした「新たなアート」を、深い思慮と、映像、聴覚を可能な限り駆使して、音源の次元を超えた新しい創造物として完全に転化してましたね。

 

 あと、「ヨシュア・トゥリー」だけにとどまらず、あのアルバムの持つヴァイタルなエネルギーを、他の曲に乗り写させてポジティヴな活力を爆発させるあのクリエイティヴなエモーション。あれにもただ脱帽するばかりです。

 

 U2というバンドがいかにして伝説になりえたか。その答えを僕は改めて目撃したような気分になりましたね。

author:沢田太陽, category:ライヴ・レヴュー, 19:10
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